都営12号線





     業務用洗剤で荒れた手は
     握力も奪われるんだよ
     鍋で切ってしまったのか
     洗剤の力で切れたのか
     たくさんの傷をまじまじと
     一車両でひとりしかいない都営12号線で見つめる

     水と生ゴミの臭いが
     今の俺から漂っているんだろうな

     食用油で黒く染まった手では
     もうお店へ行って女の子の乳房を触ることもできない
     ひどくしかめっ面をされそうだ
     このボロボロに汚く荒れた手で
     俺は何を掴もうとしているんだ


     俺は夢を見ている
     だからこそこんな生活をしている
     だが、皮がむけ、肉を蝕み
     指の骨すら侵すような

     業務用洗剤と食用油に
     わずかな夢を掴む力さえ
     奪われていく気がしてしまう


     0時35分 光が丘発



     乗る人などほとんどいない都営12号線で
     バイト帰りの男が
     手を見つめている




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