鳥インフルエンザ問題の今後(169)



東武東上線の沿線に地卵問屋の三山、ヤマセ・ヤマブン・ヤママンが揃って居た頃、今の時季に集められた農家の糞だらけの卵は、そのまま秋口まで常温で保存され、希塩酸で洗って消費地へ運ばれた。乾物屋ではその卵を大きさ順に分けて、売れ残りは一つランクを下げれば翌日はそれから先に売れるというあんばいだった。黒玉になるのはヒビ卵であって正常な卵は腐ることはない。明かりに透かして見るだけで充分判別出来た。戦前「タマちゃん買いなれ」の掛け声で神戸辺りで売られて居た安い<支那たまご>に日本の卵が駆逐されるほど、卵は安心して生で食べられて居た訳である。

驚いた事に、今時の卵は普通に腐るそうである。昔の卵は腐ると爆発したが、今ではそんなことはない。卵殻の状態がまるで違うのだ。膣には雑菌がうじゃうじゃ居ても、健全な子宮はそれを受け付けない。ところが未成熟な子宮は内膜が子宮口からはみ出て居るので、そこにクラミジアなどが取り付いて内膜炎を起こすが、もともとは人体の中で最も保護された安全な場所である。

卵も全く同じであって、健全な殻は雑菌など寄せ付けない。昔の実験だが、サルモネラを大量に食わしても鶏体が健全なら菌血症を起こすことは無く、卵巣から卵に入り込むことはない。いわんや排泄腔から遡上することはない。間違って卵中に入っても時間が経てば消滅してしまうのが普通である。だから健全な卵の場合は本来的なイン エッグの状態は有り得なかった。ところが卵の鈍端がザラザラのような卵は簡単に腐る。腐るということは腐敗菌が簡単に入り込むことであり、サルモネラも同時に入り込む。これが現代のイン エッグである。

昔、殻がザラザラの卵は新しいと云われたのはタップリついたクチクラの事だったが、今では殻の不完全な卵である。ところがこの程度では食用不適卵には入らない。それがいわゆる箱玉として食堂関係などに出回る。食中毒を起こす雑菌はそこいら中にいるから、ゴキブリ、ネズミ、ハエなどを介して簡単に卵に入り込む。それはマーカーとしての腐敗菌の動向を見れば一目瞭然である。調理場の卵は一週間で腐るのだ。そこでSE中毒が起これば犯人は当然使われた卵になる。O−157などと全く関係ないカイワレまでもが共通食材として槍玉にあげられた。<清浄国論>は国のプロパガンダとしてだけでなく、すべからく原因は外から持ち込まれるものだとする論調がこの国を支配してしまっているのである。ここでようやく鳥インフルエンザ問題にたどりついたが、現場の専門家である獣医師は国のプロパガンダや法令遵守の建前だけで動くのではなく、あくまで科学的な探求心と良心をもって行動して貰いたいものだ。これをろくに鶏の顔を見たことも無い、素人同然の中央の学者、研究者に要求しても無理なことははっきりして居る。行政を含めた、その連中の理不尽な要求に現場からNOをつきつけることの必要性、これは決してアメリカに対してだけの問題ではなく、それぞれの立場で言えることである。

法治国であるからには、コンプライアンスは必要である。しかしそれと獣医師としての良心を一緒にして考える茨城県の家保のあり方はやはり問題である。その環境中にある症状もろくに表さないウイルスの存在と拡がりを、すべて人為的な瑕疵として片付けるのは、あまりにもウイルスをなめて居る態度としか見えないし、行政の立場とはいえ、同時に科学者としての良心を捨てて法令のみに阿る典型としか思えない。そしてこれが地元の意見として、報告されることに危機感さえ覚えるのである。

H 18 6 28. I,SHINOHARA.