認知障害者の心の風景
−に迫ってみるひとつの試み−
私のような広汎で微細な困難を持つ者のことを、偏った性格や人格障害に含める見方もあるかもしれません。しかし、ここは、「自閉症」周辺の障害を解明する場だから、敢えて「認知障害:先天性で発達の過程で現われていくもの」に結び付けてみました。それほど奇妙なことをした覚えのない私でも、「自閉」とか「注意欠陥」にかかわる事柄について、多少、思い当たる節があります。よく言われる症状について、≪本人≫は「どんな感じがしているものか」ちょっと並べてみます。
ただし、こうやって書いたり喋ったりできる人は症状が軽い。重い人は自覚しにくいし、人に伝える手段も少ないので、すべてに当てはまるわけではありません。それから、「意味盲」の傾向が多分にある私の書くことですから、下記の用語の学術的な意味とは無縁なことも、ご了承下さい。
注意の転動
- 視覚・聴覚とも、中心点がない。
- 個々のモノや音がバラバラになっている。
- ひとつのものに注意できる時間が短い。
- 何かをしていても、目に入ったもの・聞こえたものに反応して、もともとの目的からそれてしまう。
- 何かひとつのモノに注意を集中しようとすると、莫大なエネルギーを必要とする。それだけで疲れる。
衝動性
- 見たもの・聞こえたものに反応して、すぐ行動したり、喋ったり、なんらかの気分になったりしてしまう。
- 考えをまとめるのには時間がかかるくせに、結論が出るとすぐ実行してしまう。
- 時間を置くとか、様子を見るとかいうことができない。「今、すぐ」でないとイライラする。
- 「待つ」のが苦手。待つとなると待っている間ずっと、緊張して注意を向けていなければならない。
多動・多弁
- 「間(ま)」が空くのが許せなくて、ついつい何か言ってしまう。
- 何かしているか、何もしていないかのどちらか。
- 文章や会話・テレビ等からの言語刺激を受けたとたん、そのことに関連する言葉やそれに対する考えが頭の中に溢れだして来る。人がいれば人に喋り、書くところがあれば書いてしまう。
- 自分の気が済むように一方的に喋りまくっておきながら、「誰も自分の言うことを聞いてくれない」と思っている。
- ちょこちょこ動くと、周りの人は落ち着かないだろうとは思うけれど、止められない。止めるには、その場を離れるか、見えるもの・聞こえるものを無視するしかない。
パニック
- ちょっとしたことで、気分的に極端にはしり、周りが見えなくなってしまう。(周りの見えなさの度合いによって、とる行動は違っていても、基本的には同じこと。)
- 自分の思い通り・自分の立てたスケジュール通りにならなかった時に起きる。
- たいがい、よく見たり考えたりすればなんでもないような、些細なことで起きる。逆に、深刻な問題には平然としていたりする。
- 反射的な反応で起きる事が多く、ひとたび起きると、悪い方に悪い方にエスカレートしてしまい、原因が取り除かれるまで続く。
- 何でもないと分かると、急にケロッとする。
視線
- 人の視線を感じるとイヤな気分になる。
- 人と会話するときも、どこかよそを見ている。
- 人に対して真正面に向かい合わない。イスの向きをななめにする。
- 人前で話さなければならない時は、視線を無視して、自分で人の気配を消してしまう。(みんなジャガイモと思うのではなく、何もなくしてしまう。)
経験がつながらない。
- 一つ一つの場面が切り離れていて、連続性がない。
- いつも目の前にない事は、忘れてしまう。
- 興味のあることだけやたらと詳しく、こと細かに覚えている。
- 日常生活に有利な情報には関心がなく、インプットされにくい。
- どんなに有益でも、関心のない情報は耳に入らない。
- 総じて、重要な事を聞きのがす。
- そのモノが何かという事より、以前見たものとどこが同じで、どこが違うかという「差異」の方に注意が向いてしまう。
意味盲
- 言葉を自分勝手に解釈して、独自の意味合いをつけてしまい、誰にも通じない言語にしてしまう傾向がある。
- その中でも、特に思い入れの強い言葉にこだわり、多用する。
- 意味の伴わない、うわべだけの言葉の遊びを、よくする。その為に、軽く見られてしまう。
- 人と意思疎通をする為の言語を使いこなせない。
- 口数が多く、くどくど説明するけれど、何を言いたいのかよく判らない。
- あまり意味のない、挨拶などの決り文句を真に受け、逆に、言外の意味を読み取れない傾向がある。
- 自分の発言には状況の説明が足りない、人の発言を読解・理解する力が足りない。
対人関係
- 人に頼れないか、頼りすぎるかのどちらか。
- 人に任せられないか、任せすぎるかのどちらか。
- 勝手に親しくなったと思い込み、相手にされないと急に疎遠になる。
- 人が嫌いではなく、係わろうとするが、他人ごとのように傍観するのを好む。
- 話しかけられてもいないのに、人の会話に介入して驚かれることがある。
- 言葉を使って人に指示したり頼んだりする前に、いきなりその場に連れて行ったり、手をつかんだりする。(クレーン現象)
- 相手から働きかけられると不快になる時と、相手が働きかけてくれるのを待っている場合の両方がある。自分一人しか判らないはずなのに、思い通りでないと怒り、結果として、どうして良いか判らなくなって相手は遠ざかってしまう。
- 人が忙しく、気ぜわしいときにくどくどと話しかけ、止めようとしない。
- 人から何か言われるのは嫌いなくせに、人に注文をつけたがる。
- その場の雰囲気に合わないことを言ったり、暗黙のうちに決まっているタブーに触れた発言をしているのに気づかない。
- 今、ここで話しても仕方のない問題を提起したり、話しを振り出しに戻してしまう。
- テーマに関係の無いことでも、思いついたままに発言してしまう。
- 自分が理解されていないと感じた相手には、間接的にあたりちらしたり、無視しようとする。
それで、どうすればいいのだろうか?
さしあたっては、こういう人は自分の他にもたくさんいることを知って欲しい。
それで、どうしようというわけではないし、どうもできないけれど、似たような人がいると思っただけで安心できないだろうか。
そして、思ったままに、打ち明け話をしたらどうだろう。バカにされるんじゃないか、悪いんじゃないかと恐れる必要は、もうないのだから。
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