ケンタのポテト

これは、アスペの少年がケンタッキー・フライドチキンの店で、ポテト(S)にありつけるまでの記録である。

アスペの息子がＳ市に行きたいと言い出したのは、一週間前のことだった。

しかし先週は、せっかく駅まで歩いて行ったのに、結局行けずじまいだった。というのは、まず、ただ「Ｓ市に行きたい」と言うだけで、どこに・何をしに・どんな目的で行きたいのかハッキリしなかったから。そして、私の体調が最悪だったから。行きたいと言うばっかりで支度もしない、体の具合が悪い人を説得するだけの理由もない、しかも、人が疲れて元気がないことなどお構いなし。それでは、行けるわけがない。（実際、私は駅から帰って、半日眠り続けた。人の顔色を伺うことはないけれど、人の顔色ぐらい見ろ！と、私は言いたい。・・・かくいう私も、自分の体調がそこまで悪いのに気づかずに、ただ癇癪を起こし続けていたのだった。）

そんな先週の二の舞を踏まないように、今日は、万全の体制で待っていた。しかも、「どこどこの店に、なになにがあるかどうか見に行きたい」としっかり言った。

しかし、支度をしても、直前に近所の友達が来たら「遊ばなくっちゃいけないの！？」とパニックになった。それは何とか断わったものの、他の人たちの動きを見ていないので、「さあ、行こう」という時に、全く別のことをしていて出て来なかった。それでも、前日に「行きたい」と言い出しておいて、当日になって「やっぱり、やめる」だとか「何か買いたいんだけど、お金を使いたくない」などとゴネ始めて、「行かなーい！」と言っているのを無理やり引っ張って行った以前に比べれば、ずーっと素直になったのだ。

「僕は、人が近くに来ると気持ち悪い」と、我が家では正々堂々と言えるけれど、世の中には「自閉症専用シート」なんてものがあるわけではないので、感覚遮断して触覚と臭覚を消して電車に乗り、Ｓ駅に着く。（私は、その為に、手っ取り早くＣＤを聴いてしまう。けれど、息子はモード切り換えの訓練中。）そういう場所では、気持ちが悪くても「気持ちが悪い！」と言ってはイケナイのだ。黙ってソ～ッと、自分がその場を離れなければイケナイのだ。

買物が終って、いよいよケンタッキー・フライドチキンの店に行く。

日曜日の昼時だから、案の定、店は混んでいた。

レジ前に並んだ私：席を取ってくるように指示する。→息子：？？？
空いている席があったら、そこに荷物を置いて来るように指示する→パッと見て、帰って来た。「席は空いていない。」と言ってレジ前の椅子に座っている。
「席がなければ食べられないから、今は空いてなくても、誰かが立ったらその席を取りなさい。」と言い換える。→しばらくして、パニくった顔で帰ってくる。「人はいないんだけど、何か置いてある席がある。」
「そういう席は誰かが取ってあるのだから、他の席を見ていなさい。」→「ワカラナイから、来て。」と言うので見に行ったら、買い物袋が置いてある席と食べ終わったままのトレイの置いてある席を指差して、「誰もいない席が二つある」と言った。
買い物袋が置いてある席は、明らかに誰かが今から来る席であることを教える。
食べ終わったままのトレイの置いてある席に行き、「この席の人は、どこへ行ったの？」と聞く。→「知らない。」と答える。
「この席に座っていた人は、店から出たの？」→「ワカラナイ。だって、はじめからこうなってたんだもん！」
そうこうしているうちに他の席の人が立ったので、その席を取った。

かくして、やっとケンタのポテト（しかもＳサイズ）とコーラにありついたのであった。ここに至るまで、いくつのソーシャル・キューを読み取らなければならなかったことか！　でも、こんなこと「教えなくたって、誰だって自然に覚えるだろう」と思ってはイケナイのだ！　どうせ出来ないからと、全部お膳立てしてやってしまってはイケナイのだ！　大人になってから、人に世話を焼かれながら見よう見真似で覚える前に、子どものうちに訓練をする必要があるのだ。ソーシャル・スキルをトレーニングして教える。それが、社会的認知能力の障害のある子供を持った者の使命なのだ！

「社会的認知能力とは、社会についての認知、他人の行動の意味、社会の中での状況や出来事を、自己に関連させて理解する能力である」マイクルバスト

具体的には、ルール・人の態度や感情・暗黙の常識・人が他人に期待している事柄…、といったものが読み取れず、またそれに応じた行動や発言をすることができないことを言います。これを覚えるには、いくつもいくつも場数を踏まなければいけません。しかも、ケンタッキー・フライドチキンの店で出来たから、マクドナルドで出来るとは限らない。同じケンタの店でも、別の店だと・・・∞いったい、いつまで続くやら∞

　

何故、今日の壁紙がクリスマスなのかって？・・・そりゃあ、ケンタといえばクリスマスでしょ！

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