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「セオドール、お前は生意気だ」 「……」 「お高くとまって何様のつもりだ。貴族だか何だか知らないが、ここではそんなこと関係ないんだよ。先輩には敬意を払え」 「……」 「その妙に奇麗な顔を見てると、腹が立つんだよ」 「……」 魔術学院の裏庭にて、数人の生徒が一人を囲んで文句を並べ立てている。 どこから見ても集団の暴力によって一人を苛めているとしか思えない光景だが、苛められている側の当人はまったくの無表情で聞き流していた。脅えている様子などどこにも無く、それどころか相手を見下すように腕を組むと、軽く目を伏せてため息をつく。 長い睫毛が落とす影がセオドールの顔を物憂げに彩る。 「……で、用件は?」 つまらない物を見るような目で相手を見据え、紅い口唇で一言。 「……!」 今まで口々に文句を並べていた生徒たちが絶句する。 「下らない……時間の無駄だ」 セオドールは言い捨てて、背を向ける。 ふわり、と銀糸がまるで空中に幕を引くように舞う。 「……待て! まだ話は終わってないぞ! 白髪なびかせて去っていくんじゃない!」 生徒たちの一人が叫ぶ。 「……何と言った?」 その言葉にセオドールは歩みを止めた。背を向けたままぽつりと呟く。 「まだ話は終わっていないんだよ!」 「それではない」 セオドールは振り返り、ゆっくりと歩み寄る。 「……『白髪』と言ったな……?」 先ほど叫んだ一人の前で確認すると、セオドールはいきなりその生徒を殴り付けた。 セオドールの一見華奢に見える外見に見合わず、その生徒は数メートル吹き飛ばされて倒れる。 「白髪……白髪だと……」 セオドールはどこか虚ろな瞳で倒れた生徒を見下ろし、呟く。 周りの生徒たちは凍り付いたように立ち尽くしていたが、はっとしたようにセオドールに向き直る。 「何しやがる!」 殴られた仲間の敵を討とうと、生徒たちは一斉にセオドールに殴り掛かった。 「……セオドール様、いったいどうしたんですか?」 その場の惨状を見て、クラレンスは宙を仰いでため息を漏らす。 数人の生徒が地面に突っ伏して倒れているのだ。どうやら気を失っているらしく、ぴくりとも動かない。 「クラレンス……」 倒れている生徒たちのほぼ中央に無傷のまま立っているセオドールは、背後からの声に反応してその名をなぞるように呼んだ。 「私の髪は何色に見える?」 微かに肩を震わせながらセオドールは尋ねる。低い笑い声が聞こえるあたり、かなり壊れかけているようだ。 「セオドール様の髪は初代女王陛下からの賜り物で、月光のような銀色じゃありませんか」 それは本当のことだったが、もしここで答えを誤れば自分もこれらの犠牲者たちと同じ運命をたどるのだろうなとクラレンスは背筋が寒くなっていくのを感じた。 「……そうか」 セオドールはクラレンスのほうに振り返り、地面に倒れている生徒たちを蹴り飛ばして道を作りながらゆっくりと歩き始めた。 すでに顔はいつもの無表情に戻っているが、その仕草にはどこか狂気が滲んでいる。 「私はもう帰る。午後からの講義には出る気が失せた」 クラレンスの横を通るとき、そう言い捨ててセオドールは去っていった。 茫然とクラレンスはそれを見送る。 「……で、これを俺にどうにかしろと……?」 セオドールの姿が見えなくなってから、クラレンスは地面に倒れている生徒たちを見下ろしてため息をつく。 「馬鹿だなあ……。セオドール様は髪をけなされるとキレるのに。しかもあの方の外見に騙されたな。あの方、武術に関しても幼い頃から英才教育を受けているっていうのに……」 |
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あとがき セオドール14歳のときのお話です。 彼は「髪をけなされるとキレる」という設定があるのですが、この設定を本編で使うことがあるのだろうかと思って書いてみました。 書いた日付を見ると1999年でした。 何年前なんだという感じの発掘品です。 それよりもいい加減本編を書けという話もあります……。 |
