赤褌



「この館に、どこか体を動かせるようなところはないか?」

 セオドールがメルヴィナに問う。

 最近、ろくに体を動かしていないので、どうも運動不足気味なのを憂えてのことである。

「はい、軽く運動ができるような場所ならございます。どのような運動をなさりたいのでございましょうか?」

「そうだな……剣術の練習ができれば良いのだが……」

 少し考えて、セオドールは答える。

「よろしければ、私がお相手を致しましょうか?」

 控えめにメルヴィナが申し出る。

「……剣が使えるのか?」

 やや驚きながら、セオドールはメルヴィナを見る。

 見るからに華奢で、剣など持てなさそうな風情だ。実際はどうかわからないが、自分よりも幼い少女に見えるメルヴィナに、相手が務まるとは信じがたかった。

「剣よりは、杖を得意と致しますが……。人形相手よりは張り合いがあるかと存じます」

 言って、深々と頭を下げるメルヴィナ。

 ここまで言うのなら……と、セオドールは不安を抱えつつも頷いた。










 案内されたのは、ある程度走り回ることができそうなくらいの広さがある部屋だった。

 メルヴィナは準備をして参りますと去っていったので、セオドールは何となく落ち着かない気持ちを抱えながら、部屋を見ていた。

 床に魔力感知の呪文を唱えてみれば、魔術を防ぐための障壁があるようだった。

 ここは、稽古場のようなものなのだろうか。

「お待たせ致しました」

 そのように部屋を色々と見ていると、メルヴィナが戻ってきた。

「…………!?」

 セオドールは、その姿を見て絶句した。

 一瞬、気が遠くなるが、どうにか持ちこたえる。

 メルヴィナの姿は、赤を基調とした服……だったのならまだよいのだが、何と下半身は赤い褌姿だったのだ!

 さらに、足は繊細な蝶の模様が刺繍された網タイツに包まれ、頭には大きなルビーの輝く金色のティアラが豪奢な光を放っている。

 尋常ならざるセンスだ。

「……その……姿はいったい……?」

 メルヴィナから視線をそらし、セオドールはやっとのことで口を開く。

「これでございますか? 我が一族に伝わる戦いの衣装でございます」

 迷いのない言葉が返ってくる。

「そ……そうか……」

 セオドールはそれだけを言うのがやっとだった。

「では、お手合わせと参りましょう」

 メルヴィナは手に持った杖を構える。

 隙のない構えだったが、それ以前にセオドールは打ち込める気力など削がれていた。

「いや……悪いが、急に気分が……部屋に戻って休むことにする……」

 セオドールはメルヴィナを見ないようにしながら、おぼつかない足取りでふらふらと立ち去っていった。

「あら……大丈夫でしょうか……」

 構えた杖をおろし、メルヴィナが呟く。

 すると、セオドールと入れ替わりにロードナイトが入ってきた。

「……なあ、いい加減にその格好、やめないか……?」

 メルヴィナの姿を見て、やや引きつった笑いを浮かべてロードナイトは言う。

「……? この格好が何か……?」

 きょとんと首を傾げるメルヴィナ。

「……いや……うん……もう、いいや……はは……」

 乾いた笑い声を残し、ロードナイトも部屋から出ていった。

「……どうしたのでしょう……?」

 後には、ただ褌姿のメルヴィナ一人が残された……。





あとがき

 まるっきりどこぞの某嬢の格好です。
 せっかくなので設定を頂くことにしました。これで、一気にこちらのメルヴィナも変な人になったような気がします。
 そして、セオドールは繊細です。
 何分で書き上げたでしょう……おそらく、20分弱だったと思います。




「氷の魔剣」目次に戻ります TOPに戻ります