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●アバター2023.4.7NEW
●カメラは止まらない2022.11.26
●サミット2022.9.29
●飛んだ少年2022.9.23
●世界一モテる奴2022.7.6
●敵2022.6.20
●あるある2022.6.10
●お金のいらない国の戦争2022.6.3
●平和的解決2022.5.5
●神々の疑問2022.3.14
●イーストウエスト物語2022.2.28
●おいしい星2022.1.14
●地球に生まれる人へ2021.12.21
●守護霊はつらいよ2021.9.26
●守護霊はつらいよ22021.9.29
●守護霊はつらいよ32021.10.1
●守護霊はつらいよ42021.10.2
●守護霊はつらいよ52021.10.4
●守護霊はつらいよ62021.10.9
●守護霊はつらいよ72021.10.11
●守護霊はつらいよ82021.10.14
●地球から2021.9.28
●ある星で2021.9.27
●理想の未来2021.8.21
●お金のいらない国の仕事2021.8.11
●夢かなえ隊2021.7.20
●新しいゲーム2021.6.24
●政府発表(架空)2021.1.22
●お金が消えた日2021.1.19
●大きな穴2020.12.1
●自業自得2020.10.19
●おじいさんから聞いた話2020.6.15
●宇宙海賊2020.5.21
●神々のいたずら2020.5.4
●マスクのおうさま2020.4.28
●神々の会話2020.4.17
●高齢化社会の解消2018.5.21
●理想的な死2017.8.10
●シンデレラの旅立ち2017.8.5
●忖度ロース2017.6.26
●海の人と山の人2017.1.5
●ある若者のつぶやき2016.10.16
●ゴヅラ2014.7.31
●小さな島2012.10.2
●未来の歴史書2012.4.3
●天国と地獄2011.1.21
●ゲームオーバー2009.11.24
●お地蔵さまと魔法の薬2008.2.8
●かえるくんの葉っぱ2007.12.4「今日の爆撃は激しいな」
「やばいな。かなり近い」───────爆音。闇。
「あーあ、死んじゃった。俺たちのアバター」
「かなり頑張ったけどな」
「しょうがないよ。戦争だもん」
「まさかロシアが攻めてくるとはな」
「受けて立っちゃったからな」
「まだ若かったのに」
「もうちょっと平和なとこないかな」
「日本はどうだ」
「ここんとこしばらく戦争はしてないな」
「この先は怪しいもんだけどな」
「でも、まじめに平和を目指してる奴らも結構いるみたいだ」
「じゃあ、手伝いに行くか」
「うん」
(補足説明)
私は、現在地球上にいる私たちはその肉体がすべてではなく、本体は別次元に存在していると考えています。言ってみれば地球上の私たちはアバターのようなもので、この考え方はプラトンのイデア論にも通ずるのではないかと思います。
そういう意味では、少し乱暴ですが、この世で死んでも本体が死ぬわけではないので、成り行きに任せ、生き死ににそんなに執着しなくてもよいのではないかと思うわけです。
もちろん生まれてきたのには何か意味があると考えられますから、戦争のように人間同士が殺し合うことがよいとは思いませんが、そういうことを続けてしまううちは、そこから何か学ぶ必要があるということかもしれません。
また、誰かが攻めてきたからと言って同じようにやり返していては、今回のように双方の犠牲は増え続け、終わらせることもできなくなります。
日本も、今のような対処ではいつ巻き込まれないとも限りませんが、心ある人は日本に転生し、平和を目指そうとしているかもしれません。
「監督、よろしくお願いします」
「ああ、主役の方ね。よろしく」
「全部アドリブ。ワンカットなんですよね」
「そう。自由にやってみて。カメラが回ったら最期まで止まらないよ」
「緊張するなあ」
「悪役とかもいろいろ用意してあるからね。どうなるか楽しみだよ」
「僕が生まれるところからですね」
「うん。ご両親になる人は先に演じてもらってるから」
「じゃ、『ONE CUT OF THE LIFE』そろそろ行こうか」
「はい、カメラ、回った。用意」
「アクション!」
※この物語はフィクションです。
「おお、よく来たな」
「あ、お父さん」
「ここではもうお父さんじゃないよ。しんちゃんでいい」
「え、僕もしんちゃんだけど」
「ああ、そうだな。じゃあ、これから僕のことは『しんたろうちゃん』と呼んでくれ。君のことは『しんぞうちゃん』と呼ぶことにする」
「おおい、みんな、しんぞうちゃんが来たぞ」「おお、久しぶり。もう来たんだな」
「撃たれたんだってな、痛かったろう」
「一瞬でしたけど」
「国葬になったそうじゃないか。偉くなったもんだ」
「いえいえ。なんかそういうことになっちゃったみたいで。国民の半分くらいには反対されちゃいましたよ」
「俺なんか、しげるちゃんを苦労して国葬にしたのに、自分はしてもらえなかったぞ。ノーベル平和賞まで獲ったのに。はっはっは」
「あ、えいさくおじいちゃん」「えいちゃんでいいよ。ここでは地上での年齢も、地位も名誉も関係ないんだ。嘘はみんなばれるよ」
「そ、そうなんですか……」
「さあ、しんぞうちゃんの歓迎パーティしようぜ」
「ダイアナちゃん呼ばない?」
「いいね。そうだ、つい最近来たエリザベスちゃんも呼ぼう」
少年はある時、自分が飛べることに気づいた。飛べるかなと思ったら、足が地面から浮いたのだ。体はどんどん高く上がり、空から町を見下ろすことができた。
少年は友達にそのことを話した。友達は嘘だと言い、では飛んでみろと言った。少年は飛ぼうとしたが、なぜかその時は飛べなかった。友達は、ほらな、夢を見たんだよと言った。
でも、その後も少年は、一人で何度も空を飛んだ。飛んでいる少年を見た人は、驚いたり、幻だと思ったり、トリックだと言った。新聞にもテレビにも取り上げられず、あまり話題にはならなかった。
そのうち、他にも飛べる人が出てきた。飛べるようになった人は、みんなを集めてビルの屋上にのぼり、一斉に飛び降りた。でも、飛べたはずの人までみんなと一緒に落ちてしまった。
ある時少年は、空から下を見ていた。たくさんの車が道路を走っていた。何か所かで事故が起き、人だかりができていた。少年は、みんな飛べたらいいのにと思った。
みんなが飛べるようになったら大変なことになると言う人もいた。少年は、こういう人がいるからみんな飛べないのかなと思った。
俺は世界で一番モテる。どこのどんな奴だって、男も女も、たいていは俺のことが大好きだ。みんな俺のことばかり考え、どうやったら俺と付き合えるか知恵を絞り、俺のために頑張っている。
俺と仲良くなると、人からうらやましがられ、みんなが寄ってきて、言うことを聞く。みんなの俺に対する憧れはすごい。中には俺のことを汚いなんて言う奴もいるが、俺に相手にされないひがみだろう。
しかし、しばらく前から俺の周辺にちょっと変化が起きた。多くの人が、俺がそばにいてやらなくても、いろんな方法で俺を利用するようになった。それは別にいいのだが、同時に俺の存在を疑う奴が出てきた。
俺のことを「実在しない」などと言っている。それに気づかれると、いずれ俺は本当に消えなくてはならなくなるかもしれない。これはまずい。
「あなた、本当に軍隊に志願するの?」
「ああ。結構、金をもらえるんだ。楽になると思うよ」
「危険じゃない?」
「だいじょぶだよ。軍事演習だから、戦地に行くわけじゃないし」
「お父さん、遊園地に行きたい」
「軍隊から帰ってきたら行こうな」
「わ〜い」
1か月後。
「あの施設にミサイルを撃ち込むぞ」
「あそこには一般市民がいるんじゃあ」
「国からの命令だ」
施設は破壊された。私は現地を見に行った。一人の敵兵を見つけ、私は慌てて物陰に隠れた。幸いこちらには気づいていないようだ。
向こう向きに歩いている敵兵の後ろ姿に、私は銃を向けた。撃ち損じればこちらに気づかれ、反撃される。私は慎重に狙いを定め、引き金を引いた。
敵兵はあっさり倒れ、動かなくなった。私はゆっくりと近づいた。うつぶせに倒れている敵兵をひっくり返し、顔を見て、愕然とした。
それは私だった。しかし、私はここにいる。こんなに似ている人がいるんだろうか。ほくろの位置まで同じなのだ。
破壊した建物の瓦礫の横には女性と子供が倒れていた。血だらけだ。間違いなく死んでいるだろう。私は近づいて顔を見た。妻と息子だった。
お金のいる国あるある。
「はい。この人は妻です。前妻は息子とそのまま私のマンションに住んでいます。マンションのローンは私が払っています。妻への慰謝料も分割で払っています。……いえ、妻が嫌いになったわけではないんですが、この人と結婚したかったものですから。ワンルームは狭いですが、これ以上家賃は払えないので。……はい、来年、子供が生まれるんです。この人にも働いてもらっているんですが、子供を産む前後は無理ですよね。産休とれるのかなあ。先のことを考えると不安です」お金のいらない国あるある。
「はい。今はこの人と暮らしています。前、一緒に住んでいた人は息子とマンションで暮らしています。ときどき遊びに来ますよ。私たちが行くこともあります。……はい、来年、子供が生まれるんです。もう少し広い家に引っ越そうかな」「おい、戦争を始めよう」
「プーちゃん、何言ってんの?」
「隣のコミュニティーに攻め込むんだよ」
「何のために」
「資源を奪うんだ」
「ほしいと言えばくれるよ」
「武器を持ってこい」
「ないよ、そんなもの」
「なんかあるだろう」
「包丁とカッターナイフくらい」
「バールのようなものは?」
「バールはあるよ。トンカチも」
「じゃ、それでいいや。行くぞ!」
「一人で行けば」
「大統領、隣の国の独裁者が攻めてくるそうです」
「ええ、マジかあ。わかったわかった。はい、降参、降参」
20年後。独裁者は死にました。
「新大統領、そろそろ独立させてくんないかな」
「いいよ」
※この物語はフィクションです。「おい、二本足歩行のサルが殺し合ってるぞ」
「共食いか?」
「いや、殺すだけみたいだ」
「食い物は足りてるはずだからな」
「ああ、環境は整えてやったしな」
「じゃあ、なんで殺し合うんだ」
「さあな。サルの考えてることはわからん」
「俺たちは全知全能のはずなのにな」東の方に「殺し屋」と呼ばれるちょっとこわいグループがありました。そこのボスの彼女は麗奈ちゃんというウブな娘でした。
西の方には「納豆団」という別のグループがありました。麗奈ちゃんは納豆団のことがちょっと気になっていて、納豆団も麗奈ちゃんを仲間に入らないかと誘っていました。
ある時、それが殺し屋のボスの耳に入りました。ボスはプチンとキレて、麗奈ちゃんを殺してやると言い出しました。納豆団は麗奈ちゃんを守りたいけれども、殺し屋と戦いたくはないので困ってしまいました。
コロシヤとウブレイナ。この悲劇はどうなるのでしょうか。
おいしいものがたくさんある星がありました。お寿司、かつ丼、ラーメン、やきそば、オムライス、ハンバーグ、パスタ、ピザなどなど。みんなの大好きな食べ物がいっぱいです。
でもその星には決まりがありました。それは、大人になったら食べていいのは1種類の食べ物だけで、一生それしか食べてはいけないということです。
自分が食べるものを決めたら、お寿司に決めた人は一生お寿司だけ、かつ丼に決めた人は一生かつ丼だけを食べ続けなければいけません。
みんな自分の好きなものを考えて一つに決めますが、でもやっぱり何年も食べ続けると飽きてしまいますから、他のものを食べたくなります。
そこで結構多くの人は、見つからないように他のものも食べていました。
気の毒なのは目立つ人でした。目立つ人はなかなかこっそり食べられませんから、食べたのが見つかると大騒ぎになりました。
何でも食べていいことにすれば簡単なのに、変な星ですね。
はい、みなさんはこれから地球という星に生まれます。
地球にはお金というものがあります。お金はたくさん持っていればいるほどよく、いろんなものが手に入れられ、豊かな暮らしが送れます。
学校でたくさん勉強して、よい成績が取れれば、よい学校に進め、お金をたくさんもらえる仕事に就くことができます。
お金をたくさん持っていればみんなにうらやましがられ、大きな家に住んだり、高級な車に乗ることができます。値段の高いバッグや、宝石も買えます。やりたいことは何でもできるし、みんながあなたの言うことをききます。
さあ、地球に生まれたら頑張ってお金を手に入れましょうね。
●●●
これを読まれた方の多くは、なんかすごく気持ち悪く感じられたのではないかと思います。
でも、今の社会って、みな、こういうすり込みをされてきているように思います。
男は声に向かって叫んだ。
「誰だ!お前は」
声は答えた。
「あんたの守護霊だよ」
「ふざけんな!俺は霊なんか信じない」
「信じなくてもかまわないが、じゃあ、私は何だ」
「知らねえよ。消えちまえ!」
「まあ、少し話をしよう。お前はなぜ霊を信じない」
「そんなものいないからさ。俺は目に見えないものは信じない」
「目に見えないものなんてたくさんあるだろう。紫外線とか、細菌とか」
「そういうものはあることがわかってる。でも霊はいない」
「お前はなぜ存在している」
「知るか!生まれてきたからだよ」
「なぜ生まれてきた」
「親が作ったからだろう」
「親がお前を作ったのか」
「そうなんだろう」
「お前の意識も親が作ったのか」
「知らねえよ。意識なんて脳みそに入ってんだろう」
「お前はなぜそんな姿形をしている」
「知るかよ。自然にそうなったんだ」
「自然とは何だ」
「自然は自然に決まってるだろ」
「自然に力や意識があるからそんな姿形になったということではないのか」
「まあ、そうかもしれねえ」
「じゃあ、目に見えないものもあるんじゃないのか」
「うるせえな。俺はそんなことに興味はない」
「じゃあ、何に興味がある」
「金だな」
「金か。どのくらいほしいんだ」
「いくらでもほしいさ。できるだけたくさん」
「どうやって儲けるんだ」
「普通に働いても金持ちにはなれない。詐欺でもやろうと思う」
「捕まるぞ」
「捕まらないようにやるのさ」
「騙される人が気の毒だとは思わないか」
「知るかよ。この世は金持ちになったやつが勝ちだ」
「まあ、そう考えるのも無理もないんだけどな」
「そうだろう。わかったらとっとと消えろ」
「また来るよ」
「もう来るな!」
「おい、また来たぞ」
「来るなと言っただろ!」
「まあ、そう言うな。今日は宇宙の話をしようか」
「俺には関係ねえ」
「関係なくはないだろう。お前も宇宙の中にいるんだから」
「うるせえな」
「宇宙の果てはどうなっていると思う」
「宇宙は無限だろ」
「無限とは何だ」
「果てがないのさ」
「果てがないということを想像できるか」
「どこまでも行けんだろ」
「不思議だと思わないか」
「何が」
「三次元空間は、果てがなければ成立しない」
「難しいことはわかんねえよ」
「難しくはないさ。縦、横、高さのある世界、あるいは球体で考えてもいい。とにかくお前はその空間の中にいる」
「それが何だよ」
「果てがなければ成立しない空間にお前はいるんだ。でも、その宇宙に果てはない。おかしいと思わないか」
「じゃあ、なんでこんな空間があるんだよ」
「考えるのはそこさ」
「俺にはわからねえ」
「うん。わからなくていいんだ。簡単にわかることじゃない」
「俺にどうしろと言うんだ」
「どうもしなくていい。ただ、人間のわかることなんて知れているということだ」
「もういいだろう。ほっといてくれ」
「今日はこのくらいにしておくよ」
「久しぶりだな」
「また来たのか」
「宇宙から自分を見たことはあるか」
「あるわけねえだろ」
「実際にはなくても想像するのさ。地球は太陽の周りを回る惑星の一つだ」
「知ってるよ」
「今までに人間が行けたのは地球の衛星の月までで、まだ隣の火星にも行けていない」
「ああ」
「太陽は、お前たちのいる天の川銀河に2000億個以上ある恒星の一つだ」
「恒星はそんなにあるのか」
「天の川銀河だけでもな。恒星は自ら光るが、惑星は光を反射しているだけだから、地球から見えるのはほとんどが恒星だ」
「みんな太陽のようなものか」
「そうだ。そして、太陽系の恒星は太陽しかない」
「ということは……」
「その恒星同士の距離を想像できるか」
「とんでもない距離だな」
「その恒星が無数に見えてるわけだ」
「スケールがでかすぎて……」
「天の川銀河以外の銀河だって無数にある」
「地球が小さいことはわかったよ」
「宇宙から見ればな。だから、地球がどうなろうと宇宙の大勢に影響はない」
「だろうな」
「今日はこのくらいにしておこう」
「この間の続きだ。宇宙にとっちゃ地球などどうなろうと影響はないが、人間にとっちゃ、そこが大事な住処だろう」
「ああ」
「そこをお前たち人間はどうしている。住めないような星にしていないか」
「わざとじゃないだろう」
「わざとじゃなくたって環境を破壊している。自殺行為だ」
「まあ、進歩のためにはしょうがないんじゃないのか」
「進歩のためなら死んでもいいのか」
「そういうわけじゃないけど……」
「進歩と言えば聞こえはいいが、金のためだろう」
「かもしれねえ」
「環境を破壊してまで金が欲しいのか」
「金は要るからな」
「金はもともと自然界にあったもんじゃない。人間が作り出したんだ」
「そりゃそうだ」
「じゃあ、金がなければ生きられないというのはおかしいだろう」
「でも、人間の社会は金が要るんだ」
「人間がそういう社会にしたからな」
「金が要らない社会なんて考えられない」
「考えようとしないからだ」
「金が無くなったら奪い合いが起きるんじゃないか」
「なぜだ」
「何でもタダで手に入るなら、みんないろいろ手に入れたいと思うだろう」
「必要なくらいは足りるだろうし、もっと必要なら作ればいいだろう」
「金がなくても生きられるなら、誰も働かなくなるさ」
「今ほど働く必要はない。金が無くなれば仕事は激減する」
「まあ、そんな気はするけど……」
「社会に必要な仕事くらいはみんなでやればいいだろう」
「俺は遊んでいたいな」
「遊びは大いに結構だ。遊べる時間は増える」
「じゃあ、寝てる」
「それでもいい。でも、ずっと何もしないのも辛いと思わないか」
「……」
「また来るよ」
「今日は地球の話をしようか」
「地球の話?」
「ああ。仮に地球が直径1メートルだとすると、海の深さはどのくらいになると思う?」
「3センチくらいか?」
「いや、一番深いマリアナ海溝でも約1ミリだ」
「ええ!」
「深さ1万メートルでも1ミリくらいだ」
「そんなものなのか」
「ああ。地球は海と陸の割合が7対3などというが、それは表面の割合で、水など薄い膜のようなものだ」
「はあ」
「それも水のほとんどは海水で、生きるのに必要な真水はほんのわずかだ」
「……」
「地上でも考えてみろ。高さ1万メートルはどのくらいだ」
「エベレストより高いな」
「そうだ」
「俺たちはその1ミリの隙間でしか生きられないのか」
「ギリギリでもそんなところだ。その隙間の環境をお前たちは破壊している」
「たしかに自殺行為だな」
「宇宙から見ればほんの小さな星の、バクテリアのような存在の人間が、自分たちの住処を自分たちで壊しているんだ」
「馬鹿な話だな」
「そうだな。おまけにそのバクテリア同士が殺し合ったり、領土を奪い合ったりしている」
「なんでそんなことになったのかな」
「今日はここまでだ。考えてみてくれ」
「地球が自転していることは知っているな」
「あたりまえだろ!」
「その速度はどうだ?」
「1日に1回転だろ」
「そうだ。赤道のあたりでだいたい秒速500メートル」
「すごい速さだな」
「公転はもっとすごいぞ。時速約10万キロ。秒速30キロ。1年で太陽の周りを一周するんだからな」
「想像がつかない」
「そんな速度で動いているのに自覚はないだろう」
「そうだな。自分が動かなければ止まってる感じだ」
「周囲が全部一緒に動いているからな」
「不思議なもんだな」
「宇宙は全てが絶妙なバランスで存在している」
「そうみたいだな」
「永遠とも言える時間の中で、宇宙ではいろいろなことが起こる」
「いずれは太陽も無くなるって言うしな」
「ああ。そうしたら地球も無くなる」
「そんな先のこと、俺には関係ないけどな」
「今のお前にはそうだろうな。人間はその宇宙の中で、たった100年足らずしか生きられないということだ」
「そうだな」
「その100年をどう生きる。金儲けに明け暮れるか」
「そういう奴が多いと思う」
「人間同士で殺し合うか」
「それもよくやってるな」
「宇宙から見たら馬鹿馬鹿しいと思わないか」
「たしかに馬鹿馬鹿しいが、それが人間なんだろう」
「人の意識が死んだ後も続くとしたらどうだ」
「人は死んだら終わりだろう」
「次はそんな話をしよう」
「死後の世界があるとしたらどうだ」
「そんなものないさ」
「あると仮定するだけでいい。想像してみろ」
「よくわからねえ」
「意識と肉体を別のものと考えてみるんだ。肉体を離れても意識があるとしたら」
「どこへ行きゃあいいんだ」
「それは今心配しなくていい。それより、あの世には、この世的なものは持って行けない」
「この世的なもの?」
「ああ。金とか地位とか名誉とか、この世でしか通用しないものは持って行けないんだ」
「ふうん」
「そういうものはこの世でいくら持っていても、死んだら意味がなくなる」
「そうか。金持ちは残念だろうな」
「金に執着を持っていればな。手放せなければずっと苦しむことになるかもしれない」
「おもしれえな」
「あの世には、この世で死んだ人もみんないるしな」
「嘘つけ」
「嘘だと思ってもいい。ただ、例えば自分がこの世で殺した人とあの世で会うとしたらどうだ」
「俺は殺してないから」
「それはわかっている。でも、もしお前が詐欺を働けば、死んでからあの世で被害者と会うかもしれないぞ」
「おどかすなよ。仮定の話だろ」
「ああ、仮定でいい。でも本当でないという保証もない」
「……」
「人に迷惑をかけておいて、この世では逃げ切って死んだとしても、あの世ではみんなばれる」
「あの世なんてないさ」
「ないかもしれない。でも、あると思ったら、生き方も変わるんじゃないか」
「俺だって詐欺なんかやりたくないよ。でも、金が要るんだ」
「金の社会ではそう考えてしまうのもわからないではない。だから金など必要としない社会を目指す必要がある」
「そんなの無理だろう」
「たしかにすぐには無理だ。でも想像するだけならできるだろう」
「あの世では何が重要になると思う」
「何も持って行けないんだもんな」
「ああ」
「意識だけか」
「そうだ。心とか魂と言ってもいい。大事なのはそのあり方だ」
「どうならいいんだ」
「どうだろうな。どんな魂になれるかはこの世での価値観や行動によるかもしれない」
「どんな行動だ?」
「例えば人の役に立つとか、喜んでもらうとか」
「きれいごとじゃないのか」
「そう思うか」
「普通は自分のことで精いっぱいだろう」
「もちろん、自分のことも大事だ」
「だいたい、あの世なんて科学で証明されてないじゃないか」
「科学なんてものは、現在人間はここまでしかわかっていないという、限界を示すようなものだ」
「かもしれないけど、やっぱり俺はあの世なんてないと思う」
「それはどう考えようと自由だ。でも宇宙の果てもわからないお前にそんなことが言いきれるか」
「うるせえな」
「実際にどうかはわからないにしても、あの世はないと思って生きるのと、あるかもしれないと思って生きるのでは、生き方に違いが出ると思わないか」
「どんなふうに」
「死んだらあの世に持って行けない金を儲けるために、一生を使うのか?」
「でも、俺は金がほしいんだ」
「人を踏み台にしても?」
「それは……」
「たしかに今、この世ではある程度の金は必要だ。でも無限にほしいなんて考えているといつまで経っても満足はできない」
「まあな。そんな気はする」
「じゃあ、何が大切で、どう生きるかを考えないとな」
「今日は地球からのリポートです。あ、テレビの前に人が集まっていますね。行ってみましょう。……あの、すいません、何を見ていらっしゃるんですか」
「芸能人が不倫して、謝罪会見をしているんです」
「フリンって何ですか?」
「結婚しているのに他の人と関係を持つことです」
「ああ、地球には『ケッコン』という制度があるんですよね。ケッコンするとフリンはいけないんですか?」
「ええ」
「ケッコンする前ならフリンはいいんですか?」
「結婚していなければ不倫とは言わないかもしれませんが、結婚する前なら別れるのも簡単ですから」
「フリンすると別れるんですか?」
「相手を許せなければそうなることが多いですね」
「フリンは珍しいんですか?」
「いえ、とても多いです」
「じゃあ、ケッコンはしない方がいいんじゃないんですか?」
「でも、好きな人とは一緒に暮らしたいと思うでしょう」
「ケッコンしなければ一緒に暮らせないんですか?」
「そんなことはないです。でも結婚すると社会が認めてくれるし」
「ケッコンすると不自由みたいですけど」
「結婚してその相手とおとなしく暮らすのが幸せってことになってますね」
「他に好きな人ができても我慢して?」
「まあ。どうしても他に行きたければ離婚ですね」
「二人とケッコンすれば」
「重婚は法律で認められていません」
「相手が自由にすることを喜べないんですか?」
「一般的にはそうじゃないですかね」
「ありがとうございました。以上、なんか不思議ですが、地球はそういうところのようです」
「今日は、通貨制度や婚姻制度がないという星に取材に来ました。いったいどんな生活をされてるんでしょう。あ、あそこの女性二人にインタビューしてみましょう」
「こんにちは。地球という星から来ました。ちょっとインタビューよろしいですか」
「はい」
「ええと……、ご姉妹ですか?」
「いえ、親子です」
「え、お母さんお若いですね」
「そうですか。この子は15歳で産みましたけど」
「え、15歳で!」
「ええ。変ですか?」
「ずいぶんお若い時にと思って」
「できたもんですからね」
「今はお父さんと3人で暮らしていらっしゃるんですか」
「おとうさん?」
「ええ」
「おとうさんって何ですか?」
「え、お父さんって男親ですけど」
「親は私だけです」
「いや、男親はいるでしょう。婚姻制度はないとしても」
「……」
「別居されてるってことですかね」
「私はこの子が生まれたので育てただけですが」
「でも一人では子供はできないですよね。男性との交わりがないと」
「ああ、コウビのことですか?」
「え、ああ、そうですね。交尾です」
「コウビとこの子と何か関係があるんですか」
「え、いや、交尾をしたからお子さんが生まれたんでしょう」
「へえ、そうなんですか」
「え、ひょっとしてそういうことをご存じない」
「ええ。コウビは男性に求められて嫌でなければするし、私もしたいと思ったらお誘いします」
「で、男性とはそれで終わり?」
「ええ。その後も会いたいと思えば会いますが、それで終わりのこともよくあります」
「じゃあ、お父さんは誰だかわからないんですか」
「コウビが子供と関係あるとは思いませんでしたし、私も母しか知りません」
「いやあ。じゃあ、今は娘さんと二人暮らし」
「いえ、いろんな人が来ます。私はこの子の下に子供は5人いて、いろんなところで暮らしています」
「はあ。特に家や家族は決まっていないと」
「ええ。みんな行きたいところに行くだけです。この子も今日久しぶりに会いました」
「そうなんですか。地球とあまりにも違うんで混乱してしまいます」
「あはは、そうですか。私とコウビします?」
「い、いえ、遠慮しときます。帰ったら怖いんで。じゃあ、失礼しまーす!」
「お母さん、この本何?」
「おじいちゃんの遺品に入ってたの」
「読んだの?」
「薄いから読んでみた」
「おもしろかった?」
「あんまり。普通のことが書いてあった」
「『お金のいらない国』……お金って何なの?」
「知らないけど、おじいちゃんが若い頃にはあったらしいわよ」
「長島龍人って知らないね」
「売れない作家はいっぱいいるからね」
「売れない、って言葉も意味わかんないね」
「昔の言葉だね」
「早起きは三文の徳とか」
「三文もお金のことみたいよ」
「この本、どうするの?」
「今度の資源ゴミの日に出すわ」
「今日は、お金のいらない国のライブハウスをリポートします。華やかな衣装を着た女の子たち数人が舞台で歌って踊っています。お客さんは30人くらいでしょうか。舞台のすぐ前では、ハチマキをして両手にペンライトを持った男性7、8人が曲に合わせて激しく動いています。親衛隊の人たちですね。掛け声もみんなよく合っています。
あ、女の子たちが舞台袖に入っていきました。休憩のようなので、親衛隊の人にインタビューしてみましょうか。こんにちは。よくいらっしゃるんですか」
「ああ、ライブがあるときはいつも来てますよ」
「アイドルがお好きなんですね」
「最高っすね。僕の推しはこの子です。かわいいっしょ」
男性は、顔写真のついた団扇を見せて言った。「え、ええ。普段はお仕事は何をされてるんですか」
「え?」
「お金を稼ぐための……ああ、お金はないんでしたね。何かお仕事はされていないんですか?」
「シゴトって何すか?」
「いや、何か世の中のためになるようなことを」
「よくライブに来てますよ。映画や旅行も行くし」
「それは趣味というか、遊びでしょ」
「シュミ?アソビ?ちょっと意味わかんないんすけど」
「じゃあ、毎日、ライブや映画を見ていると」
「そうっすね。彼女たちも見てほしいでしょ。映画も見る人がいないと作る意味ないし」
「この社会ではそういう人は多いんですか?」
「そうっすね。半分くらいはそうじゃないかな」
「え!?半分もの人が……」
「何か変すか?」
「いや、何か他のことをしたくならないんですか?」
「したくなったらしますよ。今はアイドル応援したいんで」
「………」
「あ、休憩終わったみたいなんで」
男性は舞台前に戻ると、また激しく踊り始めた。
給与明細を見ながら男はつぶやいた。
「あ〜あ。いくら働いても給料少ねえな。これじゃあ、いつまで経ってもこのアパート出られねえな」
その時、来客を知らせるチャイムの音がした。ドアを開けると数人の男女が立っていた。
「私たちは『夢かなえ隊』です。あなたの夢をかなえます」
男は驚いたが、聞いてみた。
「夢をかなえる?どんな夢を」
「すべてではありませんが、できる限りご協力します」
男は意味がわからなかったが、一応言ってみた。
「じゃあ、でかい家。部屋が10個くらいあって、庭の広い、プール付きの家」
「承知しました」
途端にそこは大邸宅の玄関に変わっていた。
「いかがですか」
男は腰を抜かしそうになったが、外に出てみた。そこには広い庭があり、本当にプールも付いている。
「おいおい、ほんとかよ。なんなんだ、あんたたちは」
「夢かなえ隊です」
「それはさっき聞いたんだけどさ」
夢かなえ隊はにこにこしている。
「隣のうちはどこに行っちゃったんだ?」
「門の外に」
庭を突っ切るのにも少し時間がかかったが、男は門の隙間から外を覗いてみた。数人が遠くからこちらを見ている。突然の大邸宅の出現に驚いているのかもしれない。男はついてきていた夢かなえ隊に言った。
「俺はここに住んでいいのか?」
「あなたの家ですから」
「他にも夢をかなえてくれるのか?」
「すべてではありませんが、できる限りご協力します」
「じゃあ、金をくれ。一兆円くらい」
「残念ながらそれはできません」
「なんだ。できないのかよ」
「でも、物なら何でも出せますよ」
「じゃあ、腹が減ったから、豪華な料理を出してくれ」
「承知しました」
夢かなえ隊は、ダイニングテーブルいっぱいに、見事な料理を並べてくれた。男は満腹になるまで食べ、言った。
「ふう、うまかった。風呂に入って寝る」
「承知しました」
男は大きな風呂に入り、寝室のベッドで大の字になって寝た。
翌朝、目を覚ますと、夢かなえ隊はもうそばにいた。男は言った。
「会社に行きたくない」
「承知しました」
「行かなくていいの?」
「いいですよ」
「俺は何をすればいい?」
「何でもご自由に」
男は夢かなえ隊に高級車を出してもらい、一人に運転手をしてもらって出かけることにした。留守中に邸宅の掃除を頼んだ。男は快適なシートでくつろぎながら言った。
「彼女がほしいな」
「残念ながらそれはできません」
「なんだ、できないのかよ」
「生き物は出せません。物でないと」
「彼女は自分で見つけないとだめなんだな」
男はそれから、夢かなえ隊にプライベートジェット機を出してもらって海外旅行をしたり、思いつく限りの贅沢をしてみた。
ある時、男は邸宅の近くで近所の人の会話を耳にした。
「あのお屋敷に住んでる人、どういう人なんだろうね。何か楽しいのかね」
「さあねえ。一人暮らしみたいだし、なんでこんな大きな家が要るんだろう」
男は、貧乏人のひがみだなと思ったが、近所の人がこんなことを言っていたと夢かなえ隊に話した。夢かなえ隊は言った。
「そうですねえ。彼らには理解できないんでしょうね」
「貧乏で大きな家に住めないから、ひがんでるんだろうな」
「いえ、彼らも望み通りの家には住んでいますよ。そんなに大きな家に住む必要性を感じないんでしょう」
「金がないから買えないだけじゃないのか」
「ここにはお金はありませんから」
「何だって!?」
お金がない?ここはお金の存在しない世界なのか。そういえば俺は、物は夢かなえ隊に全部出してもらっていたから、ここへ来てからお金は使っていないし、お金のことは気に留めていなかった。
すべてがタダで手に入る世界。そんなことが可能なのか。そういう状態では人は何を望み、どんな暮らしをするんだろうか。男は夢かなえ隊に言った。
「俺を元の世界に帰してくれ。少なくとも俺の夢は、でかいうちに住むことではなさそうだ」
「新しいゲーム考えたんだ」
「へえ。どんなの?」
「物が自由にもらえないの」
「えー、不自由じゃん。どうすればもらえるの?」
「引換券があればもらえる」
「引換券はどうしたらもらえるの?」
「仕事をすればもらえる」
「じゃあ、仕事をしなくちゃいけないんだ」
「そうだよ。おもしろくない?」
「どうかなあ。引換券をたくさん集めた人が勝ち?」
「物と交換しないと意味ないんだけどね」「国民の皆様に申し上げます。
再来年1月より、預貯金はすべて普通預金とし、
年利は一律マイナス5%とします。
同時に、タンス預金は不可とします。
また、再来年1月より、賃貸住宅にお住まいの方には
一人あるいは一家族につき1戸、
月、上限10万円までの援助をします」再来年1月になりました。
貯金しておいても減ってしまうため、
人々がどんどんお金を使うので、
経済はよく回るようになりました。お金持ちには、金の延べ棒や宝石がよく売れましたが、
莫大な預貯金から毎年5%の利息が取れるので、
政府は十分な収入を得られました。賃貸住宅に住む人は月10万円までなら家賃はタダなので、
とても生活が楽になりました。2XXX年、全世界はすべてキャッシュレス化され、現金は存在しなくなった。また、預金通帳など金融関係の書類はすべてデータ化されていた。
その頃、水面下で国際的なハッカーの組織ができていて、すべての金融機関にアクセス可能となっていた。
ある日、ハッカーたちは全てのデータを消した。同時にバックアップはすべて盗み出され、破壊された。もう、誰に資産がいくらあったのか、誰にも分らなくなり、何の証拠も無くなった。
金の延べ棒や宝石を売ろうとした、金持ちだった人もいたが、誰も「買う」という行為ができなくなったので、全く意味がなかった。
かといって、食料はあるし、資源はそのままだし、誰も生きられなくなったわけではなかった。
人々はしばらく途方に暮れた後、必要と思うことをやり始めた。
気がつくと、私は草原を歩いていた。なぜか肩に袋を担いでいる。そこそこの重さがある。何が入っているのだろう。
周りには何人も同じように袋を担いだ人が歩いている。同じ方向に向かっているが、どこに行くのかはわからない。袋の大きさには大分違いがあって、大きいのを持っている人はかなり重そうだ。中にはほんとに小さな袋の人もいて、片手でぶら下げている。
しばらく行くと、大きな穴が現れた。たくさんの人たちが穴の周囲に立って、中を覗き込んでいる。私も同じようにしてみた。穴は真っ暗で、何も見えない。相当深いのだろうか。
すると、何人かが袋を穴に投げ入れた。袋は闇に消えていった。そして、また草原を先へ歩き出した。今度は別の何人かが袋を投げ入れようとした。しかしその人たちは袋を手から放さず、自分も一緒に穴に落ちていった。
それからも袋だけ穴に落とす人と、一緒に落ちる人がいたが、それは袋の大きさには関係ないようだった。大きな袋を投げ入れる人もいれば、小さな袋と一緒に落ちる人もいた。
私は、袋がちょっともったいないような気はしたが、袋だけを穴に落とした。そして、また草原を歩き始めた。
身軽になって歩いていると、草原にたくさんの花が咲き始めた。どんどん明るくなってきて、気分もよくなった。
穴に落ちた人たちはどうなったのだろう。袋の中身は何だったのだろう。もうわからないし、もうどうでもよいと思った。
「大きな穴」の解説
どのように解釈していただいてもかまわないのですが、一応、作者の意図を述べておきます。
これは死後の世界を描いています。主人公は、死んだ直後に、なぜか袋を背負って草原を歩いています。周りには何人かの人が同じように歩いている。すると大きな穴が現れ、その周りをたくさんの人が取り囲んでいます。穴の中は真っ暗闇。人々は袋を穴に投げ入れますが、袋から手を放さなかった人は、袋と一緒に穴に落ちて行ってしまいます。
私の想定では、この袋の中身は、生前の執着。お金はもちろん、地上でしか通用しない、地位、名誉などが入っていると考えました。
それを手放せた人は天国へ。暗闇の穴の中は地獄、あるいはまたこの世に生まれてくるのでしょうか。
生きているうちから、ある程度、そういったものへの執着を手放しておかないと、地獄に落ちてしまうかもしれません。
ああ、これで俺も臨終のようだな。そばには医者が立っていて、妻と息子、娘夫婦、孫の顔も見える。いろいろあったが、まあいい人生だった。ああ、だんだん暗くなってきた。さよう…な…ら。
…と思ったら、今度はだんだん明るくなった。ここはどこだ。小さな部屋で、目の前にはスクリーン。椅子が並んでいて、俺はその一つに座っている。映画館か、どこかの試写室のようだ。
後ろのドアが開いて一人の男が入ってきた。
「お疲れさまでした。いかがでしたか?今回の人生は」
「え?これは映画だったのか?」
「いえ、映画ではありませんが、まあ、人生体験マシンというか」
「俺の人生は現実ではなかったってことか?」
「いえ、現実でないこともないんですが、あなたに必要な修行ってとこでしょうか」
「……で、これから俺はどうなるのだ」
「今度は別の立場の人を体験していただきます」
「え?今やってきた人生の?」
「はい。今度は別の人になるんです」
「誰になるんだ?」
「そうですねえ」
男は手に持った紙の束をぺらぺらとめくって見ている。
「あ、この人にしましょう。あなたはこの人の気持ちを体験する必要がありそうだ」
「誰だ?」
その名前を聞いて俺は叫んだ。
「そいつはだめだ!やめてくれ。そいつは俺が仕事のミスを押しつけたやつなんだ」
「そうですね。かわいそうにこの人は自殺してしまっています。あなたは相当なパワハラをしましたね。今度はこの人になって、あなたにいじめられてもらいましょう」
「いやだよ!悪かった!許してくれ!」
辺りがだんだん暗くなってきて、スクリーンに何か映り始めた。遠のいていく意識の中で、微かに男の声が聞こえた。
「お達者で〜〜〜〜」
ぼくがおじいさんから聞いた話では、おじいさんが子供の頃までは「お金」というものがあったらしい。あったといってもおじいさんが覚えているのは、よ金つうちょうというノートに書かれた数字だけだそうだ。
なんでもその頃は、お店で何かをもらうと、そのノートの数字がへっていったそうだ。また、その数字は、何か仕事をすると増えるそうで、数字が0になってしまうと何ももらえなくなって困るので、おじいさんのお父さんたちは、仕事をしたらしいという。
なんでそんな数字が必要だったのかぼくにはわからないが、その数字は、たくさん持っている人とあまりない人がいて、ない人は食べるものももらえなくて困ったらしい。
だからみんなその数字を増やすために一生けん命仕事をしたり、中には人をだまして悪いことをする人もいたそうだ。
お金は、数字になる前は紙や金ぞくだったこともあったそうで、ぼくはお金というものにきょう味が出てきたので、今度の休みの日に、歴史資料館に行って見てこようと思う。
経済社会が完全にキャッシュレス化されて、しばらく経った時のことです。
地球に1隻の宇宙船が向かっていました。ほんとに船の形をしていて、帆にはどくろのマークがついています。
着陸した宇宙船から、いかにも海賊のような、強そうな人たちが何人も降りてきました。皆、手には大きな剣を持っています。
「やい、俺たちは宇宙海賊だ!責任者を出せ」
見たまんまでした。そこはたまたま日本だったので、総理大臣が前に出ました。
「あ、あの、何かご用でしょうか」
「カネを出せ。お前らが一番大切にしているものだろう」
「はあ、そ、それはそうなんですが、出せと言われましても……」
「なめんじゃねえぞ!俺たちはこんなコスプレしてるが、こんな星、簡単に吹っ飛ばせるんだからな!」
コスプレだったのかよ。海賊は総理大臣を捕まえ、首に剣を突きつけました。
「ひえ〜〜〜!み、みんな通帳を持ってきて。スピード感をもって……」
周りにいた十数人が自分の預金通帳を持ってきて広げ、残高を見せました。
「ふざけんじゃねえぞ!俺はカネを持って来いと言ったんだ!」
海賊は剣を総理の首に食い込ませます。「わ〜〜〜!でもほんと、それがお金なんですよ〜〜」
「このやろう!死にてえのか!」
「ぎゃ〜!助けて」
総理大臣は泣き出しました。海賊は剣を突きつけたまま、通帳を持ってきた人々に聞きました。「おまえらもそれがカネだって言うのか」
人々は通帳を見せたまま、うなずきました。
海賊が言葉を失っていると、他の人たちに同じようなことをしていた海賊の仲間が来て、耳元で言いました。
「お頭、どうもこいつらの言ってることは本当のようです」
「何?
だって、ただのノートに数字が書いてあるだけじゃねえか」「そうなんですが、どうもそれがカネというものらしくて」
「………」
海賊は青ざめていきました。
「まずい。こいつらは狂ってる。新種のウィルスかもしれねえ。
おい、野郎ども!引き上げるぞ!」宇宙船はすごい勢いで逃げていきました。
「地球はいつ見ても美しいな」
「ああ、俺たちの自信作だ。
これを作るために、100億年もかけて宇宙から作ったんだからな」「太陽から光が当たるように。水に空気に。
生物の生きられる環境を整えて、いろんな生物を作ったよな」「ああ、動物に植物に微生物、細菌まで。とても楽しかった」
「この、ヒトってサルだけがちょっと誤算だったな」
「ああ、せっかくの環境を破壊しやがって。
他の動植物に迷惑かけて。何考えてんだ」「ヒトが、カネとかいうものを作りやがったのが間違いのもとだ」
「何なんだ?それは」
「よくわからんが、食えもしないし、生きるのには不必要なものだ」
「そうか。じゃあ、消しちまおうか」
「そうだな。それがいいかもしれない」
「どれだよ、カネってのは」
「この四角い紙切れと、丸い金属と、
あとこの通帳ってのに書いてある数字と」「数字?」
「ああ、ただの数字で実体はないんだ」
「そんな数字で何するんだ」
「わからん、サルの考えてることは……。
あとな、そのデータが金融機関ってとこに山ほどある」「よし。じゃあ、全部まとめて消しちまおう」
「わかった。じゃあ、やるぞ」
「はい、消えた!」
「あはは。サルの奴ら、慌てふためいてやがる」
「や〜い、バカザル。ざまみろ。地球を汚した罰だ」
「ははは。しかし、不思議なもんだな、あんなに慌てて。
食料も資源も、環境は何一つ変わってないのにな」ある国で、悪い病気がはやりました。
王様は考えました。「国民はマスクがなくて困っているようだ。
そうだ。作ってみんなに配ろう」王様は国民にそれを発表しました。
国民は、一瞬、それはありがたいと思いました。
でも、家族が何人でも、一軒につき2つであることと、
とてつもないお金がかかることがわかると
やめた方がいいんじゃないかと思うようになりました。おまけに、王様がそれをつけて国民の前に出ると、
ちょっと小さいし、形も古臭い感じがしました。
それに他の大臣たちは誰もそのマスクをつけていません。でも、それを誰も王様に言えないまま、
マスクは大金を使って国民に配られてしまいました。優しい国民はそれでもあまり文句も言わず、
配られたマスクを解体して作り直す人さえ出てきました。
そして言いました。「きっと、王様は悪い商人にだまされたんだよね」
「おい、地球がえらいことになってるぞ」
「なんだこりゃ。木もはげはげだし、空気も水も汚れちまってるな」
「46億年もかけて作ってきたのに……」
「この、ヒトっていう猿が余計なことしたんだな」
「ああ、他の動物はおとなしくしてんのに、こいつらを作ったのが失敗だった」
「カネとかいうものを考え出して神のように崇めてるぞ」
「俺たちを何だと思っていやがる」
「この経済社会とやらをなんとかしないとな」
「ヒトを家から出られなくして、仕事をやめさせたらどうだ」
「そうだな。なんかいい方法はないか」
「新種のウィルスでもばらまくか」
「おお、それはいい。多少乱暴だがやってみよう」
2050年、しばらく前から、日本の人口比率は極端に高齢者が多くなった。医療が進歩し、平均寿命が延び、出生率が下がったのだから当然のことだ。
そこで改正された法律が、自殺ほう助罪の廃止。もちろん、殺人は罪だが、自殺したい人に道具や場所、知識を与えることなどが認められたのだ。ただし、自殺ほう助を受けてよい人の年齢は70歳以上と決められた。
それが決定されるまでにはかなりの論議を呼んだし、倫理上の観点からの反対意見も多かった。しかし、背に腹は代えられない。とにかく高齢者が多すぎて、一人でも減らしたい状況になってしまったのだから。よくよく考えてみれば、倫理などというのも、生きている人間の思い込んだ概念に過ぎないと多くの人が考えるようになり、自殺が、本来してはいけないことであるという認識も薄れた。
自殺ほう助罪が廃止されると、ありとあらゆるアイデアの自殺ほう助ビジネスが台頭してきた。今までは、もう生きていたくないと思っても、楽に死ねる方法がわからない、死んだ後、人に迷惑をかけたくないなどの理由で、自殺に踏み切れない老人も多かった。しかし、痛くも苦しくもなく、楽に死ねる、残された人に何の手間もかけさせないのであればと、自殺を望む老人が続出した。
死ぬ日も自分で決められるし、死ぬ前に、財産などすべての処分は自分で行えるから、遺産相続でトラブルになる心配もない。また、遺体は残さない方法もあるし、骨を残したい人は、望めば、火葬、納骨までをすべて業者がやってくれる。これなら安心して死ねるというものだ。
死後の概念には個人差があるが、死にたいと思った人が、それぞれに納得して自分の死期を決めることができるようになったのは画期的だった。もちろん、生きたい人は寿命の尽きるまで生きればいいのだが、治る見込みが全くない病なのに、痛みや苦しみに耐えながら生きなければならなかった人や、もうすることもないし、生きている意味がないと感じた人が自由に死ねるようになったわけだ。
そして私は今、小さな船の上にいる。先ほど一錠のカプセルを飲んだ。30分もすると強烈な眠気に襲われ、二度と目覚めることはないという。船は別の大きな船にロープで引かれており、沖まで行ったところで切り離され、しばらくして沈没するとのことだ。その後は魚たちが私の体を食べてくれるのではないか。骨は海底で、いずれは砂になるだろう。
50年連れ添った妻とは昨年、死に別れた。一人娘は嫁に行って幸せに暮らしている。私が自殺を選んだことは、自殺ほう助ビジネスの業者の人以外には誰にも言っていない。娘に言えばたぶん止められるだろうから。私がいなくなった後の連絡なども全て業者がやってくれることになっている。
私は死後の世界の存在を信じている人間だが、次に気づくとすれば船上の私の遺体を見ることになるのか、海の中なのか、あるいはまったく別の場所なんだろうか。ああ、急に眠くなってきた。これで瞼を閉じれば、もう…開くことは…ないのでは…ない…か……。入院している父に付き添っていた母から電話を受けたのは朝の6時頃だった。私は妻と、車を飛ばして病院に向かった。昨日まで少し話もできた父の意識は既になく、人工呼吸器を付けられ、計器に映った脈拍の波形は乱れていた。
医師と看護師が病室に入ってきた。脈拍は更に乱れ、やがて波形はどんどん小さくなって、一直線になり、数値は0を指した。
その時、父の体に変化が起きた。肉体の見えている部分の色が薄くなってきたのだ。そして枕が顔を通して透けて見えてきたかと思うと、ついに父は消えた。
体に付けられていた器具や、かけられていた布団などは、主を失って力なく落下するなどし、動かなくなった。
私たちは医師と看護師に礼を言い、入院に必要だった荷物をまとめて車に積み込み、帰宅した。入院費、治療費の精算は後日行う。
●●●
この世界では人間の体は死亡すると消える。だから火葬場もなければ墓もない。多くの人は葬式もしなければ法事もしない。そのおばあさんはソファに座り、十数人の人に囲まれて話していた。別のソファや椅子に座っている人もいれば、立っている人もいる。赤ん坊から七十代くらいまでの男女。親族の集まりのように見える。
今まで食事会をしていたらしく、食器の片づけをしている人もいるが、おばあさんの誕生日か何かで集まっているんだろうか。しかし、不思議なことにみんな黒い服を着て、男性は黒いネクタイをしている。
おばあさんを中心に、楽しそうに思い出話などをしているようだが、ときどき涙を拭いている人もいる。懐かしくて泣いているのかもしれないが、おばあさんは元気そうだし、病気には見えない。
しばらくすると全員が立ち上がった。誰かの葬儀に行くんだろうか。外に出ると、夜だった。人々は数台の車に分かれ、どこかへ向かった。
着いた先はやはり葬儀場だった。そこには既に数十人の人が集まっており、おばあさんが会場に入ると、拍手が起こった。おばあさんは皆に笑顔を向け、近寄ってきた人とは一言二言交わした。
会場には祭壇が設けられていて、葬儀場の職員らしき数名が忙しそうに動いていた。祭壇の真ん中に飾られている写真を見て驚いた。そのおばあさんだったのだ。
おばあさんは祭壇に近寄り、自分の写真と対面した。そして周りを取り囲むように飾られている花などもゆっくりと見まわした。
時計が真夜中の12時に近づいてきた。おばあさんは、先ほど一緒に家にいた数人の男女に付き添われて、棺に近づいた。そして葬儀場の人が棺のふたを開けると、おばあさんは自分で中に入った。
おばあさんは上半身を起こし、会場の人に向かって笑顔を見せ、手を振った。皆、手を振り返したり、大きな拍手をした。それからおばあさんは棺の中に仰向けに寝ると、胸の上で手を組み、目をつぶった。
時計が12時を過ぎた。白衣を着た、医者であろう人が指でおばあさんの瞼を開け、ペン型のライトを向けて目を覗き込んだ後、「ご臨終です」と告げた。
●●●
この世界では、人の寿命は80歳と決まっている。80歳になる誕生日の夜中の12時に寿命が尽きる。その前に亡くなる人も多いし、この世との別れは悲しくもあるが、80歳まで生きられれば喜ばしいことだし、最長寿となる。
80歳まで生きられそうな人は、悔いのないようにそれまでにやりたいことをやっておこうとする。また、持ち物や財産の処分、分与なども計画的にできる。
葬儀も自分のしたいように準備でき、知人への連絡も自分でできる。残された者は慌てることもなく、後から遺産相続で争うこともない。
「ソンタクロースのおじさん、僕のほしいものは……」
「はいはい。君は僕の親友だからうまく取り計らってあげるよ」
「ソンタクロースのおじさん、私は……」
「はいはい。じゃ、お金もあげちゃおうかな」
「ソンタクロースさん、国民が騒いでいます」
「え?僕、なんかだめなことしたかな」
「かもしれません」
「黙ってりゃわかんないんじゃない?」
「かなりばれてるみたいです」
「そうかあ。ソンタククロウスに名前変えようかな」
「とりあえず、私たちが適当なこと言っておきますから、
今はおとなしくしていてください」「そうだね。みんなそのうち忘れちゃうよね」
むかしむかしあるところに、海と山がありました。海の近くにも山にもたくさんの人が住んでいましたが、海と山はちょっと離れていました。海の人は魚や貝を捕って暮らしていました。山の人は動物を捕まえたり、草や木の実を食べて生きていました。
山の人がときどき海に遊びに行くと、海の人は山の人に魚や貝を食べさせてくれました。海の人もときどき山に行って、動物の肉や草や木の実をいただいていました。
あるとき、山の人が海辺で魚をもらって食べていると、遠くで見知らぬ男がそれを見ていました。男は長い髪をしていました。男は山に帰ろうとする人を呼びとめて言いました。
「ちょっとあなた、食べて帰るだけではいけないんじゃないかい?」
山の人は驚きましたが、男は続けて言いました。
「人にものをもらったら、何か返さないといけないんだよ」
「はあ。そうなんですか」
「そうだよ。今度来るときは何か持ってきてあげなさい」
山の人は次に海に行くとき、肉と木の実を持っていきました。海の人は驚きましたが、ありがたく受け取って、魚を食べさせてくれました。海の人は次に山に行くとき、魚を持っていき、それからお互いを訪ねるときは、何かとれたものを持っていくようになりました。
あるとき、山では動物も草も木の実もとれないことがありました。山の人は海に行きましたが、海の人にあげるものがなくて困ってしまいました。そこへあの髪の長い男がやってきて言いました。
「おやおや、あげられるものがないんだね。じゃあ、これを代わりにあげたらどうかな」
男はきらきら光る硬くて丸いものを山の人に渡しました。山の人は海の人にそれをあげ、魚を食べさせてもらいました。それから、海の人も魚が捕れなかったときは光る丸いものを山に持っていき、肉や草や木の実をいただくようになりました。
そんなことが繰り返されるうち、海と山には光る丸いものがたくさん出回ってきました。そしてだんだん、初めから光る丸いものだけを持っていき、いろんなものと交換するようになりました。それはとても便利なものだと思えました。
海の人同士、山の人同士でも、何かやりとりするときには光る丸いものが必要になりました。でも、光る丸いものはみんなが十分に持てるわけではありませんでした。たくさん持っている人はいいけれども、持っていない人は食べるものや必要なものが手に入らなくなりました。もう、光る丸いものがなければ、生きていけなくなっていました。
暮らしに困った人たちの中には、光る丸いものを奪う人が出てきました。あちこちで泥棒やけんかが起き、海でも山でも安心して暮らせなくなりました。海の人と山の人も仲が悪くなり、殺し合いも起きるようになりました。
髪の長い男はその様子を見て言いました。
「あのバカども、いつになったら気づくかな。昔は幸せだったことに。イヒヒヒヒ」
男が長い髪をかき上げると、とがった耳が見えました。
僕はこの春から軍隊に入って戦場に出る。周りの人は「おめでとう」と言ってくれるが僕は不安だ。母だって本当は心配なんだと思う。だって軍隊では精神をおかしくしたり、死ぬ人だっているんだから。意地悪な上官にいじめられるかもしれない。無理な命令に従わされたり、矢面に立たされるかもしれない。退役するまで無事でいられればいいが、戦争の世の中はいつどうなるかわからない。何のために命を懸けてまでこんなことをしなければならないのか。こんな社会はおかしいと思う。
(語句を一部替えてみます)
僕はこの春から会社に入って社会に出る。周りの人は「おめでとう」と言ってくれるが僕は不安だ。母だって本当は心配なんだと思う。だって会社では精神をおかしくしたり、死ぬ人だっているんだから。意地悪な上司にいじめられるかもしれない。無理な命令に従わされたり、矢面に立たされるかもしれない。退社するまで無事でいられればいいが、マネー戦争の世の中はいつどうなるかわからない。何のために命を懸けてまでこんなことをしなければならないのか。こんな社会はおかしいと思う。
2009年、東洋の島国『ヌッポン』では長年政権を取り続けていたヅミン党が選挙で敗れ、メンシュ党が念願の与党となった。
2011年、ヌッポンで大地震が起き、直後に襲ってきた津波によって多くの人が犠牲になった。また、破壊された原子力発電所からは大気中へ、海へと放射能が漏れ出た。未曾有の事態に電力関係者は「想定外」と繰り返し、メンシュ党は国民の支持率の低下を抑えられなかった。
これに勢いづいたのがヅミン党。2012年の選挙では、以前自分から総理をやめたはずのアへ総裁が復活。元はと言えばヅミン党が作った原発の尻拭いをメンシュ党にさせておいて「メンシュ党の間違った政治」などと堂々と発言。CMまで作って「ヌッポンを取ル戻す」などとはっきりしない口跡でアピール。結局、ヅミン党はめでたく与党に返り咲き、再びアへ政権が誕生した。
その後、アへ政権は、2011年にあれだけの大事故、大惨事を起こしたにもかかわらず原発を廃止しようとしなかった。国民も経済を中心に考える人々は原発を支持した。
そして迎えた20XX年。その日の海は晴天の下で穏やかに見えた。海辺で作業をしていた一人の漁師が水平線が動いたのに気づいた。不自然な盛り上がりを見せた波はどんどん大きくなって岸に近づいてくる。危険を感じ、漁師たちが逃げ始めた瞬間、海の中から激しい波しぶきをあげて巨大な物体が現れた。
「うわああっ!ゴヅラだ!」
ゴヅラは1954年にヌッポンを襲った大怪獣。当時行われていた核実験の影響で生まれたとされ、身長は50メートル。町を破壊し、人々を恐怖に陥れた。その後作られた原発は50メートルの防護壁で囲われ、アへ首相は「完全にブロックされています」と豪語した。しかし、今回現れたゴヅラの大きさは倍の100メートルだった。アへ首相は緊急会見を開いた。
「想定外で……」
ゴヅラは地響きを立てながらまっすぐ原子力発電所に向かった。自分の身長の半分しかない防護壁をいとも簡単に壊し、原子炉格納容器に近づいた。アへ首相をはじめ、ヌッポン国民皆が思った。
(ああ、もうおしまいだ)
ゴヅラは耳をつんざくような咆哮をあげたかと思うと、核燃料を容器ごと一飲みにした。そして、発電所内の核燃料を全て食い尽くすときびすを返して海に帰って行った。ゴヅラは町を破壊することもなく、結局、発電所が壊されただけで、放射能漏れも起きなかった。ゴヅラはその後、ヌッポン全国の原発に現れ、すべての核燃料を平らげると、それきり現れなくなった。人々は口々に言った。
「やはりゴヅラ(GOD-ZLLA)は神だった」
むかしむかしあるところに、海をはさんで二つの国がありました。その海のちょうど真ん中には、小さな島がありました。長い間、それぞれの国の人々は、自分の国の近くで魚をとって食べていましたが、だんだん人が増えてくると、小さな島の近くまで魚をとりに行くようになりました。二つの国の漁師さんたちは、島の周りでときどきけんかをしました。
それを聞いた二つの国の王様は、小さな島は自分の国のものだと言い出しました。どちらも譲らず、二つの国はとても仲が悪くなってしまいました。そのうち、小さな島の周りの海には魚がいなくなりました。漁をする人も来なくなり、やがて二つの国の王様も人々も、小さな島のことなどほとんど忘れてしまいました。
時が過ぎ、二つの国の王様は代がかわりました。ある時、二人の王様は、小さな島の周りでまた魚がとれるようになったという噂を耳にしました。今度の王様は、島はどちらのものでもないので、魚はお互いに必要な分だけとることにしましょうと約束をしました。それ以来、小さな島の周りにはいつもたくさんの魚が泳いでいます。「しかし、この歴史書を読んでみると、昔の人っていうのはよほど馬鹿だったんだね」
「そうなの?」
「そうだよ。だってさ、交換の手段に金なんて道具を作り出してさ、それに価値が減らないなんて性質を持たせたもんだから、みんなが競争して貯めたらしいんだよ」
「そりゃ、奪い合いが起きるし、貧富の差がつくわなあ」
「だろ?そもそも交換だってする必要がないのにだよ」「それに、その金のシステムを考えたのはごく一部の人で、その人たちに都合のいいようになってるから、一般の人は奴隷のようなもんだったらしいよ」
「まあ、ばくちは親は負けないからな」
「あはは、だよな。でも、奴隷たちはそれに気づかずに、一生懸命働いて金の奪い合いを続けたっていうよ」
「涙ぐましいねえ。普通なら、騙されてることに気づいてやめると思うけどね」「それに、極めつけがこれだよ。2011年に日本で起きた原発事故」
「ああ、地震と津波で原発が爆発したやつか」
「うん。あれだけ放射能が漏れだしたのにあの後、日本はすぐには原発をやめてないんだよね」
「他の国は結構やめたんだよな」
「うん。そりゃ、命には代えられないからね。普通に考えりゃやめるだろ」
「それなのに日本は何でやめなかったんだ?」
「まずその、金のためだったみたいだね」
「あはは、なんなんだよ、その金って。命より大切なものなのか?」
「ほんと笑っちゃうけど、その時代にはそう考えてる人が多かったみたいだよ」
「あはははは。腹痛くなってきた。そりゃ、確かに馬鹿だな」「政府は、原発をやめると電気が足りなくなるって国民を脅したんだってさ」
「原発が必要なほど電気なんか使わなきゃいいのに」
「だよな。でも、金のためにいろんなもんを作らなきゃいけなくて、電気がたくさん必要だったみたいだよ」
「それも金のためなのか。すげえな、その金って代物は」
「ああ、信じられないね。ほんとによかったよ、そんな変なものに支配されてる時代に生まれてこなくて」私は死んだようだ。振り返れば家族や仕事に恵まれ、いい人生だったと思う。そこそこ長生きもできたし、思い残すことはない。これからは天国でのんびり暮らすことになるのだろう。
ドライアイスのような煙の中に、長い行列ができている。みんな死んだばかりの人のようだ。先頭では天使らしき人が、一人ひとりにこれからの行き先を指示している。私も列の最後に並ぶとしよう。
だんだん私の番が近づいてきた。天使の声が聞こえる。
「天国、地獄、地獄、天国、地獄、地獄、地獄……」
結構、地獄行きの人が多いようだな。みんなそんなに悪いことをしてきたんだろうか。
人相はそう悪くなさそうだが。さあ、私の番だ。私は当然天国だろう。
「地獄」
「えっ?」
「地獄です」
「そんなはずはない。何かの間違いでしょう」
「いえ、間違いありません。あなたは地獄行きです」
「そんな。だって私は悪いことなど何もしていない」
「そうですか?」
「そうさ。まじめに仕事をして、会社も長年勤めあげた」
「あなたがしてきた仕事が、地球の環境をずいぶん破壊しましたよ」
「それは仕方ないだろう、仕事なんだから」
「仕事なら環境を破壊してもいいんですか?」
「それは……。でもお金を稼ぐためにはそうするしかなかったんだ」
「それがいけないんですけどね」
「でも、ちゃんと家族を養った。子供だって立派に育てた」
「自分の家族や子供だけでしょう。そんなのは当たり前です」
「……」
「あなたは地獄行きです。はい、次の方」「はい。ゲームオーバーです。すべての人は全財産を出してください」
突然、全世界の上空から大きな声が響いた。「え!終わりなんですか?全部出すんですか?」
「そうですよ。だから、これはマネーゲームだって言ったでしょ」
「せっかくこんなに貯めたのに?」
「はい、ではあなたは勝ちね。拍手〜パチパチパチ」「では次のゲームをはじめます。お金は全員に同じ額を配り直します」
あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。裏の山には畑があって、おじいさんは毎日一生懸命、畑の手入れをし、野菜を作っていました。
「おうおう、今日もたくさん虫たちが来よったわ。そうかそうか、そんなにおいしいか。でもわしらにもちょっと食べさせておくれ」
おじいさんは丁寧に虫を取ると、少し虫の食った野菜を袋に入れました。家ではおばあさんが、とれた野菜をゆでたり、焼いたり、スープにしたりしていろいろな料理を作ってくれました。おじいさんはおばあさんの手料理が大好きで、ふたりともとても健康に、幸せに暮らしていました。
隣のうちには若い男が一人で住んでいました。男も裏山に畑を持っていましたが、ほとんど手入れをしないため、あまりいい野菜はできませんでした。
「ちっ、この虫けらめ、俺の野菜を食うんじゃない!」
男はぶつぶつ怒りながら、虫をぶちぶちつぶしました。ふと隣の畑を見ると、おじいさんが楽しそうに立派な野菜を収穫しています。男はとてもうらやましく思いました。
「くそう。あのじじい。あんなうまそうな野菜を作りやがって。きっと何か特別な方法があるに違いない」
男はおじいさんが帰る時に跡をつけました。おじいさんは山道の途中にあるお地蔵さまのところで立ち止まり、しゃがみました。
「お地蔵さま、おかげさまで今日も野菜がとれました。ありがとうごぜえます」
おじいさんは袋から野菜を一つ取り出して供えると、目をつぶって手を合わせました。お地蔵さまは安らかな顔で微笑んでいます。おじいさんはにっこりし、よっこらしょと立ち上がると袋を抱えて歩きはじめました。木の陰で見ていた男は思いました。
(ははあん。じじいめ、あの地蔵に何かいい方法を教わっていたんだな。自分だけいい思いしやがって。そうはさせるもんか。俺も聞きだしてやる)男はお地蔵さまのところへ行き、言いました。
「やい、地蔵、俺にもうまい野菜の作り方を教えろ」
お地蔵さまは黙ったまま微笑んでいます。男はしばらく言葉を待っていましたが、何も聞こえてきません。
「おい、野菜の作り方を教えろって言ってんだよ」
男はお地蔵さまの頭をこづきました。でもお地蔵さまは表情を変えず、何も言いません。男は怒って言いました。
「くそう。この役立たずの石の塊め!じじいに何を教えたんだ。このやろう、このやろう!」
男はお地蔵さまの頭をこぶしでガンガン殴りました。さすがのお地蔵さまもこれには顔をゆがめました。
「痛い痛い。乱暴なやつだな。わしは何も教えておらんよ」
男は殴り続けながら言いました。
「うそつけ。うまい野菜の作り方を教えただろう。俺にも教えねえともっとひどい目にあわすぞ」
お地蔵さまは言いました。
「わかった、わかった。教えるよ」
男は殴るのをやめました。
「ほうらな。はじめから素直に教えれば痛い目にあわずに済んだものを」
お地蔵さまは言いました。
「明日の朝、目が覚めたら枕元に、かめに入った魔法の薬があるはずじゃ。それを畑にまくがよい」
男は言いました。
「ほんとだな。そうすれば、うまい野菜ができるんだな。嘘だったらしょうちしねえからな」
男はおじいさんの供えていった野菜を奪い、自分の家に持って帰りました。その夜、男はなかなか寝つかれませんでした。うとうとしてもすぐに目が覚め、枕元を確かめます。でも、かめに入った魔法の薬はありません。男は、もしお地蔵さまの言ったことが嘘だったら、ただではおかないと思いました。
さすがに明け方近くには男も深い眠りにつき、次に目が覚めたときには日も大分高く上っていました。男は跳ね起きるといちはやく枕元を見ました。そこには本当に、かめがありました。男は喜んで小躍りしました。それから、かめのふたを開け、中を覗き込みました。変な匂いがして、目が痛くなりましたが、男はかめを持って早速裏山に出かけ、薬を畑にまきました。うまい野菜ができなければお地蔵さまの頭からこの薬をかけてやろうと思いました。
しばらくすると、男の畑に立派な野菜ができはじめました。男はうれしくておじいさんに自慢しました。
「おい、じいさんよ、俺の野菜を見ろ。こんなに大きくてうまそうで、虫も一つもつかねえ。じいさんとこのは虫食いだらけだな。はっはっは」
おじいさんは笑って言いました。
「おお、ほんとに立派な野菜じゃな。虫もつかないとは不思議じゃな」
「あはは。特別な秘密があるんだ。教えてやらないけどな」
男はたくさんの野菜を抱えて家に帰りました。それからしばらく、男の畑では立派な野菜がとれましたが、そのうち、だんだんと収穫が減り、虫もつくようになってきました。薬はまいているのですが、あまり効かなくなってきたようです。男はお地蔵さまのところに行き、こぶしを振り上げて言いました。
「やい、地蔵。お前にもらった薬が効かなくなってきたぞ。もっと強い薬をよこせ。よこさないと殴るぞ、いいか」
お地蔵さまは困った顔をして言いました。
「わかったよ。あまりおすすめはできんが、明日の朝、枕元にもっと強い薬を届けておくよ」男が翌朝目を覚ますと、確かにかめに入った薬がありました。ふたを開けると前よりもっときつい匂いがしました。
「うひゃ、たまらんな。でもこれは効きそうだ」
男は薬を畑にまきました。そうすると虫もいなくなり、また立派な野菜がとれるようになりました。しかし、それも長くは続きませんでした。何度やってもだんだん野菜の収穫は減り、より強い虫がつくのでした。男はそのたびにお地蔵さまに、より強い薬をもらいましたが、もう、ちょっとかいだだけで気を失いそうになるほどの匂いでした。男はお地蔵さまのところに行って言いました。
「やい、地蔵。あんなもの畑にまけやしない。どうしてくれるんだ」
お地蔵さまは答えません。男はお地蔵さまの頭を思い切り何度も殴りましたが、お地蔵さまは安らかな笑顔のままでした。男は怒ってお地蔵さまを蹴り倒し、自分の家に帰りました。夕方、そこを畑仕事を終えて帰ってきたおじいさんが通りかかりました。
「おうおう、お地蔵さま。どうしなすった」
おじいさんはお地蔵さまを抱き起こして元のように立たせ、手を合わせました。翌日、男はおなかが空いてしかたありませんでした。畑に行きましたが、もう野菜はとれません。呆然と立ち尽くしていると、おじいさんが声をかけました。
「若い衆、どうしなすった」
男は答えました。
「俺の畑が、何もとれなくなっちまった。あの地蔵のせいだ」
「ほう。お地蔵さまが何かしなすったか」
「変な薬よこしやがって。俺はだまされた」
「お地蔵さまがだましたと」
「そうだ。くそう。俺の畑はもうだめだ。腹が減って死にそうだ」
「それはかわいそうに。うちに来て食べたらどうじゃ。虫食いの野菜くらいしかないが」
「いいのか」
「ああ、もちろんじゃ。自然の恵みはみんなで分けんとな」おじいさんは男を自分の家へ連れて行き、おばあさんの手料理を食べさせました。男は一口食べると目を丸くし、そのまま無言でしばらく食べ続けました。そして大きく一息ついてから言いました。
「こ、こんなにうまいものは食ったことがない」
「そうか。それはよかった」
おじいさんはそう言っておばあさんを見ました。おばあさんもにこにこしていました。男は言いました。
「なんでこんなうまい野菜ができるんだ。地蔵に何か聞いたのか」
おじいさんは言いました。
「いや、わしはお地蔵さまの声を聞いたことはない。いつも手を合わせてお礼を言うだけじゃ」
「礼?何も聞いてないのに礼を言うのか?」
「そうじゃ。この世に生かしてもらっていること、食べるものを与えてもらっていることにな」
「でも、地蔵がしてるわけじゃないだろう」
「そうかもしれん。でも、わしはそうすることで気持ちが落ち着くのじゃ」
男は黙っておじいさんとおばあさんの顔を見ました。二人ともとても幸せそうでした。そして、男もそこにいると何か暖かい気持ちになるのでした。男は次の日から、おじいさんの畑仕事を手伝うようになりました。魔法の薬を使うより手間はかかりましたが、これでおいしい野菜が作れると思うと、大変でも楽しいと思えました。うっとうしかった虫たちも仲間のような気さえしてきました。
畑の帰りには一緒にお地蔵さまに手を合わせました。お地蔵さまの声が聞けることはありませんでしたが、その安らかな顔を見ると自分を許してくれているようで、心が休まるのでした。
森がありました。たくさんの動物たちが住んでいました。ある秋のこと、かえるくんは思いました。
(あの高い木の上に生っている柿の実を食べてみたいもんだ)
ある日、かえるくんが柿の木の下を通ると、サルが木の上でおいしそうに柿の実をむしゃむしゃ食べていました。かえるくんはうらやましくてしかたありませんでした。
(うまそうだなあ。でもケチで有名なサルのこと、ただほしいと言ったってくれるわけがない。なんとかしてあの柿の実を手に入れる方法はないものか)しばらく考えていたかえるくんは、いいことを思いついたというように、舌をぺろっと出して口のまわりをひとなめしました。それから近くに落ちていた葉っぱを1枚拾い、木の上のサルに向かって叫びました。
「おおい、サルくん。おいしそうな柿だねえ」
サルはかえるくんを見下ろして言いました。
「ああ、すごくうまいよ。でもおまえにはやらないよ〜」やっぱりなと思いながら、かえるくんは言いました。
「あはは。タダでとは言わないよ。今日はいいものを持っているんだ。その柿の実と交換しないか」
サルは言いました。
「いいものって何だよ」
かえるくんは言いました。
「柿の実を持って下りてきてくれたら見せてあげるよ」
サルは枝から柿の実を一つもぐと、するするっと木から下りました。「さあ、いいものを見せろ。ほんとによくなきゃ取り替えてやんないからな」
かえるくんは、さっき拾った葉っぱを差し出しました。サルは言いました。
「なあんだ。葉っぱじゃないか。こんなものじゃあ、柿の実とは取り替えられないな」
「ははは。サルくん、これはね、ただの葉っぱじゃないんだよ。ほら、ここに星のマークがついているだろう。こういうのはなかなかないのさ」
サルは葉っぱをもう一度よく見て言いました。
「ほんとだ。星のマークがついてる。こんなの見たことないや」
「だろう?じゃあ、柿の実と交換してくれるね」
サルは柿の実をかえるくんに渡すと、葉っぱを受け取り、喜んでどこかに行ってしまいました。かえるくんは思いました。
(ははは、単純なサルめ、うまくひっかかりやがった。俺って頭いいなあ)
かえるくんは柿の実をおいしそうにぺろっと食べました。かえるくんは思いました。
(そうだ。この手でみんなから、いろんなものをもらっちゃおう)
かえるくんは、たくさん葉っぱを集めました。そして、自分の手をなめると、集めた葉っぱにひとつひとつ、手形をつけていきました。そうです、星のマークはかえるくんの手形だったのです。かえるくんはそれから、その葉っぱで、いろんな動物たちといろんなものを交換しました。葉っぱと交換するだけでなんでも手に入るのです。なんと楽ちんなのでしょう。かえるくんはどんどん星のマークのついた葉っぱを作りました。
その葉っぱは、動物たちの間で大人気でした。動物たちは、たくさんの葉っぱをほしいと思い、競争で集めました。それから動物たちはかえるくんのように、手に入れた葉っぱと何かを交換することをはじめました。
どうやったらたくさんの葉っぱが手に入るだろう。動物たちは一生懸命、いろんな方法を考えました。そして、葉っぱ集めが上手な動物はたくさんの葉っぱを手に入れました。でも、へたな動物は、なかなか集まりませんでした。
仲のよかった動物たちの関係がおかしくなってきました。たくさん葉っぱを持っている動物がえらくて、持っていない動物はばかにされるようになりました。たくさん葉っぱを持っている動物が、持っていない動物にいろんなことを命令するようになりました。
他の動物の持っている葉っぱを盗む動物も現れました。そうなると安心して森も歩けなくなりました。みんな自分の葉っぱを盗られてはなるまいと必死で守ろうとしました。『動物を見たら泥棒と思え』なんていう言葉もできる始末でした。
森のはずれの方に、まっ白いうさぎがいました。うさぎは草をもぐもぐ食べていました。サルが葉っぱを見せびらかしながら、うさぎに言いました。
「おい、うさぎ。俺はこんなに持ってるんだぜ。すごいだろ」
うさぎは横目でサルをチラッと見ると、また草を食べ始めました。
「おい、すごいだろって言ってんだよ。何かと交換してやろうか」
うさぎは興味なさそうな様子で、相変わらず草をもぐもぐ食べています。
「このやろう、腹立つな。この葉っぱ1枚やるから俺の肩をもめ」
うさぎはうっとうしそうに言いました。
「なんであたしがあんたの肩もまなきゃいけないのよ。そんな葉っぱのために」
サルは顔を真っ赤にして言いました。
「この葉っぱはな、ただの葉っぱじゃないんだぞ。星のマークがついてる特別な葉っぱなんだ。この葉っぱがあればなんでもできるし、すごいんだぞ」
うさぎはあきれたように言いました。
「あほらし。星がついてるからなんだっちゅうの?葉っぱなんかみんな同じよ。土に返さなきゃ肥料にもならないわ。あたしは食事中なの。つまんない話で邪魔しないで」
うさぎはまた、もぐもぐと草を食べ始めました。
サルは言葉を失って、わなわな震えましたが、やがてがっくり肩を落として他の動物たちのところに帰って行きました。しょんぼりしたサルを見て、動物たちが言いました。
「どうしたサルくん、いつもの元気がないじゃないか。ははあ、葉っぱを落っことしたか?盗られたか?」
動物たちは、ハハハと笑いました。サルは動物たちに向かって言いました。
「いや、うさぎのところに行ったらさ、あいつ、ちっとも葉っぱをほしがらないんだ」
動物たちは言いました。
「ああ、あいつは変わり者だからな。あんなやつのことはほっとけばいいさ。葉っぱの価値がわからないんだろう」
サルは眉間にしわをよせて言いました。
「でもなあ、うさぎに言われて思ったんだが、この葉っぱって、ほんとに価値があるんだろうか」
動物たちは笑って言いました。
「今さら何言ってんだよ、サルくん。葉っぱはいろんなものと交換できるし、葉っぱをやればみんな言うことを聞くじゃないか」
サルは言いました。
「それはそうなんだが。もし、みんながうさぎみたいに葉っぱをほしがらなくなったら、こんな葉っぱ、なんの価値もないんじゃないか」
「ええ、そうかなあ」
動物たちは考えこみました。
「そういえば、前は葉っぱなんかと誰も何も交換しなかったよな」
「そうね。葉っぱがなければ困るようになったのは、つい最近のことだわ」
「この頃は葉っぱのせいで、みんなずいぶん仲が悪くなった気がする」
「考えてみれば、星のマークがついているというだけで、ただの葉っぱだよね」
みんなしばらく黙り込んでしまいました。突然、サルが大きな声で言いました。
「俺、もう葉っぱ集めはやめる!もう俺のところに葉っぱを持ってきても何とも交換してやらない。でも、俺の持っているものでほしいものがあるなら、葉っぱなんかなくてもやるよ」
「ええっ!」
みんなはとても驚きました。あのケチで有名なサルが、これからは交換するものがなくてもほしいものはくれると言うのです。なんという変わりようでしょう。みんないったいサルが何を考えているのかわからずに呆然としました。でも、しばらくすると、ひとり、またひとりと、気づいたようにサルと同じことを言い出しました。やがてそこにいた全員がもう葉っぱ集めはやめることにしました。そしてみんなにっこり笑いました。久しぶりに見たみんなの笑顔でした。
そこに、かえるくんがたくさんの葉っぱを持ってやってきました。
「やあやあ、みなさん、おそろいで。ほら、星のマークのついた葉っぱをたくさん持ってきたよ。ほしい人は何か持ってくれば交換してあげるよ」
でも誰も振り向きもしません。かえるくんは言いました。
「あれ、みんなどうしたのかな。ほら、みんなの大好きな葉っぱだよ」
やはり、みんな全く興味を示してくれません。日はだいぶ西に傾き、あたりはだんだん暗くなってきました。動物たちはぽつりぽつりとうちに帰り始めました。かえるくんは慌てました。
「ねえ、みんな。どうしちゃったの?食べ物持ってきてよ。葉っぱと交換してあげるからさあ」
動物たちはどんどん帰っていってしまいます。かえるくんは半泣きになりながら葉っぱを持って、帰ろうとする動物を追いかけました。でも誰一人、相手にはしてくれませんでした。とうとう、かえるくんは一人残されてしまいました。森には、もう冬がやってくるところでした。葉っぱと交換ばかりしていたかえるくんは、食べ物の捕り方も忘れてしまっていました。力の抜けたかえるくんの手から、たくさんの葉っぱがパラパラと落ちました。葉っぱは冷たい北風に乗って飛ばされていきました。