お金のいらない国(小学校用)シナリオ ●第一幕
上手から下手へ、下手から上手へ、
いろいろな衣装を着た人たちが楽しそうに話しながら歩いている。青年、きょろきょろしながら上手より登場。
青年「あれえ、ここはどこだろう」
青年、周りを見回しながら、舞台中央へ進む。
青年「ずいぶんきれいなところだなあ。
(空を見上げて)うわあ、すっげえ青空。
(舞台の人々、客席を見回しながら)いろんな人がいるなあ。国際色豊かだねえ。
(腕組みして不思議そうな顔)みんな楽しそうにしゃべってるけど、
よく言葉通じるもんだなあ。
それにしても僕、なんでこんなところにいるんだろう」下手より男3人、女2人が登場。きょろきょろしている青年に気づき、近寄る。
男1「どうかなさいましたか?」
青年「あ、ちょっと道に迷っちゃったみたいで」
女1「あら、それはお困りでしょう。どちらに行かれたいんですか?」
青年「いや、別に行くところはないんですけど、
(ちょっとためらって)あのう、ここ、どこなんですか?」
男2「地球ですよ」
青年「いやあ、それはそうでしょうけど。日本ですか?」
男3「日本?ああ、確かにこの辺りは昔、日本と言われていたようですね」
青年「昔?」
女2「ええ、相当昔だと思います。今はそういう分け方はないんですよ。
地球です」
青年「(ためらいながら)今って、西暦何年ですか?」
男1「2506年です」
青年「(非常に驚いて)2506年!? 僕は2006年にいたんですよ」
男2「へえ、ではあなたは500年も過去の世界からいらしたんですね」
青年「まあ、そういうことになるんでしょうか」
男3「それは興味深いですね。じゃあ、ちょっとその辺で
お話を聞かせてもらえませんか」
青年「ええ、いいですけど」女1、舞台上を歩いている人に向かって
女1「みなさ~ん、500年も過去の世界からお客さんがいらっしゃいましたよ~」たくさんの人が驚きの声をあげながら集まってくる。
青年「うわあ、すごいことになっちゃったな」
男4「(青年に)ぜひ、聞かせてください。昔の話」
女3「いったいどんな世界だったんですか?」青年「(ひとりごと)昔かよ~」
女2「(皆に)じゃあ、みなさん、すわりましょう」
人々は下手側に座る。上手側は青年一人が立っている。
青年、頭をかきながら
青年「何を話したらいいのか……」(話す人は立ち上がる)
男5「あなたはどんなお仕事をされているんですか?」
青年「銀行に勤めています」
女4「ぎんこう?」
青年「ええ」
男6「それはどういうお仕事なんですか?」
青年「お金を預かったり、貸し出したりするんです」
男7「おかね?」
青年「ええ、お金です」人々がざわざわする。(おかね?なんだろう?などの声)
女5「おかねって何ですか?」
青年「(驚いて)え?お金を知らないんですか?」人々がざわつく。(知らないよね。何のことだろうね?などの声)
女6「私たちはおかねというものは知りません。どんなものなんですか?」
青年、驚いてから、思いついたように
青年「ああ、今持っていますから、お見せしますよ」青年、財布からお札数枚と小銭数個を取り出す。
青年「はい。これがお金です」
男8立ち上がってお札を、女7小銭を受け取る。
男8「(お札をながめながら)へえ、おかねって、この紙切れなんですか」
女7「(小銭を指し)この金属の破片も?」
青年「ええ」お金は他の人に渡されていく(へえ、これがね、などの声)
男9お札を手にし、
男9「これが、何かの役に立つんですか?」青年、困って
青年「え?僕たちはお金がないと生きていけないんですよ」人々の驚きの声と笑い声。(ええ~?)
男10お札をひらひらさせながら
男10「これを食べるんですか?」
女8「やぎみたい」一同、大笑い。青年は笑えない。
青年「この時代ではお金は使われていないんですか?」
男11「ええ。いったい何に使うんですか?」
男12「トイレ?」一同、爆笑。青年は笑えない。
青年、考えながら
青年「僕たちの時代では、何か仕事をすると、そのお金というものがもらえるんです」一同「へえ」
女9「もらうと何かいいことあるんですか?」
青年「いろんなものが買えるんですよ」一同ざわつく(かえる?ええ?)
青年「ああ、買うというのはお金と引き替えに物をもらうことです。
ものを買うときは、その値段分のお金を渡すんですよ」
女10「ねだん?」
青年「ええ、ものにはみんな値段というのがついているんです」一同ざわつく。(よくわかんないね)
女11「なんか、昔って変なことしてたんですね」
青年「変ですか」
女12「だって仕事をしたらこんな紙切れをもらって、
自分のほしいものをもらうときにもこの紙切れと交換するんでしょう?」
青年「ええ、そうです」
男13「そんなことしなくたって済むのに」
男14「(隣の人にむかって大きな声で)めんどくさいよねえ」一同笑いとうなずき。(ねえ、めんどくさいよねえ、などの声)
青年「でもお金はね、いっぱい貯めるとぜいたくができるんですよ」
男15「ぜいたくって何ですか?」
青年「(少し考えて)値段のすごく高いものを買ったり、おいしいものをたくさん食べたり……」
女13「私たちはお金なんかなくても必要なものはなんでも手に入りますよ」
青年「必要なものを手に入れたくらいじゃ、ぜいたくとは言わないんです」
男16「(あきれて)必要じゃないものを手に入れて何かおもしろいんですか?」一同、賛同と笑い。(そうだよね。やっぱり変だよね。などの声)
青年「じゃあ、ここでは、ほしいものはなんでもタダでもらえるんですか?」
女14「タダ?」
青年「ああ、お金を払わなくてももらえるってことです」
男17「もちろんです。お金なんてありませんから」
青年「誰かがひとりでたくさんのものを持っていったりしないんですか?」
女15「ほしければ持っていってもいいですけど。それをどうするんですか?」
男18「たくさんあっても、結局みんなに分けるしかないでしょう」一同、うなずく。(ねえ。そうだよねえ、などの声)
青年、少し考えて、
青年「みなさんは、仕事をしているんですか?」
男19「ええ、していますよ。みんな自分の得意なことをしています」
女16「私はおいしいお料理をつくります」
男20「僕は畑で野菜を作るのが得意」
男21「私はみんなの病気を治します」
女17「私はお洋服を作るのが大好き」
男22「僕は歌と踊りが得意です」青年「みなさんはお金がもらえないのにどうして仕事をするんですか? 」
一同ざわつく。(え?何言ってんだろ)
男23「やりたいからです」
女18「みんなに喜んでほしいから」
男24「(みんなを見回し)嬉しい顔を見るのは最高だよね」
一同、うなずく。男25「(青年に向かって)あなたはそうじゃないんですか?」
青年「え?」青年、考え込む。
青年「そうか。お金のために仕事をするなんてたしかに変だよな」青年、客席に向かい、
青年「お金ってなんだろう」●第二幕
おまつり広場。人々が床に布を広げ、
いろいろなお店を出している。とてもにぎわっている。
青年もうろうろしている。食べ物が並んでいる店の女16、青年に差し出しながら、
女16「さあ、食べて、食べて。おいしいよ」
青年「いくらですか?」
女16「え?」
青年「ああ、お金はいらなかったですね」
青年、食べ物を受け取り
青年「ありがとう」
一口食べて
青年「おいしい」
女16「ありがとう。うれしい」
青年「ごちそうさま」
女16「また来てね」
青年、店を離れる。洋服が並んでいる店の女17、青年に
女17「この帽子はどう」
女17青年に帽子を渡す、青年は自分でかぶる。
女17「よく似合うよ。持っていって」
青年「ありがとう(ちょっと困って)あのう、なにかと交換しなくていいんですか?」
女17「(笑って)なんで交換するの?ほしいものがあれば自分でもらってくるよ」
青年、不思議がりながらもうなずく。他の人々もそれぞれの店で食べたり、身につけたりしている。
突然、軽快な音楽がはじまる。
男22「(大きな声で)さあみんな、踊ろう!」
人々は踊り始める。店の人もみんな出てきて踊る。(ここで男22がちょっとしたパフォーマンスをできるとよい)
みんな楽しそうに踊る。しばらくすると、青年は舞台上手でしゃがみこみ、うなだれる。
それに女18が気づき、心配そうに青年に近寄る。
音楽がフェイドアウトし、人々も青年に近づいていく。女18「どうしたの?」
女19「おなかが痛いの?」
青年「(涙声で)いや、大丈夫」
女20「じゃあ、なんで泣いているの?」青年、立ち上がって
青年「(ちょっと涙声で)ここはほんとにすばらしいです。
お金なんかなくてもみんな喜んで働いてるし、みんな仲がいいし、やさしい」
女21「でしょう。もっと楽しみましょうよ」
青年「うん。でも僕の時代の地球ではね。たくさんの問題が起きているんだ」
男26「どんな問題?」
青年「お金もうけのためにどんどんいろんなものを作って、どんどん捨てたから、
環境が破壊されて、資源がなくなりかけてる」
一同、驚きの声(ええ!)。青年「お金がないから生きていけなかったり、
お金が払えなくて自殺したりする人もたくさんいるんだ」一同、大きな驚き(ええ~!うそ~、なんで?などの声)。
女22「どうしてあんな紙切れがないと死んじゃうの?」
青年「よくわからないけど、ずっとそういう社会だったから
みんなそういうもんだと思ってるんじゃないかな」
男27「そんな変な約束やめちゃえばいいのに」
青年「簡単には変えられないと思うよ」
男28「不思議だねえ」
青年「戦争ではたくさんの人が犠牲になっているけど、
その原因もつきつめればお金が関係してると思う」
女23「そんな。おそろしいことだわ(涙をぬぐう)」一同沈黙。すすり泣きが聞こえる。
男29「(元気に)でもさ、ここは未来の世界なんだよ」
男30「そうだよ。ここは500年後の世界」
女24「未来はこうなっているってことよ」
青年「(気づいたように元気に)そうか。そうだよね。ここは未来の地球なんだよね。
いつかはこういう社会ができるってことだよね」
男31「そうだよ。どうやったらできるか、想像してみて」
女25「想像すればきっとできるよ」
青年「そうか。そうだね。やってみるよ。
ありがとう!みんな!」
男32「さあ、もう一度、踊ろう!」再びにぎやかな音楽が始まり、人々は楽しく踊りだす。
(幕)