【その13】寄り道ガイド
Head Smashed-In Buffalo Jump
Head Smashed-In Buffalo Jump
カルガリー(Calgary)をゲートシティにして、 レンタカーで Waterton Lakes National Park (そしてGlacier National Park) へアプローチしようと考えている皆さんは、 多分カルガリーから真っ直ぐにHwy Route-2 を南下し、 Pincher Creek もしくは Cardston のいずれを経由するにしても、 おそらく道中に必ず Fort Macleod という町を通るはず。 この町の手前、つまりちょっと北側に "Head Smashed-In Buffalo Jump" という州立公園(の管轄ではないかも)があるのをご存知?
この公園、 ヒジョーに地味ながら、 実はユネスコ世界遺産に指定されている。 少なく見積っても遥か5700年近くも昔から使われていたらしいという古代先住民の文化・風俗を今に遺す重要な史跡なのだ。
えっこれが世界遺産? と思うなかれ。
さて、 結論から先に言ってしまうと、 Buffalo Jump そのものの自然・景観ははっきり言って大したものではない。 ましてやこれから壮大なロッキーの懐に飛び込もうとしているあなた、 または既にその懐に抱かれてきたあなたにとって、 ここの景色はひょっとしたら取るに足らない「今さら?」なものかも知れない。
カルガリーからWatertonへ向かう方向(南下)の場合、 ほとんど高速道路と化しているRoute-2 から Fort McLoad へ入るJct.のちょっと手前(北)に 「Buffalo Jump こっち」という標識が現れるので、 サインに従って右折。 中央分離帯のない小路に入ったとは云え "Max 100" なので、 15km先だがたかだか10分ほどで到着する。
外から見ればわかる通り、 Buffalo Jump らしき断崖は実にジツ〜にあっけない感じ。 パーキング入り口にある赤い台形の看板を見たら、ユネスコ世界遺産のロゴマークが。 一瞬目を疑ってしまう。 エントランスではカナダ国立公園年間入場パスの印籠もご威光が届かず、 入園料大人一人CA$9.00取られ(冬場はCA$6.50)、 反射的に「高っ」と思ってしまうのも人の情け。 がしかし、 この公園の真骨頂は単なる Buffalo Jump の断崖の景色そのものにあるのではなく、 実はこの断崖に埋め込まれるように造られたこの複数階建ての Interpretive Center (展示資料館)にあるのかも、 ということをじきに理解することになるだろう。 Buffalo Jump を使った狩猟方法の解説はもとより、 この地に暮らしていた "Blackfoot"という部族(※)の平原インディアン(ネイティヴ・アメリカン&カナディアン)の文化・風俗、 ヨーロッパから新大陸に渡って来た移民との歴史、 一時は絶滅の危機に瀕したバッファロー(アメリカバイソン)、 そしてこの地に暮らす野生動物の紹介、 考古学・史跡発掘、 気候・地形・地質学に至るまで、 博物館も顔負けの展示がなされている。 そして、館内にはラボも設けられ、 今も調査が現在進行形で続けられているのだ。 きっとユネスコは(遺跡としての) Buffalo Jump そのものよりも、 この Interpretive Center の充実ぶりに対して世界遺産指定したんじゃないかと思っちゃうくらい。
が、 もちろん世界遺産に指定されたのにはワケがある。 北米大陸にはかつて何千万頭もの野生のバイソンが暮らしており、 彼ら先住民の生活も多くはバイソンと共にあったわけで、 実はこういった Buffalo Jump といわれる崖を使った狩猟方法が行われていた場所は他にも沢山あったらしいのだが、 数ある Buffalo Jump の遺跡の中でもこの Head-Smashed-In Buffalo Jump は最も古いものの一つで、 規模も大きく、 保存状態も非常に良く典型的なものであったことから、 晴れて世界遺産登録(1981年)と相成ったらしい。
【※】
"Blackfoot族"、 といった場合、
モンタナ〜アルバータの平原地帯一帯をテリトリにしていた、
4つの部族を指すとのこと。
- "Siksika": The Blackfoot proper
- "Kainai": The Bloods
- "Aapatohsipiikani": The Northern Peigan
- "Aamsskaapipiikani": The Southern Peigan
洗練の狩猟法
Buffalo Jump の崖の上に出るには展示資料館一階からエレベーターに乗るか、 または資料館の各階をかすめながら階段を登る。 ここで遠く地平線を望む広大なプレーリーの風景を眺めながら、 心地良いそよ風に吹かれるのも一興だが、 資料館の模型や映画(ちょっと呪術的でドロドロした感じがいい味出してるが、 再現フィルムとしてはかなりよく出来ていると思う)で、 この地形を巧妙に利用した、 驚くほど組織的かつ効率的なバイソンの追い込み方を具体的に理解してから改めて眺めてみると、 今まで「大したことないじゃん」と思っていた崖の風景も最初の印象とは違って見えてくるから不思議。
崖の上側の草原地帯に灌木や石で追い込みレーンを築き、 バイソンの群れを巧みに追い込みそして崖に落とす。 しかし追い込みをかけるとは云え、 相手は野生動物。 そんな簡単に崖から落ちてくれるのか? という疑問もあろうが、 そのあたりの技術がなかなかうまい。 おそらく一頭〜小数頭を追い込んだところで彼らは崖から落ちてはくれず、 崖を察知したところで追い込んでくる先住民に向かって逃げをうつだろうが、 Buffalo Jump のキモは、 大群を崖まで追い込むところにある。 すると、 先頭に逃げるバイソン達が進行方向の崖に気付いた頃には「時既に遅し」。 そこから戻ろうとしても、あとからあとから押し寄せてくるバイソンの群れに抗えず、 押されるように断崖から落ちるしかないのだという。
断崖は今でこそ10mそこそこだが、 使われていた当時は18〜20mほどあったと云われ、 Buffalo Jump の崖下には 10m以上にもわたってバイソンの骨が埋積した地層と化しているそうな。 崖下を通る散策路を歩いてみると、 丁度 Jump の真下の部分ばかり木や灌木が派手に生い茂っているのは、 もしや落とされたバイソンのお陰でそこだけ土壌が肥沃なのでは?(^^; よく知らんが。 なお、 Buffalo Jump を下から眺めるこの散策路を歩くだけなら実は資料館に入らなくて良いので無料。 サクっと歩いて30分程度か。 初夏の頃ならルピナスの群生が美しい。 でもやはりせっかくだからちゃんとお金を払って資料館を見て、 そして Buffalo Jump をしっかり上から眺めてから、 散策路は歩きたいところ。
バッファロー(アメリカ・バイソン)自身は、 かつて北米大陸一帯に約6千万頭も棲息していたと云われる。 そして先住民達は生活のための様々な糧(食糧、 毛皮、骨を使った道具など) を得るためにバイソンを狩猟していたわけだが、 そこには大自然をを畏怖し憐れみ敬意を払いながら恵みを受け、 自然と共生するバランスが存在してために、 何千年ものあいだにわたってバイソンと共に彼らはこの地で生活を営んでこれたのだろう。 それがヨーロッパから新大陸に入植した白人によって短期間に一変してしまう。 バイソンもあっという間に絶滅寸前にまで追いやられた経緯も資料館に展示されているが、 同じく地球規模で自然を一変させてしまっている現代人の一人として、 何とも複雑な感慨を抱かずにはいられない。
さて、 特に日本から観光に行く多くの人は、 おそらくカルガリー滞在のついでか、 Waterton Lakes N.P. への途上または帰路に立ち寄る程度だろうからそんなに時間は取れないだろうが、 大体2時間くらいの余裕を持って立ち寄りたいところ。 Glacier, Waterton が天気が悪くどうしようもない日に、 ここまで来てみるっていうのも一興。 山は雨でも、 ここまで来ると晴れていることも多い。
詳しくは下に挙げるウェブサイトを参照し確認して欲しいが、 ネイティヴ・アメリカンの舞踊やガイド・ハイクなど、 日程と時間が合えば様々なイヴェント参加・観覧も楽しそうだ。 先住民の住居であった Tepee (Tipi) というテントでキャンプを体験できるプログラムも実施しているらしい。 (カルガリーあたりの小学校なんか社会科見学・林間学校みたいな目的で使われてそうだけど、どうかな)
Head-Smashed-In Buffalo Jump のサイトはコチラ。
www.head-smashed-in.com
資料館(Interpretive Centre)にはカフェも併設されているので、 そこで食事を摂ることも出来る。 個人的にはここで「バイソン肉」(ちゃんと食用に牧畜されてるヤツね)を食わせてくれるメニューがあっても良いんじゃないかなー、 と思って期待したけど、 メニューを眺める限りごく普通のカフェだった。 残念。
せっかくこの近くを通るのなら、 是非立ち寄ってみるくらいの価値はあると思う、 そんな場所。 その地域で暮らしてきた先住民(平原インディアン)の歴史・文化に触れるよい機会だし、 彼らの古来の営みを知ることで、 ロッキーの大自然がより愛しいものになるんじゃなかろうか。