日本女性のストレートのロングヘアってどうしてこんなに美しいんでしょうか。
濡れたようにしっとりと輝く黒髪。さらさらで艶やかに輝く黒髪。吸い込まれそうにどこまでも黒い髪。緑がかったような妖しい輝きを見せる黒髪。自然な栗色の髪も美しい。
ピンと張りのある太くてまっすぐな髪。細くて柔らかいふんわりとした髪。全く癖がなく、どこまでもさらさらと流れる黒髪。
ストレートのロングヘアの女性が歩くとき、そのリズムに合わせて髪が波打つ。そのまぶしいほどの美しさ。風にそよぐ長い黒髪と、風に吹かれているロングヘアの美女。これほど絵になるシーンはない。
女性の頭の真ん中を真っ直ぐに走る白くて細い分け目の美しさ。左右を大きく非対称に分けて片方は顔を完全に見せながらもう片方では目尻をかすめていく黒髪の大胆さ。分けめをつけず、自然に流れ落ちるがままにしているノーパートのナチュラルさ。
女性の優しい肩から背中、くびれたウェストへと一直線に流れ落ちる黒髪。さらには、腰から尻、尻から太股までも長く長く伸ばしたロングヘアも素晴らしい。
サイドからバックにかけては、U字カットやV字カットもいいが、やはりまっすぐに切り揃えたのが美しい。肩から背中、背中から腰へと艶やかな黒髪が流れ落ちていき、それがいきなりすぱっと終わっている大胆さがすごい。逆に、シャギーやレイヤードなどは、だらしない印象を受ける。
目の上ぎりぎりでまっすぐに切り揃えた前髪の下から覗くぞくぞくするような女の子の瞳。薄く作った前髪が、知らぬ間に幾筋か目の下まで届いている姿の色っぽさ。伸ばしかけの長い前髪が顎のあたりで揺れているのももすばらしいアクセント。サイドパートで多めに取った長い前髪の女性がうつむいたとき、その長い前髪が目から頬を隠してしまう姿はなんとも妖しい魅力に満ちている。
前髪を作らないワンレングスの、流れ落ちてはかき上げ、かき上げては流れ落ちる黒髪のセクシーさ。
ショートカットの女の子を見ると、髪を伸ばしたらもっと綺麗になるのに、と思う。茶髪の女性を見ると、生まれ持っている黒髪こそ一番美しいのに、どうしてその美しい黒髪を否定してしまうのだろう、と思う。ストレートヘアなのにパーマをあてている女性を見ると、せっかくの美しいストレートヘアをどうしてくねくねと曲げてしまうのだろう、と思う。
パーマヘアの方が手入れが簡単なのに、あえてストレートヘアを大切にしている女性が好きです。ショートヘアの方が動きやすいのに、なにかと面倒なロングヘアにしている女性が好きです。
男性的な美というのは、機能的で活動的、行動的で強さを感じさせるものだと思う。そして女性的な美は、その反対のものではないかと思う。スカートよりパンツの方が活動的で機能的だけど、スカートの方が女らしい。長い爪は働くためには邪魔だけど、でも長い爪には女を感じてしまう。イヤリングなどは無駄以外の何物でもないけど、イヤリングやピアスをしている女は女っぽいと思う。孔雀の牡が牝にアピールするために、素早い動作という生死に関わるものを犠牲にしてまで尾羽を長く長く伸ばすように、そして鮭の牡が敵に発見されやすい危険を犯してまで美しい婚姻色に染まるように、活動性を犠牲にしても長く髪を伸ばしている女性に美しさを感じる
ショートヘアの女性は、活動的だが、自然に仕草に男性的なものが混じってしまう。ロングヘアの女性の仕草は、常に長い髪の動きを伴う。だからこそ女らしく、そして美しい。
床に落ちているものを拾うとき、上体を折ると長い髪が床に着いて汚れてしまう。だからロングヘアの女性は膝を折り、手を伸ばしてものを拾う。これが女らしい。伸ばした腕に、長い黒髪がさらさらと流れ落ちる様が美しい。
喫茶店でお茶を飲むとき、ロングヘアの女性は、まず髪を背中にやり、ティーカップを持ち、そして髪を押さえながら口をつける。いきなりティーカップを口に持っていかないところが優雅。ロングヘアの女性がショーケースの中の宝石などをのぞき込むとき、片方の肩の髪を背中にやり、もう片方の髪を胸のところで手で押さえ、そしてのぞき込む。髪を背中にやり、髪を手で押さえる、という余分な動作が入っているからこそ優美さが生まれる。
長い黒髪が胸に流れ落ちると、女性は手の甲で髪を梳き上げ、背中にやる。髪がさらさらと手の甲を滑っていき、背中へと流れ落ちる。なんというエレガントさ。
ストレートのロングヘアの女性が振り返るとき、毛先が円を描いて舞い上がり、舞い落ちる。そして頬にかかる髪を背中にやってぼくに視線を投げる。この一連のシーンは、夢を見ているように美しい。
ぼくは、女性の美しい黒髪に、神々しいものさえ感じてしまう。だからその美しい黒髪に汚れた手で触るのは美に対する冒涜だ、とさえ思ってしまう。
ぼくにとっての女性美の極致、それが長く美しい黒髪なのです。
S子は、ぼくの高校時代の同級生で、高校から浪人時代にかけての彼女。背が低くて性格も幼い可愛い女の子だった。髪は、ぼくと知り合った頃は、肩にやっと届く程度。前髪は眉のあたりにすんなりと降ろしていた。髪質は柔らかくわずかに栗色の入った髪。ぼくとしては、濡れたように輝く漆黒の髪が理想なのだけど、どうしても、というほどのこだわりはない。
S子が、今度髪を切りに行く、と言ったとき、おそるおそる、髪を伸ばしてくれないか、と言ってみた。S子は不思議そうな顔をしながら承知してくれた。
卒業する頃に、S子の髪はやっと肩下まで伸びた。S子も、髪が長いと大人っぽく見てもらえる、と長い髪を気に入り始めた。前髪も長くしてくれないか、と言ってみると、S子は今度はすんなり承知してくれた。そして、大学が決まるまでは髪にはさみを入れない、と願掛けをするのだった。二人とも浪人してしまったが、明るい浪人生活だった。
ぼくは、長い髪の女の子になっていくS子をまぶしい思いでみつめていた。
S子が以前と同じように子供っぽい仕草でおどけても、その仕草につれて美しい黒髪がさらさらと流れるようになり、話すときも顔にかかる長い前髪をかきあげるようになった。その仕草がなんとも色っぽくて、S子の髪が短かった頃は、平気でふざけあっていたのに、S子の髪が長くなるにつれてぼくはS子と居るだけで胸がどきどきするようになった。でも、ガキだったぼくは、そんな気持ちを見抜かれまいと以前にもましてふざけていた。じゃれあいながらS子の頭をはたいたり、前から車が来たからと、S子の背中を軽く押したりするときに、S子の黒髪のつやつやした感触を楽しんだ。
S子は一浪して難関の名門私学に入学した。しかし、実力も伴わないのに高望みしていたぼくは二浪してしまった。
浪人中の一年間でS子の髪は腰まで伸びた。S子は、不揃いが目立っているから、美容院に行って毛先を揃えるという。ぼくが不安になって、絶対に短くするな、毛先を揃えるだけだぞ、と強く言うのを見て、S子はおかしそうに笑った。
美容院から帰ってきたS子の髪は美しく艶やかに輝いていた。後ろを向かせると、ウェストラインで一直線に切り揃えられた黒髪が何とも大人っぽくて、思わず手を伸ばして何度も愛撫した。
テニスサークルに入ったS子は新入生の中でも目を引いたらしく、
「サークルの先輩が入れ替わり立ち代わりデートに誘ってくる」
と愚痴をこぼしていた。現役でS子の大学に入っていた同級生も、
「S子ちゃん、上級生の間ですごい評判になってる」
と言っていた。ぼくも、おまえらが熱心になってるS子はおれの彼女なんだぜ、とちょっと自慢したい気分だった。S子は女子大生になっても化粧一つせず、女っぽい服を着ることもなくて、女子高生時代そのままの清楚さだった。それは、当時のぼくの趣味でもあったし、S子自身、まだ、いわゆる「女子大生」になりたくなかったのだ。化粧や洋服で飾らないだけに、腰のところで真っ直ぐに切り揃えられた艶やかな黒髪の美しさが一層ひきたつのだった。
S子はぼくの部屋に来て食事を作ってくれたり掃除をしてくれたりして、何かと励ましてくれたが、ぼくの成績は伸び悩んだ。以前は妹のようにぼくのまわりではしゃいでいたS子が、ぼくよりも先に大学生になり、ぼくが昔のように兄貴然とした態度を取れなくなった焦りもあった。
秋になってS子は、ぼくが大学が決まるまでしばらく会うのを控えよう、と言ってきた。S子はサークルで忙しそうだったし、ぼくもデートより入試、というぐらい追い詰められていた。
結局ぼくは第一志望の大学には入れなかった。失意の中ではあったが、とにもかくにも大学を決め、久しぶりにS子とデートすることにした。
久しぶりに会ったS子は、髪をショートにし、しかもパーマをあてていた。当時、ぼくの嫌いだった化粧もしていた。ぼくは愕然とした。そのぼくにS子は、実はサークルの先輩とつきあっている、と告白したのだった。
ぼくが大学院生の頃の春。通学路の新入生の列の中に、美しいロングヘアの女の子の後ろ姿を見た。濡れたようにしっとりとした黒髪は、朝日を浴びてきらきらと輝きながら腰まで流れ落ちて、ウェストラインでまっすぐに切り揃えられていた。その髪は、吸い込まれそうにどこまでも深い黒。枝毛など全くなく、癖も全くない。ぼくは息を飲んでその黒髪を見つめ、この美しい黒髪に触りたい、愛撫したい、という衝動をこらえるのに必死だった。ぼくが今まで見た中で最も美しい黒髪だった。
自転車に乗っていたぼくはその娘を追い抜き、Uターンして擦れ違いざまに観察した。化粧っ気はまったくなくて、色白で目がぱっちりとしている素晴らしい美少女だ。頭頂から正三角形に思い切って多く取った前髪は、目のすぐ上でまっすぐに切り揃えてある。まさに日本人形そのものの美少女だった。体つきがややふっくらしているのが難と言えば難だが、その美少女ぶりと黒髪の圧倒的な美しさの前にはそんなことはけし飛んでしまう。
その女の子との間に全く接点はなかった。しかし、時々すれ違うだけなのに、その娘への思いは募っていき、何カ月かして、ぼくは思い切ってその娘にラブレターを渡した。しかし、
「すみません。私、もうつき合っている人が居るんです」
という返事が返ってきた。A美という名前はその時聞いた。ほんの二言・三言程度の短い会話だったが、A美の清楚な美しさを感じとるには十分だった。A美と話したのは、それが最初で最後だった。
N子は、ぼくと知り合った頃は二十歳だった。髪は全く癖がなくてピンとした張りがあり、ごく少なく取った前髪は目の上まで素直におろし、サイドの髪が目尻から顎へと流れ落ちていた。年齢よりずっと幼い性格で、化粧をほとんどしないこととオカッパ風の髪型もあって、外見は少女そのものだった。髪は肩すれすれの長さだったのに、好きになってしまったのは、そのなんとも愛らしい性格があったからだ。
髪は長くはなかったが、肩のところでまっすぐに切り揃えたラインが美しかった。前髪を少なめに作っていたために目にかかる髪を時折振り払う仕草が少しセクシーだった。sexのとき、上にならせると、顔に髪をいっぱい垂らして、髪の透き間から覗かせる上気した顔がなんともかわいかった。
可愛い性格のくせにN子は頑固だった。ぼくが髪を伸ばすよう言っても聞き入れない。高校時代の写真を見ると肘までのロングヘアなのに、決して肩より長くはしない。そして反発したのか、ある日髪を肩にも届かないぐらいに短くし、あろうことか、後ろを刈り上げていた。ぼくは落胆し、N子への気持ちが急速に萎えていくのを感じていた。
N子には両親がいない。複雑な家庭環境の不幸な生い立ちの少女だ。高校を卒業してすぐに就職し、薄給なのに一人暮らしをしなければならなかった。だからぼくは責任感のようなものも感じ、結婚も意識して交際していた。しかし、あれだけぼくが、短い髪は厭だ、といっていたのに敢えてあんな髪型にしたことで、N子のぼくへの気持ちが分かった気がした。それでももう一度だけ会った。しかし、「どんな髪型にしようが、それは私の勝手やん」とN子は言うのだった。
いつもなら、神戸にN子を送っていく途中で車を止め、キスをするのが習慣のようになっていたのに、その日はノンストップでN子を送り届け、それっきり連絡をしなかった。
1年近く後。阪神大震災。N子に連絡が取れない。
翌日、N子がぼくを尋ねてきた。「助けて」、という。ぼくはN子をきつく抱き締めた。N子の会社が再開するまで、N子はぼくの部屋の住人になった。ぼくは、高速道路が落ち、ビルが倒れ、道路に亀裂が入っている神戸の町を、深夜に何度も往復した。
しかし髪型については相変わらずN子は頑固だった。ぼくも疲れてきて、やがて交際も自然消滅になった。
その後、半年ぐらいたってN子がぼくの部屋に置きっぱなしになっていたN子のスキーの道具を取りに来た。N子の部屋に荷物を運び込んだ。N子の部屋には、ぼくと一緒に撮った写真がいっぱい貼ってあった。ぼくはN子を抱き締めキスをした。N子は目にうっすらと涙をためていた。ぼくの目にも涙がこみ上げてきた。しかし、ぼくは、またつき合おう、とは言えなかった。
去年のいつごろだったろうか、N子がぼくの部屋に遊びに行きたい、と連絡をくれた。N子は髪を背中まで伸ばしていた。知り合って初めてのロングヘアのN子だった。ぼくはその髪を愛撫し、髪にキスした。抱き締めて唇にキスしようとすると、N子は繰り返し拒んだ。
「今、彼氏が居るん?」
と聞くと、N子はうなずいた。N子の携帯が鳴り、彼氏からのチェックが入った。
ぼくはN子を送っていった。
大学院生の頃、ふと懐かしくなって、高校の後輩のZ子とデートしたことがある。高校の頃は髪も短く、全然色気がなくて、ぼくをよくやっつけてくれた女の子だ。
何年ぶりかで会ったZ子は、髪を腰まで伸ばし、前髪は目のすぐ上に薄く下ろし、超ミニスカートをはき、くっきりとルージュを引いた、別人のようなセクシーな美女に大変身していた。ぼくは早速、彼氏がいるのか聞いてみると、少し年の離れた彼が居るという。こういうファッションは彼の好みで、つき合い始めてからは買う服の傾向が全然変わってしまった、という。ぼくとデートするかどうかも、どういう服装にするかも、彼に相談して決めたのだという。自分の恋人が他の男とデートするのにこんなセクシーなファッションをわざとさせる彼氏の自信たっぷりの鷹揚さに、ぼくは手も足も出なかった。
それにしても、気が強くてぼくを何回も言い負かしてくれたZ子を、ここまで変身させる彼氏とは一体どんな男なんだろうか。
I子と再会したときもそうだった。大学に入った頃のI子は、髪が短くて気が強く、いつもGパンでボーイッシュな色気のかけらもない女の子だった。それが、何年ぶりかで偶然再会したとき、最初ぼくはそれがI子だとは分らなかった。ぼくの目の前にいたのは、背中までの美しいワンレングスのロングヘアの清楚な雰囲気の女子大生だったのだ。目尻をかすめてまっすぐに流れ落ちる黒髪の間からぼくを上目使いで見上げながら話す仕草もとても同一人物とは思えなかった。
I子は、友達の勧めで髪を伸ばしてみたら、以前は照れくさかった女らしい仕草も自然にできるようになり、性格も落ち着いてきて、昔の自分を思い出したら恥ずかしい、という。今は、腰まで髪を伸ばすのと体重を30kg台に乗せるのが目標で、髪を洗って自然乾燥させている間にファッション雑誌を読む優雅な時間が楽しみなのだという。
ぼくはI子の変身ぶりに参ってしまって、交際を始めた。既にサラリーマンの彼がいる、ということだったが、そんなことは気にならなかった。
以前とはうってかわった素直な女の子になっているI子にぼくはのめりこんでいった。I子のさらさらのロングヘアを愛撫するのが好きだった。
しかし、I子は、ぼくかサラリーマンか、どちらかに決めようという気がなく、彼氏が二人、という状態のままでいようとしているのが見えてきて、ぼくの方から引いてしまった。
ぼくが大学院生の頃、ぼくたちが呑んでいた安居酒屋の個室に現れたその娘がロングコートを脱ぐと、そこにはワンレン・ボディコンの絵にかいたようなセクシーギャルが居た。その娘が腰まであるワンレングスをかきあげて微笑むと、男達は騒然となった。
ご飯を食べに来て、というのでごちそうになりに行くと、おかずはなんと、鯖の煮つけだった。ワンレン・ボディコンのセクシーギャルと鯖の煮つけというギャップにぼくは完全にノックアウトされた。
しかし、彼女の周りには男が多すぎた。正直なのか、やきもちをやかせようとしているのか、次から次へと男の名前が出てくる。
虚言癖もある女だった。小学生の頃からずっとワンレンだった、という嘘。学生時代はモデルのアルバイトをしていた、という嘘。TVのレポーターをしていた、という嘘。こうなると、言うことを何も信用できなくなってきてしまった。
ルックスは抜群で、腰まであるワンレンでも、言っていることが信用できなくなるとやはり気持ちも冷めていった。
入社したての頃、気になっていた一人の女性がいた。夏の暑い時期だったからか、彼女はいつも髪を後頭部でお団子状にまとめ、ネットで止めていたが、その団子の大きさは並外れて大きく、
「この人、とんでもなく長いんじゃないのか?」と、第一印象からずっと思い続けていた。いつかその髪を下ろした姿を見て、その長さを確認したい、とずーっと思っていた。そんな想いを抱き続けて数ヶ月。遂にその時が来た。
8時出社で、すでに仕事をしていた自分の目の前を通り過ぎていった、9時出社の彼女。その髪は、いつものお団子ヘアではなく、耳にかかる髪だけを後頭部できゅっと束ね、残りの全ての髪をストレートに流し下ろしたロングヘア! 黒々とした艶のある、さらさらの髪は、やはり、というべきか、彼女の背中全面を覆い隠し、腰の辺りで揺れていた。
「やっぱり、これだけ長いんじゃないか!」
歓喜にも似た感情がわき上がり、自分は彼女の髪に魅了された。
彼女とは所属も違い、挨拶を交わす程度で、特に個人的なからみもなかったが、同じフロアーにいることから、その髪はいつも見ていることができた。たまにお団子ヘアに戻すことはあったが、基本的にはストレートに髪を下ろしたスタイルが彼女の通常の姿になっており、自分は彼女の髪に魅了され続けていた。時には、後頭部でポニーテールに縛った髪を三つ編みにする、といった子供っぽいスタイルも見せてくれており、量の多い彼女の髪ときっちり編み込まれたその三つ編みは、あたかも1本の太いロープのように彼女の後頭部からぶら下がり、その太い三つ編みがまた自分を魅了した。自分の席に戻るときはいつも小走りで、ちょうど自分の席の前を通っていく彼女。彼女が走り抜けるたび、目の前にはさらさらの黒髪が踊り、跳ねながら通り過ぎていく。そんな彼女の髪。ずっと見続けていたかった。もっと長く伸ばして欲しい、とも思ったが、それがかなわぬなら、せめてこの長さをずっと保っていて欲しかった...
しかし。いつしか彼女の髪は、背中が半分隠れる程度にその長さを変えていた。とても残念な気持ちになりながらも、それでも美しい彼女の髪を自分は見守り続けた。いつかまた、腰まで伸ばしてくれることを願いながら。
だが、しかし。その後の彼女は、せっかくのストレートの黒髪にパーマをかけたり、パーマのかかった毛先をバッサリ切ってきたり、カラーリングを入れたり、ということを繰り返していた。スタイルも、いつしかポニーテールが普通になり、目の前を走りすぎるときに揺れていた髪の片鱗はなくなってきていた。そして、遂にあの日がやってきた。
それは突然だった。長さをまちまちに変えながらも、永らくロングヘアのイメージで通っていた彼女が、あごの線あたりで髪をバッサリと切りそろえて現れたのだ。終わった、と思った。自分を魅了し続けた彼女の髪は、もうすでにそこにはなくなっていた。彼女自身、何年ぶりのショートカットだったのだろう。ボブに切った毛先をしきりに気にする仕種を見せ、
「そんなことなら切らなきゃいいんだ!」
と思わせたものだ。
その後、やはりショートカットはあわなかったのだろうか。彼女は再び髪を伸ばし始め、なんとかポニーテールを結べるくらいの長さにはなっていたが、特にそれ以上伸ばす様子もなく、彼女の髪に対する自分の想いもすっかり冷めてしまっていた。やがて、自分は事業所を移ることとなり、彼女のことを見ることもなくなっていた。
約3年後。仕事の関係で、以前勤めていた事業所に顔を出す機会が出来た。と、いうより、所属は変わらないままで、勤務地が以前の事業所に変更された。すっかりレイアウトの変わった職場。彼女の髪に対する想いはすっかり冷めてしまっていたが、かつてあれだけ自分を魅了してくれた彼女のことは忘れてはいなかった。
「あいつのことだから、まだきっと結婚もせずに仕事してるんだろうな...」
と、彼女の職場に目をやる。そして、やはり彼女はいた。そこにいた彼女は、自分の想像していた彼女ではなかった! その髪は、彼女の背中の半分以上を覆い隠し、ストレートに流れ落ちていた。耳にかかる髪を後頭部で結んで。そう、長さこそ、一番長かったあの頃には及ばないものの、そのスタイルといい、艶のある黒さといい、自分を魅了してくれた頃の彼女の髪がそこにあったのだ。
その後、彼女はいつもストレートのロングヘアを見せ続けてくれている。そして、今日、初めて、首の後ろで髪をバレッタで止め、背中に髪を流し下ろす、という今までに見たことにないスタイルを見せ、自分を魅了した。そして、仕事もそこそこに、彼女の髪を見つめる自分がいた。これから、また自分はずっと彼女の髪を見守り続けるだろう...
大学院生の頃、成金のオッサンに連れられて、新地のクラブに行ったことがある。座っただけで何万円、という店をはしごして回った。ある店に、腰まであるストレートのロングヘアに、ロングスカートという清楚な雰囲気のホステスが居た。他のホステスは、きらびやかに着飾り、指輪やネックレスをじゃらじゃらさせ、美容院でこねくりまわしたヘアスタイルをしていたり、太股まであらわになるミニスカートをはいていた。でも、その娘だけは、化粧も控え目で、肌も露出させず、大げさにはしゃぐこともなく、ただ、柔らかくて長い黒髪がどこまでも美しかった。その娘は、W大学の法学部を卒業した司法試験受験生だという。こういったクラブなら、週に一・二回店に出るだけであとの時間は受験勉強にあてられるから、という。他のホステスとは、バカな話をしたり手を握ってみたりしていたが、その娘とは話をするだけで十分だった。ため息が出るような美しい娘だったけど、貧乏な大学院生には高値の花だった。そのクラブを出るときは、その娘がぼくの腕を取り、下まで送ってくれた。次の店に行く途中で、成金のオッサンが、ワシはあの司法試験受験生の娘とヤッた、とささやいた。何とも悔しい気分だった。
あの娘は無事、司法試験に合格したのだろうか。法律家になってからは、ホステス時代の客との関係はうまく清算できたのだろうか。
通勤電車に乗るときの車両を変えてみた。いつも乗っていた先頭車両は
とても混んでいて、雑誌などを読んでいられなかったからだ。2〜3両く
らい後ろに乗ろうと、ホームを歩く。このあたりかな、と立ち止まり、ふ
と見ると、電車待ちの列の先頭に首の後ろで髪を束ねた女性が立っていた。
迷わず、その列に並ぶ。腰まで、とは言わないまでも、真っ直ぐに伸びた
髪は彼女の背中の半分を過ぎたところまで達していた。ちょうど、彼女自
身が背中に手を回したときに、無理なく自分の髪を触ることができる、と
いったくらいの長さだろうか。そんな髪を、なんの飾り気もない黒いゴム
で束ね、首筋から真っ直ぐに流し下ろしている。束ねた髪ながらも、その
長さはかなりきれいに揃っており、おそらく髪を束ねていなければ、その
毛先は彼女のウエスト近辺ですぱっと揃えられているのでは、と想像させ
る。耳の下から髪の結び目に向かっては、丁寧にヘアピンが入れられてお
り、うなじには一糸の乱れもない。几帳面な性格なのか、それともうなじ
にかかる髪がうざったいのか... 髪の色は、あくまでも漆黒で、くせの
ないストレートのロングヘア。髪そのものが大いなる輝きを放ち、なんの
飾りも必要としない。そんな力強さすら感じさせる彼女の黒髪。一目で自
分は彼女の髪の虜になった。
それ以後、自分は毎日、その車両に乗る。電車を待っている間、彼女の
髪を見ていることが出来る。初めて彼女の髪を見て以来、そのスタイルは
変わることがない。唯一、髪をゴムで束ねるか、バレッタで留めるかが変
わるのみだ。ゴムで束ねたときの彼女の髪は、首筋で太い一本の筒状をな
す力強さを示し、バレッタで留めたときの彼女の髪は、首筋でゆったりと
幅広い帯状を呈し、やや緩やかな印象を与える。そんな彼女が、一日だけ
三つ編み姿を見せたことがあった。あくまでも結び目は首筋の後ろで、耳
の下から入れたヘアピンもいつもどおり。ただ、いつもは結び目から真っ
直ぐストレートに流れ落ちていた髪が、その日は三つ編みに編み込まれて
いた。その編み込みは、段数にして8段。長さの割には少なく思える段数
は、彼女の髪の多さと太さを物語っている。気になったのは、編み込みの
くさび形状が上向きになっていたこと。三つ編みの多くは、くさび形状が
下向きになっている、というのが自分がいままで見てきたパターンであっ
た。彼女は首の後ろに束ねた髪を自分で編んだ、ということだろうか、彼
女の三つ編みには編み込みからはみ出す髪のほつれが目立っていた。やが
て電車が到着し、彼女は空いている席に座った。と、いきなり彼女は首の
後ろに手を回し、座席と彼女の背中に挟まれていた三つ編みを引きずり出
し、胸の前にぶら下げた。いつもは真っ直ぐに流しているため、座席に挟
まっても横に広がってあまり抵抗を感じなかった髪も、その日は編み込み
がなされていたため、まともに抵抗を感じたのであろう。彼女の右肩から
胸にかけて垂れ落ちた1本の太い三つ編み。自分は、こうした片方に流し
下ろした三つ編みも好きだ。髪の持つ力強さを凝縮したかのような太い三
つ編みが胸の前に垂れ降りる様子。髪をストレートに流し下ろしたときの
エレガントさこそないかもしれないが、何にも優る力強さを感じさせてく
れる三つ編み。そんな三つ編みが好きだ。
以後、彼女は三つ編み姿を見せることはない。たまには見たい、とは思
うものの、それよりもその髪を決して切ることなく、いつものように、い
つもの列の先頭に並んでいてくれればそれでよい。その漆黒の力強い髪、
ずっと見せていて欲しいと思う。
そんな思いを抱き、今日も、明日も、自分はいつもの電車待ちの列に並
んでいる。
昔、京都の百万遍で、膝まである超ロングヘアの2人連れの若い女性を見たことがある。二人とも、前髪は作らないワンレングスだ。少し背の高い方が柔らかい髪質で膝頭まで、やや低い方がコシのある髪質でふくらはぎまでの超ロング。毛先を真っ直ぐに切り揃えているあたりに、丁寧に手入れをしていることが伺える。二人が歩くたびに頭から肩へ、背中から腰へ、そして尻から膝へと、長い黒髪がきらきらと波打ち、夢を見ているような美しさだった。場所柄からいって、京大生なのだろうか。それとも、舞妓さんが日本髪を解いて普段着で歩いていたのだろうか。
大阪の地下鉄に、一人の女の子が乗ってきたとき、車両の空気が変わった。膝まである超ロングのワンレングスの女の子だ。髪は細くて柔らかく、ふんわりとしている。全く癖がなく、少し栗色がかった素晴らしい黒髪だ。色白で整った顔立ち。超ミニスカートの裾よりも髪はさらに長く、白い太股を見え隠れさせて、何ともセクシーだ。その娘が脚を少し開くとミニスカートの股越しに、背中から流れ落ちている膝までの黒髪が覗く。電車の振動につれ、長い黒髪がかすかに揺れる。ぼくは息を呑んで、その美しさの虜になっていた。その娘のそばに立っていたカップルの男の方は、彼女との会話もうわの空で、チラチラとその娘を盗み見ながら、自分の彼女の髪を愛撫しはじめた。ぼくの隣の新聞を読んでいた壮年のサラリーマンも、新聞の影から盗み見ている。その娘が地下鉄に乗ったのはわずか1区間だけだった。その娘が降りると、カップルの男の方がため息をつき、「すんげぇ綺麗な髪」とつぶやく。カップルの女の方はおもしろくなくて、「あんなに長い髪、邪魔で仕方ないわよ」などと色気のないことを言う。そういえばその女の方は、肩にかかる程度のセミロングだった。
女性の髪は長ければ長いほどいい。特にストレートならば、黒髪
でも茶髪でもいい。太陽の光を浴びてキラキラと光沢をたたえ、髪
の量のぶん、たっぷりのシャンプーの香りが届いてきた日には、ど
こまでもその女性を尾行したくなります。
さて、私がロングヘア・フェチになったのは、中学校の頃でした。
一年生になって入学した時、一つ上の女の子でものすごく髪の長い
子がいました。前髪もない完璧なワンレングスの彼女は、量サイド
の髪の一部を耳の上で細い三つ編みに垂らしていました。その長さ
は骨盤のあたりまでありました。後ろ姿は、下ろした髪の毛が、お
尻をすっぽりと覆う長さです。
クセのないストレートの黒髪は量感も質感もたっぷり。歩くたび
にお尻の上でゆっさゆっさと揺れる髪を見て、綺麗だなー、と思う
だけではなく「触れたい……」と興奮していました。「髪だけを抱
きしめたい」と。
私たち男子の間では「学校で一番髪の長い子だなー」くらいの話
題で、決してコーフンしていることは言いません。コーフンしてい
るのはどうやら私だけのようで……。
私が中二になった時、彼女は当然卒業しました。
そんな彼女のことを忘れかけていました。
時間は過ぎ、私が高校三年になったある日のことです。学校の帰
り、駅ビル前のショッピングセンターに入りました。いつも行く三
階の本屋に向かうつもりで。一階の右手は花屋になっています。ふ
と、花屋を見ると、ハッ、となりました。
退屈そうに丸イスに座って店番をしている女の子がいました。
その子は、頭の真ん中で髪を割った三つ編みをして少女マンガを
読んでいました。ハッとなったのは、その三つ編みの長さです。椅
子に座り、下ろした両サイドの三つ編みは、胸からお腹、さらには
かかとにまで達していました。そして、少しかがむと、床に着いて
しまうので、それを気にしてか、彼女はマンガを読みつつ、自然と
前かがみになると髪の先を確かめてるべく足元を見ていたのです。
その彼女こそ、四年ぶりに見たあの子だったのです。
「……あれから髪は伸ばしっぱなしだ」
私は、それから駅ビルには毎日通いました。彼女が立っている姿
も確認しました。三つ編みの先端は膝小僧より下に届いていました。
ほどくと、ふくらはぎぐらいに達しているでしょう。ほどいてくれ、
中学時代のように、と願いつつ、その日は来ませんでした。
そして私は高校を卒業して大学に入るべく上京という運命が待っ
ていたのです。
でも、ここからが本題です。
大学一年の夏です。実家に戻り、中学時代の友達と会いに、自転
車を走らせていました。すると、あの子とすれ違ったのです。
「アッ!」と思いました。彼女は両耳の上で、とてつもなくつ大き
な「おだんご」を作った「アップ」の髪をしていたのです。一つの
おだんごはソフトボールくらいありました。エプロンをしたままカ
メラ屋から出てきました。バイトをしていまようです。
「髪の長さは……どれくらいなのだろう。あれからずっと切ってい
ないのだろうか……」
お盆休みの次の日、そのカメラ屋に行きました。写真館よろしく、
入学式、卒業式、七五三の写真が飾ってあるお店です。
しかし、店員はおらず、店の親父だけでした。私は要らないのに
フィルム一個を買うついでに、ひらめいてというか頭が熱くなって、
親父にこう言ったのです。
「実は僕、カメラの勉強をしているのです。次の課題で“長い髪の
少女”を撮らなくてはいけないのです。どこかにモデルになりそう
な人はいませんか?」
親父は耳の遠そうなかなりの歳の人ですが、思った通りの解答を
くれました。
「ウチでバイトしてるMちゃん撮りなよ。あの子は長いよ」
「どれくらい?……」
「長い長い。いつも結ってるから見たことないけど、顎を持ち上げ
たら地面に届くって言ってるよ。いやホント長いんだってば」
私は胸がときめきました。東京に帰るあと三日間でなんとか撮ろ
う! と。ても、なんと残酷なのでしょう。
次の日、彼女を求めてそのカメラ屋に行ったところ、“お尻の上”
くらいまでカットした髪を下ろしてきたのです。親父のおせっかい
の茶々のおかげで、彼女に一枚だけ写真を見せてもらいました。
髪を切る前の写真を。
こんな美しくも官能的な写真を見たことがありません。自分の部
屋で友達に撮ってもらったというその写真は、後ろ向きに直立した
彼女が、顔だけこちらに向き返ったもの。少し顎を持ち上げたその
横顔から背中、尻、脚と覆う一面の髪は黒い壁のようでジュータン
に先が届いて外側に毛先が跳ねたものでした。
「バカみたいに伸ばしてたのよ。切るのがもったいなくて」
と彼女は笑いました。今でも十分に長い髪をかき上げて。
私は、その写真をくれという勇気もなく、店を出ました。尻の上
まで髪がある彼女を撮ればよかった、とも思ったのですが、この時
の私には「髪を切った人」で、ただガッカリです。十分に超ロング
なのに……。この気持ち、判る人には判ると思いますが……。
以上、10年前の話です。実家も引っ越し、それから彼女の行方は
知りませんが、何年か前にそれとなく一度だけ聞いた中学時代の友
人によると(その彼は彼女と自宅が近所)、
「ああ、あのM? 髪? うん、見た見た。一時期さ、身長よりあ
ったぜ。芝生引きずってたよハッキリ行って。ボサボサの髪で休み
の日は庭に出て花に水をやってたな。自分の髪をつまんで匂い嗅い
だりさ。異様な眺めだったぜー。もちろん外に出る時はおだんごに
してたけどさー」
髪フェチでもないそいつだからこそ、軽く言いました。うらやま
しい話です。とりとめもない投稿でした。彼女を越える「美人」に
会いたいものです。また投稿します。
これまで見た髪の中で最も印象に残っているのは膝のあたりでぷっつりと切り揃え
た超ロングの女子大生です。長さにして1m20cmはあったと思います。前髪は
カチューシャでまとめられていました。その前髪をたどっていくと腰から尻にかけ
てのあたりまで続いていました。きっと5、6年前まで切り揃えていた前髪を切る
のを止め、伸ばし続けていたのでしょう。髪のボリュームも今までに見たことがな
いほどたっぷりありました。つややかで癖一つない黒髪は背中を滝のように流れ落
ち、膝丈の白いコートは彼女の豊かな黒髪で覆い隠され、あたかも黒いコートを羽
織っているようでした。後ろ姿は「黒い髪の塊」。たまたま電車の中で見かけた娘
なのですが、その余りの美しさにはっと息を呑みました。彼女とは何度か駅や電車
であったのですが、いつも「ロングヘアは当然結ばないものよ」と言わんばかりに
重そうな髪をゆっさゆっさと揺らして歩いていました。手入れの行き届いた髪をゆ
ったりとした=歩みにあわせて脈打たせる彼女はどこにいても目立ちました。
一度だけトレードマーク(?)カチューシャを外した彼女を見たことがあります。
サイドの髪を気にしていた彼女。うつむき加減になったとたん、サイドから髪がざ
ーっと顔を覆い、色白でぽっちゃりした顔は瞬く間に髪の洪水の中に吸い込まれて
いきました。ガタンゴトンと電車が揺れるたび、彼女の髪が振り子のように左右に
にゆらゆらと揺れ、髪のヴェールの向こうに柔らかな唇が見え隠れしていました。
彼女は肩からかけていたバッグから本をおもむろに取り出すと(確か本は丈なす黒
髪の彼女らしく「源氏物語」の訳本だったと思います)胸元ではらりと開きました
。こちらからは表情すら分かりませんでしたが彼女は両サイドから押し寄せたの髪
の、わずかな隙間からひっそりと本に目を通していました。
こんなこともありました。髪を振り乱して電車に乗り込んでいた彼女。よほど急い
でいた用事があったのでしょうか。いつも優雅に振る舞う彼女には珍しい光景です
。彼女が乗り込むとすぐにドアが閉まりました。ほっとしたようにドアにもたれか
かる彼女。でも様子が変です。彼女は前に進もうともぞもぞするのですが、車内は
空いているのにいっこうに進みせん。足を踏み出しては後ろによろよろっとのけぞ
る。どうしたんだろうと焦りの表情を浮かべる彼女。後ろを見て答えが見付かった
ようです。何と彼女の髪は背中の真ん中あたりでしっかりとドアに挟まれていまし
た。えいっと引き抜いて見せようとするもののドアに根が生えたように彼女の髪は
食い込んだままです。さすがに恥ずかしそうです。ブックバンドで縛った本でそっ
と顔を隠していました。しかもその電車は運が悪いことに「快速」か何かだったた
め彼女は10分以上その体勢のままじっと電車が次の駅に着くのを待ちました。ま
るで、鎖につながれた子犬か、光源氏に髪をつかまれた藤壷女御のように。私は少
し残念でした。きっと電車の沿線では少なくとも70cmの髪の房がそよそよとた
なびく異様な光景の列車を目にすることができたのですから。次の駅の乗客はさぞ
驚いたことでしょう。ドアが開くと彼女は真っ先に髪に手をやり傷んでいないか丹
念にチェックしていました。そしてなんともないことを確認すると小さくほっとた
め息をついて、髪を後ろにうちやりました。
やはり最高の瞬間は、彼女の髪に触れた瞬間でした。満員電車に居合わせたとき、
たまたま彼女が人波に押されて、後ろ向きに私にぶつかったのです。ふかふかした
絨毯のような上質な絹糸を手にしているような不思議な感覚でした。妙にひんやり
としたさわりごこちが忘れられない。「すいません」彼女は小声で謝るとくるりと
前向きになってしまいました。「ずっとこのままいたい」という本音を押し殺すの
には苦労しました。
高校時代、彼女に負けないぐらい髪のボリュームがあって50cmぐらいの長さの
髪の同級生が「ねえ、私の髪この前はかりで計ったら1kgもあったのいよ。体重
測定の時は髪の重さは除いて計ってほしいわ」と冗談っぽく話していたのを思い出
します。すると、1m20cmの彼女は2・4kgの髪を首からぶら下げて歩いて
いたのでしょうか。変な話ですがトイレに行くときや寝るときは髪をどうしていた
のでしょうか。一人暮らしをしいたとしたらどうやって髪を梳っていたのでしょ?
か。少なくとも10年はまともに切っていないでしょう。その間どんな思いをして
髪を伸ばし続けたのでしょうか。そのころとはまったく別の場所で暮らしている私
にはなぞのままです。それにあの髪はいったいどこまで伸びていくのでしょうか。
切り揃えかたからいって身の丈ある黒髪になっていてもおかしくありま?
私の女性の髪に対するこだわりの優先順位は、ここのオーナーであるwindさんと近いものがあります。
1.つやがあってきれいなこと
2.ストレートであること
3.長いこと
4.茶髪より黒髪
そして編んだり三つ編にしているよりも、自然に流しているサラサラの髪が大好きです。
この条件の全てを満たす女性と出会ったのは、社会人3年目で大阪で勤務していた時のことです。
仕事帰りに同僚と二人で飲みに行ったパブでその女性と出会いました。店には5人ほどの若い女性が働いており、どの女性もレベルが高かったのを記憶しています。
その中に一際目を引くきれいなストレート・ロングの女性がいました。ルックスも申し分ありません。
腰の少し上で切り揃えられたその黒髪は、店の薄暗いライトの中でもきれいに輝いていました。
その日は平日だったせいもあって店は比較的すいており、私たちが席に着くと女性も二人ついてくれました。
一人はセミ・ロングのちょっと幼い顔立ちの女性で、もう一人は私が目を付けたストレート・ロングの彼女です。
一緒に行った同僚はもう一人のセミロングの女性がお気に入りで、私はロング・ヘアーの彼女とずっと話をすることができました。
周りを見渡すと、立っているだけの女性もいます。彼女の話によると、
「ここはキャバレーじゃないし、私たちもホステスじゃない。言ってみればウエイトレスみたいなもので、こうして席に付くかどうかは私たちに任されている」とのことでした。
帰りには彼女達の定休日を確認し、近いうちにまた来ると約束して店を出ました。
次の週、私たちは仕事を早めに切り上げ、どちらともなくあの店に行くことになりました。
その日はほぼ満席だったのですが、私のお目当ての彼女が「また来てくれたのね」といって私たちの席に着いてくれました。
私はその日、前日までの仕事疲れが出たのか少し飲んだだけで酔いが回ってきました。
酔ってくると隣に座っている彼女のきれいなロング・ヘアーに触れてみたいという思いが強くなってきました。
でも「私たちはホステスじゃない」という彼女の言葉を思い出すと、もしかしたら声を出されるかもしれないと思い、残り少ない理性の力でその場はグっとこらえました。
近くの席にいた別の客が席を出る時のことです。私が彼女の方へ身を寄せなければ、
その客は出ることができません。その時、私はチャンスとばかりに軽く手を女性の背中に当てました。当然、長いロング・ヘアーに触れることになります。チョット冷たく、何ともいえないやわらかな感触でした。彼女は嫌がる様子はありません。
今度は勇気を出して、女性の肩から髪の先にかけてゆっくりと指を滑らせてみました。その髪は毛先までコシがあり、全く引っ掛かりがありません。思っていた以上の見事な黒髪です。
「ゴメン。あまりにもきれいな髪で思わず触ってしまった」というと、
「私もこの髪が自慢なの。キライな人に触られるのはイヤだけど、○○さん(私の名前)は私のタイプだし、いいよ」と言ってくれました。社交辞令だろう思いながらも、こんなに嬉しいことはありませんでした。
ちょうどその時トイレから戻ってきてその光景を見た同僚は「あ、俺も触ってみたい」というと、
「イヤ。△チャン(同僚がお気に入りのセミ・ロングの子)に触らせてもらえば」と言いました。
それからも店に行くたびに彼女は私の席に着いてくれ、勇気がついた私は、ためらうことなくきれいな髪に触れました。彼女の方も嫌がることはありませんでした。
何度か通いつめているうちに、彼女の電話番号を聞き出すことができました。一緒に初詣に行くことを約束し、詳しくは電話でということで店を出ました。
ところがです。その数日後に上司に呼び出され、年明けから東京に転勤を言い渡されたのです。
当時私には他に親しい女性がいたのですが、その女性よりも気になったのはデートもしたことがないロング・ヘアーの彼女の方です。
転勤の前にどうしても彼女に合っておきたいと思い、自宅に電話してみたのですがいつも留守でした。
店に電話してみると、年明けまで休みをとっているとのことでした。
(後で聞いた話では実家に帰っていたそうです)
結局大阪にいる間は連絡をとることができず、年が明けて東京から電話で経緯を説明しました。
すると彼女は
「そう。じゃあ私が髪を切っても悲しむ人はいなくなったね。今度の休みにでも切りに行こうかな」といっていました。
私が「ロングが似合ってるんだし切らない方がいいよ」と言うと、「高校時代はショートだったけど結構モテたのよ」と切り返しました。彼女のルックスからいって嘘じゃないでしょう。
後日彼女の方から電話があり、「先週美容院に言ってきた」と私が最も聞きたくない言葉を聞いてしまいました。
「どれぐらい?]と聞くと「毛先をちょっとだけ。びっくりした?」と言って笑っていました。
それからも何度かは電話をしたこともあったのですが、所詮は店以外では合ったことのない関係です。そのうち連絡を取り合うこともなくなってしまいました。
それからずっとあとに例の同僚に聞いた話では、彼女の電話での話しはウソで、彼女は腰まであった髪を肩までバッサリ切っていたそうです。
「髪を切った方が顔が引き立ってオレの好みだけどな」と同僚は言っていました。
その同僚はその後も例の店に通っていたそうですが、彼女も含めて当時の女性は一人もいないそうです。(6年も前の話なので当然かもしれません)
もしあの時転勤になっていなかったらどうなっていたでしょうか。
当時の私は「本当に私に対して好意を持ってくれてるのかもしれないけど、いいように遊ばれるかもしれないな」と少し警戒感を持っていました。
でも、今これを書いていて、忘れかけていた彼女への思いが当時よりも強く甦ってきたような気がします。彼女は今28才ぐらいのはずです。彼女は今、どんな髪型なのでしょう。
「髪の長いきれいな女性なら遊ばれてもいいかな」と思う自分を「オヤジになったな」と思う今日このごろです。
髪もルックスも申し分ないという女性は、町で見かけることはあっても自分の周りにはなかなかいないものです。
windさんの言うように、今の彼女を好みの髪型にしていくのが正しいのかもしれませんね。