これは、私の高校時代の先輩Yさんの淡い恋の物語です。
Yさんは、高校入学当初から、同じ部活の3年生の先輩に片思いをしていました。
しかし、その彼にはつきあっている人がいました。
「全校中で憧れられている彼氏・彼女」と言っても過言ではない程の仲のよさに、Yさんも、いくら好きだからと言っても告白する勇気が出せず、
「慕ってくる可愛い後輩」として明るく振舞うことしかできずにいたそうです。
先輩の彼女さんは、ダークブラウン(地毛だったそうです)の長い髪。
入学当初のYさんは、世間一般でいうセミロング。
そんなある日、Yさんは先輩とこんな会話をしたそうです。
「先輩は、彼女さんのどこが一番好きでつき合おうと思ったんですか?」
「いろいろあるけど、きっかけはあの長い髪だったかなあ。
髪って言えばさ、Yも今のも可愛いけど、一回伸ばしてみろって。
絶対に似合うから」
「そんなこと言われても、私がロングだったのって小学生までですよ。
伸ばす自信ないです」
「ダメ!先輩命令だ。これから少しでも髪を切ったら、俺は怒るぞ」
その日以来、Yさんは必死でヘアケアに励み、2つ年上の先輩が進路を決める頃には背中の真ん中から少し下あたりまで髪が伸びていたそうです。
ちなみにその頃、先輩と彼女さんは理由はわかりませんが、別れてしまっていたそうです。
そして、学校で会える最後の日。卒業式。先輩は東京の大学に合格が決まっていました。
Yさんはやはり告白する勇気が持てず、気持ちを隠したまま、家に帰ろうとしたそうです。
学校から少し離れたところで、「Y!Y!」と大きな声で自分の名前が叫ばれるのを耳にし、振り返るとそこには、先輩が。
「どうしたんですか?先輩」
「お前にどうしても言いたいことがあったのに、挨拶もなしで帰るんだもんな。
必死で追いかけて来たに決まってるだろう」
「よく見つけられましたね」
「俺は髪見りゃわかるんだよ。お前がどこにいるかくらい」
という会話をしながら、先輩はYさんのお家まで送ってくれたそうです。
「俺は4年間、東京に行ってくるけどさ。
お前が俺のことを、『先輩』だって思ってくれてるうちは、絶対に髪切るなよ。
俺がお前を見つける目印だ。
でも、『あんたみたいな奴、早く卒業してくれてありがたい』って思ってるなら、もう自由にしてもいいぞ」
「ここまで伸ばしたら、切るの勿体ないじゃないですか」
「よし。それでこそ俺の後輩だ」
最後まで「好きです」とは言えないまま、その日は別れてしまったそうですが、
「もう卒業しちゃったんだから・・・」と思いながらも、先輩を心の片隅で思い続けていたYさんは、約束どおり、髪を伸ばし続けました。
「先輩がどんなに遠くに行っても、私を見つけてくれますように」との願いを込めて。
後日談ですが・・・。
腰を少し超えるくらいまで、Yさんの髪が伸びた頃、隣のクラスの男の子に告白されたそうです。
「話すらしたことないけど、Yさんの髪がどんどん伸びていくのを見ているうちに、なんだかすごく気になっちゃって・・・。
すごく急で申し訳ないけど、よかったら付き合ってください」と。
「気持ちは嬉しいけど、この髪は私の過去の恋の名残だから・・・。
付き合うとしたら、一回切って、私の気持ちをリセットした方がいいと思う。
過去の恋を引きずったまま、付き合うのは失礼でしょう?」
「じゃあ、今までは過去のために。これからは自分のために伸ばしてください」
ということで、新しい恋をスタートさせたYさんは、新しい彼と一緒に残りの高校生活を過ごし、
ヒップに届くまで伸びた髪で、新しい彼と手をつなぎながら高校を卒業していきました。
Yさんの恋心のように、真っ直ぐでたっぷりした髪が印象的でした。