醜髪集

熊野 作

平安の世を慕ひつつ梳る

髪はやうやく腰まで届けり

*梳る=くしけずる

黒髪に雪降り初めしが懲りもせず

伸ばしたき想ひさらに変わらず

 

不思議やな 若き時より艶多し

椿油の効果に驚く

 

熱風を当てつつ乾かす吾が髪の

傷まぬやうにとゆるく施すも

 

美しき髪になるやう まじないを

かける如くに髪梳る

*梳る=くしけずる

 

若き日に比べると細く腰のなき

今の髪ではいくばくぞ伸ぶ

 

「切れば」とふ 他人事のやうに忠告す

吾が決意を踏みにじる一言

*他人事=ひとごと

 

洗ひ髪 生乾きなれど平気にて

伏せるわが背に座りたる猫


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