『呼吸』
藤也 葛
少しずつ長くなる夜は尾を引いて
肌に感じる寒さはより強くなっていきます
うすぼんやりとしてまだ動き出さない朝は
誘われて外に出る私の歩調を遅く、遅く、遅く
体内に招き入れた酸素はいつもより澄んで
どこか水を含んでいるのは昨晩の雨の所為でしょう
それは確かに髪を湿らせ
心なしか私の体を重くする
差し入れた指を滑らせれば
鋭く少し痛いのは何故
それはきゅっと小気味のよい音を立てるので
音のない朝にそれは丁度お誂え向き
音のない朝、背に流れる黒髪は濡れて輝きを強めるから
音のない朝、私は静かに整っていくのです
(2002/10/20 投稿)