Oscar De La Hoya vs Ike Qurtay
Special

オスカー、アイク、歴史的名勝負をありがとう!!

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De La Hoya


29-0
24
25
180cm
223W 158RSC 5L






Record
KO's
Age
Height
Amateur record


Quartey


34-0-1
29
29
175cm
50W 4L

●PREVIEW日記
これから、2月13日(日本時間14日)の試合当日まで、展望記事をアップし続けます。

1.

久しぶりに、本当のスーパーファイトが見られる。ボクシング・ファンでいてよかったと思うのは、こういう試合がじわじわと近づいてくる快感を味わうときだ。

デラホーヤとクォーティ。この両雄が正真正銘の強豪であることは、ボクシング・ウォッチャーなら説明不要だろう。S・フェザー級にはじまって、ウェルター級にまで増量する過程で、ボクシング史上かつてないほど洗練された体作り、スタイルの洗練、そして戦力の向上を見せつけてきたゴールデンボーイ<fラホーヤ。対するクォーティは、名王者と謳われたクリサント・エスパーニャを壮絶なKOに下してWBAウェルター級王者になって以来、堅牢なスタイルと圧倒的な強打で7度の防衛を積み重ねた(唯一の苦戦が、ドローに終わったホセ・ルイス・ロペス戦だったが、ロペスはメジャータイトル戦では不運に見舞われ続けているものの、実力的にはスーパースターのひとりだ)。

デラホーヤがこれまでに戦ってきた相手の中には、チャベス、ウィテカーをはじめ超ビッグネームも数多い。しかし、厳密に言えば、彼らのほとんどは戦力的にピークを過ぎていた観もいなめない。その点、クォーティは十分にベストパフォーマンスを見せてくれる可能性がある(正直言うと、この対戦がせめてあと1年早ければ、クォーティにとってはよりベターだったろう。その点がデラホーヤ陣営の狡猾さであり、凄いけれど、共感できないところではある)。デラホーヤにとっても、この試合ははじめての真のスーパーファイトなのだ。(1/31)


2.

クォーティには、シンプルなスタイルの魅力が凝縮されている。ガードを高く上げ、肘をがっちり固め、ぐいぐい前進。速くて強いジャブを、びし、びし、びしと放つ。並みの世界ランカーなら(いや、現S・ライト級王者ビンス・フィリップスさえ! )このジャブを数ラウンド受けただけでぼろぼろにされてしまう。そしてひとたびチャンスをつかむや、まさにサバンナのライオンのような急襲!

きわめて高い身体能力を根拠とするクォーティのボクシングには、欧米人や日本人が「アフリカ」という大陸に寄せる夢が体現されている。僕は、サッカーW杯でカメルーン・チームやナイジェリア・チームに見た運動能力のユートピアを、クォーティにも見るのである。

一方のデラホーヤは、出自はメキシコ系とはいえ、アメリカの匂いの充満するボクサーである(彼ほどスペイン語が似合わない「メキシカン・ボクサー」がいるだろうか?!)。絶え間ない自己克服、つねに目標を立てたトレーニングによるスタイルの変貌、近代人的勤勉さ、その上あの爽やかな弁舌……。デラホーヤほど、アメリカン・ハードワーカーのディシプリン(修練)を感じさせるボクサーもいない。

アメリカではサッカーがさほど盛んではないため、「米国対アフリカ」という図式はスポーツではなかなか実現しない。ボクシングは両大陸のトップアスリートが真正面から火花を散らしうる、意外に稀有なジャンルかもしれない。

実際には、過去アメリカとアフリカの頂点ボクサー対決では、アメリカの方が分が良い。古くは、エミール・グリフィス(米国)がディック・タイガー(ナイジェリア)から世界ミドル級王座をKO奪取した。アズマー・ネルソン(ガーナ)も、パーネル・ウィテカー(米国)をとらえきれなかった。

今回のデラホーヤ−クォーティ戦に際して一番思い出されるのは、シュガー・レイ・レナード(米国)がハーンズ戦を前にして、アユブ・カルレ(ウガンダ)をストップした試合だ。まあ、大天才レナードとしては順当な結果なのだろうが、僕はカルレのポテンシャルも高く買っていたのだ。実際、この試合では、カルレも随所にスーパースターたりうる技量とセンス、そしてパワーも見せた。

それでも、レナードの牙城は全く揺らがなかった。当時僕はこういう試合内容になった理由として、レナードの力量もさることながら、カルレがずっと「本場」アメリカの圏外で戦い続け、しかも試合数も随分と少なかったことにより、ベニテスやデュランとしのぎを削ったレナードに差をつけられていたことを思わないわけにはいかなかった。

クォーティも、あの頃のカルレと同じような状況にある。ホセ・ルイス・ロペス戦で勢いも止められた観もある。そういう面から見ると、(負傷で試合を延ばしているとはいえ)デラホーヤの上昇気流の方がはるかに勢いはあるように思えるのだ。(2/1)


3.

さて、両者の戦力を分析してみよう。以下に、この試合において勝敗のキーとなりうるファクターについて、デラホーヤとクォーティを個々に比較してみる。

●ジャブ

この試合で最大のみどころは、両者のジャブ比べだ。デラホーヤとクォーティは、全階級を通じても群を抜いたジャバーである。どちらかのジャブが明白に優位ということがあれば、試合の趨勢に大いに影響するだろう。

ジャブの強さという点では、明らかにクォーティだ。問題は、この強さがどれほどかだ。クォーティは、ジャブだけで世界ランカーをKOする力がある。ビンス・フィリップスは「クォーティのあまりの圧力とジャブの強さに衝撃を受けた」と語った。

だが、ホセ・ルイス・ロペスは、クォーティが間断なく繰り出すジャブを平然と両グラブで受け止め、逆に前進してガーナ人を痛めつけた。

フィリップスが弱いのか(といっても、現役世界王者だ)、ロペスが強いのか(といっても、メジャー・タイトルは取れずにいる)。クォーティのジャブが強力なのは周知としても、その「程度」はなかなか測りかねる。

クォーティのジャブで、デラホーヤがフィリップスの感じたような圧力と威力を感じるようなら、ゴールデンボーイは今まで味わったことのないような苦戦をしなければならないだろう。いずれにせよ、クォーティのパワーは、ミゲルアンヘル・ゴンサレスやチャベス、ウィテカーとはまるで違うはずだ。

だが、デラホーヤのジャブにはスピードと伸びがある。そして、(ゴンサレス戦で見せたような)白熱するタイム感がある。リーチも、デラホーヤが優っている。もしもデラホーヤのジャブがコンスタントにクォーティのガードの間を割るようなら、固いブロックの陰に隠れた意外にもろいアゴが、早い段階で破綻を招くかもしれない。

いずれにせよ、本質的にタフではない両者にとって、ジャブの制空権争いは極大の重要性を持つことになろう。

●スピード

ともに十分な強打を持つ反面、もろさもあるとなれば、スピードが重要なファクターとなってくるわけだ。上で述べたジャブの戦いを制するためにも、スピードは当然重視される。そして、デラホーヤもクォーティも非常に速い。ハンドスピード、フットワーク、ボディワーク、どれも超一流と言っていいだろう。


単純に比較すれば、ハンドスピードはおそらくデラホーヤの方が速い。しかし、パンチとパンチのつなぎ、上下の打ち分けのスムースさを考えれば、クォーティも十分対抗できるだろう。

デラホーヤがコンビネーションを高速で爆発させることができるのは、相手が弱ってからだ。それまでは、ジャブとストレートを単発ながら猛烈な速さで放ちながら慎重に様子を見るのがデラホーヤの基本スタイルと言える。クォーティがロペス戦の時のような単調なジャバーになることを避け、あの強烈なボディブローとジャブをなめらかに織り交ぜながら戦えれば、デラホーヤがハンドスピ−ドがあるからと言って、ジャブやストレートで容易に優位に立つわけにもいかないだろう。

デラホーヤのスピード対クォーティのスムースネスが、試合開始ゴングが鳴ってからしばらくの間の最注目事項と思われる。

<つづく>(2/3)


●体格

デラホーヤ自身、今回の試合を今までにない試練と意識している。「今度こそ僕が負けるんじゃないかっていう声が聞こえているよ。OK、僕はそういう試合を望んでいたのさ。もちろん、クォーティはタフな相手だ。究極の強敵だと思う。これまでになく苦しい試合になると思っているよ」(デラホーヤ)

当初昨年秋にセットされていたこの試合が、この時期にまで延期された表向きの理由は「デラホーヤのキャンプ中の負傷」だが、どのような負傷だったのかは明らかにされていない。それだけに、「試合ができなかったわけじゃないだろう。ただ、僕に勝てそうにないと思ったから、とりあえず延期したんだろう」というクォーティの発言もそれなりの説得力を帯びてくる。

いずれにせよ、デラホーヤは負傷したというよりは、なんらかの理由でコンディション不良だったようだ。しかし、試合が延期されたことは、かならずしもデラホーヤの「弱さ」を意味しない。これまで、したたかなまでに強豪とのマッチメークの時機を選び、成功してきたデラホーヤだ。この3ヶ月の間に、クォーティ戦の勝算を大きく膨らませる作業をしているかもしれない。

それを裏付けるデラホーヤの発言もある。「(クォーティは)ミドル級並みのパンチャーだ。僕はウェイトを増す必要がある。クォーティに体力負けしないようにね。クォーティはあの体力で、リング上で相手をひきずりまわすんだ。僕はウェイトを増して、クォーティをひきずりまわしてやる」(デラホーヤ)

デラホーヤは驚くほど巧みにS・フェザーからライト、さらにS・ライト、ウェルターと増量してきた。これだけの階級で戦いながら、どのクラスでも体格負けしたことは決してない。S・フェザー時代に一度ヘナロ・エルナンデス(当時無敗&全盛のS・フェザー級王者だった)との対戦が決まりかけたが、突然キャンセル、ライト級に転向し、ヘナロとの体格差が生まれてからおもむろに再度対戦話をまとめ、完勝している。

昨年11月に試合延期を決めたときは、思うように体が大きくならなかったのではないか。すでに普通のウェルターウェイトには体力負けしないデラホーヤだが、クォーティの体力はまた破格だ。というより、体力こそがクォーティの最大の武器と言って良い。ホセ・ルイス・ロペスに大苦戦したのは、ロペスの力量もさることながら、ロペスもまたとんでもない体力の持ち主だったことが大きな理由のひとつだろう。デラホーヤは、一度体をミドル級並みに大きくしてから絞り込み、クォーティのこの最大の「武器」を封じるつもりなのだろう。

計量の際、デラホーヤがどんな体で出てくるのか、考えるだけで興奮してくるではないか。(2/5)


4.

一昨日のデラホーヤの談話として、「この試合が僕のボクシング人生の本当のスタートだ」という発言が報道された。「これまで僕は、何年間も準備をしてきたような気がする。今こそ、本当のテストを前にしているんだ」というのだ。

チャベスとの2試合、ウィテカー戦を「準備」と言い切ってしまうあたりがデラホーヤの凄いところだが、彼の言う通りだと思う。上にも述べたが、チャベスやウィテカーはベストウェイトはウェルターではなかったし、デラホーヤと戦った時はすでに明らかにピークを過ぎていた。「クォーティは若いし、無敗の元世界チャンピオンだ。評論家たちの評価も、最強のひとりということになっている。彼は、真のチャレンジを与えてくれる予感がするよ」(デラホーヤ)

かねてから、「強力なライバルたちと、アリの時代のように勝ったり負けたりしながら名勝負を作り出してゆきたい」と語っているだけあって、デラホーヤはかつてない強敵クォーティを迎えても、敗北への恐れを少なくとも表面には出さない。「僕の最高のコンビネーション、最大のパワー、最高のスピードを、クォーティが引き出してくれるだろう。だから僕はこの試合が楽しみでしょうがないんだ」

そんなことを言うのは、むろん自信があるからでもある。負けても良いと気持ちなどさらさらない。「クォーティはたしかに強いんだろうけど、限界もある。彼は真っ直ぐ立って、そのまま前進してきて、相手を踏みつぶそうとするスタイルだ。僕は、いろいろな角度からクォーティにアプローチするよ。彼と戦うときは、注意深くならねばならない。とてもパワーがあるからね。僕は頭脳で上回る必要があるね。今回勝てば、僕の能力に疑問を持つ評論家をある程度黙らせることができるだろう。でも、それだけじゃ不十分さ。完全に彼らを納得させるには、引退するまで無敗でい続けることだ。そうすれば、何の問題もなくなるだろう」(デラホーヤ)

デラホーヤには、この試合は「真のボクシングの始まり」ではあるが、出発点とは、最初の通過点に過ぎないのだ。(2/8)

5.本業多忙のため、2日間さぼってしまいました。さて、いよいよ迫ってきたこの決戦、より具体的に勝敗予想してみよう。

まずは、ブリテンボードの呼びかけに応えてくださった「さきゃ」さんの予想をここに転載させていただきたい。

>>募集カードの予想は[...]
>>クオーティー KO10R です。
>>希望的観測が大きいがアイクの一瞬のスピードはホーヤを凌駕する。
>>ホーヤは顎に不安がある(アイクはもっとあるが)。
>>ホーヤはコンディションに不安がある(延期は悪いほうに行くだろう)。
>>ただしホーヤは8Rぐらいまでは一方的に進める力は有る。
>>顎に不安のあるアイクがどれだけダメージを蓄積させずに好戦的になったホ
>>ーヤのKO狙いにつけ込めるかが鍵だろう。
>>安全運転されたらホーヤの判定は揺るがないが、ホーヤの過信にはつけ込む
>>余地が有る。

さきゃさんの予想は、ひとつの見方を代表しているようだ。つまり、各メディアやWEB等で見られる予想記事では、「デラホーヤが安全策をとれば勝算大だが、過信から打ち合って墓穴を掘るのではないか」というものが少なからずある。

なるほど、それもありえる展開だ。たしかに、最近のデラホーヤはやや自信過剰に見えるほどの打ち合いをする。対チャベス第2戦でさえ、「単に勝つだけではなく、打ち合って圧倒しなければ意味がない」とばかり、偉大なるJCスーパースターを真正面からつぶしにかかった。結果的にデラホーヤは、現時点のチャベスをほぼあらゆる意味で上回る戦力を証明した。

先のチャベス戦だけではない。この頃のデラホーヤは、「単なる勝利以上の何か」を求める戦い方をする。そして、実際その「何か」を獲得してきた。だからこそデラホーヤの試合は、力量的に格下を相手にしても魅力があるのだろう。

今回はどうだろう。デラホーヤはクォーティ相手にさえ、「勝利以上の何か」を求めてくるだろうか? もしそういうことがあれば、たしかにクォーティのチャンスは広がるかもしれない。単純に考えても、クォーティのハードパンチがデラホーヤの強くないはずのアゴやボディーを打ち抜く可能性は高まるわけだ。

もっとも、僕はさきゃさんとは異なり、「一瞬のスピード」や「ハンドスピード」はデラホーヤの方が上なのではないかと思っている。シャルパンティエを寄せつけなかった左フックやアッパー、リベラを驚愕させた異次元のかなたからの右ストレート、ああいったパンチは本当速くて強い。しかも、クォーティをめろめろにさせたロペスの右ストレートや左アッパーに酷似したパンチだ。「体を大きくしてクォーティを追いかけ回してやる」というデラホーヤの「予告」は、おそらくクォーティ−ロペス戦を研究し抜いたところから出した結論だろう。

したがって、顔面へのブローの交換では、たとえデラホーヤが過信気味に攻めてきたとしても、デラホーヤがスピード勝ちするのではないだろうか(単純に言ってしまったけど、すごい攻防になるだろうな、どきどき)。

僕は、クォーティの勝利の鍵はボディーブローにあると思う。デラホーヤはデビュー当初無名にダウンを食ったりもしていたことで、「じつはグラスジョー」というのが定説になってしまっているが、むしろ本当の弱点はボディーだ。デラホーヤはたしかにダウンの経験はあるが、本当に効いたダウンではない。むしろ、力んだところにパンチを食って転んでしまったという感じだ。しかも、ウェイトを上げるほどに耐久力もついてきているように見える。S・フェザーで打たれ弱かったアゴが、チャベスのパンチを何発かはまともに受けても平然と立っていたのだ。

デラホーヤの顔面は、それなりに頑丈になってきている。体力もつき、精神も安定し、技術的にもバランスが良くなり安定してきたことによるものだろう。少なくとも、クォーティの一発で、デラホーヤがトーマス・ハーンズのような「ブギウギ」を踊るシーンはそう簡単に訪れるとは思えない。

しかし、デラホーヤのボディーの強さにはかなり疑問が残る。ミゲルアンヘル・ゴンサレス戦で、前半はもうどうしちゃったのかと思うほど凄いジャブで圧倒していたデラホーヤが、後半急激に失速したのは「三太」がメキシカンらしく執拗にボディーブローを打っていたからだった。チャベスとの戦い(特に第2戦)でも、JC得意のボディー打ちは相当にデラホーヤを嫌がらせていた。ローブローを食ったときに、ひどく大袈裟に抗議していたのも、ボディーを打たれることを恐れていることから来ていたのではないか。

クォーティのボディーブローの威力は、チャベスやゴンサレスを確実に上回る。ガーナ人が大試合の雰囲気に呑まれず、デラホーヤのスピードと気迫(そしてはったり)に動じずにボディーブローを打ち続けることが出来れば、中盤までに大きなチャンスを作ることが出来るだろう。(2/11)


6.

いよいよあと2日。どんな試合になるのか、思いは巡る一方だが、ここはひとつ、僕の「予想」を明確に打ち出しておこう。

クォーティの勝ち

に一票を投じたい。中盤のKOか、小差判定でガーナ人がデラホーヤに初黒星をつける、と見る。

理由のひとつは、上に述べたように、クォーティのボディ打ちがデラホーヤには脅威であろうということ、それから、「さきゃ」さんがおっしゃる通り、デラホーヤにはなんらかの意味で「過信」があるだろう、ということだ。

クォーティの最新の試合は、もう16ヶ月前になるが、ホセ・ルイス・ロペス戦だった。この試合で、クォーティは多少なりとも「敗北感」を味わったはずだ。ロペス戦でクォーティの「勢いが止まった」という面もむろんあるだろうが、僕はむしろ逆の要素も大きいと思う。

メキシコの怪物の逆襲をどうにか得意のジャブでしのぎ切ったあの試合で、クォーティは多くのことを学んだはずだ。鉄壁のはずの己のガードが意外にルーズになるのはどんなタイミングなのか。相手のパンチが効いてしまったとき、自分が取りうる処置にはどんなパターンがあるのか。

あの試合の前、クォーティは風邪をひいてしまった。コンディション不良でリングに上がることの恐ろしさも、あらためて感じたのではないだろうか。また、初黒星に限りなく接近したあの試合で、「敗れる」こととはどういうことなのか、疑似体験もしただろう。そして、敗北を避ける手段をいくつか学んだはずだ。

リングの格言のひとつ(なんだそれは)に、「無敗のボクサーはもちろん強い。だが、敗北を知って、それを糧とする者はもっと強い」というのがある。レナードはデュランに負けて、試合運びが数段うまくなった。渡辺二郎はキム・チョルホに負けて、数段洗練されたボクサーになった。無骨なスタイルのクォーティだが、ロペス戦から学習する能力は十分に持っていると見る。

一方、デラホーヤはこのところ「楽勝」とは言わないが「完勝」が続きすぎているのではないか。すべてがデラホーヤの予想可能範囲の中にあった。すでに何度も言ったように、クォーティはデラホーヤが事実上始めて迎える「ほぼ対等」の相手だ。そういう戦いを勝ち取るためには、実戦で胸突き八丁をもう少し経験している必要があるのがボクシングというものではなかろうか。

もうひとりの天才、ナジーム・ハメドでさえ、世界の真の一流ボクサーと戦うようになってからは、ダウンを跳ね返し、危機を生き延びる修羅場のテクニックとガッツが要求されている。まして、デラホーヤはハメドほどの身体的天才の持ち主ではないし、ましてロイ・ジョーンズのような宇宙人的スピード&パワーの持ち主でもない。デラホーヤを天才にしているのは、スタッフも含めた素晴らしいボクシング理解力と驚嘆すべき自己鍛練だが、今回のクォーティ戦では「予定通り」だけで済むとは思えない。

デラホーヤはクォーティに勝つだけの能力は持っているだろうし、その方法は何通りかあるだろう。しかも、デラホーヤはそれがわかっているだろう。しかし、頭の中では見つけたとしても、それを完遂できるだろうか。理屈としては、デラホーヤ自身も言っている通り、「直線的なクォーティに対して多面的に動く。しかも体力負けしない。全体のスピードでは上回る」というようなことはおそらく可能で、そうすればクォーティもたしかに苦しむだろう。

だが、試合では、実際に勝利を手にする瞬間まで、その作業を続けなければならないのだ。その過程では、序盤でKO勝ちでもしない限り、大きな失敗もいくつかは起こる。チャベスやウィテカー、ゴンサレス、リベラには、そこにつけこむだけの武器がなかった(彼らは皆、対戦当時のデラホーヤにとっては小柄で非力な相手だ)。

クォーティは違う。デラホーヤがディフェンスの間合いを間違えれば、いっぺんに試合を決めるだけの強烈な攻撃力と爆発力を持っている。現時点のデラホーヤがクォーティを封じるには、完全な慎重策を取るしかないだろう。適当な慎重策ではなく、徹底的に足を使い、明白に防御に重点を置いた戦法だ。けれども、デラホーヤがそこまで「臆病」になれるとは思えない。

ゴールデンボーイはある程度前にでてくるだろう。立ち上りは小刻みで激しいフットワークと鋭いジャブでペースを一方的に握るかもしれない。しかし、おそらく2回か3回、クォーティの右がデラホーヤの顔面かボディを激しくとらえるのではないか。そこから一気に形勢逆転、クォーティの圧力のあるジャブとしなやかで強いコンビネーションがデラホーヤを後退させ続ける展開に変わる。中盤でのストップに結びつくかもしれない。

8回までにクォーティが倒せないときは、ようやくクォーティの強さを真に悟ったデラホーヤが(ゴンサレス戦後半のような)アウトボクシングに転じる可能性はある。そうなれば、終盤のポイントをデラホーヤが取って、小差の判定勝負になる可能性もある。それでも、再逆転はないのではないか。

僕が思い描いているのは、レナード−デュラン第1戦だ。ともに最高に偉大な選手だが、レナードの方が勝利の材料を多く持っていた。ただひとつ、墓穴を掘った要因が、レナードが無敗であったという点だ。レナードは真正面からでもデュランを攻略できると思ったが、2回、予期せず食らった右フックでロープ際まで吹っ飛ばされ、そこからリズムを失って小差の判定を落とした。自信過剰は、ほとんどの場合ボクサーにとって美徳であり、長所である。とりわけ若く才能があり、上り坂のボクサーは自信過剰でなければならない、とさえ思う。そうでなければ、彼は本来自分が達すべき場所に到達できないかもしれないのだ。けれども、相手もまた最高のボクサー(で、しかも自分よりもキャリアがある)の場合、それはやはり敗因となりうるのだ。(2/12)

●関連リンク

デラホーヤ戦績(3615, Boxing Avenue)
クォーティ戦績(3615, Boxing Avenue)
デラホーヤ・プロフィール(Boxing on the web)
クォーティ・プロフィール(Boxing on the web)
トップランク社によるデラホーヤのサイト
メインイベンツ社によるクォーティのサイト
有名なボクシング専門サイト:Boxing.com。当日は実況もするらしい。
CBSスポーツラインのスペシャル。充実してます!

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