鉛筆とクマ 天塩岳前夜 〜天塩岳ヒュッテ泊〜 (1998年 8月 22日)


その1. はじめてのヒュッテ泊

 本日は初めてのヒュッテ泊です。じつはちょっと緊張しています。 だって、本日は初めてのヒュッテ泊だからです!

 前泊はもう慣れっこなのですが、今までのキャンプ場とは勝手が違い、今夜のお泊まり 「天塩岳ヒュッテ」は皆さんと同部屋のザコ寝です。しかも、どれくらいの人が泊まるのか予想がつきません。 もし人が多いと、場所的にも精神的にもキツイので、一応 テントも持って出掛けました。

 じつはヒュッテどころか、シェラフ泊が今回初めてとなる 叔父と合流し(今回も一緒ね!) PM12時20分 我家を出発、叔父がくれるであろうガソリン代を当てにし (ニヒヒヒ〜♪)、今回は久しぶりに高速を利用。 愛別町からこれまた初めて通る道を行き、16時23分、天塩岳登山口前のヒュッテに到着しました。

 やはり最初に気になるのは、どれくらいの人で賑わっているかどうかです・・・がっ!ヒュッテ前の駐車場には2台の車が止まっていましたが、どちらも登山者の方で、予想に反してヒュッテの中はシーンと静まり返り、 そうです、だぁーれもいなかったのです。

 「お!これは私達の貸し切りかぁ?」 「まじでーー?」 気合を入れてきた割には、ちょっと拍子抜けです。

 人が多いのもそれなりに嫌なものですが、私達だけってゆーのも とてつもなく心細い気がします。(だって、へなちょこりんなんですもの〜!) わがままゆーなって・・


 ではここで、本日のお泊まり「天塩岳ヒュッテ」について少し御説明いたしましょう!

博士と助手の図

 で、今日の寝床はどちらにするかいな?という事ですが、1階にはストーブがありましたがヒンヤリとしていて冷たく、2階の方がポカポカと暖かかかったので、今夜の寝床は言うまでもなく2階に決定!とあいなりました。

 荷物を全て運び入れ、ホッと一息ついていると、下で何やら人の話し声がしてきました。 おっ!どうやらもう一組 泊り客が到着した模様ですぞ!
 「1階にしてくれると、一部屋貸し切りで泊まれるんだけどなぁー。」などと、私達は急に気が大きくなり、またわがままな事を考えていましたが、やはり、その人達は暖かい2階へと上がって来ました。




その2. カニ鍋と巨大ぶどう

恵みの神様、ご夫婦様 トントントンと、階段を上がって来たのは30代半ばくらいのご夫婦で、ダンナさんは長身でちょっと白髪交じりの短髪、奥さまは反対にキュッと小柄の細身で、メガネをかけたボブヘアーの方でした。

 雰囲気としては、大学生のカップルがそのまま10年以上経ったような感じのご夫婦です。 (←変な例え・・)

 「こんにちは、よろしくお願いします。」と軽く挨拶を交わし、そのご夫婦はテキパキと慣れた手付きで寝床の準備をして直ぐ、夕食の準備に1階へと降りて行きました。


 「じゃあ、私達もそろそろ食事にしますかー。」

 ・・・と、家から持ってきた大きなホーローのやかんでシュンシュンとお湯を沸かし、(よっ!) カップにトクトク注ぎ入れ、(どっこい!) 3分待って召し上がれ。(あ どーした!) 「フーフー、ズルズル、ゴックン」と、(それ!) アッと言う間に食べ終わり、(ほい!) 確かに物足りなさはありますが、(ありゃ!) まぁまぁ、お手抜きシスターズと呼ぶなかれ、(うひ?)  たまに食べるカップヌードルって本当に美味しいんですよねー、これが。 (・・・結局、お手抜きやーん)

 すると少ししてダンナさんだったでしょうか、「今鍋を作っているんですが、良かったら御一緒しませんか?」とお誘いを受けたのです。 (ななな、鍋ですと〜!?)
 「ありがとうございます、ぜひ!」と、物足りなさがあった私達は即座にそのお誘いを受ける事にしました。

 「自分達の皿とハシだけ持ってきて 」という事でしたので、割り箸と、先ほど食べたカップヌードルの空のカップを各自手に持ち・・・では、さすがにカッコ良すぎるので、雑貨屋で買ったスチール製のコップ(←しかも可愛いイラスト付き)を手に取り、私達はアホ面揃えて階段を降りて行きました。

 あたりは夕焼けで日が赤くなり始めています。
・・・プーン。 おっ、じつにいい匂いがしてきましたぞ! しかも、1階のベンチに座り 中を覗き込むと、なななーんと! そこには燦然と輝く、カカカ、カニさんが入っているではないですかっ! (やった!タラバガニだ〜!)

 まさかこんな場所で、こんな御馳走にあり付けるなんて思ってもみません。
ご馳走、その 1 もう心の中では万歳三唱の嵐です。

 「どうぞ遠慮しないでたくさん食べてください。」 「すみません・・じゃあ、いただきます。」と、私達は遠慮しがちな顔はしつつも、しっかりと自分の分のカニをゲットしていたのは言うまでもありません。

 ご夫婦は恵みの神様、仏様です、どうもご馳走様でした。


 お腹もパンパンになり2階へ戻ると、今度は 「どうぞこれも食べてください。」と、ドーンと箱入りで ブドウが出てきました。しかも、また中を覗き込むとビックリ! だって、こーんな大きなブドウなんて今まで見た事あるでしょうかっ!? (いや、ないぞ!) いくら口でチューチュー吸っても中から出てきやしません。そりゃ当たり前です、それは皮を剥いて食べる、直径3cmはある雫型のブドウだったのです!

 しかも食べてみると、これがまたじつに甘い甘い。 シュワ〜と甘〜くて、ジュワジュワ〜っと みずみずし〜〜くて、とーっても美味しいブドウなんですよねー。 ほらほら、読んでる皆さんもヨダレが出てきてるんじゃないですか?

ご馳走、その 2

※ きっと、ちゃんとした名前があるのでしょうが、教養のない私達には゛巨大ぶどう"としか言いようがありません・・。



その3. 奇特なダンナさん

 美味しいブドウをいただきながら色々話をしていると、このご夫婦はお仲間とよくここへ来られるそうで、「今日もきっと誰かいるだろう 」と宴会用の鍋一式持ってやって来たそうなんです。 (へなちょこ4人組でも、人がいてくれて助かったようですよ)

 奥さまの方は宴会がメインで、「明日の登山は無理だったら途中で引き返すつもりでいる。」とおっしゃっていましたが、ダンナさんの方はベテランらしく、私達は今までの山行や熊を見た話とか興味深く聞いてみたりしました。

 すると姉が突然、「愛別岳」の危険箇所を聞いたり (←実際に登ったのは2000年ですが、この頃から狙っていたのですね。どんな場所かパノラマでも見てみます?)、「シェラフはやっぱり羽毛がいいですか?」と色々聞き始めたのです。これは当時私達のシェラフが化繊のせいもあったのでしょうが、将来的にテント山行を頭に入れての質問だったように思います。

 するとダンナさんは、「ええ、やっぱり羽毛がいいですよ。 妻のは4シーズン用で暖かく、普段 家でも昼寝用に使っています。 で、よくシェラフをたたんで袋に入れる人がいるんですが・・・。」と、ダンナさんはズルズルズルと自分のシェラフを持ってきて、

 「私のシェラフは本体に収納袋が付いていましてね。 こうやって、ギュッギュッて、たたまずにどんどん押し込んでいけば簡単に収まるんですよ。」と 実演販売さながらに目の前でやって見せてくれたのです! (わおっ!) 偉業、その 1


 シェラフはみるみる袋に収納されていきます。 私達は拍手喝采で、思わず 「よし、それ買った!」と、口から出そうになりました。


 ・・しかし 驚くなかれ、ダンナさんの偉業はまだまだ続きます。

 叔父はこの日の為に シェラフ・シェラフマット・コッヘル・ランプなど一式購入したのですが、お店で買ったそのままの状態で (←ビニールがぶっている) 何も開けずにそのまま持ち込んで来たせいか、シェラフの袋のヒモがきつーい堅結びになっていて、「あれ!開かない!」と聞きつけては、ダンナさんがピュッと飛んできてヒモをほどいてくれたり。

 はたまた、私達のシェラフマットは口を開けると自然に膨らむタイプだったのですが、叔父のは違うタイプで、「あれ!膨らまない!」とまた聞きつけては、ピュッピュ〜ッと飛んできて「これは息を吹いて膨らませるんです。」と・・言うだけじゃなく、フーフーフーと自ら口を付けて膨らませてくれたのです。 (なんとっ!そこまでしてくれるとは! そんな事くらい私達だって知っていたのにっ!!)

 他人の持ち物に口を付けるなんて、そうそう出来たもんじゃないですよね。これは本当にすごい事です。

偉業、その 2・その 3 
 「奇特な人」と言うのは、きっとダンナさんの為にある言葉なのだと思います。
食事から寝床の支度まで至れり尽せりで、いくらお礼を言っても足りないくらいです。 本当に本当にありがとうございました。




その4. そして、おやすみなさい・・

 まだ寝るには早い時間ですが、寝付けなかったら嫌なので、私達は早目にシェラフの中へと潜り込みました。 私達が寝る態勢に入ったのですから、ご夫婦達も起きてるわけにはいきません。これがザコ寝のツライところですね。 

 結局最後に潜り込んだのは、シェラフ泊が初めての叔父だったのですが、叔父はお行儀良く(?)ランニングとステテコパンツ姿で、ランプを消したり、「おっと、これじゃあ真っ暗だ!」とヘッドランプを探したり、ちょっとウロウロしていましたが、何とか無事にシェラフにたどり着いたようです。(さすがにこれは、ダンナさんのサポートはありませんでした)

 そして、イビキ・歯ぎしり・寝言でうるさいかどうかは、早く寝たもの勝ちと言うわけで、まさにこれは全員が敵同士の真剣勝負なのです。 (同室はキビシー!)


満天の星空〜♪
でも星空は最高に綺麗でしたよ

(トイレは外、炊事場の奥にあります。ヘッドランプは必需品!)



くま 翌日の 「恩を仇で返した登山編」 へ続く!




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