それは、1997年10月、尻別岳に登った時の事です。 北海道の10月と言えば、カラフルに山を彩っていた木々の葉もすっかり抜け落ち、一仕事を終え茶色く色あせた沢山の枯葉が、まるで落ち葉のジュータンを敷き詰めたかのように登山道にあふれていました。
ザッ ザッ ザッ と落ち葉のジュータンをこぎながら歩いて行くと 「ゴォーーーー」という音が聞こえてきました。 ふと立ち止まり目線を前方に移すと、登山道の両脇と山の斜面を埋め尽くした胸丈ほどもある笹たちが、風に体をまかせ気持ち良さそうになびいています。 「ゴォーーーー」「すごいねー。トトロの風の通る音がするね。」と姉。 「そうだね、ねこバスが通り抜けているんだね!」と私が返します。
トトロの世界はアニメの中だけのものと思っていたのに、まさかこの山で実際に体験できるとは思ってもいませんでした。もう2人の頭の中はトトロモードとなり、歩こーう、歩こーう、私は元気ぃー♪と、「さんぽ」の曲に合わせて、足取りも軽くなってゆきます。 山頂手前の急登では、さすがにトトロモードもぶっ飛んで行きましたが、山頂では人も少なく後半は私達の貸し切り状態となり、久々の開放感です。 「あー 気持ちいいー。」隣にそびえる羊蹄山の雄大な姿をゆったりと堪能した後、登山道を下っていくと、また 「ゴォーーーー」という風の音がしてきました。2人の頭は再びトトロモードへと変わりかけ始めたのですが・・・。
「ん?」 ・・・待てよ、ちょっとおかしいぞ? 確かに風は吹いているが、笹の揺れがゴォーーーーの音に比例してないし、音も何だか定期的になっているような気が・・・。 (これは、ひょっとすると・・・)
「あーーーーっ!! 違うよぉ、風の通る音なんかじゃないよォーー!」
そうです、ここは尻別岳・留寿都コース。今まで風の通る音だと思ってはしゃいでいたのは、何てことはない、ただのルスツリゾートのジェットコースターの音だったのでした。
こうして私達のトトロの世界は、はかなくもポロポロと音を立てて現実の世界へと見事に崩れ落ちて行ったのでした。
尻別岳よ 短い夢をどうもありがとう