預金封鎖「統制経済」へ向かう日本 副島隆彦著
日本の株は、2003年4月28日につけた日経平均株価7607円の底値をつけた後、上がりだした。日本株上昇の背景にはヘッジファンドなどの投機集団が、ブッシュ政権の誘いを受けて6兆円(500億ドル)を日本株に投入した。アメリカでは、イラク戦争(3月19日開戦)開戦直前の3月11日にニューヨークダウが、7524ドルを底値にして上昇をはじめた。ここに、ブッシュ政権が意図的かつ計画的に仕組んだ景気回復のシナリオが存在している。これはきわめて政治的な、人為的な、人工的な株価のつり上げであった。日米両政府による人為的な株価のつり上げ操作は、来年末(2004年11月)の大統領選挙まで続くと見なければならない。ブッシュは再選されるためならば何でもする。アメリカ政府が国民の人気取りのために、無理やりにでも景気を回復させようとして、増税ではなくて減税をやり、通貨供給量を実体経済以上に極端に増やし、かつ赤字国債を無制限に増発している。そして、盟友である日本の小泉純一郎首相を自民党総裁選ならびに衆議院選挙で勝たせるために応援する。だから来年末までの短期の見通しでは、金融市場は堅調に上げ続ける。政治が経済を主導するからだ。
しかしこのことは、長期で見た場合の市場原理や経済原則に反している。だから2005年ごろから、世界経済の雲行きは急激に怪しくなるだろう。無理やり人工的に金融政策をいじくって、日米両国政府が、通貨発行量と赤字国債を限界まで増やした報いは、日米両国をその後恐慌状態に追い込むだろう。デフレ経済なのに、急激にインフレが加わったハイパー・インフレが日本に襲いかかる。長期(大シナリオ)ではアメリカ発の世界恐慌、すなわち現金・預貯金・債権などの紙切れ化が数年後に迫っている。
その直前に、日本政府は、銀行の取り付け騒ぎ(bank run、信用不安)を避けることを名目にして、預金封鎖(緊急金融統制令)を実施するだろう。預金封鎖とは、たとえば「1ヶ月に1人500万円までしか預金を下ろせない」というような、強制的な統制経済の手法である。日本では敗戦直後の昭和21年2月18日に預金封鎖(金融緊急措置令)を行った。この時、@預金の支払い停止ならびに封鎖、A新紙幣を発行して旧紙幣と交換、B旧紙幣の失効、C預金引出し額の制限等の措置が取られたのである。この預金封鎖をやっている間に、年率数百%の激しいインフレが国民生活を直撃したのである。
国家や官僚は、一部の国民の生命や財産を犠牲にしても、いざという時は、全体としての秩序と多数の国民の生活を守ろうとする。だから金融の統制体制に移行するとしても、日本国民の日常生活は、今後も表面上は何ごともないかのように平和に続くのである。人々は、大恐慌のさなかにあっても、まるで何ごともないかのように生活する。ただ、資産家たちの資産が強制的に奪われて社会に還元されるというだけのことである。