新・世界地図直面する危機の正体       福田和也著

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 戦前の日本は、自らの国家の存立を自力でなしとげただけでなく、アジア、極東がどうあるべきかという構想をもち、それを作り、運営をしようとしていました。それが、戦争にいたったわけですが、だからといってその経営の意志、もしくは責任感までも否定することはありません。

 戦後の日本は、すくなくとも国際社会にたいする治者としての姿勢は、ほぼすべて喪失しました。アメリカの保護のもとで、ただ自国の繁栄だけを追及してきたのです。つまりは治者が被治者になったのです。

 冷戦が終わり、日本はアメリカの保護を失いました。にもかかわらず、日本はあいかわらず、治者になる覚悟ができず、被治者のままでいます。被治者の境遇から抜け出すには、治者になるという覚悟を決めるしかない。世界情勢をおびえながらうかがうのではなく、どう動かしていこうか、と考えなければならない。相手が何をしてくれるかではなく、どうしてやろうかと考える。つまりは、世界情勢の客体ではなく、主体になるということです。どうしてやろうかという発想をもって、はじめて相手が日本をどうしたいのか、どういうつもりなのかが見えてくる。

 日本よ、統治者となれ。世界を、アジアを支配する、気概と構想をもて。その気概と構想をもとうとしないのならば、日本は一国としての存続すらできないでしょう。

世界の潮流

 冷戦後のアメリカはITで経済的復活を遂げ、マネー経済を道具としてグローバル支配を行ってきました。マネー経済で動くお金は、モノ経済で動くお金の300倍までに膨らんでしまった。グローバル経済は、結局マネー経済で、マネーが世界中をグルグル回っていること自体が非常に不安定なのです。ニューヨークの多発テロで分かったのは、数十人のテロリストがその気になれば、世界経済の息の根を止められるということです。マネー経済が、ドルを中心に動いており、一度ことが起こると危機は世界的な危機になってしまう。

 いまの世界危機の緊張要因は、経済です。世界の先進国に蔓延している不況感です。その直接の原因は、グローバル化による発展途上国、後進国の安価な労働力です。日本やヨーロッパが不況になっているのは、ヨーロッパでは東欧、アジアでは中国の、安い労働力が入ってきた、あるいは、それを利用することで先進国企業が利益を確保しようとするからです。かっての西側の先進国は、賃金を二十分の一にまで下げることはできない。だから、いくら景気対策をしても雇用が増えるわけがない。

 これからの世界はグローバル化から一転して分割化に向かう世界がやってくる。分割化の兆候としては、国連、WTO(World Trade Organization 世界貿易機関)、IMF(International Monetary Fund 国際通貨基金)という世界的な機構は、もうほとんど機能しないに等しくなっていることでもみてとれる。

日本

日本は、今までアメリカの基地と財布で快適だった。しかし戦後50年、基地と財布であり続けることが、端的に日本の国際的な地位を下げてきて、今はその財布の中身もどんどん怪しくなっています。日本人が「財布と基地でいい」とずっと甘えてきて、「日本はどういう国になるか」というグランドデザイン、国家目標をしっかり掲げてこなかったことが大きい。それを建て直すには、教育にしろ何にしろ、日本人の目的や生きるための価値をつくらなければならない。それが国家が掲げる価値であり、そのために国家をつくっていかなくてはならない。

中国が経済的に成功し、軍事力の増強を続け、政治的にアジアでのヘゲモニー(覇権)を掌握することに対して、日本は、アメリカを誘い込んで封じ込めなければならない。

日本では、世界はすばらしいという世界性善説を信じているいるために、世界戦略がない。日本の利益、国益のために世界をこう変えなければならないという発想がない。グローバル化から一転して分割化に向かう世界のなかで、日本の国運をひらくには、どう対処すべきかを考えなければければならない。いままでのように憲法を盾に、日本は直接戦地にはおもむきません、とは言い張れない。それほどの波乱と破壊がはじまるかも知れない。

アメリカ

アメリカの戦略は、大国同士、主要な勢力に互いに反目させて、そのなかで彼らに取って一番信頼できるパートナーをアメリカにし続けることである。要するにアジアにおいても、中国と日本と韓国とを全部仲悪くさせておいて、中国にとってアメリカ、日本にとってもアメリカこそが一番仲のいい国にしておく。中東においても、サウジアラビア、エジプトと、みんな仲悪くさせておいて、でもそれぞれの国にとってアメリカが一番頼りになるというようにしておく。これがアメリカの戦略の基本です。

中国

中国が安全保障上で大きな脅威だし、モノづくりにおいても大きな脅威になりました。モノづくりを、中国がいま必死でやっていてすごい勢いで伸びています。中国共産党は、共産主義の思想的な正当性がなくなってしまった。そうなると正当性を維持する方法は、経済成長しかないのです。

中国のやり方は、まず外資を入れる。外資入れて合弁企業をつくり、ここで徹底的にノウハウを盗む。そうすると今度は、そのノウハウを使って別の会社を作る。別の会社が順調に動き出すと、元の合弁企業に難癖をつけてつぶしてしまう。あるいは撤退させてしまう。