リフレはヤバい 小幡績著
リフレとは、インフレをわざと起こすことである。なぜインフレを意図的に起こすことである「リフレ政策」が悪いのか。日本経済が崩壊する可能性があるからだ。確かに日本経済は停滞している。構造的変化も必要だ。しかし、それはリフレでは実現できないし、それどころか、日本経済が破滅してしまう恐れがある。リフレが国債を暴落させる。国債が暴落するのは、円安と名目金利上昇となるからだ。国債が暴落すれば、国債を大量に保有している銀行は、経営破綻に追い込まれる。銀行が破綻あるいは、その危機に陥れば、すなわち、銀行危機になる。貸し渋り、貸しはがしとなり、中小企業はひとたまりもない。このときに、国債が暴落しているから、政府が銀行に資本注入して救済しようとしても、その資金を調達するために発行する国債を買ってくれる人がいない。それを日銀に引き受けさせようとすれば、それはさらなる国際暴落を招き、銀行の破綻は加速する。これこそ、スパイラル的金融危機だ。
日本の銀行セクターは全体で200兆円ほどの長期国債を保有しています。その国債の利回りが1%から3%に上昇すると、銀行全体の国債保有に関する含み損は10兆円前後になる。日本の銀行全体で、損失を10兆円計上しないといけないということです。10兆円の損失を計上するということは、その額だけ、資本が毀損する、つまり、減るということです。そうなると、銀行は、資本の量に応じて、貸し出しなど資産運用額を決めていますから、大雑把に言って、100兆円前後の資産を減らさないといけないことになります。融資を減らすことで解決するのであれば、日本経済から100兆円貸し出しが引き上げられることになります。貸しはがしが起きるのです。これを止めるためには、政府は銀行に資本を注入しなくてはいけません。1990年末からの日本の金融危機と同じです。そのためには、国債を発行して、政府は資金を調達しないといけません。しかし、国債の価格下落から始まった危機ですから、政府が国債を発行すれば、ますます国債が供給過剰に、金利は上昇、国債の暴落は加速します。そうなると、国債を売却できていませんから、保有している国債の損失がますます膨らみます。必要な資本注入量が急増します。しかし、この資本を注入するにためには、さらに国債発行が必要です。国際暴落から銀行危機、政府財政危機スパイラルの始まりです。そして、実体経済が危機に陥ります。こうして、円安をきっかけに、日本は、金融危機から銀行危機となり、そして、経済危機へと陥るのです。
今の日本において可能性が高いのは円安によるインフレです。円安により、輸入価格が上昇し、資源や穀物の値段が上がって、インフレになるということです。資源や食料などの輸入品の円で見た価格が上昇して、輸入コストが増え、それが直接の輸入品以外の幅広いモノに広がり、物価全体で見ても上昇するようになり、インフレとなる。コスト上昇による値上げでコストプッシュ型インフレという。買う側は、値上がりしたものを泣く泣くやむを得ず買うということです。所得が増加しないなかで物価が上昇すると、買い手はお金がありませんから、物価が上がった分、節約して消費を減らします。使うお金は同じ額で、手に入るモノは減りますから、景気は悪くなります。
一方、需要増加による値上げをデマンドプル型インフレという。買う側がお金があって、需要が増え、値上げもでき、売り上げが増え、利益も増えるということです。こうなると、供給も増やしたくなってきますから、人をもっと雇うことにもなります。このとき初めて、バイトの時給も正社員の給料も上がってくるのです。この結果、コストも上がってきますが、それ以上に値上げができますから、企業はもっと儲かる。これが好循環となって、景気回復、所得増加、物価上昇という循環となり、インフレ率が上昇していくのです。
今の日本でインフレが起きるとすると、どういう状況でしょうか、今の日本では所得が上がらないのが問題ですから、インフレが起きるとすれば、コストプッシュ型のインフレしかあり得ないことになります。
経済学においては、金融政策に関する「たこ紐理論」というのがあります。凧をうまく操って、高く上げるには技術がいりますが、道具は、凧紐だけです。風を受けて高く上がった凧を凧紐でコントロールします。このとき、凧が風に煽られて、空高く飛んでいってしまうのを抑えるのが凧紐です。紐を引っ張って、コントロールします。一方、風がないときに、凧紐を引っ張って、無理やり凧を揚げようとしても揚がりません。これが金融政策の凧紐理論です。つまりインフレ経済が過熱しているときには、この過熱を抑えるために、金利を引き上げ、金融引き締めを行う。一方、デフレで景気が停滞しているときに、この景気を引き揚げることは、かなり難しい。インフレを抑えることはできるが、デフレを解消することは難しい。
ゼロ金利の下では、風が吹かない以上、凧を持って懸命に地表を走り回っても、凧が風に乗って高く舞い上がることはありません。できることと言えば、凧を持って走り続けながら、風が吹いてくるのを待つことだけなのです。風自体は金融政策で起こすことはできません。それには、実際の需要が喚起されなくてはならないのです。財政政策はその手段のひとつですが、これも、風のきっかけにすぎず、風自体は、民間の需要、消費や投資が継続的に生まれない限り、吹き続けることはありません。ですから、デマンドプル型インフレも金融政策で起こすことはできないのです。需要回復のきっかけをつくることはできますが、物価が上昇するには、需要が継続的かつ自律的に生まれなければなりません。それは、金融政策だけでは無理なのです。金融だけでは、インフレはどうやっても起きないのです。インフレが起きるかどうかは、需要が強いかどうかにかかっています。そして需要の強さは、所得に応じます。ですから、雇用が増え、給料が上がれば、需要が増え、その結果物価も上がってきますが、そうでない限り、物価は上がりません。所得が上がるとは思えない環境のなか、物価上昇などあり得ないのです。唯一、物価が上がる可能性があるのは、輸入インフレです。
なぜ株価が、金融緩和、リフレで上がるのか。おカネが金融市場にしか行かなくなる。実体経済への投資よりも、金融商品への投資が有利になるので、あふれたおカネはすべてこちらにつぎ込まれます。しかし、それは金融市場だけのバブルですから、何も実体経済にはもたらさない。設備投資も消費も増えません。そして、バブルが崩壊すれば、またたいへんなことが起こるだけです。金融緩和の効果は、資産市場にしか及ばない。資産バブルが起きて終わりです。