キッシンジャーからの警告!
2000年日本が再起する条件
    ヘンリー・キッシンジャー/日高義樹共著

世界はどうなる 日米関係と日本経済の予測

アメリカの多数の人々が日本経済の危機は永続的なもので、すぐには回復しないと言っているが、キッシンジャー博士は日本経済が細々ながら決定的な破産には至らずに、努力次第では上向きになるという予測である。その理由は日本人はよく働き、よくおカネを貯めるだけでなく、モノを作る能力に優れているからである。さらに、日本はアメリカの連邦債を多量に持っており、資本がたくさんある。たしかに現在過剰貸付の問題があり、金融界が不安になっているが、今後消費と経済成長を刺激する政策をとり、規制緩和を行えば、危機が長引くとは思えないと言っている。

コンピュータネットワークとテレコミュニケーション、情報産業によって世界の技術が大きく変わった。あらゆる情報が早く、多量に、誰でも手に入れることができるようになった。コンピュータにより集められた情報とデータが分析され、そして結論が素早くでる。コンセンサスを重視する日本的システムがこのコンピュータ化と情報化についていけなくなって、いまの日本はきわめて保守化している。日本的システムはテクノロジーの変化に従って調整しなくてはならない。

日本が1990年から5年間の間にバブル崩壊で失った資産は827兆円で国内総生産にすると2年分以上にあたる。第二次世界大戦での損失が国内総生産の1年分であったことを考えると、その大きさがわかる。バブル崩壊によって官僚主導型の日本的システムが崩壊・敗退してしまった。いまの日本を活性化させるには、不良債権の処理と金融制度の改革だけでなく、新しいコンピュータネットワークやテレコミュニケーション、情報産業を十二分に使い、新しい日本のシステムを作り出すことである。

アメリカは北朝鮮を爆撃するか

アメリカの世界戦略の順序で言えば、ユーゴスラビアの爆撃が一段落した後も、イラクのサダム・フセインという敵が控えており、その次が北朝鮮である。今の段階では核施設爆撃はありえない。

北朝鮮は軍事力によって圧力をかけたり、あるいは爆撃するまでもなく、崩壊する。このところ急速に増えている難民や逃亡者の数は今後さらに増えると見られ、食料不足、あるいはエネルギー不足、さらには経済の崩壊が北朝鮮の国家としての壊滅を加速していくものと思われる。

北朝鮮のミサイルが狙っているのは日本である。日本列島を越えてテポドンを撃ったということは、日本列島のどこでも攻撃できる能力を誇示したのである。

中国の景気拡大は滞るのか 政治的混乱は起きるか

クリントン大統領は1998年6月に中国を訪問して、アジアのパートナーとして中国を選んだという印象を世界に与えた。しかし、キッシンジャー博士は「中国はアジアできわめて重要な国になるであろう。しかし、日本にとって代わることはできない」と言っている。1999年4月に朱鎔基首相はワシントンに乗り込み、中国の市場を開放することによって、中国が長い間望んでいたWTO(世界貿易機構)に加盟し、日本と並んで、アジアの経済大国としての立場を世界に認めさせようとしたが、失敗した。

アメリカでは中国経済が停滞し始め、この後、政治的な大混乱が始まるのではないかというアメリカCIAの分析が注目を集めている。中国政府が少子化を強く推し進めた結果、12億と言われる中国の人口が急速に老齢化しており、今後中国経済に悪い影響を与えるのではないかと指摘している。

アメリカやヨーロッパの調査機関は中国の経済データが信用できないと言い始めた。中国はこれまで二桁台の伸びを示して経済が拡大し、1998年も8%の拡大したと発表している。アメリカのCIAなどは中国経済の伸び率は実質的には5%前後ではなかったかと見ている。その推測の裏付けとしては、中国国内に失業者があふれていることが挙げられており、1999年に入ってから失業者は急速に増大しており、都市部だけで新しく2000万人近い失業者が出たものと見られている。中国沿岸地方の都市部の労働者は1億7千万人である。中国国内の経済がこれからも低下することになると、さらに失業が増え、反政府運動を始める危険が強まっている。世界の失業者の数は、日本、イギリス、フランスがほぼ300万人、ドイツが500万人、アメリカが700万人である。

中国の金融機関が日本の銀行よりも大きな不良債権を抱えており、崩壊寸前である。中国の銀行が倒産を免れているのは、中国人は日本人以上に貯蓄しているためで、収入の40%を貯金していると言われている。

キッシンジャー博士の予測では中国政府は通貨の切り下げは行わないものとみている。通貨管理制度を嫌って、外国からの投資が減少し、アメリカに対する貿易黒字も1999年中には縮小に向かう。

中東 石油はどうなるか

石油の消費という問題を考えれば、今後少なくとも10年間は世界の工業生産は伸びず、アジアの景気は低迷し、そしてヨーロッパはデフレの傾向が強くなり、石油の消費量が伸びないとともに、石油の値段は当面高くならない見通しである。

石油の供給のコントロールはこれまでと比べて効果があまりない。その理由は石油の産出の多くがOPECや、中東産油国の手の届かないところで行われているからである。北極圏を始め、世界至るところで石油の採掘が行われており、世界中に独立の石油業者が増え続けている。かっての石油パワーといわれたサウジアラビアを中心とするOPEC諸国の政治的な影響力は低下する一方である。

ロシアは共産党が復活するのか 核兵器はどうなるか

いまのロシアは混乱の時期だ。マフィア、モスクワの銀行家、旧時代のエリート、軍隊がそれぞれ動いている。エイリツィン大統領が突出し、議会の力は限定されている。だが、指導者はどこにもいない。エイリツィン大統領が死亡するまで、この状態が続く。エイリツィン大統領の後をめぐって2000年夏の選挙で、チェルノムイルジン元首相(98年3月解任)、プリマコフ元首相(99年5月解任)、ルシコフ・モスクワ市長、レベジ将軍の間で指導者が決まり、政府の力が強くなるだろう。

ズガーノフ共産党首が率いるデュマと呼ばれる共産勢力が1995年の下院選挙で勝った実績を背景に戦いを挑んでいるが、結局この勢力はロシア全体の自由経済体制に入り込むことができない。いま共産党のズガーノフ党首が政治力をモスクワで手にしたとしても、経済を動かすことができず、ロシアを動かすことができない。

ホワイトハウスが懸念しているのは強力な戦術用核兵器を持った特殊部隊が、ロシア政府のコントロールが効かなくなった場合には、世界各地で起きている局地紛争に加わるなどして、核戦争の脅威が一挙に世界に広がることである。モスクワの政府のコントロールがなければ、兵隊や技術者が食べていくためにも、その工場はイラクやイラン、リビア、北朝鮮、パキスタンなどに多量の小型兵器を売るようになるのではないかと心配されている。