絶滅の人類史 更科功著
ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の2種の人類がヨーロッパで出会ったおよそ4万7000年前のことであった。
ホモ・サピエンスがヨーロッパに進出直前の、約4万8000年前の寒冷化で、ネアンデルタール人は人口を減らしていた。
そして約4万7000年前に急激な温暖化が起きると、ホモ・サピエンスがバルカン半島を北上しながら、ヨーロッパに進出してきた。
この最初にヨーロッパに進出してきたホモ・サピエンスは、それほど多くはなかったらしい。
約4万5000年前になると、再びホモ・サピエンスがヨーロッパ進出してくるものの、このときも規模はそれほど大きくなかった。
しかし、約4万3000年に、多くのホモ・サピエンスが進出してくると、状況は一変する。ホモ・サピエンスは急速に分布を広げ、ネアンデルタール人が好んで住んでいた地中海沿岸地域を、ほぼ占拠してしまう。一方、ネアンデルタール人は減少をし続けて、集団は分散・孤立し、約4万年前には絶滅してしまう。
おそらくネアンデルタール人は、寒冷な環境とホモ・サピエンスの進出という2つのできごとが主な原因となって絶滅したのだろう。
ホモ・サピエンスの、動き回るのが得意な細い体と、寒さに対する優れた工夫と、優れた狩猟技術は、ネアンデルタール人にはないものだった。
ホモ・フロレシエンシスは、約5万年前までインドネシアのフローレンス島に住んでいた。身長が110cmほどしかなく、脳も400ccとチンパンジー並みに小さい。フローレンス島では、約100万年前から石器が出土するので、そのころから人類が住んでいた。ホモ・フロレシエンシスは、その子孫と考えられる。およそ100万年前にジャワ原人が、フローレンス島に辿り着いた。そして、温暖で捕食者がいないフローレス島のんびり暮らしていれば、脳や体が小さくても暮らしていける。少しずつ、体や脳の大きい個体から死んでいって、遅くとも約70年前までには小柄な人類へと進化したと考えられる。
しかし、ホモ・フロレシエンシスは約5万年前には絶滅してしまった。ホモ・フロレシエンシスの祖先は、すでに約100万年にはフローレンス島で暮らしていたのだ。それ以来95万年という長きにわたってフローレンス島で生きてきたのだ。それなのに、ホモ・サピエンスの進出とほぼ同じタイミングで絶滅してしまった。
2008年にシベリアのアルタイ山脈にあるデニソワ洞窟から、約5万年前〜約3万年前の人類の歯と手の骨が見つかった。DNAの解析から、この人類はホモ・サピエンスでもネアンデルタール人でもない人類だと判明した。(デニソア人)
約5万年前に、ホモ・フロレシエンシスが絶滅した。約4万年前に、ネアンデルタール人が絶滅した。その前後に、デニソア人が絶滅した。そして、現在生き残っている人類は、ホモ・サピエンスだけになってしまった。
現在、多くの野生生物が、絶滅の危機に瀕している。生息地を人間に奪われて絶滅しそうなのだ。有限の地球には生きていける生物の量には限りがある。ホモ・サピエンスが増えれば、その分他の生物が死ななくてはならない。
ホモ・サピエンスの方がたくさん子供を産んでたくさん育てれば、ネアンデルタール人は絶滅するしかないのだ。もしもホモ・サピエンスの人口が増えなければ、今でもネアンデルタール人は生きていたのではないだろうか。