日本が挑む五つのフロンティア       月尾嘉男著

frontier.jpg (6539 バイト) 日本の人口は、減少傾向にあり、経済も下降線を辿っています。こういった閉塞的状況に陥ったまま10年間も失われた時間を過ごしてきたはずなのに、なんの解決の糸口となるものを見つけていません。こうした現状を打開するためにも、日本は国家プロジェクトとして挑戦していくべき新たなフロンティアを目標にする必要があります。科学技術立国をめさす日本の五つのフロンティアが紹介されています。

サイバーフロンティア

通信料金

 インターネットがつくり出したサイバーフロンティアの最大の特徴は、その通信料金システムです。インターネットは、通信料金が世界均一であり、しかも定額料金であるというのが一般的です。これまでは電話でもファクシミリでも距離に比例して増加する通信料金という制度のため、距離が情報の自由な流通を阻害していましたが、その制約がなくなるのです。

通信形態

・1対1 電子メール、インターネット回線を利用した電話サービス

・1対M インターネットを使った放送は、誰でも免許なく放送が開始できる。

・M対1 ネットオークション、住民投票

・M対M 音楽の情報交換システム(ナップスター、グヌーテラ)

社会の変化

距離というものに関係しない新しい社会が出現する。

・これまで続いてきた規模の経済、大きいところが強い、小さいところは弱いという神話は、急速に崩れつつある。

・これからの理想的な企業組織はフラット組織といわれている。これは、命令する人とそれを実行する人が直結する組織で、途中の人件費が節約でき、時間も節約できるから、企業としてはパワーアップになる。

・モノづくりの方式が、計画生産から注文生産に変化する。生産に対して力を持つのがメーカーからユーザーに変わるということを意味する。

業規模

 サイバーフロンティアの産業規模は、現在45兆円と言われています。これが、2010年には、125兆円に増大し、そのうちの70兆円はコンテンツ産業だと予測されています。日本が世界から評価されるようなコンテンツを創造することが重要なのです。

ナノフロンティア

 ナノは十億分の一を意味し、ナノフロンティアとは、社会もしくは物事をナノ単位で見直そうという考え方です。あらゆる製品を、すべて分子や原子からつくりあげようというのがナノテクノロジーの原理です。ナノテクノロジーを使えば食べ物を元素を集めて生成することができるのです。コンピュータの分野であれば、記憶素子の体積あたりの記憶容量を飛躍させることが可能になります。医療では、ナノ単位で人体を検査することで、数個の細胞にガン腫瘍ができただけでも発見できる技術ができるかもしれません。

ゲノムフロンティア

 ゲノムフロンティアの第一歩は、まず人間が関心を持つさまざまな生物について、遺伝子にどういう情報が書かれているか読み出すことで、第二歩は、その遺伝子を書き換えて、人間に役に立つ生物をつくり出すということになります。世界の人口は50年後には、100億人にも達し深刻な食糧不足に直面します。この人口を支えるには、食料の生産性を何倍にも増大しなければならないと言われているのです。ゲノムフロンティアは、こういった問題を解決する手段としてもたいへん注目されています。ゲノムフロンティアは、人間の病気というものに対する、より有効な手段を開発するという点からも、注目されています。ゲノムの解明によって遺伝子を書き換えれば、病気自身を原因から抑える医療が可能となります。

インナーフロンティア

 人間の精神の内部である脳の世界を解明するのがインナーフロンティアです。脳の発達・活動が分かることによって、一人ひとりの精神活動の特性に合わせた商品や空間や情報を提供することも可能になるのです。個人というものが社会の主役になり、しかもその個人は従来のように統計的な集団の中の一人という個人ではなく、完全に自立した個人としてさまざまな活動ができ、逆に情報やサービスを受けとることも可能になるでしょう。

エコフロンティア

 科学技術を総動員して地球環境を破壊から救う方向を目指していく考え方です。技術は、人間の能力を拡大すると同時に、エネルギーや資源の消費も拡大してきたのです。つまり、私たちは技術によって、利便性や快適性を得ると同時に、エネルギーの消費を、それに比例させるように増大させてきたと言えます。これが地球規模の環境問題の原因となったのです。人間の快適さを損なうことなく、なおかつエネルギー消費を減らすことができる。このような新しい技術を導入した世界を作り出していくことが、エコフロンティアで重要になります。