2SK3689-01 D-G NFB アンプ
2006/09 - 2007/04 宇多 弘
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L チャン側の様子です。 左右対象の配置です。

1 経過

 高電圧動作スイッチング用パワー MOSFET の 2SK3689-01 をS氏およびI氏から頂戴し、取り敢えず一般的な動作状態等を知るために簡単な出力トランス付きの A 級シングル・アンプを試作しました。 今回の試作にあたっては、例によって(存在が不確かな)検索による先行例には頼らず、ニワカ勉強しながら「手探り実験」に着手しました。 

2 回路構成と課題

 MOSFET は電圧ドライブであり、BJT のような DC 電流と信号電流の同時供給は不要、真空管みたいに楽です。 その一方規格表によると当該 MOSFET の入力容量が 1590pF、これに対応するにはカソードフォロワ等による低インピーダンス・ドライブが必要かも・・・。 「裸の」すなわち無帰還の MOSFET シングル・アンプでは実用には厳しいかな、と考えると NFB は必須、しかも NFB 含みで大振幅ドライブするには真空管の電圧増幅による C/R 結合が簡単と考えました。 この MOSFET の最大ドレーン電圧は 600V、出力真空管なみのドレーン電圧/電流の動作点に設定できれば、市販の出力トランスを利用してシングル・アンプを構成でき、前段を真空管とすれば電源を共用して一電源にて済みます。 またこの MOSFET は電力感度が大であり、発振防止など動作の安定化が必要と考えました。 実験の末、「これならよいか」という回路図が下記です。

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3 実装上の要点・留意点

● 出力トランス規模、終段ドレーン電流、インピーダンス選択
 これらは原則として変更しない「与件」パラメタです。 終段ドレーン電流は出力トランスの許容最大 DC 電流により制限されます。 使用出力トランスは一次側 5kΩ/3.5kΩ max 80mA〜二次側4Ω-8Ωの中型一個としました。 そこでドレーン電流は 50mA 程度とし、一次側は 3.5kΩを選び、二次側は端子にてタップ選択可能としました。

● 終段のバイアス設定、ゲートリーク抵抗、ソース電流監視、動作の安定化
 前段の調整は後回しにして、終段のゲートをCで接地して動作点を点検すべく準備しました。 MOSFET はエンハンスメント・タイプ、B電源からポテンショメータにて半固定プラス・バイアス電圧をゲートに与え、C/R 結合したゲート電位をグランドに落すリークR は時定数を満たせばよしとして、特段の根拠もなく 200kΩとしました。 ソース電流は安定化自己バイアス R のホット端電圧から換算して監視することにしました。
 初期の回路では、終段ソースを電流モニタ用の小 R のみで接地しました。 MOSFET は BJT よりは安定と期待したけど、バイアス電圧を低い側に変化させた場合にソース電流が一旦減った後に徐々に減り続け、高い側に変化させた場合には一旦増えた後に徐々に増え続ける、熱慣性に加えて MOSFET の小電流領域でのマイナス温度特性による不安定性を検出しました。
 そこで念のため本アンプでは BJT またはハイ Gm 出力管等の安定化と同様、ソース回路に安定化 R および並列大容量 C を挿入して所定ゲート電圧の2倍程度に設定し、ゲートバイアス電圧は同じく所定の3倍程度に持ち上げて安定化してみました。 但し一般には本措置は不要と思われます。

● 初段+ドライバ段によるゲイン調整、NFB 量調整
 本来は厳密に計算して回路構成すべきでしたが、実験による適切な回路設定を意図しました。 最初は真空管アンプの延長にて 6BL8 による電圧増幅+直結カソードフォロワ・ドライブを考えたものの概算でも大幅なゲインオーバーで取り止め、下記のように SRPP ドライブから着手してトータルゲインおよび NFB 量を調整しました。

(1) まずは初段を 12AU7 SRPP とし、上側三極管プレートにはナマ B電源を接続した無帰還動作ではかなりのゲインオーバーでした。

(2) 次に「ドレーン〜ゲート間 NFB (以下、D-G NFB) 」併用 SRPP ドライブ回路に変更しました。 真空管回路での P-G NFB 相当の上側三極管プレートへの B電源を終段ドレーンから DC および NFB 信号を供給するものです。 これでトータル・ゲインはほぼ適正となったものの、NFB 量が過剰の低域からクリップが始まる音で、上側三極管のカソード抵抗を増やして内部抵抗を上げる程度では簡単におさまりませんでした。
 過去に試作実験した P-G NFB 併用 SRPP ドライブによる各種出力管アンプの例では、多極管では NFB 量はほぼ適正、三極管では概ね不足であったに対して、まだ過剰とはスペックに示すごとくこの MOSFET 終段がかなり強力であることを実感しました。

(3) さらに適正なゲインを得ながら NFB 量を減らすために、初段を回路図に示す「抵抗分割型 D-G NFB 回路」に変更しました。 電圧増幅管を一ユニットのみ使用し、NFB 信号を負荷抵抗およぴ電圧増幅管内部抵抗+次段ゲートリーク抵抗とで配分し、同時に DC の供給を受けます。 これでトータル・ゲインが若干不足ながら NFB 量がまだ過剰気味となり、初段を 12AT7 に変更してμを増やしてゲインを稼ぎながら NFB 量を更に減らしました。 

(4) NFB 回路および初段管の変更後もまだ NFB 量が過剰気味であり、初段負荷抵抗を更に増やして初段への NFB 信号電圧配分を半減、これで一応調整完了としました。

● パワー ON 時の問題と解決
 パワー ON 時にスピーカから軽いハム音が出て徐々に収まりました。 安定化 R での発生電圧より固定バイアス電圧が先行して高くなって発生するラッシュ・カレントでした。 バイアス回路ポテンショメータのスライダ点に C を並列に加えたスロースタート化にて解決しました。 正しくはスライダ点にさらに直列抵抗を加える必要がありますが、ポテンショメータの抵抗値が大きくスライダ点が高ければ有効です。 パワー OFF 時には問題はありませんが、真空管アンプと同様に電源の放電と初段ヒーター余熱でしばらく鳴り続けます。

● 所要 B電源、ヒートシンク〜冷却ファン、取り付け方法  
 本アンプでは汎用の外部電源を利用し B電源電圧を 130V に設定して動作試験しました。 初段+終段ドレーン電流が無信号時2系統分 100mA 強、150mA 程度と余裕が欲しいところです。
 ヒートシンクは50x100mm 程度のものを向い合せに二個使い、55m角 12V0.08A DC のファンにて下から強制空冷しました。 ファン電源は初段ヒーター用 DC12V と兼用、直列 R を挿入して回転を下げ騒音を減らしました。 室温+15度程度の温度上昇に収まりました。
 写真に示すように、予めアルミ板に丸孔を開け、上面にはヒートシンクをL材を使い、下面には冷却ファンをビス止めして一体化、これを金属製スペーサ(L=50mm 六角棒、両端 4mmメスネジ)にてシャーシ上にマウントして、シャーシ上の丸孔および裏蓋の通気口・防護網板取り付け工作は回避できたのですが、ファンの厚み+ファン下クリアランス分だけ背高になりました。

4 最後に

 いろいろと調整の結果、簡潔な回路になりました。 真空管式の超三結アンプに若干似た音質となりました。
以上

改訂記録
2006/09:初版記述
2007/04:分解・転用
End of text