三極管〜五極管による周波数変換回路の実装法研究?

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2011/06/30〜 宇多 弘

急遽作ったテスト・セットの様子です。 最初は失敗して (局発+混合) に後退、
上端の発振管がつっかえて混合管は 6AU5GT に交換、後日初期の四球に戻しました。
上から 6G-B3A/ 6AU5GT/ 6G-B6/ 6BQ6-GTB/ 6CM5 を挿しました。

1.事始め

 ある方(アール方・・・以下R氏とします。)が「水平偏向出力管にて五球スーパーを組んでみたいのです。」とのアイデア、筆者には未経験の実験ですから「それは面白そうです、ぜひやりましょう。」とは言ったものの、サーテ課題は未知数・・・。 筆者は全て三極管でスーパーを組んでみようと考えていてまだ実現していないのですが・・・似た発想ながら更に難しそうです。 それで「水平偏向出力管」とは長いから、以後は<水平管>と省略します。
 R氏はすでに水平管にて並四(実質は 0-V-2 部分)を組んで、電力増幅管、電圧増幅管、それに再生検波の動作をモノにしておられます。 そして「クラシック・ラジオみたいに同じ水平管をズラッと並べてみたい」との視覚的構成にも興味をお持ちです。 
 さて、五球スーパーを組む・・・整流管は別として、水平管四球でそれぞれ周波数変換(以下コンバータ)、中間周波増幅(以下 IF 増幅)、検波、電力増幅の機能をまかなうわけで、後二段の機能は既にクリアーして課題は下記の二点に絞られます。

A1.水平管にて、コンバータ機能を実現し、
B1.水平管にて、IF 増幅機能を実現する。

 もちろん本題の「水平管で実現」が最優先ですが、実は筆者は色気を出して「水平管だけでなく、難しいのは同じ事だからこの際は他の管種グループも網を被せてしまえ・・・」と拡大した訳です。 すなわち、

A2.専用のコンバータ管以外の管種にてコンバータ機能を実現し、
B2.標準の高周波増幅管(以下 RF 増幅)以外の管種にて IF 増幅機能を実現する。  

 上記A1.については先行事例の有無はともかく、すでにR氏は再生検波を完成させているからオートダイン・コンバータと類似、すでに半分は実現していることに相当します。 ただし既製品五球スーパーのコイルそのままで回路構成が出来るとは限らず、コイルの改造または自作は必至と考えましたが。
 上記B1.については裸・・・無装備で構成するとなれば水平管の Cgp が RF 増幅管の百倍は大きいから発振は不可避的です。 しかし、発振対策については古くは三極管時代に各種の発振防止策が考案され、つい最近までアマチュア無線などの送信機ファイナルには送信管または水平管を使い、中和回路にて対策していたからサンプルには事欠かない訳です。
 その他の発振回避の方式としては・・・グリッド接地回路はビーム管には適さない・・・なんとビーム電極がプレートの傍にあってシールドになりません。 三極管接続も、またカスコードも使えない・・・中和回路が唯一の発振防止策です。 ただし IF 増幅であれば、周波数が固定でありかつ同調回路のコールド側を直接接地する必要が無く、「高一」のようなバリコンのローター共通グランドの可変周波数 RF 増幅よりは容易と看做しました。

 更に残るは AVC の実装ですが、前二段の動作が完成してからの課題、ひとまずは基本機能の整備が優先と考えました。 そして実際には専用管でないからバリミュー構造ではなく、非適用または部分適用になりそう。


2.難関の周波数変換

 R氏は、まずコンバータ管および IF 増幅管を標準的な 6BE6~6BA6 にて完動状態に組み上げてトラッキング演習などを行い、IF 増幅段およびコンバータ段を逐次水平管に入れ替えて行く計画と仰っていました。 そして一旦仮組を終わった後、IF 増幅を水平管に組み替えたら「猛烈な発振」に見舞われたとのことでした。 そして、とりあえず抵抗による IF トランスの同調回路Qダンプ処置をとられ、その後予定通り IF 増幅管に使われた水平管のプレート〜IFトランスのコールド側〜接地間にキャパシタ二個とリーク抵抗による中和回路を加えて、事もなく収拾された旨を伺いました。

2.1 水平管にて周波数変換機能を実現する

 実は、筆者は半世紀以上前の学生の頃から初歩的オーディオを手掛け、SWL 受信機を作ってワッチし、465MHz のトランシーバに挑戦したりしました。 たとえばスーパーに負けない 1-V-2 とか、6A7/6A8 および Ut-6L7G6SA7 ライク用法とか、ECO 局発+ハイ gm 管の混合方式とか、FM チューナ自作とステレオ化に伴う検波方式の変更、初歩的なレフレックス、さらにアマチュア局設備の計画・HF の電信一本の運用・保守も一通りやったのですが・・・
 CD が出てからはオーディオ・アンプに入れ込んで RF から離れていました。 そして残念なことに三〜五極管の一素子によるコンバータ回路の実装経験は・・・存在は知りつつも、実験を思いつく事も、その必要性に迫られる事も全くなかったのです。 そこで手かがりを得るため手持ち資料を探したところ、赤茶色になった無線と実験(現 MJ 誌)1951年2月号に下記の記事が見つかりました。 それぞれには参照略号 MJn を割り当てました。 

 ◆MJ1 「各種コンバータ・ミキサー回路の調整」 斎藤 健 (JA1AD) pp16~24
 ◆MJ2 「私のパーソナルラジオ」 J2DA 古池泥泳(ペンネーム?) pp30~33
 ◆MJ3 読者実験室 「局型123号受信機改造トランスレス四球スーパー」山村 巍 pp94

 上記の記事にてコンバータ用に例示または使用された管種はそれぞれ UZ-6C6, UN-954, 12Y-R1 です。 そして 12Y-R16C6 と電気的特性は同一、エーコン管の 954 も特性的には大差はありません。

2.2 まずは実装法の概要調査から

 水平管を利用するには、これらの用法例をナントカ当てはめる訳ですが、相互コンダクタンス Gm は数倍にしてプレート抵抗 Rp は二桁近く少ない・・・一体どのようにすればよいのか・・・ということになります。
 しかし先人は再生検波を発展させて三極管によるコンバータ回路に到達した訳で、既存技術の範囲内です。 そして回路図を書いてみると、複数要素を一つの素子に負わせるレフレックス回路に似て、なにか問題を背負い込みそうな予感・・・そしてこれら記事からは誠に重要なキーポイントが示されており、その内容概要を下記にまとめました。

◆MJ1.斎藤 健 氏
  総論として
  (1) 発振状態では G1 電流が流れるため、入力同調回路の
    Qが悪くなって感度低下は免れない。
  (2) 検波と発振と動作点が違うため、最良状態を得るのに苦労する。
  (3) グリッドバイアスに等しい電圧が G1~K 間に現れる状態に
    調整するのが最良の結果を得るコツ。
  各論では
  (1) K に10kΩ程度の可変抵抗を挿入して最適値を求める、
  (2) 結合コイルの巻数および結合度(位置関係です)を調整する、
  (3) 発振は強すぎず安定に、
  (4) バイアス抵抗は K および G1 (G リーク)両方を併用する。

◆MJ2.J2DA 古池泥泳 氏
   発振コイルを抵抗にてQダンプして発振の強すぎを抑えています。
   直径 20mm ボビンにて、K 結合は 30T とあります。

◆MJ3.山村 巍 氏
   スペースの関係からか、詳述がありませんが、コイル・データ、
   特に発振コイル仕様は多いに参考になりました。 
   直径 25mm ボビンに 75T〜タップ15T、P 結合コイルは 45T 。   


3.突き当たった回路名称と分類方法

 実際上はこれ以上の実装方法および調整方法を知るとなれば実機環境にまさるものはなく、むしろ試験環境を整備して試行錯誤し、動作を確保したり失敗経験を蓄積する方が手っ取り早いと考えました。 そこで急遽作ったテスト・セットが本文最初の写真です。

● 使用部品等
  シャーシ:速やかな配線変更に備え桐合成板に四球スーパーを載せました。 
  自作 IFT: 筆者ホームページに掲載の「455kHz IFT の設計・製作」による、
       1mH RF チョークおよび 150pF ポリトリマーによる C 同調型です。
  バリコン:標準の 430pF 規格です。
  アンテナ・コイル:33mm φ水道管のソケットに 0.4mm エナメル線を約 100T/15T
       (そのままハンダ付けできました。アミラン?)=低端 530kHz に調整。
  発振コイル: 25mm φのベーク・ボビンに約 75T〜カソード・タップ 20T、
       P 結合コイル 20T、インダクタンスは既製品とも比較・調整しました。 
       タップ、結合コイルともに多いので、10T 版も作って様子を見ています。
  電源:  B 電源は低めの 120V100mA 程度、ヒーター電源は 6.3V5A。

● 使用管種
 手持ちの各種水平管は、シングルのオーディオ・アンプにての動作ではどれも同じようなもの、挿し換えても問題は起きません。 取りあえず動作確認済みの IF 増幅段および電力増幅段に 6G-B6/ 6BQ6-GTB を宛てました。 
 すべてを水平管で構成するに先立って、一旦コンバータには 6SA7GT、検波増幅には 6SQ7GT を宛てて自作 IFT の調整および自作コイルのトラッキング調整をすませました。
 次にコンバータ段と検波増幅段を水平管のソケット接続に変更しながら、できるだけ簡単に動作するコンバータ回路を選択しようと考えました。 記事例のプレビューでは、受信信号の混合グリッド、発振回路の形態〜接続する同調回路および結合回路、それに IFトランスの挿入箇所などにいくつかのバリエーションがありました。


4.周波数変換の回路形式の分類

4.1 回路形式を分類する必要性・必然性

 記事を参照したかぎりでは、個別の回路に対して特定の名称・・・固有名称としては「AAC 回路」という一例があるのみでした。 そして一般的な分類方法および分類上の名称が情報としては皆無。 このままでは回路を分類するにも説明するにも不便であり障害になるな、と考えるに至りました。
 さらに最適回路を選択するにしても実装試験するにしても、一体どのような回路(としての可能性)があるのか、全貌を予め知っておく必要もあり、この際は「非専用管によるコンバータ回路を網羅したうえで分類が必要」と感じました。 そうなれば、「先行して分類法の設定が不可欠」と感じ、おそらくしばしばの改訂や追加が発生することを覚悟の上で、分類と定義の作業に取りかかりました。  

4.2 回路形式の分類方法論とパラメタ、表現方法

 分類法としては、まず回路要素のもつパラメタ(属性)を設定し、各パラメタがもつ値(属性値)を設定します。 そして回路全体としては一つの表にて表現して、その一例の参照には略号または番号などによります。
 しかし実用的には、略号または番号では不便なので「キーワード・パラメタ」を順に羅列し、回路の分類・特徴を「一行にて表現できること」を狙って工夫しました。 これなら全体表を参照せずに、簡潔な表現にて回路図の要件が表現でき、したがって機能本位の回路図を書く事ができて、一応の目的を達するというつもりです。
 さてコンバータ回路にはどのような要素があり、それを表す項目があり、その各項目を必要最小限の範囲にて分類するかが一大課題です。 また各項目はできるだけ短い略語にして、且つ関係者には誰でも意味が通ることが望ましい訳です。 ただし、筆者が参考にできそうな分類の先行例としては「ミキサー回路」の名称例のみ、それまでの分析から独断にて下記を定義しました。 ・・・これは「システム設計」で必ず行う工程です。

● 羅列する分類パラメタは下記7項目を想定しました。 
 (1) 回路名称と番号・・・・形式は「XXXコンバータ回路」、省略可。 
 (2) 使用機器名・・・・・・型式名・自作品では名称など、または省略可。
 (3) 使用管種・・・・・・・管種名称、管種分類種別に置き換え可。
 (4) 受信信号の混合電極・・記号として、K/ G1/ G2/ G3 を設定。
 (5) 発振回路の構成方法・・同調コイルおよび結合コイルに接続した各電極名等。              
 (6) IF 信号の取り出し・・・IFトランスの挿入箇所、P が殆ど稀に G2。
 (7) その他備考欄・・・・・コイルデータ、実装コメント、参照文献名等。

● 上記 (4) (5) (6) にて接続する電極名称は下記に短縮しました。
  カソード= K、 コントロール・グリッド= G1、
  スクリーン・グリッド= G2、 サプレッサー・クリッド= G3、 プレート= P

● 上記 (4) 受信信号の混合電極は下記四種、ミキサーに準じて「注入」を付しました。
  K 注入 ・・・三極管、ビーム管を含む四極管、五極管に適用可。
  G1 注入・・・三極管、ビーム管を含む四極管、五極管に適用可。
  G2 注入・・・ビーム管を含む四極管、五極管に適用可。
  G3 注入・・・独立の G3 が引き出された五極管にのみ適用可。

● 上記 (5) 発振同調コイル、結合コイルの接続電極を「P 同調-K 結合」等表現し、
  さらに タップダウン 指定、ハートレイ/コルピッツ 等回路名称の補足を可としました。 

● 上記 (6) IFトランスの挿入箇所は「P 出力」または「G2 出力」と表現しました。

 次に無線と実験 1951年2月号の関係記事の回路を、上記表現法に従って分類・標記して「使い勝手」をチェック、自分には甘いですから「マアマアなんとか区別できそうだからよろしい」としました。 

回路例1 MJ1第19図 6C6 G1 注入、P 同調〜K結合〜G3 反結合にて振幅抑制、P出力
    有名な「AAC 回路」(注) です。
回路例2 MJ1第20図 6C6 G3 注入、G1 同調〜G2 結合、P 出力
回路例3 MJ1第21図 6C6 G3 注入、G1 同調〜K 結合〜G2 発振 P、P 出力
回路例4 MJ1第22図 6C6 G1 注入、P 同調〜K 結合、G2 出力
回路例5 MJ2第1図 954 G1 注入、P 同調〜K 結合、P 出力
回路例6 MJ3実装例2 12Y-R1 G1 注入、K 同調タップダウン〜P 結合、P 出力
    コイル・データ: 25mm 75T/タップ15T~結合コイル 45T

 (注) AAC 回路については、本文後述の「8.続々と発見して・・・」をご参照ください。


5.実装試験とその環境

5.1 試験対象の汎用性確保

 コンバータ回路テスト環境は、一旦は水平管を前提の接続口金にして実装試験に掛かりました。
 しかし、試験の途中では混合に手戻りしたり、異なる接続口金の管種に変更したこともあって、何れは水平管以外の各種管種のグループも逐次挿し換え試験することになると予想、ソケット装備を <7AC> タイプに変更し、 これに該当しない各管種には <7AC> 互換のソケット・アダプタ着装にての挿し換えを前提とし、下記「ソケット・アダプタ適用管種 一覧表」のようにアダプタを整備しました。
 なお水平管、電力増幅管の殆どおよび一部の K/G3 が内部接続された RF 五極管は、G3 の引き出しが無く四極管同様の扱いとなり、上記 「回路例1〜例3」の「G3 注入」は対象外です。

ソケット・アダプタ適用管種 一覧表
接続口金管種管種名(代表例)7AC アダプタG3コメント
6QGT 三極管6C5GT/6J5GT不要
7ACGT 電力増幅五極管
GT 水平管
6F6GT/6K6GT
6Y6GT/6W6GT
不要G3-K 内部接続
ビーム
6AM/8GTGT 水平管6CU6/6CM5要プレートキャップ付 *ビーム
6CKGT 水平管6AU5GT/6AV5GA要 *ビーム
8SGT RF 五極管6SJ7/6SK7
8BK-8S兼GT RF 五極管6SG7/6SH7GT要/G3offスイッチG3-K 内部接続
7BKMT RF 五極管6AU6/6BA6
7CM-7BK兼MT RF 五極管6AS6/6CB6要/G3-K逆転スイッチG3-K 逆
7BDMT RF 五極管6AK5/6AN5G3-K 内部接続
9AQMT RF 五極管6BX6/6EJ7
9BFMT 映像増幅五極管12BY7A
9BVMT 映像増幅五極管6CL6/6197
9CVMT 電力増幅五極管6BQ5/7189A要 *G3-K 内部接続
注:*印は汎用オーディオ・アンプ兼用のアダプタです。

5.2 試験標準回路

 問題の標準コンバータ回路の選定は、取りあえず汎用性が高く広く使えそうな、前掲の「回路例/5MJ2第1図」 <G1 注入、P 同調〜K 結合、P 出力。> (図1. 参照) を選びました。 この回路なら三極管、ビーム管を含む四極管、五極管のいずれも挿し換え運用できます。 実は、半世紀前では「プレート同調発振回路は安定である」が定説であり、無意識にそれに従ったみたいですが、実に正解でした。

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6.動作試験・・・一発勝負

 手始めに 6G-B3A をコンバータ管ソケットに挿して「一発勝負」。 早速ブロッキング状の異常発振、確かに動作はしています。 そしていろいろの収拾策では納まらず、一旦はギブアップしました。 局部発振をやめれば単なる混合段動作となり、当然安定します・・・急遽、局部発振段を取り付け配線し、スペースがなく混合段は 6AU5GT に変更、放送を聴きながら頭を冷やしました。 ヒータートランスの容量 5A をオーバーするので 5V タップに接続したら、各ヒーターは 5V0.9A 点火となるも、影響無く動作し「全水平管スーパー」ラジオの体面は辛うじて維持しました。 本文の写真がその時の様子です。
 後日、K 挿入のバイアス用 C/R、G1 挿入の C/R を見直し、結合コイルを減らし、タップ位置を下げ、とにかく正常動作に持ち込み発振管は撤去しました。 本回路は結構な汎用性を備えていて、水平管がみな動き電力増幅管、RF 五極管、三極管も一通りチェック確認しました。

 そしてアダプタを用意した各管種を次々動作試験した結果では、gm が5,000 μmho を超えるハイ gm 管、たとえば 6BQ5 (gm=13,000μmho) 等は異常発振を起こし易いことが判りました。 但しハイ gm グループが安定動作できる環境に調整すると、ロー gm グループが動作しなくなる恐れがあり、ハイ gm の RF 管、映像増幅管、電力増幅管は一旦対象外としました。
 さらにテスト・セットは全て水平管にて暫くの期間動作させた後、試験対象を挿し換え可能のコンバータ管に絞り、以下の各段は普通の 6SK7GT, 6SQ7GT, 6K6GT 構成に変更して所要ヒーター電力を低減しました。
 さらに以下の「標準コンバータ回路に適用可能な管種 一覧表」に含まれない各管種は、表中の相当管に準拠するものとします。 

標準コンバータ回路に適用可能な管種 一覧表
 表中で赤字は MT 管、*印はアダプタ装着にて挿し換えします。  
単三極管6C5GT, 6J5GT
水平管*6BQ6GTB, 6CM5(EL36), 6CU6, 6DQ6-B, 6G-B3A, 6G-B6, 6G-B7
6AU5GT, 6AV5GA <アダプタ不要>・・・6W6GT, 6Y6GT
電力増幅管6F6GT, 6G6-G, 6K6GT, 6V6GT
RF 五極管*6AS6, 6AU6, 6BA6, 6SD7GT, 6SG7, 6SH7GT, 6SJ7, 6SK7(GT)


7.変形回路

 つぎに、前掲の「回路例5」以外の回路についての適用性チェックにかかりました。

7.1 G2 注入回路

 R氏から「G2 注入回路はないのでしょうか?」とのご質問をいただきました。 もともと受信機の混合回路には局発出力の G2 注入例があることではあり、それに準じ K~G1~P によるプレート同調発振回路を動作させれば G2 に受信信号が入力できる筈だ、と考え、とりあえず下記の回路例7/8 を試作動作確認しました。
 ビーム管を含む四極管、五極管が対象、五極管の場合の G3 の接続先が若干気にはなりました。 原則的に K に接続してあれば管内接続管種が包含されて、全て同一条件と看做せるものとして目をつぶりました。 動作試験では、G1 注入より若干感度が劣るものの RF 五極管および電力増幅管は安定動作し、実用上は問題なしと判定しました。  そして下記回路図例7 および回路例8 では、水平管一族に対しては明らかに現状の P 結合コイルの巻数および K タップの巻数が多過ぎであり、異常発振を起しました。 従って下記の回路図には水平管一族を対象範囲から除いてあります。 ハイgm RF 管も異常発振の可能性大です。(図2.1/2.2)

回路例7 ビーム管を含む四極管/五極管 G2 注入、G1 同調〜P 結合、P 出力。
回路例8 ビーム管を含む四極管/五極管 G2 注入、K〜G1〜P ハートレイ、P 出力。

cg2univ.gif cg2htl.gif

 これまでの文献調査では G2 注入は一例も見当たらず「アレッ」と思った事です。 恐らくは感度が良くないためであろうと考えましたが・・・後日に回路例9 を思いついて G1 注入と比較した結果、局部発振の漏れが大きいのが欠点らしいことが判りました。 回路図例9 では、コイルのタップ下げ調整および結合コイル巻数減らしの調整にて前記の不安定は一応解決しました。(図2.3)

回路例9 ビーム管を含む四極管/五極管 G2 注入、P 同調〜K 結合 、P 出力。

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7.2 G2 発振同調回路

 さらにR氏からビーム管にも適用できる「G2 を制御グリッドとした発振回路は構成できませんか?」とのご質問をいただきました。 事後の事例調査でも G2 に同調回路を配した発振回路例は小数でした。
 水平管の G2 挙動については、筆者が G2 ドリブン・アンプのオーディオ・アンブを試作した経験に照らすと、とにかく G2 のμは小さく終段の局所 P-G 負帰還が効きにくい上に、G2 が動作電流および信号電流を派手に吸い込むから、大掛かりなドライバ段とオーバーな振幅を要求しました。 それで G2 は発振同調回路のインピーダンスを下げて発振を妨げるな、と予感し「チョット手強い相手だな」と感じていました。
 取りあえず G2 に発振同調のホット側を接続、K をタップに接続して、P と組んだハートレイ回路に挑戦してみたところ発振を始めずNGでした。 少し焦って実装例を検索し、直ちに発見したのが、 6EJ7 一球による「徳永浩哉さんの1球スーパーラジオ」 の回路です。 
 その例ではコイルの途中からタップダウンして G2 に接続していますが、低インピーダンスの G2 にて同調回路のQが低下するのを防止したものと理解、早速適用して即日解決しました。 本件につきましては徳永浩哉 氏に深く感謝致します。 

 図3. に示す回路にて試作試験した所、水平管一族は全て円滑に動作したのですが、RF 五極管および電力増幅多極管ではNGでした。 水平管以外の管種で発振させるには、発振コイルはもっとタップ位置を高くとり、結合コイルは密に・・・沢山巻く必要があり、更には G2 電流を抑制するなどの調整余地があるようです。 徳永浩哉 氏のコイル・データではタップ位置=30T/75T、結合コイル=40T と結合を密にしてあり、筆者の自作コイルはタップ位置=20T/約75T、結合コイル=20T、結合不足と思われます。 
 なお、バリエーションとして結合コイルを K に挿入する場合を「回路例11」として追加しました。(図3. )

回路例10  6EJ7〜四/五極管 G1 注入、G2 同調 タップダウン〜P 結合、P 出力。
回路例11 四/五極管 G1 注入、G2 同調 タップダウン〜K 結合、P 出力。

cg1g2to.gif

7.3 G3 注入回路

 フト思いついて、G3 注入回路を試しました。 前記の「2.2 まずは実装法の概要調査から」にて見つけた G3 注入回路では、結合コイル式の発振回路であり、既製品のカソード・タップ式発振コイルによるハートレイ回路では動作の可否が不明、その動作確認を兼ねることにしました。 適用できる管種は G3 が独立で引き出されている五極管に限ります。 管種によって K-G3 の口金接続が逆だったり、K-G3 が内部接続されているなど要注意であり、事前の規格表参照が必須です。
 ソケットおよびアダプタの K-G3 接続を一時分離して、代表的な 6SJ7/ 6SK7/ 6AU6/ 6BA6 を動作試験してOKとなり、その他管種の動作試験は端折りました。(図4./図5. 参照)

回路例12 RF 五極管 G3 注入、K~G1~G2 ハートレイ、P 出力。
回路例13 RF 五極管 G3 注入、K~G1~G2 コルピッツ、P 出力。
   コルピッツ 回路の C 構成は バリコン(VC)/パディングコン(PC) にておこないました。
   さらに VC/PC を上下逆にしても動作可でした。

cg3htl.gif cg3cpz.gif


8.続々と発見して・・・

8.1 奥の深さは想像を絶して

 すべて水平管を使用した五球スーパー・・・・必然的に水平管コンバータの整備に迫られた訳ですが。 やってみようと発想したR氏、それに乗って筆者は「拡大コンバータ実験」を進めました。 最初は雑誌の先行例を参照、それを手本に実装実験を開始して失敗にも懲りず挑戦して、R氏と共にとにかく完成しました。  
 一旦完成後には、いろいろなバリエーション回路についても実装してみたくなり、その模索途上 G2 同調発振回路ではうまく動作せず、その解決策に残念ながら「検索するしかないなぁ」と決心、それがキッカケとなって徳永浩哉 氏のサイトに到達する過程にて、またその後の検索にて、いろいろな情報に接することができました。 

 まずは 内尾 悟 氏のサイト、「ラジオ工房」 に出会いました。 そのなかの「ラジオ資料館」を探って、「ラジオ配線図集」にては「ビクター4RS-1型」の 6C6 によるコンバータ回路のほか多数例を発見しました。

 さらに「ラジオ工房」のリンク集から 原科正彦 氏のサイト 「ポータブルラジオのページ」 に到達しました。 その中の「先人たちの知恵」の中、「5極管コンバータ」では、8例のいろいろな五極管コンバータ回路例が網羅され、氏により解説されており、有名な「AAC 回路」についても解説されていました。 さらに氏が自作された多数のセットの中にも五極管コンバータおよび三極管コンバータ併せて4種の実装例を発見し、初めての「K 注入」例に接して感激しました。

 そしてさらに、砂村和弘 氏のホームページ を参照、ハートレイのグリッドに受信信号を注入する例がありました。 単純明快、これなら三/四/五極管オールOKです。 112.6AN8*2 Double tube super radio および 113.Perverse fellow's four tube radio. です。 脱帽あるのみです。

8.2 回路形式の分類と管種の組み合わせ

 これまでにいろいろな回路例を見てきましたが、前記「4.1 回路形式を分類する必要性・必然性」にて筆者が整理を思いつき、特定回路の表現方法を工夫するとと同時に、あり得るまたは考えうる回路すべてを知るために一表に展開してみようと考えたのが、下記の「三極管〜五極管で動作する コンバータ回路 一覧表」です。
 実際に表として各種のありうる回路を展開してみると、全てに実装例が現れるわけではなく、また無理な展開にて無駄かなと思われる部分もあります。 そこで下記のような部分的省略を考慮しました。 さらに実際の表としては、下記表の横方向に適用可能な管種群または個別管種が並ぶことになります。  

(1) 該当図示解説等例の欄
  参照した資料略号または各氏の資料番号等を示しました。

(2) K 注入回路
  K 回路には発振回路要素を含まない例のみを表に含め単純化し、P/G2 出力
  のみを挙げました。 G2/G3 のバリエーションが種々想定されます。

(3) G1 注入回路での G3 の取り扱い方
  G3 が引き出された五極管の場合にて、G3 に特別な動作をさせる三例を除き
  K/G3 内部接続管種に相当にて、G3 は K に接続するものとしました。 

(4) 発振回路構成の欄 
  発振同調回路を担う電極略名および結合電極略名のセット、または回路名とし、
  筆者が実装試験した回路は赤字表示しました。

「三極管〜五極管で動作する コンバータ回路 一覧表」

受信信号
注入電極
適用管種
発振回路構成
中間周波
出力電極
コメント
原典・参照先の略記
1K 注入三・四・五極管G(1) 同調~P 結合P 出力(注1)原科氏 単球 2Bスーパー
2P同調~G(1) 結合P 出力(注1)
3四極管・五極管G1 同調~G2 結合P 出力(注1)
4G2 同調~G1 結合P 出力(注1)
5K 注入四極管・五極管G1 同調~P 結合G2 出力(注1)
6P 同調~G1 結合G2 出力(注1)
7G1 注入三・四・五極管P 同調~K 結合 回路例5P 出力MJ2第1図/原科氏 第9/11/19
8K 同調~P 結合P 出力(注1)MJ3実装例2/原科氏 10図
9四極管・五極管G2 同調~K 結合P 出力(注2) 回路例11
10K 同調~G2 結合P 出力(注1)
11G2 同調~P 結合 回路例10P 出力(注2)徳永 氏/ 原科氏 第6/18図
12P 同調~G2 結合P 出力
13K~G2~P ハートレイP 出力(注1)
14K~G2~P コルピッツP 出力(注3)
15G3 独立五極管P 同調~K 結合~G3反結合P 出力AAC回路MJ1第19図/原科氏 第20図
16P 同調~G2/G3 結合P 出力原科氏 第8図
17G3 同調~P 結合P 出力原科氏 第7図
18G1兼発振三・四・五極管K~G1~G2/P ハートレイP 出力(注1)原科氏 単球レフ/砂村氏 2例
19K~G1~G2/P コルピッツP 出力(注3)
20G1 注入四極管・五極管P 同調~K 結合G2 出力P 発振ノミMJ1第22図/原科氏 第12図
21K 同調~P 結合G2 出力(注1)
22K~G2~P ハートレイG2 出力(注1)
23K~G2~P コルピッツG2 出力(注3)
24G2 注入四極管・五極管G1 同調~K 結合P 出力
25K 同調~G1 結合P 出力(注1)
26P 同調~G1 結合P 出力
27G1 同調~P 結合P 出力回路例7
28P 同調~K 結合P 出力回路例9
29K 同調~P 結合P 出力(注1)
30K~G1~P ハートレイP 出力(注1)回路例8
31K~G1~P コルピッツP 出力(注3)
32G3 注入G3 独立五極管G1 同調~K 結合~G2 発振PP 出力MJ1第21図
33K 同調~G1 結合~G2 発振PP 出力(注1)
34P 同調~K 結合P 出力
35K 同調~P 結合P 出力(注1)
36P 同調~G1 結合P 出力
37G1 同調~P 結合P 出力
38G1 同調~G2 結合P 出力MJ1第20図
39G2 同調~G1 結合P 出力(注2)
40K~G1~G2 ハートレイP 出力(注1) 回路例12/原科氏 第13図
41K~G1~G2 コルピッツP 出力(注3)回路例13

(注1) インピーダンス整合のため K 回路はタップダウンまたはリンク・コイルを利用します。
(注2) 適用管種の G2 特性によっては、整合のためタップダウンを要します。
(注3) 同調 C の分割が生じます。 バリコンおよびパディング C のセットが利用できます。 
   動作電圧供給には RF チョークまたは十分な値の抵抗が必要となる場合があります。
(注4) 共通事項ですが、G2 を特定動作に関与させない回路では C でグランドするものとします。


9.おおよそが判って・・・

9.1 問題が拡大して整理を進めました

 今般は、水平管によるコンバータ回路の実装試験を進めて行く段階にて、回路形態を表現する共通方式が何処にも見当たらないことを発見しました。 こまのままでは類似の実験をされて居られる方との情報交換にも支障を来すな、と既に真空管は終わりつつある時代にありながらも大変に心配になり、独断にて分類・整理に掛かりました。
 そして今回の作業を通じて、三極管〜五極管にて動作するコンバータ回路全体の回路名称および回路形態の全貌を、形式的かつ部分的ではありながらも展望ができ、また表現方式の整理が一応できたかなと、ホッとしています。
 現状では部分的な動作可能性の追究が精一杯であり、全ての回路の動作確認にもまた個々の定量分析にも到底至らず、また下記のような課題がほかにも多数控えています。 とにかく前例のなかった水平管その他管種でのコンバータ回路実用化および一般化が整理できたので、一区切りと致します。

9.2 残った課題です

(1) 周波数配分、インピーダンス整合など
 今回の調査と実験のカバー範囲が中波帯中心であり、受信周波と局部発振との周波数関係が離れていたので、比較的容易であったと思われます。 短波帯にて専用管によらないコンバータ回路を適用する場合、455kHz IF を利用する限りでは、受信周波と局部発振とが相対的に接近して起きる問題が考えられ、反面では同調インピーダンスが低くとれ緩和する面も想定されます。 

(2) 不要発射の低減など
 五球スーパーのコンバータ回路はアンテナから直接信号を受け入れており、殆どが専用コンバータ管種を使用し、また FM チューナ例では一素子にて発振・混合する自励コンバータ回路の例もあり、RF 増幅段を先行させています。 三極管〜五極管で動作するコンバータ回路の受信機では、ケースにより非同調バッファを含む RF 増幅段の前置が必要かなと考えます。

9.3 真空管ラジオは絶滅しない!

 今回の経験を通して、コンバータ管が手に入らなくてもスーパー形式は構成可能・・・発振と混合とを分けずに、大抵の球にて構成できることを確認しました。 そしてオリジナル性を死守するのでなければ、動態保存の可能性は大幅に上がります。 また連動バリコンを確保できればコイル類は自作可能、決まりきった管種によらずともスーパー受信機の新造は可能と確信しました。

 最後に、とにかく突破口を開くことができた記事の三人の先人、貴重な資料を参照させていただいた 内尾 悟 氏、徳永浩哉 氏、原科正彦 氏、砂村和弘 氏、筆者に度々のサジェッションおよび激励を賜ったR氏に、改めてお礼を申し上げる次第です。

以上

改訂記録
2011/06:初版