上條信一氏の発案・実装された超三極管接続回路を使用したオーディオ・アンプをご紹介し、その試作試験をお勧めしたいと思います。 原典である上條信一氏のホームページは http://www.ne.jp/asahi/evo/amp/index.htm です。 こちらをご参照ください。
回路の名称が「三極管接続」類似なので、そのような回路のアンプと思われるかも知れませんが、実際は従来からの多極管アンプ、多極管の三極管接続アンプ、三極管アンプの何れとも全く異なるアプローチによる近代的な回路構成のアンプです。
筆者は MJ 誌1991年 5月号、1992年10月号および1993年 2月号に記載された上條信一氏の記事にて、超三極管接続回路によるアンプを知りました。 筆者達は上條氏の定義による超三極管接続バージョン1 回路 (以下、超三結 V1 回路) およびその回路によるアンプ(略して超三結回路、超三結アンプ)の、強力な低音と明瞭な中高音、スピーカからの音離れと強い浸透力・到達力、それに優れた定位と音場構成を知りました。 そこでさらに多種の出力管および類似・変型回路を実験して、できるだけ簡単な回路にして、作りやすく実用性あるアンプとすべく、試作実験を繰り返しながら下記各項を明らかにしてきました。
● 前段については電圧増幅五極管以外の FET および Bipolar-Tr について動作確認しました。
電圧帰還管(ドライバー段)については各種の三極管につき、分析し動作確認しました。
● 終段出力管としてはオーディオ出力管以外に、ヴィデオ増幅管、水平偏向出力管、小型送信管、
電力増幅・電圧増幅三極管、パワー Tr 、パワーMOSFET 等を含めて、数十種類につき類似回路
を含めて適用可能性を確認しました。
◇ 超三結 V1 回路ではドライバ段が終段プレートで吊ってあり、初段+ドライバ段が
直列構成された P-G NFB 回路による終段動作、「純=pure」超三結回路と命名しました。
◇ 終段プレートで吊ったカソードフォロワ・ドライバ回路では、並列構成された
P-G NFB 回路による終段動作となり、これを「準=semi」超三結回路と命名しました。
◇ パワー Tr 終段の応用回路は、田中安彦氏による「タマリントン回路」を参考にさせて
戴きました。 その回路の概要とは・・・
電圧増幅三極管ドライバのプレートをパワー Tr のコレクタで吊り、そのカソードは
パワー Tr のベースに直結にて入力する、真空管~パワー Tr 合成のダーリントン回路です。
● 各種の類似回路構成について、超三結 V1 回路との関連性を確認しました。
◆ 終段プレートで吊った SRPP ドライバ回路でも初段+ドライバ段が直列構成された
「P-G NFB 併用 SRPP ドライバ」ですが、一般に効果が少なく「類似回路」としました。
◆ 初段の負荷抵抗を終段プレートで吊った「抵抗分割 P-G NFB 回路」でも、直列構成された
P-G NFB 回路動作ですが、一般に効果が少なく「類似回路」の一つとしました。
● 超三結回路を「純」または「準」と分類するのはかならずしも適切ではなくさらに回路動作を分析して
「回路形式を表す名称」を下記のように定義しました。
◇ 超三結 V1 回路は「P-G NFB 併用、倒立μフォロワ・ドライブ回路」に該当し、
◇ 準超三結回路は「P-G NFB 併用、カソードフォロワ・ドライブ回路」に該当します。
◇「類似回路」には様々なバリエーションがあります。 実験の結果 P-G NFB の特徴を保持して
効果的な例があり、超三結回路の仲間に入れました。(但し出力トランス二次側から掛ける
所謂「カソード NFB」は類似の動作ながら、確立されたものであり除外しました。)
● 初段〜電圧帰還管としてカソードが分かれた三極五極複合管を使用する際に、口金接続が
9AE の 6U8A 等は高周波発振しやすい ことを発見し関係記事にはコメントを加えました。
試作実験を通して得た、超三結アンプの回路の概要・特徴は下記の通りです。
(1) 全段直結構成
初段から出力段までの信号経路はすべて直結、カソードフォロワ形式の負荷に抵抗器が
一つ入るだけで、キャパシタによる音への影響を回避、立ち上がりの速い音を確保します。
(但し倒立μフォロワ/カソードフォロワを C/R 結合とする場合には該当しません。)
(2) オーバーオール NFB 併用なしの安定な局部帰還
出力トランスの二次側から NFB 信号を戻さない P-G NFB および P-K NFB による
深く安定な局部 NFB (負帰還) にて、ダンピング・ファクタ(DF) は 5 程度となります。
出力トランスは単なるインピーダンス変換機能となり、オーバーオール NFB 前提の
広帯域トランスでなくても安定に動作し、高い自由度および再現性が確保されます。
(3) 電圧振幅抑制の動作
終段は P-G NFB により増幅率 (μ) は抑えられて出力中の電圧振幅が抑制されるも、
相互コンダクタンス (Gm) は活かされて電流成分となり、一般のアンプではスピーカ
のインピーダンス変動にて出力が低下しやすい帯域でも強力にドライブします。
(4) 安全性対策・・・初段の故障対応と終段の保護
直結とした場合には、初段の故障・断線等による終段の制御不能・発熱等の事故防止
のために、ツェナーダイオードまたはリレーによる検出保護回路を追加整備しました。
(5) 多種の適用可能な出力管など、応用回路への適用可能性
小型出力管から水平偏向出力管、さらに 6550 級の大出力にも対応します。
試作例はまだホンの一部ですが パワー Tr/ パワー MOSFET にも適用できます。
12AU7 等の QRP (小電力) アンプも構成でき、挿し換え汎用化も容易です。
G1/G1G2 ドライブ、標準 PP および SEPP など多様な回路にも適用できます。
(6) 高い再現性にて高品質のアンプを低コストで容易に製作
高い再現性を備えているため、直結部分の適正な電圧配分と動作点設定、適正な負荷等
を確保すれば、測定器類が不備であっても、一般のアマチュアが高信頼性と高品質な
アンプを、特殊部品を使わずに比較的低コストにて容易に製作・調整できます。
これまでに下記の出力管他を超三結シングルにて、また一部は PP 回路にても試作・動作確認しました。 一部約 20種の出力管は G2 ドライブおよび G1G2 同時ドライブ回路をベースにして、準超三結構成のシングルおよび一部は PP 構成にて試作・動作確認しました。
◇五極管/ビーム管 (ゴシック は直熱管)
●MT 6197/6CL6, 6360 パラ(pp), 6AN5/(パラ), 6AR5, 6AQ5, 6AS5, 6AW8A, 6BM8/16A8(pp),
6BK5, 6BQ5/7189A(pp), 6CW5, 6DS5, 6GW8, 6HZ8, 6R-HP3, 12BY7A, 30A5/(パラ)
●GT 6AG7, 6AU5GT, 6AV5GA, 6BQ6GTB, 6CL5, 6CM5 (=EL36), 6CU6, 6DQ6A_B, 6F6G/GT,
&メタル 6G-B3, 6G-B6, 6G-B7, 6G-B8, 6K6GT, 6L6GB/6L6GC/5881, 6V6G/GT/(パラ), 6W6GT,
6Y6G/GT/(パラ)/(pp), 12A6, 12E1, 2E24, 25CD6-GB/(パラ)/(pp), 1619, 6146/S2001,
6CD6-GA, 6384, 6550/(パラ), CV450(=6CU6), EL33, EL34/(パラ)/(pp), KT66, KT88
●ST 38, 41, 42, 807/1625, CZ-504-D
●コンパクトロン他 6JS6C, 6LB6, 6LR8 (=6LU8), EL509 (=6KG6), 6P36C
◇三極管 ({T}=三極管接続) (一部パラレルを含む) (ゴシック は直熱管)
●MT 6BQ5{T}, 6EW7, 6R-A8, 12AT7/5965, 12AU7/5814/5963, 12B4A, 12FQ7, 12BH7A,
6350, 5687/7044, 7233, 6AQ8, 6CG7, 6CS7(2)
●GT/ST 6AC5GT, 6AH4GT, 6BL7GT, 6BX7GT, 6EM7(2), 6G-A4, 6SN7GT, 1626, 5998/A, EL34{T}
6080, 2A3/45, 300B
◇パワーTr タマリントン 構成 (C-B NFB 併用三極管 カソフォロ ドライブ)・シングル:2SC3486, 2SC4029/2SC5200
タマリントン SEPP/OTL:2SC4029/2SC5200
◇パワーMOSFET (直結の V1) シングル:2SK3689-01
超三結アンプの設計・製作・調整法の総論・詳細については、本ホームページに記載の「超三極管接続回路方式によるアンプの実装法考察」をご参照いただき、一方個々の管種についての試作例は筆者の個別ページに多数が記載されているので、そちらをご参照いただきたく存じます。
上記をご一読戴ければ、超三結アンプの回路動作をご理解いただけるものと信じます。 回路が簡単すぎて出てくる音が俄に信じ難いかもしれません。 しかしながら、極論すればカソード・フォロワ・ドライブ段を持つアンプであれば、そのプレートをナマ B 電源で吊るか、終段のプレートから B電源と NFB 信号とを一緒に貰うかだけの違い・・・配線を一箇所変えるだけ・・・でも、全く異なる動作と音質に変ります。
追実験にて音質的な特徴を把握・体験して頂くのが、最も早道であると思います。 簡単な回路なので、特に新作されずにお手持ちの自作またはキットのシングル・アンプ等をタネにして、手軽に試作・改造実験ができ、所要コスト・所要時間も僅少です。
より鮮度の高い音質にて音楽をお楽しみ下さい!