ユニバーサル一括 G1G2 ドリブン準超三結シングル・アンプの試作

2003/09-2004/03 宇多 弘
ag12uv.jpg
Universal "Unified" G1G2 driven single amp and external power unit

1 いきさつ

 別項記載の 6BM8 一括 G1G2 ドリブン方式による準超三結シングルおよびプッシュプルアンプ、それに 6BQ5 による同方式シングルアンプを試験し実用可能性を確認するなど、一応の成果を得ました。 今回はそれらを土台に汎用化実証試験目的のユニバーサル 一括 G1G2 ドリブン準超三結シングルアンプを試作してみました。
 G2 ドリブン・アンプを改造した個別 G1G2 ドリブン・アンプが出現したので、本機のように G1/G2 間に抑制抵抗を挿入して一つのグリッドのように制御する回路方式を「一括 G1G2 ドリブン・アンプ」、英語名では "Unified" G1G2 driven amp と呼び、方式の相違を明確化することにして本文を改訂しました。(2003/11)

2 先行した一括 G1G2 ドリブン・アンプの拡大解釈と各種対策

 6BM8/6BQ5 一括 G1G2 ドリブン方式によるシングルアンプの結果を拡大解釈し汎用化する、強引なアプローチです。 先行二例は何れも五極管であり、各種ビーム管、それも個性的な水平偏向出力管の特性が見当つかないので不安ですが、先行二例から得られた類似性を延長すれば、さほどに極端なことはあるまい・・・とにかく様子をみなければ、と着手しました。

 最も問題になりそうな、終段グリッド1 (以下 G1) の電流 Ig1 抑制抵抗値の適性判定です。 客観的なデータが一切見つからないので、6BQ5 (6R-P15) の例からグリッド2 (以下 G2) から G1 に直列の抑制抵抗を介して接続する回路を踏襲し、抑制抵抗値も 20kΩと仮決定しました。
 この抵抗値が全ての試験対象出力管について適用可能か否かは、実動作を監視し判定するしかありません。
 なおこの抵抗値の出典は、武末数馬氏著「パワーアンプの設計と製作」ラジオ技術全書011A ラジオ技術社 上巻第2章 出力管部の動作特性(1)pp110. に記載の 6R-P15 の G1-G2 を結んで三極管接続とした場合の Eb-Ib 特性曲線の図に記されたものです。

 本機の試作に当っては、動作状態を把握するため終段カソード電圧 (以下 Ek)、グリッド1電圧 (以下 Eg1)、グリッド2 電圧 (以下 Eg2)、それに off 位置をスイッチ切り替えにて監視できるよう L/R チャネル独立の一回路四接点スイッチを装備しました。
 また、一括 G1G2 ドライブ方式の終段は、本来ゼロバイアス動作ですが、カソードフォロワ・ドライバ段の出力振幅確保のための「嵩上げ電圧調整」は超三結 V1 例を参考に 60V 近辺とし、「嵩上げカソード抵抗」は終段カソード電流に対して取り敢えず大小の二段切り替えとしました。


3 全体構成、回路構成、電源、回路図

(1) チャネル当り四球で構成

 使用した実験シャーシは以前ユニパーサル超三結アンプに使用していたものを転用、チャネル当り 9ピン MT 二本と GT 二本の取り付け穴があります。 9ピン MT 穴は初段の電圧増幅管およびカソードフォロワ・ドライバに、GT管 二本分は終段に充て、一部の 12.6V 水平偏向出力管を試験対象に含めました。

(2) 各段の設定

● 初段管の選定および P-K NFB の採用
 必要な初段の出力最大振幅は 100V程度です。 一括 G1G2 ドライブでは、必要なドライブ振幅は G2 ドライブの場合より少なくて済みそうで、初段は SRPP にせずとも 6EJ7 による電圧増幅で足りるとして、これに決めました。
 初段カソード抵抗とバイパスキャパシタの下に 100Ωを挿入し、終段プレートから100kΩにて軽く P-K NFB を掛けます。
 この P-K NFB は、オプション操作にて終段 P-G NFB を OFF にした場合に、パルシブな入力に対して低域の付帯音が残るスピーカでも、我慢できる程度の制動力を残しています。 G2 ドリブン・アンプおよび本機のように、内部抵抗の高い (接続方法による) 終段球のアンプでも P-K NFB を併用すれば、低域のボテボテは何とか抑えることができます。

● カソードフォロワ・ドライバ管の選定と P-G NFB 回路
 初段〜カソードフォロワ・ドライバ段間は C/R 結合として安定稼働を目指しました。
 出力電圧が低く、振幅もより少ないカソードフォロワ・ドライバ段は G2 ドリブン・アンプのそれよりは楽であろうと考えていたけれど、6BM8/6BQ5 の例から結構厳しいことが判りました。
 さらに G2 電流・・・所謂 G2 吸い込み電流・・・の大きい大型管水平偏向出力管をドライブすることもあり、所謂パワー・ドライブとする必要があり、余裕を見て G2 ドリブン・アンプと同じ 12B4A としました。
 当然のことですが、終段プレートからカソードフォロワ・ドライバ段のプレートに P-G NFB を掛け、準超三結回路となります。 これをスナップスイッチにてナマ B電源 (以下 Ebb) にも、すなわち P-G NFB on/off 切り替え可能としました。 これを off にすると低域が緩くなり、P-G NFB 効果 =(準超三結効果) のデモンストレーションにも好都合です。

● 嵩上げ方式
 カソードフォロワ・ドライバ段の動作確保のため、終段の G1G2 動作電圧を上げ、したがって終段のカソード電圧を上げる、嵩上げ簡便方式とします。 余分な B電源電圧を必要とするも、電源電圧または動作電圧の変動に対しては常に安全側に落ち着くので好都合です。
 嵩上げ電圧調整用の終段カソード抵抗 (以下 Rk) の切り替えは、G2 ドリブン P-K NFB アンプの例から類推して、一回路二接点中点休み付きのスナップ・スイッチにて三種類が選べれば十分と考えました。 取り敢えずの試験では二種類にしました。

● 適用する終段管とそのグループ分け
 適用する終段管は常用のカソード電流 (以下 Ik) の大きさにしたがって下記の四グループに分け、グループ1/2およびグループ3/4とは嵩上げ電圧調整抵抗を二種類固定とし、今後の実験結果により必要に応じて再度調整することにしました。

 ◇ グループ1小型オーディオ管/Rk=1400Ω :6K6GT/6V6GT/6BQ5 など
 ◇ グループ2小型水平偏向出力管/Rk=1400Ω:6AU5GT/6G-B3/6AV5GA/6DQ6-B/6G-B7 など
 ◇ グループ3大型オーディオ管/Rk=900Ω :EL34/6L6GC/KT88/6550/12E1 など
 ◇ グループ4大型水平偏向出力管/Rk=900Ω:6CL5/6JS6C/EL509など

 なお各終段管は、すでに他のユニバーサル・アンプにも共通に適用している、各種の(プレート・キャップを含む)ソケット・アダプタに、一部は半永久的に着装して、7AC(6V6GT 等)/8EP(6CA7/EL34) 接続対応のオクタル・ソケットに、安全に挿入交換可能としてあります。 

● アンプ全体の構成
 実験シャーシに余裕があり、12.6V 出力管をヒーター電圧切り替えスイッチ併用なしで試験・運用できます。

 ◆ 初段、電圧増幅 C/R 結合:6EJ7
 ◆ カソードフォロワ直結  :12B4A
 ◆ 終段、一括 G1G2 ドリブン(1) :6.3V オーディオ管、水平偏向出力管
 ◆ 終段、一括 G1G2 ドリブン(2) :12.6V 水平偏向出力管

(3) 出力トランス、電源および回路図

 プラグイン交換式の出力トランスのうち、東栄変成器の OPT-20S を専ら使いました。
 外部電源から約 300V160mA の B 電源、6.3V5A, 6.3V3Ax2 のヒーター電源を供給します。 ヒーター電源の第一系統、第二系統は 12.6V 管を含む終段および電圧増幅段むけであり、第三系統の 6.3V3A はヒータ・カソード間耐圧 (Ehk) の問題回避のためカソードフォロワ・ドライバ専用としました。
 上記のような計画と実装を経て、実用に耐えるに至ったのが下記回路図です。

ag12us.gif

4 各出力管の動作状況

 ドライバ段〜終段間の電圧関係を点検しました。
 いずれも安全性を見込んで、ドライバ段を含め、かなり低い Ep〜Ebb にて動作させています。
 実際の運用状態ではカソード電圧 (Ek) を監視しながら Ep〜Ebb を上げて行くことになります。
 一応、極端に外れた値になっていないことの確認として、手持ちの各種出力管について、電圧配分および音質などの動作状況を下記にまとめて見ました。

各出力管の電圧配分状態
グループ
- ケース
 Ebb
出力管
G2 電圧
Eg2
G1 電流/ドロップ
Ig1/Vdg1
対グランド
G1電圧 Eg1
G1-K電圧
Eg1k
嵩上げ R
Rk
カソード電圧/電流
Ek/Ik
動作
状況
240V小型オーディオ管
1-16BQ5 85V2.0mA/40V 45V0V1400Ω45V/32mA良好
1-26K6GT84V1.8mA/36V 48V3V1400Ω45V/32mA良好
1-36V6GT86V1.9mA/38V 48V4V1400Ω44V/31mA良好
240V小型水平偏向出力管
2-16AU5GT85V1.4mA/27V 58V2V1400Ω56V/40mA良好
2-26AV5GA82V1.0mA/21V 61V1V1400Ω60V/43mA良好
2-36CM5 84V1.0mA/21V 63V1V1400Ω62V/44mA良好
2-46DQ6B85V1.0mA/21V 64V0V1400Ω64V/45mA良好
2-56G-B783V1.5mA/29V 54V2V1400Ω52V/37mA良好
280V大型オーディオ管
3-16L6GC95V2.5mA/49V 46V2V900Ω44V/48mA良好
3-36550C95V2.1mA/42V 53V1V900Ω52V/57mA良好
3-4EL34 95V1.9mA/38V 57V4V900Ω53V/58mA良好
3-5KT8894V2.1mA/42V 52V0V900Ω52V/57mA良好
280V大型水平偏向出力管
4-16146 94V1.5mA/29V 65V0V900Ω65V/71mA良好
4-26CL5 93V0.9mA/18V 75V0V900Ω75V/82mA良好
4-36JS6C93V**0.7mA/13V 80V0V900Ω80V/88mA良好
4-412E193V1.6mA/33V 60V0V900Ω60V/66mA良好
4-5EL50990V**0.3mA/5V 85V0V900Ω85V/93mA良好
** (注) Ig2 の影響力が強い。

◇ Eg2 のバラツキは、所謂「吸い込み電流」Ig2 の大小によりドライバの電圧降下に差が出るものです。
◇ 対象とした各種出力管については特段の問題はなく、聴くに耐えないほど酷い音になる例はありませんでした。
◇ どのようになるか心配だった G1_K 間電圧および G1 電流については、特に大きいものが見られず、
  G1 電流抑制抵抗 Rg1 の値 20kΩは概ね適正と判定しました。
◇ 各グループ別の動作状態は下記の通りです。

● グループ1およびグループ3(オーディオ管族)
 一部にやや変な音を持つものがあるも、動作的には概ね良好でした。 

● グループ2およびグループ4(水平偏向出力管族)
 特段に変な音を持つものはなく、グループ2は皆結構な動作をしています。 

● グループ4特記事項
 Ig2 の多い 6JS6C, EL509 は、G2 の制御力・加速効果が強いらしく、カソード電圧 Ek を引っぱり上げて、
 Ek が Eg2 に接近しており G1 の効果が G2 にマスクされ気味です。
 従って一括 G1G2 ドライブ方式の効果は少なく、単なる G2 ドライブ方式で十分なのかも知れません。


5 音と感想

 概してどの出力管も結構なサウンドが得られました。 P-G NFB を外すと G2 ドリブン・アンプと同様に、パルシブな信号に対してエンクロージャの f0 固有音が若干耳につくので、出力が負荷インピーダンスの変動に対して追随している事が窺われます。 すなわち内部抵抗の高い電流アンプの性格が見えている訳です。
以上

改訂記録
2003/09:初版:ユニバーサル一括 G1G2 ドリブン・シングルアンプ試作一号
2003/11:改訂第一版:回路方式を明確にするため、一括 G1G2 ドリブン・アンプと名称を変更統一。
2004/03:改訂第二版:分解・転用