QRP アンプ二台の試作実験
2002/10 - 2003/12 宇多 弘
From left.....12AU7 para single mini power amp, Power unit, and 12AU7 pp mini power amp.
◇いきさつ、QRP とは
QRP アンプを作ることになりました。 さてQRP とは何でしょう。 アマチュア無線をやった事のある方はご存じのとおり「電波法」に基づき定められた、政令のひとつである「無線局運用規則 (業務用語) 十三条、別表第二号 無線電信通信の略符号 1 Q符号」によると、
QRP? とは「こちらは、送信機の電力を減少しましょうか。」の意味であり、
QRP とは「送信機の電力を減少してください。」の意味となっています。
この問い、または通知略号は、無線電信の交信中に自局の信号が強すぎると想定される場合の相手局への問い、または相手局の信号が強すぎる場合に電力を絞るよう相手局に通知する場合に用いられる符号です。
無線電信通信では、交信中にこの種のQで始まる三文字 (+?) のさまざまな符号によって意思疎通ができます。 例えば「周波数が動いています」なら QRH、「送信機の電力を増加してください。」なら QRO、「当方には送信文はありません。」なら QRU と言った具合で大変簡潔です。
これらを文章にして一つひとつ述べていたら、面倒で時間も要します。 更に英語とフランス語など、交信相手の言語が異なるとなればもっと大変です。
また QRP に関しては、アマチュア無線では実際の交信時に使うほかに小電力の送信機 (TX) を「QRP TX」と言い、また電力を絞った状態での運用を「QRP 運用」、交信地域の数と交信した局数等を一定以下の小電力で競う場合は「QRP コンテスト」など、この符号を形容句として利用しています。
◇QRP アンプの定義
アマチュア無線の QRP コンテストでも、周波数とか国内とか色々あります。 国内では mW オーダーのコンテストもあるようです。 短波帯による国際的な QRP コンテストでは概ね送信機出力は 5W 以内となっているようです。 しかし送信機の現物を検定できないし、もともと 5W しか出ない送信機でも、もっと大電力の送信機のパワーを絞ったものでも良く、それを超えないことは紳士協定であり、その条件を守って競うものです。 従って、たとえパワーオーバーしてコンテストに入賞し、オーバーがバレなくても、その入賞は全く無意味です。
さて、オーディオ・アンプでの QRP の定義は結構難しいです。 というのは、そのアンプを使って音楽を聴く部屋の大きさ〜天井高さ、構造・・・スピーカとの距離とか反響、それに使うスピーカ・システムの能率、更には聴く音楽ジャンルが関係するからです。 80畳敷きと四畳半とでは当然スピーカとの距離が違ってくるし、和室と洋室でも違うし、10cm シングル・コーンと 30cm ウーファーの 3way とでも違うし・・・更に個人の考えも、好きな音楽ジャンルも百人百様で甘辛両刀使いもいることだし・・・しかし条件設定を巡って議論を始めると限りなく発散してしまうので、筆者なりに独断にて前提条件を仮に設定しました。
●一般家庭にて六畳間程度の部屋でスピーカから 3m 位の距離で聴く
●対象とする音楽のジャンルは一応限定しない
●16cm 2way の効率 88db/1w.m のスピーカ・システムを想定
とすると、無歪み出力にて 1W 程度は必要と考えられます。 それでも、おそらくダイナミック・レンジ (Dレンジ) の大きいクラシック音楽では足りそうもありませんから一応確認実験を行いました。 結果は後述します。
◇無歪出力 1W
無歪出力 1W を確保するとなれば、最も簡単な構成の三極出力管による A級シングルアンプを想定する場合、最大出力効率がプレート入力電力の 30%以下であると考えると、プレート入力電力は 4W は欲しい所です。 また波高率の高いピアノの再生を考えると、プレート入力電力はさらに大きくしたいです。
A級動作でのプレート入力電力とは、許容プレート損失と同じ値になります。 5W 以下の許容プレート損失 (Pp) の出力管として使える品種は多種ありますが、さらに10%上乗せした Pp=5.5W とすると、12AU7 パラレル接続、12B4A、6AS5 など、入手容易で使いやすい品種が増えます。 それで筆者は、作りやすい A1s または A1pp の QRP アンプ適合出力管の Pp 限界値を 5.5W と設定しました。
なお AB1/AB2 級プッシュプルアンプおよび B 級プッシュプルアンプでは、A級シングル (A1s) アンプまたは A級プッシュプル (A1pp) アンプとは、プレート入力の利用効率が異なり、別途の基準設定が適切と考えられます。
◇双三極管で・・・選択理由、ユニバーサル化
このようにして出力管の選択では若干迷いましたが、ポピュラーであり相当管の種類も多い 12AU7 を標準としたパラレル A1s アンプ(パラ A1s アンプ)、および単管 A1pp アンプを同時に試作することにしました。
双三極管を選択した理由は、ポピュラーであるというだけではなく、無帰還回路にてソフトディストーションの有利さを活かそうというコンタンに基づきます。 また Pp=5.5 W 以下の多極出力管超三結アンプでは、出力電圧振幅の抑制による最大出力低下がモロに現われて無帰還三極管にはとてもかなわないと判断、早々に「不戦敗」宣言です。
◇アンプの構成と回路図
●パラ A1s アンプの構成
初段・・・・・12AT7/2
段間結合方式・C/R 結合
出力段・・・・12AU7/5814/5963, 12BH7A, 12FQ7
出力トランス・東栄変成器 T850-7kΩ
負帰還・・・・適用せず
●単管 A1pp アンプの構成
入力兼位相反転トランス・・・山水 ST-75A 一次二次逆接続
初段・・・・・9AQ8/2 (ジャンク活用 6Ω直列 12.6V点火)
段間結合方式・C/R 結合
出力段・・・・12AU7/5814/5963, 12BH7A, 12FQ7
出力トランス・春日無線変圧器 OUT-6615WP
負帰還・・・・適用せず
12AU7 を標準として同等管の 5814/5963 は勿論、ソケット接続が同じ 12BH7A も挿し換え可能とし、さらにヒーターは 12.6V 点火に統一して 12FQ7 も引き込んで、ササヤカながらもパラ A1s アンプと単管 A1pp アンプに何れにも互換の双三極管ユニバーサル・アンプとしました。
B 電源は 230V30VA ブリッジ整流、フィルタC 総量4,000μF、負荷時260V、ヒーター電源は 6.3V2A 二系統直列可能 の外部電源です。
回路図は二台分を一緒に記載します。
◇動作試験と手直し
パラ A1s アンプの方は、すでに別項に記載の三極出力管をベースとした「ユニバーサル準超三結アンプ」にて発振対策を講じなくても正常に動作したので、様子が判っていたつもりでした。 それで 12AU7 程度の Gm で単純な無帰還 C/R 結合のパラ・シングルだからと多寡を括って発振対策を施さなかったのですが、グリッド回路のインピーダンスが高いためか猛烈に発振を起こしたので、各々のグリッドおよびプレートに発振対策の直列抵抗を挿入して「鎮圧」しました。 一方、単管 A1pp アンプの方は何の対策もなしなのに発振もせず、直ちに連続稼働試験に入れました。
パラ A1s アンプ・単管 A1pp アンプ、いずれも出力管は全て挿し換えて動作確認しました。 どれに挿し換えても音には殆ど差がありませんが、A1pp アンプは出力に余裕がありました。 パラ A1s アンプはやや厳格な感じの音で、プッシュプル・アンプの方が甘めの音です。
◇Dレンジに関する実用性確認試験
12AU7 パラ A1s アンプでは果たしてDレンジの大きいクラシック音楽の鑑賞に耐えるか否かを調べるため下記の実用性試験を行いました。 単管 A1pp アンプの試験は省略しました。
試験用の曲にはベートーヴェンおよびブルッフのヴァイオリン協奏曲を使いました。 使ったレコードは Anne-Sophie Mutter (vn)/ Berliner Philharmoniker/ Herbert von Karajan ..... Deutsche Grammophon, PolyGram k.k., POCG-50050 です。 試験方法は、全曲を通して fff にてクリップしないようにゲイン設定しておき、いずれの曲も第一楽章冒頭のティンパニがどの程度に聞こえるかを 90db/1w.m のスピーカにて約 3m 離れた位置にてチェックしました。
試験の結果、集中していれば何とか聞こえましたが、どうも絶対的な音量が足りません。 音量を上げて聴くクラシックファンなら「実用は厳しい」と判定しそうです。 90db 以下のスピーカでは更に厳しくなります。 一方 96db 程度のスピーカならば 90db での1w が 4W に相当し、まずは合格でしょう。
このようにDレンジの大きい交響曲および協奏曲は厳しいですが、弦楽四重奏などの室内楽、ジャズ・フュージョン系を色々聴いて見ましたが、極端なDレンジを持つソースは少なく特に問題はなくほぼ使えました。
◇低電圧での試運転、使用感など
フト思いついて、両方のアンプを別項に掲げた CV18 A2 級パラs /pp に使う外部電源の B 電源 140V/180V にて鳴らしてみました。 出力が減り、終段の内部抵抗が減るためか、通過帯域がやや低い側にずれる感じだけれど、実用的には問題ありませんでした。
B電源電圧によらず、いずれのアンプも真面目に音楽を聴くには少し厳しいけれど、自室に篭ってパソコンに向かいながら FM 放送を一日中聴いたり、夜間ボケッとして軽い音楽を聴く目的にはピッタリです。
以上
改訂記録
2002/10:初版
2003/12:改訂第一版:分解・転用