パワー IC ドライブによる

CV18 A2級 パラレルシングル・アンプ,
6N7/6N7GT/UZ79 B級兼 CV18 A2級 プッシュプル・アンプ

2002/03〜2005/06 宇多 弘

1 試作実験経過

 通常の三極管または多極管によるオーディオ・アンプでは、マイナス・バイアスによる A1 級、AB1 級それに AB2 級が殆どです。 これらの動作では、終段のグリッド電位をプラス領域に振った場合に流れる微小なグリッド電流は、電圧増幅管による直結カソードフォロワ・ドライブで吸収するか、またはトランス結合乃至グリッドチョーク等の低い抵抗値にて吸収します。
 ところが A2 級/B 級のアンプでは、概して終段の動作点をゼロバイアス近辺に設定してプラス領域ではタップリとグリッド電流を流す動作モードであり、しかもマイナス領域ではグリッド電流が流れず、そのアンバランスに対してもビクともしない余裕をもったドライブ・パワーが必要になります。
 この観点では、同じ A2 級に分類されるダイレクト・カップルド管である 6B5, 6AC5G/GT, 6N6G 一族の場合には様子が異なります。 これらの管種での動作点設定では、バイアス値がプラス側に一定のグリッド電流に設定し、それをプラスの範囲内の信号振幅で振るから領域をまたがらず、上記のようなアンバランスは生じないのです。 それで UY56/UY37/UY76 その他の電圧増幅三極管で楽にドライブできるのです。 これらの相違点について明確に意識しましょう。
 従って、A2 級/B 級のアンプでは一般には小電流のカソードフォロワ・ドライブ等では対応できず、低い内部インピーダンス球の直結カソフォロ・ドライブ、高価なステップダウントランス・ドライブ、または超三結回路ドライブ等の、ある程度以上のパワーを持ったドライバー段のお世話になるしかありません。 
 これまでの筆者等による、欧州系の双三極送信管 CV18 の A2級アンプ実験例では、下記の回路にて解決してきました。

(1) 6AS7G/6080 のプレート負荷として出力トランス代用チョークからタップダウンして直結ドライブした
  ゼロバイアス(電圧降下分だけわずかにマイナス)単ユニット・シングルおよびパラレルシングル、

(2) または同上ドライブ球によるインダクター負荷カソードフォロワ出力・ドライブまたは CV18 カソードに入力の
  グランデッド・グリッド (GG) によるプラスバイアスのパラレルシングル、

(3) 6Y6G_GT/6CW5 超三結ドライブによる直結 GG によるゼロバイアス・パラレルシングル、

(4) ある人による 6V6GT の標準的オーバーオール NFB 併用アンプの 8Ω端子の出力を 600Ω/8Ω出力トランスを
  一次二次の逆使用にてドライブするゼロバイアス・パラレルシングル、
  しかし二段ものトランスのカスケード接続には、流石に筆者は抵抗を感じて追試験は遠慮・・・。

 その後 2000 年の夏以来、筆者は フィリップス製のオーディオ・アンプ用パワー IC TDA1552Q を使ったIC メイン・アンプを三台試作して試聴比較用リファレンス・アンプとして使ってきましたが、この IC アンプを利用して簡単に CV18 のトランスドライブができそう・・・ A2 級/ B 級アンプの実験に使えそう、と考えていました。 また、筆者は B 級専用球によるアンプの試作経験が全くなかったので、A2 級アンプの追実験とセットにしてカバーすることにしました。(2002/03) 

1.1 A2 級アンプ実験の経過

 所が 2001 年の暮に会員のAさんが上記パワー IC アンプをドライバにした 6AS5(T) {但し T=三極管接続} のプラス側にも振り込む、A2 級パラレル・アンプに応用して、上記アイデアの実現されました。 そこで私も・・・と、CV18 A2 級パラレルシングル・ブースタアンプを計画しました。
 ゼロバイアスに設定して多量のグリッド電流を流すのは、結構厳しいな・・・との不安を感じながらも、CV18 の A2 級ブースタアンプを難なくクリアーしました。 上記のパワー IC を12V 程度で駆動するならば、以前に試みた各種出力管回路によるパワードライブよりはるかに強力であり、うまく動作するのは当然のことであると納得しました。 まずパラシングルによるブースタアンプを動作確認したので、極めて簡単な改造・・・シングル用の入力トランスを二個並列にして片方は反転させて入力し、出力トランスは PP 用に変更するのみ・・・にて CV18 パラシングルは A2 級プッシュプル・ブースタアンプに変身し、これも難なくクリアーしました。(2002/03)
 最終的には、パワー IC ドライバ段および CV18 をパラレルシングル終段またはプッシュプル終段とした、アンプ本体とパワー IC 電源を含む外部電源にて構成しました。 パラレルシングル・アンプは固定構成とし、プッシュプル・アンプでは、ソケット・アダプタ着装にて後述の 6N7/6N7GT/UZ79 B 級プッシュプル・アンプにて挿し換え運用可能としました。 (2004/07)

1.2 B 級アンプ実験の経過

 CV18 によるゼロバイアス A2 級アンプの動作に自信を得て、次には同じ回路構成のゼロバイアス B 級アンプを試作しようと、B 級動作が本来の設計である双三極管 6N7/6N7GT (6A6 が同等です) および B 級専用球である双三極管 UZ79 を入手し、早速 A2 級アンプと同様になブースタ・アンプを試作し、何れも動作確認しました。 
 オーディオ・アンプでの B 級動作はプッシュプル動作が前提です。 B 級動作専用球の動作はエンハンス・タイプの N チャン FET 見たいですが、グリッド電流が流れるので N 型バイポーラ Tr がより近いでしょう。
 何れの B 級管も、A 級シングル動作では恐らくプレート許容損失が持たないのではないかと思われるほど、規格上の名目出力に比べてプレートの構造がキャシャです。 デューティ・レートの低い音楽信号を扱うから、小さくても収まるのでしょう。
 しかも動作例を見ると無信号時のプレート電流はゼロではなく、ある程度は残しています。 おそらく設計に際してはスイッチング・トランジェント歪みを最小に抑え、且つ無信号時プレート電流最小のカネアイの動作点になるように、グリッドのメッシュやカソード間との距離等を決定したのではないかと思われます。
 B 級アンプの試作実験は筆者にとっては初体験でした。 B 級アンプと言うと、昔のトランス・ドライブによる無帰還トランジスタ・アンプで音が悪そう・・・という先入観があり着手しませんでした。 所が試作して鳴らしてみたら、よ〜く聴くと「少し何かありそう」な感じは残りますが、いやいやなかなかどうしてサッパリ、スッキリした近代的なキレイな音が出ます。 総括的には流石に三極管のプッシュプル、立派なものなのです。(2002/03)
 最終的には、パワー IC ドライバ段および 6N7/6N7GT/UZ79 をプッシュプル終段とした、アンプ本体とパワー IC 電源を含む外部電源にて構成しました。 UZ79 はソケット・アダプタ着装にて 6N7/6N7GT ソケットへの挿し換え運用としました。(2004/07)

2 パワー IC ドリブン CV18 A2 級パラレルシングル

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CV18 A2 級パラレルシングル・アンプと外部電源

●構成と構造
 初期 (2002/03) にはドライバ、本体、電源のバラ構成にて試験し、次に (2003/02) 一体化しました。
 その後、電源を共用外部化とする機会に強化して、本体 (パワー IC ドライブ段およびファイナル段) とは分離しました。 外部電源は CV18 の場合、スイッチ選択により Ebb=190V に設定しました。 (2004/07)

●ドライブ・トランスとその接続方法
 本アンプを構成する上で重要なのは、パワー IC によるドライバー出力をグリッド・インピーダンスに整合させるドライブ・トランスです。
 真空管によるドライバー段であれば 5kΩ/600Ω等の高価な特別仕様のトランスが必要ですが、8Ω出しのパワー IC アンプ出力があれば 600Ω/8Ωの構内放送用マッチング・トランスを一次二次逆に使って 8Ωに入力して、600Ω出力をグリッド入力として流用できます。
 そこで愛用の小形出力トランスの 0〜300Ω〜600Ω/8Ωバージョンを採用しました。 動作試験の結果、二次側は 0〜300Ωの方が音質的に好ましいのでタップダウンしました。 0〜300Ω間の巻線抵抗は 17Ω弱でした。 パラレルシングル構成では、上記トランスをチャネル当り一個使用してドライブします。

●出力トランスとシャーシ、回路図、音
 出力トランスには 70mA 級の 3.5kΩ〜8Ωのものを使いました。
 シャーシはタカチ YM250 です。 シャーシ上部配置は文頭の写真をご覧ください。
 回路はカソードは単に接地、グリッドにもプレートにもトランス以外のものは入らない、極めてシンプルなものです。
 音には迫力があります。 入力トランスの直流抵抗分がグリッド電流の影響を受けて、ドライブ波形に上乗せされるのでしょうか。

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●外部電源
 この外部電源にはパワー IC 用電源を含むほか、ヒーター電源には余裕を持たせ、後述の 6N7/6N7GT/UZ79 プッシュプル・アンプ兼 CV18 プッシュプル・アンプの他にも、6.3V3A/Ebb=250V で賄える小型アンプ (例えば、6BM8 超三結アンプおよび 6AC5GT 準超三結アンプ等) の外部電源としても利用できるようにしました。
 B電源には 100V-200V/50VA のセパレーション・トランスを使用しブリッジ整流、合計 6,000μFのフィルタ・キャパシタを装備し 250V/150mA 程度の出力を得ました。
 CV18 パラレルシングル・アンプまたはプッシュプル・アンプを運用する場合は、リップル・フィルタの抵抗値をスイッチにて切り替えて 190V に低下させます。
 ヒーター電源には 6.3V/3A を用意、 パワー IC 用電源には 15V1.5A のスイッチング・レギュレータ式の AC アダプタをケースごと利用しました。
 安全確保のため AC OFF 時には B電源を 3kΩ20W でショートさせる、キャパシタのチャージを放電させる AC100V リレーを装備しました。 AC ON 時には接点を開放とし、AC OFF 時または停電時に、また誤って動作中にコンセントを抜いても接点は接続となります。 OFF 後 30 秒程度で数十V まで放電します。  

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3 パワー IC ドリブン 6N7/6N7GT/UZ79 B 級兼 CV18 A2 級プッシュプル・アンプ

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●構成と構造
 初期 (2002/03) にはバラ構成にて試験し、次に (2003/02) 電源を含め一体化しました。
 その後電源を強化し、その電源を他のアンプとも共用するため、本体 (パワー IC ドライブ段およびファイナル段) および外部電源とに分離しました。 (2004/07)

●ドライブ・トランスと接続方法
 小形出力トランスの 0〜300Ω〜600Ω/8Ωバージョンを採用しました。 これを一次側 0〜8Ωで二個並列接続とし、しかもその一方は 8〜0Ωと逆の接続、二次側は同じく 300Ω〜0Ω間を使った、個別トランスによる位相反転回路としました。
 通常考えらる、一次側を共通の 8Ωはホット、0Ωはコールドの並列接続とし、二次側にて 300Ω〜0Ω/0Ω〜300Ω とする位相反転方法よりも、インピーダンスの低い一次側の一方を逆にして、二次側は同条件にするほうが、巻線分布容量などが関係する周波数特性が一致しやすいのでは?と考えました。 配線ストレー容量などに若干の不平衡が生じ得ますが・・・目をつぶります。
 動作試験の結果 600Ω〜0Ω間よりも 300Ω〜0Ω間が音質的に好ましく、ゲインも十分たりるので選択しました。 
 6N7/6N7GT B 級プッシュプルおよび UZ79 B 級プッシュプルとは、ドライブ入力条件はほぼ同じ、出力トランスは最適インピーダンスが異なるだけです。 さらに CV18 A2 級プッシュプルのドライブ入力条件は動作試験の結果 6N7/6N7GT/UZ79 B 級プッシュプルに近いものと考えられます。 

●出力トランスとシャーシ
 ノグチ PMF-15P を使用しました。 UZ79 が要求する p-p 間 14kΩには届かないけど、他の p-p 間 5kΩ級のプッシュプル用出力トランスに比べて p-p 間 8kΩタップにてかなり音質が改善できました。 CV18 の場合は p-p 間 5kΩタップを使用します。
 シャーシはタカチ SL702623 です。

●外部電源との関係
 6N7/6N7GT の各プレート電流 (Ip) は、規格表によれば無信号時 35mA、大信号時 70mA とあり最大振幅時には 280mA となります。 また、UZ79 の無信号時プレート電流は規格表によれば12mA 強、プッシュプルでの 4ユニット合計にて 50mA 程度、信号入力時の単一プレート当りの最大電流がナント 90mA とあり最大振幅時は 360mA です。 いずれのピークに対しても到底足りませんが、大容量キャパシタにて勘弁してもらうことにしました。

●音と回路図  
 ◇6N7/6N7GT B 級・・・電流振幅が大きいらしく超三結に似た感じもあります。
 ◇UZ79 B 級・・・6N7/6N7GT と同種ですが、やや固さが感じられます。
 ◇CV18 A2 級・・・B 級よりも制動が効いて端正な感じですが、パラレルシングルより賑やかです。

 B 級アンプで心配されたスイッチング・トランジェント歪は、小信号の範囲では感じられず、やや軽い感じの素っ気ない音で気に入りました。 しかし、内部インピーダンスが高いらしく、低域がやや制動不足、以前に試作試験した 6AC5GT のA2 級無帰還アンプとも類似の性格を持った音となりました。 とは言うものの、どれも流石に三極管らしく多極管のように不快な歪みは耳に付きません。
 本体部分回路図は下記の通り、極めてシンプルです。(2004/07)

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以上
改訂記録
2002/03:初版
2005/03:全面改訂、外部電源追加
2005/04:回路図の更新
2005/06:分解・転用