相当以前から筆者の宝箱=ジャンク箱に山水の ST-92 が在庫していました。 これはトランジスタの B 級プッシュプル終段ドライバ用で、一次側が 1.3kΩ、二次側が 600Ω CT (センタータップ) です。 メーカの示す簡易規格表にはハンドリング・パワーについて記載がなくも、6.3V0.5A のヒータートランスのサイズから類推して 2~3W程度と思われます。
B 級 PP アンプの試作に際しては、これの利用可能性も考えました。 例えば UZ79 に必要なドライブ・パワーは規格表には 0.38W と記されていますが、実際には数倍ないと所期の音質が得られなかったこともあり、もっと大型でハンドリング・パワーの余裕が欲しいし、ドライバ管を考えると一次側は 5kΩは欲しい訳です。 しかし、それはどうやらナントカの一つ覚えから、真空管ドライバー段に関してはプレート負荷回路に限定、インピーダンスが低すぎで使えない、と頭から諦めていたのですね。 ところが先日、何の気なしに ST-92 眺めているうちに、
(1) カソードフォロワ・ドライブという手段があるではないか!、
1.3kΩと一次側インピーダンスが低いけど、カソードフォロワ負荷とすれば OK では?、
(2) ハンドリング・パワーの限界に突き当たったならば、そこまででした・・・と諦める。
と「駄目で元モト」で挑戦する気になりました。 早速実験に掛かり、即日完成してしまいました。 そして早く気がついて迷わず挑戦するんだった・・・と大いに悔やみました。
●初段とカソード・フォロワ段
ゲインが足りないので、カソードフォロワによるドライバ段のまえに電圧増幅一段=初段を設けます。 初段〜ドライバー段間は C/R 結合もよいのですが、その必然性もなく使用部品も増えるので、エイヤッと直結です。 ドライバー段にバイアスの深い球を使えばどうにでもなる・・・
取り敢えずの動作試験では 6SN7GT を使い、ユニット1 は抵抗負荷の電圧増幅、ユニット2 は直結のカソード・フォロワとし、カソードに挿入した抵抗負荷からキャパシタを経由してステップダウン・トランス ST-92 の一次側にクラーフ結合 (またはクローフ、Clough) としました。 この状態にて予想通りゲイン不足ながらもマトモな音が得られて、ひとまず成功しました。
初段に 6SL7GT を起用すればゲインは上がりますが、GT 管一本にて初段とカソード・フォロワ段を構成したいので、ゲインを確保しながら強力なドライブ力が得られる「本命」の 6EM7 に挿し換えました。 ところが前よりゲイン不足・・・なぜ?、これは簡単でした。 6SN7GT ではユニット1 とユニット2 の接続を意識せずに、配線が逆でローμのユニットが初段に充てられ、ハイμのユニットがカソード・フォロワだった・・・入れ替えして一応完成です。
この状態でも、若干ゲインが足りません。 クラシック音楽ではライン入力トランスで持ち上げたくなりますが、ポピュラー系にはほぼ OK です。 組み直しの機会があれば初段を五極管に変更したいと思います。
●出力トランスとその規模、負荷インピーダンス調整
写真に見られるやや大型の一次側 P〜P 間 5kΩ (2.5kΩ-2.5kΩ) のバンド型を使用しました。 出力規模からはこのサイズは不要のようです。 しかしカソードが共通の 6N7/6N7GT/UZ79 では、各2ユニット間の DC バランスはグリッド・バイアス調整によるしかありませんが、ゼロバイアス動作が条件、しかもグリッド電流が流れる B級動作では、一般の PP 回路のようには調整できないから、許容不平衡電流値の大きい出力トランスに頼り吸収するしかありません。
一般的な PP 回路実験にて色々な出力トランスを交換して得た経験則からも、大型な出力トランスほどラフな DC バランスに耐えられるので、たとえ出力トランスの規格には許容不平衡電流値の表示がなくても、オーバースペックを承知でより大型を選択することになります。
使用した出力トランスの二次側は 0-4Ω-8Ωの端子があります。 6N7/6N7GT に指定の負荷インピーダンスは 4kΩ-4kΩ、さらに UZ79 では 7kΩ-7kΩとなっており、かなり開きがあります。 0-4Ωを選択して 8Ωのスピーカを接続するなら、見かけ上一次側は 5kΩ-5kΩ相当となり、6N7/6N7GT はほぼ OK ですが UZ79 ではやや低音過剰となります。 また 4Ω-8Ω端子間に 8Ωスピーカ負荷を接続すると、一次側換算ではナント 29kΩ-29kΩというベラボーな値となり大幅ミスマッチで、低音カットされるけどなんとか使えます。
いずれの球も、多極管なみに負荷インピーダンスが音質に敏感に影響するので、二次側に細かくタップが出ていて微細に調整できる出力トランスに取り替えてミノムシクリップにて切り替えながら、再度調整する予定です。
●B 電源他、回路図
別項に示した汎用電源を利用しました。
6N7/6N7GT/UZ79 の各プレート電流 (Ip) の信号による変動には、大キャバシタを装備したので勘弁してもらうことにしました。 本体部分回路図は下記の通り、極めてシンプルです。