真空管ドリブン 6N7/6N7GT/UZ79 B級 プッシュプル・アンプの試作

2004/09 - 2004/12 宇多 弘
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1 試作実験経過・・・ステップダウン・トランスがカナメ

 別項に示したパワー IC ドリブン 6N7/6N7GT/UZ79 B 級プッシュプル (PP) アンプを時々運転してきましたが、どうもパワー IC によるドライブが過剰仕様 (オーバースペック) であり、何とか真空管ドリブンにならないかな・・・と時々考えていました。
 出力管の三極管接続など真空管にて上記のような B 級 PP 終段をドライブする場合に問題となるのは特殊なドライブ・トランス〜ステップダウン・トランスです。 (以下、意識してステップダウン・トランスに統一します。) それは、たとえば一次側が 5kΩ、二次側が 600Ω CT=センター・タップ (150Ω-0-150Ω) などの仕様のものです。  B 級管である終段のグリッドが示す、低い入力インピーダンスに対応するため、5kΩ/150Ωなら 5.8:1、1.5k/150Ωなら 3.2:1 など、入力信号の電圧振幅を圧縮し電流振幅を強くします。 従って出力トランスと同様に変成器と呼ぶのが正解です。 
 純正?なステップダウン・トランスは、一般的な PP 用出力トランスよりもお高く、調達し実験するには若干の抵抗があり、そこで一工夫して 8Ω/600Ω仕様の小型出力トランスの逆使用による、カーステレオ用パワー IC ドリブンにて実現してきたのでした。 この方法ではかなりの調達容易性とコスト効果が得られ、また B 級 PP アンプの特徴はシッカリ保持され、一応の目的は達しました。
 なお UZ79 にて B 級 PP を構成する上では、プレート〜プレート間 14kΩ (7kΩ-7kΩ) と指定される出力トランスが欲しいですが、これは 5kΩ-5kΩのものにて二次側のタップ選択、または 2.5kΩ-2.5kΩのものでも二次側のタップ選択自由度の高いトランスを使用すれば調整可能、解決すみと考えます。

 相当以前から筆者の宝箱=ジャンク箱に山水の ST-92 が在庫していました。 これはトランジスタの B 級プッシュプル終段ドライバ用で、一次側が 1.3kΩ、二次側が 600Ω CT (センタータップ) です。 メーカの示す簡易規格表にはハンドリング・パワーについて記載がなくも、6.3V0.5A のヒータートランスのサイズから類推して 2~3W程度と思われます。
 B 級 PP アンプの試作に際しては、これの利用可能性も考えました。 例えば UZ79 に必要なドライブ・パワーは規格表には 0.38W と記されていますが、実際には数倍ないと所期の音質が得られなかったこともあり、もっと大型でハンドリング・パワーの余裕が欲しいし、ドライバ管を考えると一次側は 5kΩは欲しい訳です。 しかし、それはどうやらナントカの一つ覚えから、真空管ドライバー段に関してはプレート負荷回路に限定、インピーダンスが低すぎで使えない、と頭から諦めていたのですね。 ところが先日、何の気なしに ST-92 眺めているうちに、

 (1) カソードフォロワ・ドライブという手段があるではないか!、
  1.3kΩと一次側インピーダンスが低いけど、カソードフォロワ負荷とすれば OK では?、
 (2) ハンドリング・パワーの限界に突き当たったならば、そこまででした・・・と諦める。

と「駄目で元モト」で挑戦する気になりました。 早速実験に掛かり、即日完成してしまいました。 そして早く気がついて迷わず挑戦するんだった・・・と大いに悔やみました。 


2 構成と構造、実装

●出力管の兼用、電源
 別項のパワー IC ドリブン 6N7/6N7GT/UZ79 B 級プッシュプル・アンプ で述べたとおり、これら二管種のドライブ条件はほぼ同じです。 出力トランスは最適インピーダンスが異なるけど兼用可能なので、パワー IC ドリブンと同様に UZ79 はドップグリッドのキャップ・リード付きのソケット・アダプタ着装にて 6N7/6N7GT ソケットに挿し換え可能としました。 電源は汎用の外部電源を利用しました。

●初段とカソード・フォロワ段
 ゲインが足りないので、カソードフォロワによるドライバ段のまえに電圧増幅一段=初段を設けます。 初段〜ドライバー段間は C/R 結合もよいのですが、その必然性もなく使用部品も増えるので、エイヤッと直結です。 ドライバー段にバイアスの深い球を使えばどうにでもなる・・・
 取り敢えずの動作試験では 6SN7GT を使い、ユニット1 は抵抗負荷の電圧増幅、ユニット2 は直結のカソード・フォロワとし、カソードに挿入した抵抗負荷からキャパシタを経由してステップダウン・トランス ST-92 の一次側にクラーフ結合 (またはクローフ、Clough) としました。 この状態にて予想通りゲイン不足ながらもマトモな音が得られて、ひとまず成功しました。
 初段に 6SL7GT を起用すればゲインは上がりますが、GT 管一本にて初段とカソード・フォロワ段を構成したいので、ゲインを確保しながら強力なドライブ力が得られる「本命」の 6EM7 に挿し換えました。 ところが前よりゲイン不足・・・なぜ?、これは簡単でした。 6SN7GT ではユニット1 とユニット2 の接続を意識せずに、配線が逆でローμのユニットが初段に充てられ、ハイμのユニットがカソード・フォロワだった・・・入れ替えして一応完成です。
 この状態でも、若干ゲインが足りません。 クラシック音楽ではライン入力トランスで持ち上げたくなりますが、ポピュラー系にはほぼ OK です。 組み直しの機会があれば初段を五極管に変更したいと思います。

●出力トランスとその規模、負荷インピーダンス調整
 写真に見られるやや大型の一次側 P〜P 間 5kΩ (2.5kΩ-2.5kΩ) のバンド型を使用しました。 出力規模からはこのサイズは不要のようです。 しかしカソードが共通の 6N7/6N7GT/UZ79 では、各2ユニット間の DC バランスはグリッド・バイアス調整によるしかありませんが、ゼロバイアス動作が条件、しかもグリッド電流が流れる B級動作では、一般の PP 回路のようには調整できないから、許容不平衡電流値の大きい出力トランスに頼り吸収するしかありません。 
 一般的な PP 回路実験にて色々な出力トランスを交換して得た経験則からも、大型な出力トランスほどラフな DC バランスに耐えられるので、たとえ出力トランスの規格には許容不平衡電流値の表示がなくても、オーバースペックを承知でより大型を選択することになります。 

 使用した出力トランスの二次側は 0-4Ω-8Ωの端子があります。 6N7/6N7GT に指定の負荷インピーダンスは 4kΩ-4kΩ、さらに UZ79 では 7kΩ-7kΩとなっており、かなり開きがあります。 0-4Ωを選択して 8Ωのスピーカを接続するなら、見かけ上一次側は 5kΩ-5kΩ相当となり、6N7/6N7GT はほぼ OK ですが UZ79 ではやや低音過剰となります。 また 4Ω-8Ω端子間に 8Ωスピーカ負荷を接続すると、一次側換算ではナント 29kΩ-29kΩというベラボーな値となり大幅ミスマッチで、低音カットされるけどなんとか使えます。
 いずれの球も、多極管なみに負荷インピーダンスが音質に敏感に影響するので、二次側に細かくタップが出ていて微細に調整できる出力トランスに取り替えてミノムシクリップにて切り替えながら、再度調整する予定です。

●B 電源他、回路図
 別項に示した汎用電源を利用しました。 
 6N7/6N7GT/UZ79 の各プレート電流 (Ip) の信号による変動には、大キャバシタを装備したので勘弁してもらうことにしました。 本体部分回路図は下記の通り、極めてシンプルです。

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3 試聴結果、感想

 本機の構成では、パワー IC ドリブン・アンプに比べると若干最大出力と迫力が足りない感じですが、自宅で静かに使うには特段の問題ありません。
 本機の構成を客観的に眺めると、何のことはない B級出力管 6N7/6N7GT/UZ79 の誕生した時代から、相当後になって TV 用に製造された 6EM7 を使用し、トランジスタ・セット向けに作られたステップダウン・トランス ST-92 によって B 級 PP が実現できたわけで、構成要素は色々な時代の合成となり、若干の違和感があります。 もっとも先行して試作し運転していたパワー IC ドリブン・アンプでは、さらに後の製品との合成にて時代ギャップと違和感はさらに大きいのですが。 
 とは言うものの(本機の場合にかぎらず)違和感を嫌って、アンプ全体を時代考証するために伝統的な構成要素の一部・・・本機の場合はステップダウン・トランス・・・を使うことを条件にしたら、おそらく調達を諦めて折角の主体・・・本機の場合は B 級管・・・が日の目を見なかったでしょう。
 時代を遡る場合には、形式や「こだわり」についてはある程度は意識しながらも、代替方法について (悪) 知恵を絞ることは不可避的であり、それが早道であり、しかも性能的な進歩、特に容易に高性能が得られる・・・例えば電源など・・・あたりにも考慮が求められる、と思ったことです。
以上

改訂記録
2004/09:初版
2004/12:改訂第一版:分解・転用