6AC5GT 超三結アンプの製作と改造

1998/02〜2003/01  宇多 弘
6ac5gtop.jpg
改造後

1 6AC5GT アンプの製作および改造経過

 6AC5GT の試験を思い立ったのは、無線と実験別冊、浅野 勇 氏の「魅惑の真空管アンプその歴史・設計・製作」の記事に触発されたからでした。 1989 年に 6AC5GT を購入し、以後、下記「表1-1 6AC5GT アンプ変遷史」および「表1-2 6AC5GT アンプの回路近代化改善の経過一覧に」示す通り段階的に試験を行ってきました。

 なお下記表中の項番 1〜4 は、初期の古典回路によるバリエーションであり、また項番 5〜9 は、その後の超三結または類似回路による音質改善等、改造と追及の記録となりました。 以前は毎回の回路図を記載しましたが、今回の改訂では項番 8/9 の回路だけを残して除去しました。(2003/01)

表1-1 6AC5GT アンプ変遷史 (試作1~4 は古典回路)

試作年月日
電圧増幅初段
(+帰還管等)
DCドライバー*
+終段の構成
OPT
NFB形式および
回路概要
その他
付加回路素子
出来映え等
1
1989/2/212AX7/2UY76+6AC5GTタンゴ
H5S
OVERALL(OPT二次側→
初段 カソードにNFB信号)
-
低音が締まらず
バスレフを密閉に
2
1989/4/1212AX7/2同上タムラOVERALL=↑
-
低域の強化
3
1992/11/2412AX7/2同上
看做し一体化↓
H5S
**
OVERALL=↑/
CNF→(備考2 参照)
-
Head Phone 用兼
Trアンプ 様の音
4
1995/6/106AU6
(6V6GTs)
UY76+6AC5GT
ユニット プラグイン
タムラ
F475
OVERALL=↑初段LNR は
二極管接続↓
試作例 3 と変らず
5
1997/12/212AX7→6DJ8
SRPP
UY56+6AC5GT
看做し一体化
春日
54B
P-G/P-K NFB 併用
SRPP ドライブC/R 結合
初段LNR 12AX7
出力トランス B側 SD
歪み感改善
ややhigh上がり
6
1999/2/206U8A(p)/
12AT7/2(VFT)
同上 (嵩上げ
Rk 併用)
春日看做し一体化直結
超三結V1(多極管扱い)
初段LNR 6U8A(t)
OPT B側 SD
多極管
超三結V1なみ
7
2001/4/1512AX7/2
12AU7/2(カソフォロ)
UY56+6AC5GT東栄
5S
看做し一体化
P-G NFB カソフォロ drive
C/R 結合 準超三結V1
初段LNR 廃止→
→初段K P-K NFB
OPT B側 SD
>試作 6 より改善
8
2001/5/1712AX7 SRPP
SD 先のBから
上記 カソフォロ
drive が冗長
東栄DC ドライバ 直接 P-G NFB
C/R 結合 準超三結V1
初段 P-K NFB
OPT B側 SD
試作 7より
単純化改善
9
2002/1/3
2002/8/3
6AU6 (試験)
6AS6 (実用)
12AU7パラ+〜
12BH7A/2+〜
ノグチ
6W
上記 8構成 準超三結V1
DC ドライバ 適用品種拡大
初段 P-K NFB
OPT B側 SD
試作 8と同等
最終構成
*備考1:6AC5GT 用 ダイレクト・カップルド・ドライバ (Direct Coupled Driver) に UY56/UY76/6P5GT/6AE7GT が使われる。
  → DC ドライバー と略称、試作9:12AU7 パラレル,12BH7A/2, 6350/2, UY37 等が利用可能と判明し追試験。
**備考2:タンゴH5S では二次側に 0-4-8-16-32Ω端子があり 0-4Ωを CNF に、4-32Ω間を 8Ωとして使用。

表1-2 6AC5GT アンプの回路近代化改善の経過一覧
試作
終段 ドライブ
回路形式
回路および素子による処置
効果
5-1
P-G NFB 併用
SRPP ドライブ
(1) 初段 SRPP カソードフォロワ に、終段 P から P-G NFB を適用。
(2) C/R 結合にて直結課題を回避、
(3) 終段 P から初段 K へ P-K NFB を併用。
出力トランス伝送
特性影響回避。
5-2
同上
終段の出力トランス B電源側に SD 1N4007 を挿入。電源 インピーダンス 影響除去を意図。
5-3
同上
ショットキー・ダイオード1N5823 または初段同型管 (12AX7) の
二極管接続 リニアライザを初段 P へ挿入。
初段自乗特性を改善。
5-4
同上
初段 SRPP および二極管接続 リニアライザを 6DJ8 に変更。聴感上改善あり。
6
P-G NFB 併用
倒立μフォロワ
・ドライブ
五極電圧増幅管〜三極電圧帰還管による超三結前段に変更、
ドライバ段+終段を一体化し単一多極管と看做し、カソード に
嵩上げ抵抗を挿入、多極管なみの直結超三結V1 とした。
多極管超三結様の
聴感上改善あり。
7-1
P-G NFB 併用
カソード フォロワ・ドライブ
ドライバ段+終段を一体化し多極管と看做し、P-G NFB 併用
カソードフォロワ・ドライブとして、C/R 結合の準超三結とした。
音質は直結と変らず、
低 B 電源を実現。
7-2
同上
初段 リニアライザを廃し、終段 P から初段 K に P-K NFB を適用。試作 6 より
相対的に効果あり。
8
P-G NFB 併用
ダイレクト・カップルド
・ドライブ
(1) 試作 7 の P-G NFB を ダイレクト・カップルド・ドライバに直接適用。
(全 K 電流にて終段ドライブするカソードフォロワ・ドライブの特殊例。)
(2) 初段 SRPP の B 電源は SD 経由とし P-K NFB を正常化。
試作 7 より効果あり。
9
同上
(1) 情報入手にて ダイレクト・カップルド・ドライバ適合球範囲拡大、
12BH7A/2, 6350/2, 12AU7 パラレル につき動作確認。
(2) 初段 の B 電源は SD 経由とし P-K NFB を正常化。
試作 8 同等。 
構成自由度向上、
小形化実現。

2 古典回路で把握した特徴

 何と言っても 6AC5GT の一般の三極管にも多極管にもない、少しバイポーラのトランジスタアンプに似た、しかも歪感の少ない独特の音が魅力でした。 これは Direct coupled Triode が必然的に「全力投入する」カソードフォロワ・ドライブ回路で構成され、しかも電流ドライブであることによるものと考えられます。

 特にμ=58 と高い増幅度の 6AC5GT をカソード NF(CNF) にすると、デキの良いトランジスタアンプの様な、しかし遥かに澄んだ音が得られました。 動作は安定で OVERALL NFB / CNF 共に一切の発振抑止措置は必要としませんでした。 6AC5GT のダイレクト・カップリング・ドライブ球には 1940 年代製の虎の子のマツダ (東芝のブランド) UY76 を使用しましたが、性能は落ちておらず、よく揃っていました。

 しかし CNF と OVERALL NFB を併用した古典回路では、とり切れない歪感が少し残るのが壁となっていた他、OVERALL NFB だけではまだ出力インピーダンスが大であり、調整不十分なバスレフ型スピーカシステムでは fo 付近に盛大なピークを持つので、密閉型に変更したことがありました。(1998/02)


3 P-G NFB jointed SRPP ドライブにする 

 そこで、新たな挑戦として、何とかして 6AC5GT アンプを超三極管接続 (超三結) に持ち込み、とり切れない歪感を除去できないかというのが課題となりました。 しかし、超三結 V1 の特徴である直結ドライブを適用するには、前段との関係にて、マイナス電源やら、入力のマイナス電源とのセパレーションのための入力トランス併用などの課題があり、直ちに適用できるだけの応用力が、筆者にはありませんでした。

 とりあえずは前段を一般的な SRPP 回路としてドライバーの間を C/R 結合とし、SRPP 回路の上の三極管には、終段プレートから P-G NFB 信号と B 電圧を供給しました。 この回路は超三結に到る途中の構成とも考えられます。 このように変更した構成が前記「表1 6AC5GT アンプ変遷史」の項番 5 です。 (:この回路を 2000年秋に「P-G NFB jointed SRPP ドライブ」と、私の独断にて正式命名しました。(2001/04)


4 強引に直結して超三結 V1 にする

 その後、何とかして直結〜超三結 V1 にできないかと考えた末、ドライバの UY56/76 と終段 6AC5GT一つの三極管としてみなせるのではないかと発想して、この合成された終段に直結のため「嵩上げ用」自己バイアス用カソード抵抗を加えて、強引に超三結 V1 を構成することにしました。

 この「みなし三極管」のバイアス電圧は 6AC5GT のカソード基準では本来ゼロのままであり、UY56/76 の標準的動作時のカソード電圧 +13.8V が 6AC5GT のグリッドに掛かるけれど、それは「みなし三極管」の {内部事情} です。 従って直結化するため追加した自己バイアスは、単に前段五極管のスクリーングリッドとプレートに適正な B 電圧を供給するだけの目的に限定されます。 では固定バイアスにすれば?、とは思いますが超三結 V1 の特徴を活かして、前段五極管への直流負帰還による動作の安定化効果を期待し、かつ前段五極管にて電圧配分の調整を可能としたものです。

 ドライプ信号の peak to peak 振幅は、UY56/76 の標準的動作時のバイアス電圧+13.8V をそのまま「みなし三極管」の自己バイアス電圧と想定すると、大体 20V 程度なので 6V6/6L6 並みのドライブ電圧で充分と考えました。
 折角の 6AC5GT の特長である、自己バイアスが不要の回路に、わざわざ目的外の嵩上げ自己バイアスを加えるのは残念至極ですが、一応は多極管の超三結 V1 と同じ直結回路になりました。 自己バイアスのデメリットと直結のメリットのどちらが勝つでしょうか。 

 このように変更した構成が前記「表1 6AC5GT アンプ変遷史」の項番 6 (超三結 V1) です。 


5 P-G NFB jointed カソードフォロワ・ドライブにする

 前記の「4 直結の超三結 V1 にする」は何か「音の厚み」が足りませんでした。 もともとシッカリ制動しているから、贅肉的な音が出る余地はないのですが、少し締め上げ過ぎたかもしれません。 また直結の超三結 V1 回路では初段にリニアライザを使い、P-K NFB が無いなど時代遅れの感じもありました。 そこで、P-G NFB jointed カソードフォロワ・ドライブ回路にてリバイバルすることにしました。

 ストッピング・ダイオード (SD) の効果をうまく引き出すために、少し工夫しました。 初段の B 電源供給をナマ B から貰うと、P-K NFB を掛けた場合には SD によって生じた信号とキレイな B 電源とが整合せずに、SD が却ってノイズ発生の原因になるのです。 そこで初段の B 電源供給は SD の先、出力トランスの電源側入り口から貰うのが正解です。
 但し、6AC5GT の直結カソフォロ・ドライバーである UY56/76 のプレート電圧供給はキレイな B 電源から貰わねばなりません。 この段はあくまでも信号に対してトランスペアレント (透明) であるべきであり、単にインピーダンス変換を行うだけが目的ですから、SD の影響を回避しました。

 このように変更した構成が前記「表1 6AC5GT アンプ変遷史」の項番 7 (P-G NFB jointed カソフォロ・ドライブ) です。


6 P-G NFB jointed Direct Coupled driver ドライブにする

 項番 7 の回路をしばらく眺めているうちに、カソフォロ・ドライバーが冗長であり、6AC5GT 固有のダイレクト・カップルド・ドライバーの UY56/76 が本質的に (電流ドライブではあるものの) カソフォロ・ドライバーであり、P-G NFB は兼用できるはず・・・プレート電源および NFB 信号の供給は 6AC5GT のプレートから直接可能だと考えるに到り、再挑戦しました。 これが実に正解でした。

 実は、上記回路の実験は、前記「3 P-G NFB jointed SRPP ドライブ」(項番 5) 時代の段階 (1998/02) にて一旦済んでいましたが、音質が暗く固くて優れずボツにしたものでした。 当時はまだ P-K NFB による終段の歪み補正に着目しておらず、また SD を併用した場合の SRPP への B 電源供給は SD の出力トランス側からの SD の影響が含まれた統一 B 電源による動作が必要なことも思いつかず、出力トランスの品質、B 電源の装備キャパシタ容量なども併せて、SD 効果が活用できていなかった見たいでした。 もうちょっと考察を続け、深読みして実験を続ければ現段階に到達していたかもしれませんが、その後三年も経過してしまいました。

 今回の項番 8 の回路では、一見すると項番 5 の回路の単純化みたいですが、上記課題を解決して P-G NFB jointed SRPP と P-G NFB jointed Direct Coupled driver とでは P-G NFB の効果 〜超三結効果とでも言いましょうか〜 が全く異なることを確認しました。
 どうやら、P-G NFB jointed SRPP driven では上の driver と下の amplifier ユニットで P-G NFB 信号電圧=終段プレートからの信号電圧を1/2 ずつ配分するだけで、波形も乱れる可能性がありますが、P-G NFB jointed Direct Coupled driver driven では、全 P-G NFB 信号電圧が driver でフル活用されるため、より深く掛けられ、かつ波形の乱れも少ないものと考えます。

 このように変更した構成が前記「表1 6AC5GT アンプ変遷史」の項番 8 (P-G NFB jointed Direct Coupled driver ドライブ) です。 回路図を以下に示します。(2001/05)

6ac5sch3.gif


7 ダイレクトカップルド・ドライバー管の変更

 MJ 誌の 2001年12月号の pp150 SIDEWINDER に記載の、最上克紀 氏による「6AC5 の物語」には、大きなショックを受けました。 というのは、ダイレクトカップルド・チューブの 6AC5G/GT のドライバー管には、UY3712AU7 の両ユニットのパラレル接続、6CM7 の第二ユニット、12BH7(A)6350 の単ユニットの例もある・・・との記述でした。 私は勉強不足で、これほどドライバー管の自由度が高いとは知りませんでした。

 浅野 勇 氏の「魅惑の真空管アンプ」の記載例では、シングル動作の場合のドライバー管は UY56/76, 6P5GT, 6AE7GT となっており、プッシュプルの場合は 6J5 にてやや深いバイアスに設定してあるのみなので、これまで私は原典に忠実に UY56/76 で構成していたのです。
 それで急遽、前記の「項番 8」と全く同一の回路にてドライバー管を 12BH7A/2 に交換したアンプを仮組みして、殆ど UY56 と同様の動作であることを確認し、ついでに類似の 6350/2 も確認し、併せて 12AU7 パラレル接続、および相当管の 5814, 5963 各のパラレル接続も確認しました。(2002/02)
 その後、初段を 6AS6 に変更、コンパクトなアンプに更新しました。

 このように変更した構成が前記「表1 6AC5GT アンプ変遷史」の項番 9です。(2002/08)  回路図を以下に示します。(2003/01)

6ac5sch4.gif


8 まとめ

 いろいろやってみたのですが、判り切ったことながら、結局超三結は直結にしなくても相当な効果が得られるということです。 しかも、P-G NFB をシッカリ掛けるには前段を絡めずに、カソフォロ・ドライバのプレート電圧供給と NFB 信号供給を、終段のプレートから直接取るに限るのだな、と言うことになりました。(2001/04)〜(2001/05) 
以上

改訂記録
1998/02:初版、P-G NFB jointed SRPP driven アンプ試作
1999/02:改訂第一版、76-6AC5GT を一体と看做した超三結V1 アンプ試作追加
2001/04:改訂第二版、76-6AC5GT を一体と看做した、
     P-G NFB jointed cathode follower driven アンプ (準超三結アンプ) 試作追加
2001/05:改訂第三版、P-G NFBjointed direct coupled driver driven アンプ (準超三結アンプ) 試作追加
2002/02:改訂第四版、ドライバー管の UY56 から 12BH7A/2 への変更確認実験と結果。
2002/08:改訂第五版、初段を変更、シャーシ更新。
2002/11:改訂第六版、「表1-1 6AC5GT アンプ変遷史」、「表1-2 6AC5GT アンプの回路近代化改善
     の経過一覧」の追加訂正、途中経過の回路図を省略。
2003/01:改訂第七版、最終回路図の追加、分解・転用
2004/05:改訂第八版、表 1-2 の効果欄入れ違い修正。