平野喜久 著

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74 【メラビアンの法則】  the rule of Mehrabian
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●天使の辞典●────────────────────────────

〔1〕 話者が聴衆に与えるインパクトには、3つの要素があり、それぞれの
   影響力を具体的な数値で表した法則。
    アメリカの心理学者アルバート・メラビアンが1971年に提唱した。
    「3Vの法則」「7-38-55ルール」とも。

〔2〕 55%=Visual (視覚情報:見た目・表情・しぐさ・視線)
    38%=Vocal (聴覚情報:声の質・速さ・大きさ・口調)
     7%=Verbal (言語情報:言葉そのものの意味)

〔3〕 ビジネスでは、スピーチ、プレゼンテーション、営業活動、接遇、
   就職面接において、視覚情報の重要性が指摘される。

★悪魔の辞典★────────────────────────────

〔1〕 安っぽいセミナー講師が仰々しく披露する「こけおどしネタ」。

〔2〕 「見かけよりも中身が大事」という意見を、真っ向から否定したいと
   きに使われる法則。

〔3〕 「なんと、言葉そのものは7%しか伝わらないんですよっ!」
    「ほう。すると、君はロシア語の映画を字幕なしで観て、93%も内
   容を理解できるというわけかね」

■世人の独言■────────────────────────────

 またまた、奇妙なビジネス用語です。
 もともと、心理学分野の言葉ですが、最近、ビジネス分野でも見かけるよう
になりました。
 特に、プレゼンテーションのハウツーを語る場合は、必ず登場します。
 「アイコンタクトが大事」「ボディーランゲージが大事」「図式化が大事」
「パワーポイントの作り方が大事」

 そもそも、このパーセンテージを見て、「変だ!」と思いませんか。
 こんな細かい数値、どうやって調べたの?
 なんで、この3つの要素だけで100%ぴったりになっちゃうの?
 言語情報が7%なんて、あまりにも少なすぎない?

 実は、この法則、とんでもない誤解の産物なんです。
 メラビアンさんが行なった実験とは、こういうものです。

 まず、「好意」「嫌悪」「中立」のニュアンスを表す言葉を3つずつ選ぶ。
 それら9つの言葉を、それぞれ、「好意」「嫌悪」「中立」の声色で話者が
テープレコーダーに録音。
 「好意」「嫌悪」「中立」の表情をした顔写真を1枚ずつ用意。
 で、ここから実験開始。
 被験者は、ある写真を見せられながら、ある言葉を、ある声色で聞く。
 そして、話者の感情をどう判断したかを調べる。
 たとえば、怒った顔の写真を見せられ、歯軋りするような声で好意的な意味
の言葉を聞かされた時、被験者が話者の感情を「好意」と判断したら、表情や
声色よりも言葉のインパクトが強いと解釈されるというわけ。

 うーん。なんとも、素朴な心理学実験ですねぇ。
 しかも、選んだ言葉は、文章でもフレーズでもなく、なんと、ただの単語で
した。
 例えば、好意を表す言葉としては、「honey」「dear」「thanks」という具
合です。
 初めから、言語の情報力を軽視したような実験でした。
 こんな実験をしたら、言葉の意味よりも、視覚や聴覚の影響の方が圧倒的に
大きくなるのは当たり前。
 言語によるインパクトが7%と極端に小さくなってしまっているのは、こう
いう仕掛けだったんです。

 この実験は、コミュニケーションにおける各要素の伝達力を検証したもので
もなければ、非言語情報の重要性を立証したものでもありません。
 まして、1対多のスピーチやプレゼンテーションなどは、全く想定もされて
いませんでした。

 3要素というのも、感情を判断するのに扱いやすい「表情」と「声」と「言
葉」をたまたま選んで実験しただけ。
 メラビアンさんは、コミュニケーションはこの3要素で成り立つなんてこと
を調べようとしたわけではありません。

 メラビアンの法則を取り上げ、「ボディーランゲージの影響力が55%」な
んて言ってる人もいますが、大嘘です。
 実験では、顔写真しか使ってないんですから。

 メラビアンさんが実験で確かめたかったのは、「視覚」「聴覚」「言語」で
矛盾した情報が与えられたときに、人はどれを優先して受け止め、話者の感情
や態度を判断するのか、ってことだったのです。

 ところが、この実験結果は、メラビアンさんが慎重な発表をしなかったため、
誤解され、誤って引用され続けました。
 非言語情報の重要性を立証した実験として喧伝されました。
 「3V」という語呂合わせや「7-38-55」という具体的な数字が出て
るので、使い勝手がよかったんでしょう。
 引用を重ねるうちに、引用者の勝手な解釈が加わり、やがてコミュニケーシ
ョンやプレゼンテーションにおける「法則」にまで昇格してしまいました。

 今では(特に日本では)、
「コミュニケーションは3つのVによって構成される」
「言葉で何を語るかよりも、いかに見せ、いかに聞かせるかの方が大事」
という解釈としてまかり通っています。
 最近のプレゼンテーションは、内容よりも、見た目のきれいさや派手さで競
い合うような風潮がありますが、それに拍車をかけているようです。

 後に、メラビアンさんは、弁解をする羽目になりました。
 「私の研究は誤解されている。コミュニケーションにおいて、言葉の伝達力
がたったの7%だなんて馬鹿げたことがあるわけがない」

 「メラビアンの法則」を得意になって語るセミナー講師がいます。
 その人は、よそのセミナーで仕込んだネタを、そのまま繰り返しているので
しょう。
 「メラビアンの法則」を取り上げた段階で、その講師がどの程度のレベルか
が分かりますね。

 うんざりした表情と声色で言ってやりましょう。
 「先生、その数字ってどういう実験で出したか知ってますか?」

                           〔2002年10月28日〕



※ここにあげたメラビアン本人のコメントは、かなりの意訳です。
 実際の原文と正確な日本語訳はKindle版をご覧ください。

※メラビアンさんの行なった実験のもう少し詳しい内容も、
 Kindle版でご覧いただけます。
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著者プロフィール
平野 喜久(ひらの・よしひさ)
中小企業診断士、
上級リスクコンサルタント
1962年愛知県生まれ。名古屋大学経済学部経営学科卒、鐘紡株式会社財務本部にてファイナンス業務。現在、ひらきプランニング株式会社代表取締役。企業のリスクマネジメント、BCP(事業継続計画)の策定支援、ビジネスパーソンのリスクリテラシー開発をテーマに、講演、研修、執筆、e-ラーニング教材の企画・制作など、意欲的に活動を展開。
中小企業診断士(経済産業大臣認定)。上級リスクコンサルタント(NPOリスクマネジャー&コンサルタント協会認定)、内部統制評価者(NPO内部統制評価機構認定)。知的財産管理技能士(知的財産教育協会認定)。NPO東海リスクマネジメント研究会理事。
著書:「天使と悪魔のビジネス用語辞典」(すばる舎)
DVD 教材監修「BCPって何?」「新型インフルエンザって何?」
デジタル教材「中小企業の新型インフルエンザ対策:マニュアル・テンプレート集」
連載「平野喜久先生の知っとく社会人用語」(毎日コミュニケーションズ)
運営ブログ「天使と悪魔のビジネス雑記帳」
研究サイト「全滅型リーダーは誰だ!:八甲田山遭難事件に見るリスクマネジメント」


<問い合せ先>
ひらきプランニング株式会社
 hiraki@mub.biglobe.ne.jp

<京都事務所>
〒604-8404
京都市中京区聚楽廻東町15
TEL 075-366-6871

<本社>
〒443-0021
愛知県蒲郡市三谷町九舗18

 





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<補足1>
 メラビアンさんが本当に調べたかったことを、もう少し補足しておきます。
 「視覚」「聴覚」「言語」で矛盾した情報が与えられるとは、こういうこと
です。
 例えば、ミスをした友人に、からかい半分に笑いながら「バカだなぁ」と言う
場合です。
 言葉では、「バカ」と言っていながら、その表情と声色から、逆に相手に対
する親愛の情が伝わってくるはずです。
 人は、言葉の意味だけで相手の感情や態度を判断しているわけではありませ
ん。
 このようなことは、日常の人間関係では当たり前に起こっていること。
 これを、メラビアンさんは、具体的な数値で確認したかったんです。
      
 「たった、これだけのこと?」
 「そう、それだけのこと」
 「こんなこと調べてどうするの?」
 「さぁ」  
                           〔2005年9月20日〕



<補足2>
 「Mehrabian」の正式な発音は不明。
 「メラビアン」というのは、たぶん、アルファベット表記から日本人が類推
した読み方でしょう。
 いまでは、これが日本でのスタンダードになっています。
 他に、「マレービアン」「マーレビアン」「メーラビアン」など、様々な表
記があります。
 日本語訳で出版されている彼の著作では、「マレービアン」となっています。
 これが一番原音に近いのではないでしょうか。

 「ギョエテとは、俺のことかとゲーテ言い」
                           〔2005年11月21日〕



<補足3>
 このページは多くの人にご覧いただき、参考にされているようです。
 ところが、困ったことに、このページの『天使の辞典』の部分だけをコピー
して貼り付けているサイトやブログが山ほどあります。
 『天使の辞典』の内容は、メラビアンさんが提唱したものではありません。
 一般に誤解されている内容を、わざと辞典風に表現したもの。
 これが大いなる皮肉になっているのは、後半の解説部分を読めばご理解いた
だけるはず。

 ですから『天使の辞典』部分の内容は、このページのオリジナルです。
 どこかの専門書に書いてあったものを引き写したものではありません。
 視覚情報を「見た目・表情・しぐさ・視線」と定義したのもオリジナル。
 メラビアンさんの実験内容を見れば、「しぐさ」や「視線」がデタラメであ
るのは明らかですね。

 そして、「3Vの法則」「7-38-55ルール」という言葉もオリジナル
です。
 2002年以前に、日本語でこのように呼ばれていたことはありません。
 英語で「3Vs」「7-38-55 Rule」というように表現されることがあるので、
それを辞典解説風に日本語表現に置き換えました。
 時々、この辞典を参考に、「メラビアンの法則は、3Vの法則とも言われて
いる」なんて紹介している人がいますが、嘘です。
 だって、この辞典で創作した言葉なんですから。
 このページの『天使の辞典』については、皮肉を込めたパロディであること
をご承知置きください。

 「メラビアンの法則」の誤解を解くためにこのページをご利用いただくのは
大歓迎です。
 ご自身のブログやメルマガなどでご紹介ください。
 主旨をご自身の表現で伝えていただければ何ら問題はありません。
 出典元を明記すれば、コピー&ペーストでもOKです。
 著作権法では、出典を明記した「引用」という形なら合法です。
 でも、出典を明記しないコピーや転用は、たとえ一部であれ違法になります。

 また、引用先と引用部分には、主従関係が明確でないといけません。
 つまり、ご自身の著作中の一部に引用部分が占めるような形でないと、引用
と認められないということです。
 数行の紹介文の後に、このサイトの文章のすべてをコピペしてある個人ブロ
グが存在しますが、これは、出典元が明示してあったとしても、引用とは認め
られず、違法となります。
                           〔2006年08月29日〕


<補足4>
 現在、『天使と悪魔のビジネス用語辞典』の電子書籍版を制作中です。
 ウェブ版、書籍版の内容を全面リニューアルし、電子書籍としてリリースし
ます。
 iPhoneやiPadで気軽に楽しめるアプリ。
 ウェブ版とも書籍版とも違うまったく新しいコンテンツとして登場します。
 ただいま、Appleに申請中。まもなく App Store からリリース。

                           〔2010年10月29日〕
                           

<補足5>
 ようやく、電子書籍版のリリースとなりました。
 iPhone、iPad向けに、App Storeから。

                           {2011年03月02日}

<補足6>
 電子書籍は、AppleからAmazonへ移行しました。
 現在は、AmazonでKindel版が販売されています。
                                                     〔2013年5月10日〕
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