06 茶花とは
 
               茶花とは
 
                        参考:光村推古書院発行「茶花」
 
〈茶花とは〉
 茶室に生ける花を茶花と云いますが,本来茶室にも草庵,書院,広間の別があって,
これらの各室に生けられた花を茶花と称する訳です。普通茶花と云えば草庵式の茶室に
生けられた花を云うのです。即ち草庵はあくまでも幽静に,書院は優美に,広間は荘厳
に生けるべきが本当ですが,それらは全て花止や枝を撓タワめずにまた曲げずに,その挿
花法は投入を主にしたものが多い。またその花入にもその室に適応するものが選ばれて
いますが,草庵では白色,単弁を愛し,天姿幽美の趣を賞することを本意としています。
 それは「立華」の豪華壮麗に対して清楚質朴を意味し,相対的には不均衡な美,最小
限に生けられた花,簡素な花,季節感を表した花,風情を偲ぶ花など,山野の花を喜ぶ
のと一致しています。
 千利休が「一種二枝」を茶花の原則としているのもこの意味で,また常に季節を炉と
風炉に分けて,春冬に咲く花を炉の花とし,夏から秋に咲く花を風炉の花としています。
 茶会の際は初入に床の間に墨蹟を掛け,後入には花を生けることを本意としているの
も自然の美しさを賞味するためです。昔から禁花として,
 
 ほうせん花,女郎花オミナエシ,しきみ,鬼あざみ,山うつぎ,針のある木,さくら,こう
ほね,金盞花
 
などは生けないことになっています。全ては香り高い花,季節なしに何時でも咲く花,
有毒の植物,富貴の相ある花などですが,そのうちには針を取って生けられた例もあり,
また禁花と称しても巧に生けられた茶花もあります。
 茶花には掛花,釣舟花,置花の種類があって,掛花には梅,椿,海棠カイドウ,黄梅オウ
バイ,蘇枋スオウ,連翹レンギョウ,藤,山吹,石竹セキチク,姫甘草ヒメカンゾウ,風車カザグルマ,ノウ
ゼンカズラ,朝顔,ギボウシ,秋海棠シュウカイドウ,山茶花サザンカ,寒菊カンギク,通草アケビな
どが相応しく,釣舟には桜草,春菊,富士撫子ナデシコ,長春チョウシュン,ガンピ,山吹,スズ
カケ,テマリ花,ケマン,鋸草ノコギリソウ,岩藤イワフジ,紫蘭シラン,梅鉢草ウメバチソウ,夏水仙,
鷺草サギソウ,桧扇ヒオウギ,紫陽花アジサイ,泡盛アワモリ,鉄線テッセン,百日紅サルスベリ,藤袴フジバ
カマ,竜胆リンドウ,秋海棠などを適当としています。全て茶花は早咲きを賞美し,弱き花や
切れたる花を避け,死したる花を忌みていること,枝の末を切ることなどを挙げていま
す。
 
 茶花については「貞要集」「杉木普斎の書」「六宗匠伝記」「茶譜」「槐記」「怡渓
派の書」「和泉草」などにも所載されていますが,最も古い茶書として堺の茶人直松斎
春渓が永禄7年(1564)に筆録せしめたと伝えられる「分類草人木」には,
 
 一、花ニ不生花アリ、太山樒ミヤマシキミナドノ様ナル盛リ久シキ花嫌也。花柘榴ザクロモ不
  入。寒菊ノ葉ノ紅葉シタル不入。
  寒菊ハ他所ノ会ニ生ケ、或ハ我席ニ生ケ又翌日ノ会ニ生テモ不苦、世間ニ花ノナキ
  時分也。暮年ノ花ナレバ執心シテ毎日生ケテモ不苦。
 
とあって寒菊のことを詳しく述べています。
 また山田宗扁(彳+扁)の著「茶道便蒙抄」には,
 
 一、花に禁好あり、四季ともその時分の花を用ゆべし。時ならぬ花は嫌ふ也。金盞花
  のごとき不断の花をバ不用。惣じて早咲きは別而賞翫、白連一入用ゆ、然れ共余の
  花をバ入合せず、但し菊(野菊)は入添る也。
   故ハ古今集秋の下大沢の歌に見えたりと利休いはれし。此外色々、禁花有。
 
   ひともととおもひし菊を大沢の池の底にもたれか植えけん
 
とあって花の禁好や,季節の花,菊のことを述べています。
 茶花はまた古人や先賢の人々の言に拠れば,花入よりも高く生けることはなく,常に
花入よりも短くかつ軽やかに生けることを本意とし,或いは椿のような花を1輪又は2
輪を生ける場合は,葉を3枚,5枚,7枚の奇数にすることもあるが,4枚4葉を特に
避けています。それに枝振りなどの関係や花入のことまでに及んでいます。
 また古田織部はその「伝書」に,
 
 一、花ハ時間の色成により身もとのけて花に足音なと静かに水に浮きたるもの。
 
とあり,夏の茶花については,
 
 一、夏は昼の会には是非に生花を生け、客に涼ノ体ヲ見セ候事尤に候、但時により花
  による。
 
とあって茶花の生け方や夏の茶花についての注意を書きのこし,また花入のことも述べ
ています。即ち,
 
 一、主花に習無。但花入大なるには花多生候。おくれたる花は不用に候。
 
とあります。
 また「宗春翁茶道聞書」には季節のことやその心持ちを述べています。
 茶花にはまた晩秋の頃に用いる「名残ナゴリの花」として「残花ザンカ」「返り花」「紅
葉コウヨウ」「照葉テリハ」「黄葉キイバ」と称しているものや,茶花には特に忌われているとこ
ろの「枯花カレバナ」というものがあります。即ち「残花」は咲き残っているものや遅れ咲
きのものを云い,「返り花」は風土や気候の関係で秋に返り咲いたもの,「照葉」は普
通紅葉した「柿」,「蔦」,「万作」などで,これは風炉の終わりから炉にかけてよく
用いられ,「紅葉」「黄葉」は同じもので,葉が紅色や黄色に変じた美しい「はぜの木
」「雪柳」「野ぶどう」などがあり,特別のものとしては「こうようぼく」や「錦木」
があり,「名残の花」としてはこのほか「真弓マユミ」「烏瓜カラスウリ」「紫式部」「山ぼう
し」などもあります。「枯花」には「芒ススキ」「山紫陽花ヤマアジサイ」「枯蓮カレバス」などを
他の花に交ぜて生けることもあります。
 
〈風炉の花〉
 風炉を使用する時の茶花という意味で,大体は4月15日頃から11月15日頃までの7ケ
月間を云い,普通は夏秋の季節を云うのです。
 風炉はこれを真行草の三体に分けて,土風炉を真,唐銅鬼面と切掛風炉を行,鉄風炉
や陶磁器製,板風炉を草としています。
 風炉は古くは台子の皆具として唐銅の切掛でしたが後,小間にも使用せられるように
なりました。その風炉を用いる時季の茶花は比較的恵まれており可成り沢山の花があり
ます。しかし風炉の花と称しても,本来茶会においては後座に用いることが多く,また
招客に見せるためのものですから季節の新鮮で侘びしい花が好まれ,普通の生花とは根
本的に異なっており,炉の季節に使用したものは必ず風炉の花としては用いないことに
なっています。
 しかし秋冬の境目に秋草の残ったのを名残の花と称して風炉の終わりに生けたりする
こともあります。それは風炉と炉の区別が明瞭に清新な気分を尊ぶのです。
 
〈炉の花〉
 炉を用うるときの茶花を云うのですが,普通炉は毎年11月中旬から4月中旬までを云
い,即ち旧暦十月の亥イの日に開くのを「炉開き」と称しています。
 「茶湯三伝集」に,いろりの初めは(旧暦)九月朔頃より始まり三月晦日頃その終わ
りを告げることを記しています。大体炉は冬と春に用いるもので,古くは民家などにお
いて用いられましたが,武野紹鴎の時代になって茶室に採り入れられ,炉縁も一尺四寸
(42.4p)角に定められました。炉には炉壇と炉縁があり,炉壇には塗炉と称するとこ
ろの四方を聚楽土で塗ったもの,石で掘り抜いた石炉,鋳鉄で作られた鉄炉,その他銅
板で作ったもの,陶器製のものもあります。
 炉の花は比較的花の少ない時分で,主として椿類は蕾を多く用いられていますが,侘
助椿だけは開花したものを生けます。葉も多くは奇数の3枚,5枚,7枚などとしてい
ます。風炉のときに用いられた花は,炉のときに一切用いないこととなっていることは,
これは季節の表現に最も重点を置いていることと考えられますが,また炉と風炉の区別
をはっきりとして清新な気分を味わしめるためでしょう。
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