05 陸水散歩〈川と,川の水と生物群集〉
 
         陸水散歩〈川と,川の水と生物群集〉
 
〈川の水の性質〉
 △河水の濁り
 上流の川の水はプランクトンや浮遊沈泥が少ないので澄んでいます。下流にきますと
流れは緩やかになり,シルト(沈泥)が増加して水中にけん濁し,水は薄い泥色に濁り
ます。シルトが浮遊しますと光の透過が減じます。河口ではSSがだんだん減少して水は
澄んできます。河口で水が澄むのは,塩類のプラス電気が,コロイド性シルトのマイナ
ス電気を中和して沈澱しやすくなるのも一因とされています。
 ・シルトと魚類:川岸の侵食は大量のシルトを発生させ,このシルトが浮遊している
ときも,沈澱堆積しているときも,魚などの生物に大きな害を与えます。
 シルトは,魚や水性昆虫の鰓エラに沈着したり,呼吸管をつまらせて窒息させます。シ
ルトが大きく硬く角ばっていますと鰓や貝類の外套膜を傷つけ,さらに大きくなります
と,河床を覆って底生性の動物相を破壊します。
 △溶存酸素
 川では容積の小さい水体の中で,水の流れと撹乱が大きいので,時間的にも場所的に
も酸素の濃度は大きく変動します。
 酸素の量は,平地流より渓流,下流より上流,河口では海側より上流,夏より冬の方
が多いです。
 △水素イオン濃度
 河川の水素イオン濃度は,植物の光合成,生物の呼吸,有機物の分解などの生物学的
作用の影響もありますが,化学成分の支配を受けることが大きいです。
 地下に蓄えられている遊離炭酸の溶解や,硫黄,石灰,銅,鉄などの鉱床や坑内から
流れ出す水はPH2〜4の強酸性を示すことがあり,稲作に被害を与えます。
 △溶解塩類
 河水に溶け込む塩類の濃度と組成は,流域の地質,岩石や土壌の表面流出,温泉,鉱
泉,湿地,沼沢,農地からの流出,人間活動による廃水下水,降水量,気温,蒸発など
によって異なります。
 窒素の供給源は廃水下水と農地のかんがい水です。またプランクトンの増える晩春か
ら夏に多いです。
 燐酸の濃度はあまり変化しないようです。
 △日本の川の平均水質
 日本の川と世界の川とを比較してみますと,日本の川は総塩分の濃度が低く,珪酸の
量が著しく多く,カルシウム含量とアルカリ度が非常に小さく,総塩分量に対する塩素
量の割合が多い,などの特徴があります。
                                                                              
〈川の区分〉
 △生物環境としての川の特徴
 昔から陸水学においては,主として湖沼に向けられてきましたので,川については著
しく立ち後れています。川の生態は少なくとも理論の上からは湖の生態から類推して論
じられる傾向にありました。
 川を湖に比べてみましょう。
 @川は全水量が常に一定の方向に流れる流水系です。
 A川は水深が浅い。
 B河床は形が長く,面積は狭い。
 C河の水量,流速,濁度などが大幅に変化します。
 D流路は変化しますが,全体の大きさは変わらない。
 E水源から河口まで,水や河床の物理的,化学的,生物的状況は次第に変わっていき
  ます。
 F水や河床の物理的要因が,生物群集に大きく影響を与えます。
 G川岸の侵食や流出は,再び元に戻りません。
 H深水層であっても,結氷下以外は停滞しません。
 I川の中の生物食物の一次的生産力は貧弱です。
 J川は外界の条件に対応して,解放的生態系を形成しています。
 △流水系の区分
 ・山地渓流:川底には岩石や石塊が転がり,イワナやヤマメが棲み,水温は10℃以下,
酸素は飽和か過飽和です。
 ・△中間渓流:山麓を流れ,流速も大きく,日光に晒されて酸素量も多い。砂利が堆
積します。
 ・河流:平地を緩やかに流れ,沿岸には顕花植物,農耕地,都市や村落の廃水下水が
流入し,コイやフナが標兆魚種です。
 ・河口:河水と海水の緩衝水域です。この変化に適応する生物群集が認められます。
                                                                              
〈川の生物群集〉
 山地渓流では岩や石の下面や側面,石礫の隙間にカワゲラ,カゲロウ,トビゲラ,ア
ミカ,ブユ類の幼虫やプラナリアが多いです。いずれも冷水清流種に属する種類が棲み
ます。幼虫類の食物は岩石面に付着してしている珪藻は低温の清流によく繁殖します。
幼虫は大抵4〜5月の候に羽化し,川を去りますので,夏の昆虫層は寂しいです。山地
渓流の魚はイワナが代表種です。
 中間渓流ではカワゲラ,カゲロウ,トビゲラ類の幼虫のほかに,カワニナなどが見ら
れます。魚ではヤマメが標兆種で,カジカも多いです。
 河流では上流部に見られる昆虫の幼虫は姿を消し,流速のほとんどない緩流域の泥中
には,ユスリカの幼虫がイトミミズとともに棲んでいます。魚はコイとフナが代表種で
すが,気水近くでは,夏はボラやスズキの海魚も見られます。
 一般に川のプランクトンは極めて貧弱で,ネットに採集されるものは,ほとんど全部
が川に続く池や沼,水田あるいは入江の淀みなどで繁殖したいわゆる流プランクトンで
す。川は流れが速く,海に出るまでの時間が短いので,わが国の川では増殖しないのが
普通です。
 川では,湖水や池でプランクトンになる植物や動物は,プランクトンにはならず,河
底の石,堤防のコンクリート壁などに,いわゆる付着藻類になって生活します。川の石
についている水垢又は水苔と称せられますものの主成分はこれです。
 わが国では一つの川の上流から下流に向かって,魚がほとんど同一の型の棲み分けを
行っています。上流から下流への順序を示しますと,イワナ ― ヤマメ(アマゴ) ― 
アブラハヤ ― カジカ ― アユ ― ウグイ ― コイ ― フナです。渓流部のイワナとヤ
マメ(アマゴ)の棲み分けの境界は最暖月の川の水温が13〜15℃,ヤマメとアマゴの分
布下限は同じく18〜20℃付近のところにあるといわれています。
 ・激流に対する適応性:川の上下流や河床の状態によって,生物群集の構造や代表種
の種類が異なる現象は,流れの速さ,川底の構造,水温,酸素その他の条件に対する生
物の適応性によって決まります。2,3の例を示します。急流に棲む動物の体型はほと
んど流線型で,魚類や昆虫の成虫と幼虫は典型的な例です。魚の身体を横断した線は,
上流のイワナ,アブラハヤ,カジカなどはまんまるい棒状ですが,中下流に棲むコイ,
フナ,ウグイは背から腹にかけての体高の大きい横に細い形をしています。渓流の動物
の身体は一般に扁平(例 プラナリア)で,吸盤がよく発達(ブユ,アミカ)していま
す。アミカの幼虫は腹面に6個の吸盤があり,滝が流れ落ちる岩や石にくっついてそこ
に生えている藻類を食べています。トビゲラの幼虫は小砂利や葉の破片を絹糸で綴合わ
せた巣を石の下面にくっつけて生活しています。
 
                       参考 「川と湖の生態」共立出版

[次へ進む] [バック]