15 太古の面影探索への誘い〈化石採集記録〉
太古の面影探索への誘い〈化石採集記録〉
〈記録のとり方〉
化石を発見したとき,採集する前にも採集中にも採集後にも,化石そのもの,化石の
出かた,化石を含む地層の様子などを,しっかりと観察して記録をとっておくようにし
ましょう。これは,その後の室内での研究のためにも,欠かすことのできない基礎資料
となります。
△地形図
化石を発見した場所を地形図上に正確に記入します。地図上には×点や×印のほか,
番号や記号をつけます。年月日の例では,1993年7月16日の場合は「19930716」という
ように記入します。また,別にフィールドノート(野帳)にも書き込んでおきましょう。
標本への記入は,化石そのものではなく,なるべく化石を取り巻く周りの石の方へ書
きます。マジックインキは最細のもので書いて下さい。小さい標本のときは,その記録
(番号)を紙片に書いて化石と一緒に包んでおきます。
そして,地形図・ノートの番号,化石標本の番号などは,必ず一致するように,現地
で記録をとっておきます。
地形図上で位置を決めることについては,慣れないうちはハイキングなどのときに常
に地形図とクリノメーターを持参して,位置を確かめる習慣をつけておくのがよいでし
ょう。
△見取り図
化石産地では,露頭の見取り図をスケッチして下さい。次項以下で述べる地層の重な
り,地層構造,岩質,化石の産状・堆積状態,化石の種類などをスケッチし,宿で墨入
れしたり,色鉛筆で塗色します。
△地層の重なりの順序
化石を含む岩石が,基岩の露出したものか,転石か,地滑り地塊か,またどこから転
石したかを追跡します。
それから,その化石を含む地層は,何層群何層のどこの層準に当たる地層か,その化
石の上層,及び下層の地層の種類,また,その地層の性質として,横の方向に続いてい
るか,地層の性質がどこで変わっているのかなどを調べます。
△地質構造
化石の入っている地層の走向と傾斜をクリノメーターで測定します。自分の進んで行
く方向に,断層,断層の上下関係,地層の褶曲の様子,不整合があるかどうかなど,ま
た,特にラミナやグレイディッドベッディングの様子を調べます。
これらの調査によって,化石についての正しい基礎も得られます。例えば,数カ所の
化石産地が発見されたとき,それらの化石は,どこのものが相対的に新しいのか古いの
か,あるいは同次代のものか,さらにその付近の新しい化石産地の発見へと私共を導き
ます。
化石産地付近の地層の様子を詳しくルートマップに記入します。ルートマップは一万
分の一〜一千分の一程度の縮尺のものがよいでしょう。
△岩質
岩質というのは,その岩石をつくっている鉱物とそれら粒の大きさ・色などです。化
石を含む地層や,その上の地層の岩質を調べて岩石の名前を決めます。
化石を採集したときは,化石だけでなく,周りの岩も少し持ち帰っておくと便利です。
周りの岩つきの化石はもちろんです。周りの岩からは,顕微鏡でしか見えないような花
粉とか有孔虫などの微化石が発見されることもあります。
△化石の産状・堆積状態
化石産地では,採集の前,採集中,採集の後の産状を調べて記録します。
例えば,化石が密集して一つの地層をつくっているとか,レンズ状に密集して入って
いて横の方でなくなってしまうとか,母岩中には散点的にしか入っていないノジュール
中に密集して入っているとかをなどです。二枚貝の例でいいますと,殻の両側がぴった
り合わさっているとか,バラバラであるとか,地層の層理と平行的に入っているか,両
側の殻が揃っていておまけに立ったまま地層に入っているか,種類により貝殻の方向が
一定して入っているかどうかなども記録しておきます。
また,貝殻の摩滅や破損の程度とか,貝殻が現物そのままの状態で保存されているか,
何かの鉱物で置換されているか等も観察します。
その貝殻が生きていたときとほぼ同じところに埋没されたものか,あるいは死んでバ
ラバラになったものが遠く流されて運ばれて堆積したものかを決める第一歩となるでし
ょう。
貝殻を採集するときは,1個1個の貝殻をバラバラに採集するばかりでなく,貝殻の
産状を一般的に示しているような部分を大きく標本として採集しておくのもよいでしょ
う。
△化石の種類
化石産地では,以上のほかに化石の種類とか,多数産出するか少ないとか,深いとこ
ろに棲んでいる種類か浅いところに棲んでいる種類とか,化石の形態的特徴なども,現
地で詳細に調べておきましょう。
参考 「化石鑑定のガイド」朝倉書店発行
[次へ進む] [バック]