07 樹陰に苔生す岩やその仲間〈身近な地質現象〉
 
        樹陰に苔生す岩やその仲間〈身近な地質現象〉
  
〈身近な地質現象〉
 △東京付近の地質
 1923年9月1日の関東大震災においては,東京の山の手ではビリビリというような地
震動による土蔵の被害,下町ではユラユラというような地震動による木造2階建ての被
害が大きかったといわれています。山の手は武蔵野台地の東縁にあたり,下町は台地よ
り低い沖積地チュウセキチに相当します。
 武蔵野台地は,伊豆・箱根や富士山などの火山灰で覆われており,これを関東ローム
層(関東火山灰層)と呼んでいます。その下には灰白カイハク粘土層を隔てて砂礫層があり
ます。
 下町を構成する海成沖積層は軟弱な泥土の堆積した海岸平野で,その上は埋立土です。
沖積層の下はよくしまった砂層(東京層/基盤)からなり,しばしば砂礫層や固結した
粘土層をはさんでいます。
 △軟弱地盤(沖積層)
 群馬県藤岡市付近にあります篠山シノヤマ貝塚は,縄文早期末から前期ごろのものとされ
ていますので,この付近にまで達した旧海岸線の時期は約6000年ぐらい前であったと推
定されます。その後の6000年間に東京湾は縮小し,現在に至ったわけです。
 最後の東京湾の広がりに示される海水の上昇は,世界的に共通のもので,この海水面
の上昇をもたらした原因は氷河の融解によるものと考えられています。
 これまで述べてきました沖積層は海岸に近い,いわゆる三角洲堆積物のことです。三
角洲を形成する沖積層が重要なわけは,一つはこれが占める面積が広いこと,また,三
角洲は都市・工業地帯・農地などとして人間生活の重要な場所になっているという点に
あります。三角洲以外の沖積層が軟弱地盤として問題になる場所は,次のようなところ
です。
 @海岸砂丘の後背コウハイ湿地
 A河川の土砂堆積によりせき止められた枝谷の閉そく湿地
 B流路に対して影になる台地や山の後背にあたる山影の湿地
 C火山泥流や,溶岩によってせき止められてできた湖沼跡
 火山性の噴出物によって谷が一時的にせき止められ,その結果生じた湖沼が軟弱地盤
になっている例は,日本の各所に見られます。有名な尾瀬ケ原は,燧岳ヒウチダケから流れ
出た溶岩が只見川の上流部をせき止めたことによって生じた湖の跡です。湖は,シルト,
粘土並びに腐植物によってほとんど完全に埋め立てられています。この泥流は,猪苗代
町から日橋川ニッパシガワを経て会津若松盆地にいたる間に広く分布し,おそらく猪苗代湖
をも赤井谷地の湖と同時に出現させたと考えられます。
 △岩石の風化と侵食作用
 温度の変化や,乾燥地・寒冷地で岩石が機械的に破壊される風化現象を機械的風化作
用といい,湿潤気候・高温多湿なところでは化学的な風化作用が進行します。
 風化による産物は,地表水の流動にともなって次第に運搬されますが,運搬の根本的
な営力は重力です。崩壊や地すべりは,地表の物質が重力によって生ずる移動力に耐え
られなくなったとき発生します。重力は絶えず地表の物質を下方へと移動させるように
働いているわけです。
 天龍川上流部における集中豪雨による崩壊発生の傾向は,花崗岩(火成岩)は降雨に
敏感に反応して崩壊を多発することを示し,水成岩に属する中・古生層は崩壊はあまり
発生せず,比較的安定に地層であることが認められました。つまり花崗岩地域は,地形
が低くなだらかであり,安定な中・古生層地域は,急峻な地形を示していることが分か
ります。これは花崗岩がより風化・侵食を受けやすいためです。
 △土砂の運搬作用
 山腹の崩壊や流出によって河床に達した土砂は,ついで河水によって下流に移動を開
始します。粘土のような細粒土は,河水中を浮遊して運搬されますが,砂粒は水底を回
転しつつ移動していきます。移動は洪水時には大きく,このようなときには,砂も浮遊
して運搬され,巨大な礫でさえもゴロゴロと音をたてて下流に移動することもまれでは
ありません。河水中の浮遊物質や,移動している物質は,流速が衰えると粒度に応じて
水底に沈積を始めます。沖積地において水深が深く,水の流れの小さいところは,シル
ト,粘土が堆積しやすいのもそのようなところには粗粒な砂や礫が達しにくいことによ
るわけです。アメリカのユタ州を流れるサンヤンリバーの峡谷では,当初見られた河底
礫が,洪水があれば下流に掃流されて失われ,洪水が治まってくると再び堆積を始めて,
もとに復するありさまがよく分かります。このように河床は,いつも同じに見えますが,
じつは次第に移動しているのです。
 
                参考 「やさしい地質学」築地書館株式会社発行

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