14a 森林の土を掌に〈林木の成長と土壌との関係〉
〈造林上の地帯区分〉
同じ土壌型でも気象条件によって適する樹種は異なります。
森林帯は,T亜寒帯針葉樹林帯(トドマツ・エゾマツ),U温帯落葉広葉樹林帯(ブ
ナ),V暖帯常緑広葉樹林帯(シイ・カシ)のように一般的に区分されますが,TとU
の間に亜寒帯への漸移帯の温帯落葉広葉樹林帯,UとVの中間に温帯への中間のクリ・
コナラ帯を区分することもあります。さらに林野庁の制定した植栽樹種選定基準及び林
木育種区分などを参考にして,極相森林群落の垂直配列を指標として林業の立場で地域
区分(全国を15に区分)したものは,森林施業にとって実用価値の高いものです。
一方農林業では温量指数,年降水量,無霜期間,日照時間,根雪期間などが植物の生
育に影響の大きい要因として取り上げ,全国を17の気候区を定め,気候区ごとの森林植
生,主要造林樹種,主要天然林樹種を示しており,造林樹種の選択に当たり利用されて
います。それぞれの気候区においても,標高に応じた丘陵帯,低山帯,亜高山帯,高山
帯のように垂直的に区分したり,一つの気候区のなかでの地質,母材,地形の違い,ま
た一つの土壌型でも尾根,中腹,沢沿いなどで生産力が違ってきます。
〈主要樹種の生育特性〉
△アカマツ
アカマツは青森県の北端から南は九州屋久島まで分布します。通常,垂直的に100mぐ
らいから1000m内外の間に分布しています。
降水量の少ない地方に広く分布し,山地では乾燥した山腹上部にも成立し,このよう
なところは土壌の性質も良くない場合が多いです。
アカマツはこのように不利な条件によく耐えて,堅密にしまった土壌でも徐々に根を
伸ばすこともありますが,B層の構造が発達しないで硬く密にしまっている状態では根
は容易に土壌深く侵入できませんので,林木の成長は遅れます。
△スギ
スギの天然分布は秋田や屋久島の天然スギが代表的ですが,この範囲の間で各地に小
規模に分布しています。海抜は400〜1800mの範囲内にあります。分布地域は気候によっ
て裏日本と表日本に二分されます。
スギは,年間降雨量は2000〜4000oの多雨,多雪地帯の湿潤なところに主に生育し,
このようなところは空中湿度も高く,蘚苔類が幹や枝に付いていたり,また土壌水分だ
けでなく空中湿度をも要求します。
天然生のスギは純林で成立することはなく,ヒバ,ヒノキ,クロベ,モミ,ブナ,ミ
ズナラなどと混交しています。スギは本来は陽樹ですが発芽してから3年目ぐらいまで
は日陰の方を好みます。また稚樹は乾性系の土壌によく発生し,成長もします。
△ヒノキ
ヒノキは北緯31〜37度(九州南端からほぼ関東地方北端及び新潟県を除く中部地方)
の間で北陸地方を除外したところに分布していて,温量指数40〜90,年平均気温8〜16
℃の範囲にあります。標高は1600mくらいが限界です。
ヒノキは夏期に雨,冬期に乾燥の寡雨気候が適しており,一般にはやや乾燥する土壌
が良いです。
天然にはヒノキは尾根筋のササ生地に伐根もしくは倒木に更新したり,急峻で岩石と
なった尾根筋に生育しているところがあります。これは他の樹種との競争の関係による
ものでヒノキ・コウヤマキ群集がその例です。
ヒノキの種子は直射日光が多いとか,陰湿なところでは発芽力はよくなく,稚樹は風
通しが悪いと病害をうけます。
ヒノキの稚樹は比較的陽性ですので,被陰されると発育は悪く,ついには消失します。
△カラマツ
カラマツの天然分布は北限が宮城県刈田郡馬ノ神国有林,南限は南アルプス赤石山系
の南端です。垂直分布は奥羽地方では900〜1850m,関東では1300〜2400m,中部で1000
〜2000mです。
カラマツは陽樹で特に幼齢時の成長は極めて良く,比較的乾燥地で日光が良くあたり,
土壌中の酸素供給の十分なところがよいです。過湿地や雪融けによる一時的に過湿状態
になるようなところは,酸素不足になるのでよくありません。
△トドマツ
トドマツは平均最低気温-23〜25℃,平均最高気温25℃で低温と高温に耐えて生育し
ます。降水量も1000〜1500oと比較的少なくても生育します。春の芽の開きが早いので,
稚樹の凍害,霜害,寒風害などを防止するため,カラマツやカンバ類との混植や庇陰物
を考慮する必要があります。土壌は表層,下層とも透水性が良く,有効度層は40〜50p
のところが成長が良いでい。
〈森林の伐採による地力低下〉
森林を皆伐しますと林床を覆っていたA0層の分解が促進され,地表の有機物層は減
少の一途をたどります。スギ林では植栽木が林内をうっ閉するまでに15〜20年を要しま
すが,それまでは落枝葉のよる還元が期待できません。また,伐栽や搬出作業も地表を
撹乱しやすくして土壌侵触による養分の流出を促進します。
特に降雨の多いわが国のような急斜地においては,保育作業のやく方においても,地
ごしらえ,下刈,枝打ち,除間伐などの作業による急激な立地環境への変化を避け,生
態系での養分の循環が非常にゆっくり均衡を保ちながら連続的に変化するよう維持する
ことが必要です。
参考 「森林土壌の調べ方とその性質」林野弘済会発行
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