12b 森林の土を掌に〈土壌の化学的性質〉
〈炭素,窒素及びリン〉
△炭素,窒素の含有率及び含有量
森林土壌の炭素,窒素含有率
層位 炭素含有率 腐植含有率 窒素含有率(乾物当)
L(新鮮落葉) 47〜55% ― 0.4〜1.6%
F 35〜45 60〜85% 1.0〜1.5
H 25〜35 45〜60 1.0〜1.5
A 4〜15 7〜25 0.3〜1.0
(多くは 6〜10 10〜18)
B 1〜 6 2〜10 0.1〜0.5
(多くは 2〜 4 3〜 7)
根系が主として分布する深さ50pまでの鉱質土壌層のha当たりの含有量は,
炭素含有量 窒素含有量
褐色森林土 30〜200ton 1.5〜15ton
黒色土 150〜380 12 〜21
でバラツキがありますが,傾向としては褐色森林土より黒色土,また褐色森林土では乾
性型より湿性型の方が多いといえます。
△C-N率
C-N率(C-N比,又は炭素率)は土壌,植物体,有機質肥料などの炭素と窒素の含有率
の比で示されます。
森林土壌のC-N率
F層 30〜40
H 20〜30
A 12〜30
この値は有機物の微生物による分解の難易や分解の進行程度を示す指標として用いら
れますが,土壌の有機態Nの無機化,すなわち窒素の可給性を示す指標として,土壌の
肥沃度を判定するための有力な資料の一つとなっています。
△リン
森林土壌ではha当たり1〜6tonと推定されます。可給態リンは極めて少ないので,森
林土壌では有機態リンの微生物による分解による可給態リン生成が,林木に対するリン
の供給を支配する有力な要因となっていると考えられます。
〈葉分析による林木の栄養診断と土壌の可給態養分〉
土壌中の栄養元素は化学的には多種多様の複雑な形態で存在していますが,その中で
可給態の部分はごくわずかです。土壌中の可給態養分の化学的な定量法はまだ定まって
いません。
△葉分析についての基本的な考え方
植物に対して特定の養分元素の供給が不足していますと,他の養分元素が十分に補給
されていても植物の成長が阻害され,同時に葉の不足養分の濃度も低下します。
葉の養分濃度と成長は比例して直線的に増大する関係にありますが,限界濃度といわ
れる高さに達すると,その後の成長量の増大はゆるやかになり,最大に達した後は徐々
に減少します。このような関係を生物学では報酬漸減の法則と呼んでいます。限界濃度
に達した後の養分の吸収は”ぜいたく吸収”と呼び,また,葉の養分濃度が限界濃度に
達するまでの間は,植物はその養分が不足状態にあるとみなされます。
△葉分析具体例
葉分析して林木の栄養診断と土壌の可給態養分について解析する場合は,各養分の濃
度と,各養分の相互の比率(養分比)がポイントです。
林木の葉の養分濃度と成長との関連性は窒素及びリンが最も高く,カリウムは多少少
ないですが,カルシウムやマグネシウムはさらに低いことが一般的な傾向です。上位三
つの栄養元素(肥料三元素)が林木でも最も主要な因子であることを示しています。
〈土壌の化学的性質と土壌型との関係〉
△土壌の水分環境の影響
土壌微生物の数や分解作用は,土壌の水分,温度,pHなどの環境条件と,分解される
有機物の組成などの影響を受けますが,水分環境以外の因子はむしろ二次的なものとい
えます。
森林土壌の水分環境を考える場合,その水が停滞しているか,流動しているかとか,
適潤かどうかとかが大きな影響を持ちます。
△褐色森林土亜群及び黒色土亜群の各土壌型と化学的性質との関係
わが国の森林土壌ではいろいろバラツキがありますが,概ね次のことがいえます。
C-N率においてはBA型が高く,次いでBD(d)型となっています。
pHではBD型が高く,次はBD(d)です。
置換濃度(y1)ではBB型,BA型が大きい値を示します。
置換性カルシウム飽和度はBD型,次いでBE型が高く,置換性マグネシウム飽和度は
Bd型が高い傾向がありますが大差はありません。
△褐色森林土亜群の各土壌型における養分循環
褐色森林土亜群をモデルとして母材,樹種,林齢の同じ林について比較しますと,乾
性,適潤性,弱湿性土壌の順に林木の成長が良好になるにしたがって,窒素,リン,カ
リウム,カルシウム,マグネシウムの含有率が増大します。各土壌型における林木と土
壌との間の養分循環系における循環量は,上述の土壌型の順に増大しているものと考え
られます。
△その他の環境因子の影響
土壌微生物の有機物の分解作用は,比較的地温が高い期間の長さ,海抜高による寒冷,
母材によるpHや置換性飽和度,樹種の違いによる落葉の有機・無機成分などの環境因子
が影響を与えます。
参考 「森林土壌の調べ方とその性質」林野弘済会発行
[次へ進む] [バック]