02 森林の土を掌に〈はじめに〉
森林モリの土を掌テノヒラに〈はじめに〉
参考 「森林土壌の調べ方とその性質」林野弘済会発行
この土壌シリーズは,「森林土壌の調べ方とその性質」の
記事について,抜粋(一部修正)したものです。 SYSOP
〈インフォメーション〉
日本は雨が多く,温暖で,山は木々の緑に覆われ,平野には田や畑が豊かな実りを保
証してくれています。この恵み豊かな国土をもっと有効に利用したいという要求もあり
ます。
このように環境において,先人たちは永年の経験から,自然発生的に「適地適木」と
いう概念が生まれてきました。このことは,樹木の成長は土壌の性質と関係が深く,と
くに土壌がどのようにしてできたか,どのような性質をもっているのか,あるいは土壌
のなかでどのようなことが起こっているのか,という点で関係が深いです。
〈土壌とは何か〉
土壌とは,地殻表面を覆っている岩石の風化砕屑物と動植物の分解腐朽物とが混ざっ
たもので,生物・母岩・気候・地形・時間の相互作用によって生成するといわれていま
す。
地殻を構成する岩石は粒子の大きさ,結晶系,色,化学組成の違ういろいろの一次鉱
物から成り立っています。岩石そのものは熱の不良導体であると同時に,構成部分であ
る一次鉱物はそれぞれ膨張・収縮率が違うため,気温の変化のよって次第にいろいろの
大きさや形の岩片に砕けて細かくなります。この破砕されていく過程を風化といいます。
乾湿,冷暖,凍結・融解というような物理的作用によって岩石が細かい岩屑にまで破
砕される過程を物理的風化(又は機械的風化)といい,和水,加水分解,酸化還元,キ
レート化作用(無機イオンと有機イオンとの間に起きる錯化合物生成作用)など質的変
化を伴う作用を化学的風化といいます。
岩石が細かくなった砕屑物の表面には生物が定着するようになり,その遺体は有機物
として残存するために風化作用が促進されるようになり,有機物と無機物とが反応しな
がら両者が混じって構成される土壌が生成するようになります。すなわち土壌化作用が
起きます。
風化した岩屑物は窒素以外の微量要素を供給するに過ぎませんので,地衣蘚苔類によ
うな下等植物,もしくは空中窒素を固定吸収できる植物がまず侵入し定着するようにな
ります。進入した植物の遺体は有機物として残り,その後引き続いて侵入する高等植物
のエネルギー源として,また水分保持の役割を果たします。このような生物的小循環を
通じて岩屑破砕物の表面に灰分元素,窒素が次第に蓄えられるようになります。養分の
供給量が豊富になるにしたがい,さらに高等な植物が定着するようになり,集積する有
機物量も増加します。
土壌化作用の始まる初期の段階では,循環する有機物(炭素)量は非常に少ないです
が,樹木が侵入定着するようになり,安定した森林生態系が形成されると落枝落葉量は
急激に増加するようになり,その量は森林の状態や位置,さらに年によっても変動があ
ります。
岩石は風化によっていろいろの大きさや形の粒子の混合物になります。そのなかでも
特に2μ以下の粒径部分を粘土といい,単に機械的に破砕,生成したものでなく,化学
風化によって土壌水分保持や養分吸着のために活性度の高い部分となります。例えば花
崗岩は一次鉱物のそれぞれが風化に対する抵抗力が異なるため,風化作用によって砂や
微砂のような粗い部分には石英が残り,他はさらに風化が進んで粘土になります。
岩石は風化作用によって細かく破砕されるほどに体積当たりの表面積が増加し,化学
風化を受けやすくなりコロイド粒子としての性質を帯びるとともに養分や水分を保持す
る能力は増加します。
しかし沖積土,洪積土,レスなどは風や水によって他所から運ばれたものが母材料と
なっているので運積土といわれます。
粒径の細かい火山灰は表面積が大きく,非晶質であるために,岩石が風化して土壌に
なるまでの速度に比べて土壌化は早く進行します。
落葉の堆積した林内を歩いたときには足の裏に柔らかい感触を感じますが,公園や道
路を歩いたときには固く感じます。その理由は森林土壌には空隙が多く,しかも土壌粒
子は柔らかく軽いためです。土壌粒子はいろいろの粒径の岩石風化物である無機質と植
物遺体より生成した有機物から構成されていて,分解しやすい有機物が加わるほどに土
壌生物の働きが活発となり有機物が加わるほどに比重が軽くなり土壌粒子間の隙間が多
くなります。このように土壌は固体部分である無機質と有機物以外に土壌粒子間の空隙
すなわち土壌孔隙があり,その一部は水によって占められています。これら固相,液相,
気相の三相組成は立地条件や森林の取扱いによっても異なります。
土壌が地表面に平行しているものを土壌層といい,地表面に垂直な系列を土壌断面と
いいます。
土壌は地表最上層を形成していて,植物に利用される養分の貯蔵所というだけでなく,
植物が成長したり,大小動物など多数の生物が生きたり死んだりする場所です。
種々の土壌的な因子のうち,土壌の相違が林木の種類や成長に対して最も支配的です。
もちろん現在の土壌学は森林立地のすべてを完全に解明し得るまで発展しているわけで
はなく,土壌そのものだけの立場から説明するよりも,地質,地形,植生等の観点から
間接的に解釈したり,土壌の性質を地質,地形,植生の状態を通じて類推しなければな
らないことも多いです。そこで土壌の性情を知るためには土壌の生成に関係している種
々の自然環境の諸因子を調査することが必要です。
林業は土地生産業であり,林木は土地を生産基盤としていますので,一度適地判定を
を誤るとせっかく造林しても成林の見込みのない林地となります。土壌の性情を十分に
把握した上で適切な樹種を選択し,植栽する必要があります。
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