13d 森に棲む野鳥の生態学〈森を守る野鳥たち〉
 
森を守る野鳥たち〈野鳥のいたずらとその対策〉
 
〈サクラとウソ〉
 ウソはユーラシア大陸に広く分布し,日本でも亜高山帯針葉樹林を中心に比較的涼し
い山地で繁殖しています。主な餌はアオモリトドマツ,ハイマツなどの針葉樹の毬果キュ
ウカ,ナナカマド,トネリコなどの木の実や芽,ササの実のほか,夏季にはガ類幼虫,ク
モなどの動物質などもとります。このウソが冬になると山麓に下りてきて,サクラ,ウ
メ,モモなどの花芽を食害します。ソメイヨシノの花芽が43〜60%も摂食されたとの実
態調査報告があります。
 サクラは毎年沢山の花を咲かせ実をつけると樹勢が衰えるといわれています。ウソに
花芽を間引いてもらうのも,かえって良いかもしれません。
 防除法としては,展着剤つき忌避剤であるベフラン塗布剤の15倍液の散布が効果があ
るとの報告があります。
 
〈ダイズとキジバト〉
 被害を受けやすい環境は防風林地帯や林縁沿いです。加害はダイズの発芽期に集中し
ますが,その頃は丁度キジバトが1回目の雛を育てる時期で,良質のカゼイン蛋白を含
むダイズはピジョンミルクの形成に適しています。加害の時間帯は早朝と夕方に多く,
畑の南回りの加害が非常に多いです。南面を背にしていれば,背後から襲うタカ類の影
が地面に映って都合が良いからと考えられます。
 防除法としては色々ありますが,コストの面からオシムギに食塩をまぶした囮餌を畑
の周囲に蒔き,畑の中央にはマネキン人形や目玉模様風船をセットします。加害鳥は人
形などを警戒して畑の縁の近づき,好物の餌があまりにも塩辛いのでびっくりして逃げ
だすということです。
 
〈キツツキの穴あけ〉
 キツツキ類は,電柱や電線ケーブル,神社や別荘の板壁,孟宗竹や桐などの特殊林産
物,さらにはスギやヒノキの大木に穴をあけることがあります。
 キツツキ類が穴をあける目的は餌とりのほか,営巣穴やねぐらを造ること,繁殖期に
雌を呼んだり縄張り宣言のためのドラミング(嘴で木を激しく叩いて連続音をだすこと
),嘴の延びすぎを防ぐことなど様々です。電柱やケーブルに穴をあけるのは,それら
が電磁流によって振動音をだすので,それを虫と間違えるという説があります。
 防除法としては,タカなどの天敵模型や割竹,忌避剤などありますが,それより何よ
りも彼らの好む生息環境,特に広葉樹の大木のある林や針広混交林を広く維持造成する
ことが大切であると考えます。
 
〈種子果実の加害〉
 天然更新(樹木を伐採などした跡地に人工を加えないで次世代の森林を造成すること
)の場合に,針葉樹でも鳥獣による種子の食害が問題になることがある。チョウセンゴ
ヨウのようにリスがいなければ分布生育ができない例もありますが,一般的には翼を持
って分散した種子が,野鳥などに食害されて困る方が多いです。アメリカでは古くから
問題視し,獣害に対しては殺鼠剤の散布,鳥害に対しては枝条シジョウを地面に被覆して
種子を隠し,被害を防ぐ方法が行われています。
 ブナの実やドングリなど堅果では,鳥獣による貯食行動がその分散に大いに役立って
いるが,不作や並作年の場合には食いつくしも起こります。これらの堅果が数年おきに
大豊作になる現象は,そうした鳥獣による食いつくしを防ぐための植物戦略であるとい
う説もあります。
 果樹園のリンゴ,ナシ,ブドウ,モモ,ミカンなどは,カラス,ムクドリ,ヒヨドリ
などによく狙われます。カラスやムクドリは都市,農村など人為的環境に依存して勢力
を増やしたものですが,ヒヨドリは天然林の伐採〜人工林化,疎林化に伴い都市近郊で
密度を高めてきました。彼らは果樹に加害する一方で,多くの田畑,森林害虫を補食し
てくれます。したがって駆除や防除のみにたよらず,野鳥が安心して餌をとれる自然環
境づくりを推進する必要があります。
 
               「森に棲む野鳥の生態学」由井正敏著 創文 抜粋

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