11a 森に棲む野鳥の生態学〈はじめに〉
 
野鳥は今〈歪んだ生態系〉
 
〈害虫の大発生〉
 アカマツ,クロマツは本来瘠せ尾根や砂地など,他の樹木が分布しにくい厳しい環境
に育つ植物です。それが有史以来の度重なる森林の利用,破壊による林地の瘠悪化,あ
るいは造林行為により本州以南の各地に不自然に繁茂してしまいました。そのマツを枯
らすマツの材線虫病が秋田県以南において猛威をふるっています。マツの材線虫病はも
ともと外来ですが,その媒介者はマツノマダラカミキリです。このマツノマダラカミキ
リの天敵であるキツツキ類が十分に生息していれば,本病の蔓延防止に役立つものと考
えられます。
 一般的に大面積の単純人工林あるいは単一作物栽培では,害虫が大発生しやすいです。
その原因は,天敵関係の単純化と特定の餌の得やすさによる害虫の増殖力の増大による
といわれています。
 
〈獣害,鳥害の増加〉
 拡大造林(天然林を伐採して人工林化する)の増大に伴い,シカ,カモシカによる幼
齢造林木の食害が激しくなりました。また天然林が伐採されたことにより,スギ大径木
などがツキノワグマにより皮はぎ害(クマハギ)の被害を受けています。
 ノネズミ,ノウサギによる造林木の被害も増加しています。伐採により下草,低木,
ササが増え,小型獣類の餌場や隠れ場となって爆発的に増加する一方,ワシタカ,フク
ロウ類は高木,樹洞などの営巣場所を奪われて減少し,天敵効果は発揮されていない現
状にあります。
 
〈農薬の恐怖〉
 農作物や造林木への対策として農薬等を用います。その農薬は生態系の高次捕食者で
ある野鳥に数万倍から数百万倍の濃度で蓄積していきます。天敵の野鳥がさらに減って
害虫獣はますます増加することになります。
 
〈ではどうすべきか〉
 すべての生物と共存し,自然生態系の永久的な保全を図り,その中から自然の恵みを
受け続けるためには,どのように自然を取り扱うのが最善なのでしょうか。
 本書は森に棲む野鳥について,その生活様式,群集構造と機能を今まで得られたデー
タの範囲で説明し,その中から野鳥の眼を通した好ましい森林の取り扱い方を考察した
ものです。
 
               「森に棲む野鳥の生態学」由井正敏著 創文 抜粋

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