39a 植物の世界「絶滅危惧生物を守る政策」
 
△絶滅危惧植物を守る課題
 絶滅危惧種を保護して行く上で基礎的な重要資料が,レッドデータブックです。これ
は,絶滅の危惧に瀕している野生動植物について生息・生育状況を纏めたデータ集で,
国際自然保護連合が赤い表紙の本として1966年に世界で最初に発表しました。わが国に
おいては動物版を環境庁が1991年に,植物版は日本自然保護協会と世界自然保護基金日
本委員会が,日本植物分類学会の協力を得て1989年に刊行しています。
 レッドデータブックは,種の保存施策を検討する上での基本資料ですので,今後更に
日本全体に亘る十分な調査を実施しつつ,充実・改訂して行く必要がありましょう。特
に植物版は環境庁版としての刊行が遅れているため,国内希少種の指定等の促進に支障
があることもあって,1997年中には刊行すべく作業を急いでいるところです。
 
 またレッドデータブックは,環境アセスメントにおいて十分活用されることが望まれ
ます。植物の場合,その植物が生育している環境が重要なのであって,移植すれば事足
れりとする安易な考えを改め,計画の初期の段階からそれらの生育地を避けるなどの配
慮が肝要です。今後は,これらの配慮を実体のあるものにするため,環境アセスメント
法の制定など制度的な措置の検討を急ぐ必要があります。
 更に,種や保護区の指定だけでは違法採取に対応出来ない現実があります。ラン科植
物など乱獲が心配される種については,保護増殖事業の一環として監視員を配置するな
ど管理体制の強化を図る必要があります。また,国民の種の保存の重要性への理解と積
極的な協力が不可欠です。このため,種の保存に熱意と識見を持った多くの方々に「希
少野生動植物種保存推進員」になっていただき,普及啓発や生息状況の調査活動等の裾
野を広げることも大切です。
 
 現時点においては,現に絶滅の危機の差し迫った種に関する対策に追われていますが,
生物多様性国家戦略に記述されていますように,希少な種を保全するばかりでなく,地
域の自然に根挿して生息・生育している種も含めた多様な動植物相を全体として保全し
て行くことが必要です。
 この観点から二次林や二次草原に生育するフクジュソウ,カタクリ,サクラソウなど,
かつては普通に見られた種ではあっても,社会経済的な変化の中において近年急速に失
われつつあるものについて,絶滅の危機に陥る前に何らかの対策を検討して行くことが,
これからの課題として極めて重要と考えます。どのような対策が必要か,難しい問題で
すが,私共の住んでいる市町村の中に,野生の動植物が安全に生息・生育出来るような
小空間(ビオトープ)を創り出して行くことも有効な手段ではないでしょうか。

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