07 花粉症と森林
花粉症と森林 資料:林業技術ハンドブック
(森林総合研究所 横山敏孝氏)
1 花粉症とは何か
花粉症とは花粉によって起こるアレルギー性の病気である。人体が花粉に対してつく
る抗体(免疫グロブリン,IgE)に仲介されたアリルギー反応が病気の本体である。花
粉症の典型的な症状はくしゃみ,鼻みず,鼻づまりなどの鼻の症状と,目のかゆみ,充
血,涙などある。また,喉の痛みやかゆみ,頭痛やイライラ,集中力の低下などがあり,
皮膚のかゆみ,ただれ,胃腸障害など多様な症状が見られる場合もある。日本では,
1964年に発見されたスギの花粉による花粉症が近年増加して大きな問題になっている。
2 樹木花粉による花粉症
風によって花粉が多量に飛散する風媒花樹木の花粉が花粉症の原因になりやすい。樹
木ではスギの花粉がアレルギーを引き起こす働きが強く患者数も多い。ヒノキヤサワラ
の花粉もスギと共通の抗原性があり,スギ花粉症に含めて扱われる場合がある。このほ
かに日本で報告された樹木花粉アレルギーには次のようなものがある。
日本で報告された樹木花粉アレルギーと報告年
スギ 1964 シラカンバ 1969 コナラ 1969
ハンノキ 1970 クコマツ 1974 アカマツ 1975
ケヤキ 1975 クルミ 1976 モモ 1977
イチョウ 1978 リンゴ 1978 アカシア 1979
ヤナギ 1980 ウメ 1980 ヤマモモ 1980
ナシ 1981 コウヤマキ 1984 サクラ 1985
この中のモモ,リンゴ等の虫媒花樹木の場合は職業性の花粉症である。
なお,樹木以外にもイネ科の草本をはじめとするヨモギ,ブタクサ,カナムグラ等の
花粉が花粉症を起こす。
3 スギ花粉症が急増した原因
なぜスギ花粉症が急に増加してきたかについては以下のようないくつかの要因があげ
られており,原因の究明が進められている。
@スギの空中花粉が増加した。
A自動車の排気ガスや大気汚染がスギ花粉の抗原性を高めた。
B食生活の変化などでアレルギー体質の人が増えた。
C鼻症状を示す他の病気が減少したので表面にでてきた。
D花粉症に関心がもたれ受診率が増し,また診断技術が向上した。
4 スギ花粉の形成と形態
スギ雄花は開花する前の年の7月頃から形成され始める。10月下旬から11月下旬には
雄花の中に成熟した花粉が形成される。雄花の形成時期が高温少雨であると雄花形成量
が増加し,低温多雨では減少する。
花粉は球形で小さな1個の突起があり直径は30μm前後である。乾燥状態では空気の
抜けた軟式テニスのボールの様に一部がくぼんでいる。吸水すると球形になり,外皮が
割れてはずれ内膜に包まれた状態になる。
5 花粉の生産量
花粉の生産量は林分の遺伝的条件や立地条件によって異なり,気象条件によって変動
する。スギの花粉生産粒数を推定した例を示す。
スギ雄花1個から生産される花粉粒
396,000 (幾瀬 1965)
288,000 385,000 432,000 549,000 (斉藤他1987)
スギ林で生産される花粉粒数
林分 雄花数/ha 花粉粒数/ha 本/ha 林齢 備考
A 17,530,000 50×10^11 198 100-200 斉藤他1987
B 26,780,000 57×10^11 292 100-200
C 72,150,000 120×10^11 366 100-200
D 17,940,000 38×10^11 660 50 橋詰 1986
E 29,900,000 59×10^11 1,200 30
F 41,700,000 132×10^11 1,000 30
G 14,300,000 6.8×10^11 1,000 30 さし木林
H 45,700,000 63.3×10^11 1,000 30 〃
I 14,300,000 11.3×10^11 1,050 30 〃
[次へ進んで下さい]