13f 茶花萬葉抄
 
松まつ
 茂岡に神さびたちて栄えたる 千代まつの樹の年の知らなく 紀鹿人
 
豆まめ
 道の辺の荊のうれにはほ豆の からまる君を離れか行かむ 丈部鳥
 
檀まゆみ
 南淵の細川山に立つ檀 弓束まくまで人に知らえじ
 
みくさ
 秋の野のみ草刈り葺きやどれりし 兎道のみやこの仮盧し思ほゆ 額田王
 
三枝ミツマタさきくさ※
 春さればまづさきくさの幸のあらば 後にもあはむな恋そ吾妹 柿本人麿
 
みる
 綿も無き 布肩衣のみるの如 わわけさがれる かがふのみ・・・・・・ 山上憶良
 
麦むぎ
 馬柵越しに麦喰む駒の詈らゆれど 猶し恋しくしぬびがてなく
 
葎むぐら
 葎はふ賎しきやども大君の 坐さむと知らば玉敷かましを 橘諸兄
 
紫むらさき
 つくま野に生ふる紫草衣に染め 未だ着ずして色に出でにけり 笠女郎
 
むろ
 吾妹子が見し鞆の浦の室の木は 常世にあれど見し人ぞ亡き 大伴旅人
 
藻め
 しかの海人は藻刈り塩焼き暇なみ 髪梳の小櫛取りも見なくに
 
藻も
 明日香河瀬々の珠藻のうち靡き 情は妹に依りにけるかも
 
もむにれ
 ・・・・・・あしひきの この片山の もむにれを 五百枝剥ぎたり・・・・・・  乞食者の詠
 
桃もも貝母ばいも※
 春のそのくれなひにほふももの花 下てる道にいでたつをとめ 大番家持
 
 時々の花は咲けども何すれぞ 母とう花の咲き出来ずけむ 丈部真麿
 
ももよぐさ
 父母が殿のしりへのももよくさ 百代いでませ我が来たるまで 生玉部足国
 
柳やなぎ※
 浅みどりそめかけたりと見るまでに 春のやなぎは芽ばへけるかも 讀人不知
 
山藍やまあい※
 ・・・・・・くれないの赤もすそ引き 山あいも摺れる衣きて ただひとり・・・・・・
 
やますげ
 ぬばたまの黒髪山の山すげに 小雨ふりしきしくしく思ほゆ
 
山橘・薮柑子やまたちばな※
 この雪の消残る時にいざ行かな 山たちばなの実のてるも見む 大伴家持
 
やまたづ(にはとこ)※
 君がゆきけ長くなりぬ山たづの 迎へか行かむ待つには待たじ 盤姫皇后
 
やまちさ
 いきの緒に思へる吾をやまちさの 花にか君が移ろひぬらむ
 
山吹やまぶき※
 かはづなく甘南備川に影見えて 今か咲くらむやまぶきの花 厚見王
 
 吾が背子が宿の山吹咲きてあらば 止まず通はむいやとしのはに 大伴家持
 
山藍やまゐ
 くれなゐの 赤裳裾引き 山藍もち 摺れる衣着て・・・・・・
 
ゆづりは
 古に恋ふる鳥かもゆづるはの 御井の上より鳴きわたり行く 弓削皇子
 
ゆふばな
 山高み白ゆふ花に落ちたぎつ 滝の河内は見れど飽かぬも 笠金村
 
百合ゆり※
 灯火の光りに見ゆるさゆり花 ゆりもあはむと思ひ初めてき 内蔵繩麿
 
蓬よもぎ
 ・・・・・・ほととぎす来鳴く五月の 菖蒲草 蓬かづらき 酒宴 遊び慰れと・・・・・・
 大伴家持
 
わかめ
 比多潟の磯のわかめの立ちみだえ 吾をか待つなも昨夜も今夜も
 
忘草わすれぐさ※
 わすれ草わが紐につく香具山の ふりにし里をわすれぬがため 大伴旅人
 
 忘れ草垣もしげみに植へたれど しこの醜草なほ恋ひにけり
 
 忘れ草わが下紐につけたれど 醜のしこ草言にしありけり 大伴旅人
 
わらび
 石ばしる垂水の上のさわらびの 萌えいづる春になりにけるかも 志貴皇子
 
ゑぐ
 君がため山田の沢にゑぐ採むと 雪消の水に裳の裾ぬれぬ
 
荻をぎ
 葦辺なる荻の葉さやぎ秋風の 吹き来るなべに雁鳴き渡る
 
女郎花をみなへし※
 手にとれば神さへ匂ふをみなへし この白露に散らまく惜しも 讀人不知
[次へ進む] [バック]