20b 森林よ永遠に〈森林を守る〉
 
森林よ永遠に〈森林保護〉
                                        
〈森林に加えられる各種の害〉
 △生物的な害
 主として病害,虫害,獣害があります。
 樹木に対する著名な病害としては,スギの赤枯病,針葉樹稚樹の立枯病,根朽病,雪
腐病,マツの葉ふるい病,てんぐ巣病などがあります。
 森林害虫は,葉を食害するマツカレハ,マイマイガ,穿孔性のカミキリムシ類,ゾウ
ムシ類,キクイムシ類,根を食害するコガネムシ類,虫えいをつくるタマバエ類などが
あります。
 獣害は樹木の芽,枝,根の噛害,樹皮の剥離,稚樹の倒伏,林地の掘り起こしなどが
あります。ネズミ,ノウサギ,クマ,ムササビ,放牧家畜,シカ,リス,イノシシ,モ
グラなどがあります。
 △物理的な害
 冠雪害,雪圧害,雪崩などの雪の害,台風や卓越風による風の害,凍害や寒風など寒
さの害,水不足や伐採地周辺の乾燥による被害などの気象に起因する被害と,焚火・タ
バコによる人為的な火災による被害があります。また海岸林の塩害,亜硫酸ガスなどに
よる大気汚染などの化学的な被害もあります。
                                        
〈被害の防除〉
 △生物害の防除
 よく見回って,特定の昆虫発生による,生態系の平衡状態の破壊を未然に防ぐ予防を
第一とします。防除にあたっては,薬剤散布は無害虫獣への影響に配慮し,不妊化によ
る方法,天敵の活用などがよいでしょう。
 △気象害の防除
 被害を受けないような植栽樹種の選択,施業方法の検討,保護樹帯の設置などに配慮
する必要があります。
 なお気象害を受けた森林は,生態系の循環系統になんらかの異常をきたしますので,
これによって誘発される病虫害の発生に十分注意する必要があります。
 △火災の防除
 林野火災の原因は人為的なものがほとんどですので,表示板の設置や巡視で注意を喚
起します。
                                        
〈大気汚染と森林〉
 △古くて新しい問題
 蒸気機関車の煙,製鉄所の煙突の煙,銅山の排煙など,以前から煙による大気汚染に
ついて指摘されてきています。
 △東京都内の実態
 大気汚染によって,アカマツ,スギ,モミ,ケヤキなどで被害が目だち,マテバシイ,
キョウチクトウ,トベラ,マサキなどは抵抗性の強い樹種です。
 △被害防除
 土壌に含まれている栄養条件や水分条件を調べ,植栽樹木の生育に適するように土壌
環境を改良するなどの対処をしたり,衰退樹木や森林への病害虫の発生防止などに注意
します。
                                        
〈自然保護はなぜ必要か〉
 △自然保護ということば
 自然保護ということばの中には,二つの意味があります。
 一つはプレザベーション(保存)で,ある区域内の自然をあるがままの姿で絶対的に
保護保存し,文化遺産的取扱いによって後世まで残していき,また,人為の加えられな
い自然を対象として化学的研究を行うためにも利用しようとするやり方です。
 もう一つのコンサーベーションは,自然を保護すると同時に,その中での産業,レク
リエーション,森林の場合は水資源保全などの公益的効用を含めて,資源を「賢明に利
用」しようとするもので,明日の資源を守りながら,自分達の今日の生活に寄与させよ
うということがねらいです。
 △失われゆく環境をまもる
 森林を守れという意見の大半は,もはやこれ以上の破壊をゆるすまじ,緑そのものの
保護と,森林に生息する鳥獣保護のために森林を破壊から守れということです。緑に対
する都会人の本能的なあこがれに根ざす情感的,感覚的な自然保護の訴えもさることな
がら,人間,鳥獣など動物のための環境保全という立場からの保護の訴えが多くなって
きているのは,この問題の切実性をますます浮き彫りにしています。
 △自然から学ぶ
 自然を守るということには,もう一つの意味があります。
 例えば原生林は,与えられた環境条件下で到達できる,最も安定した自然の姿ですの
で,この安定した平衡状態の機構や法則をよく知ることは,人間が土地を利用する上の
あらゆる場合の基礎となります。
 また病原菌や昆虫類の生態,野生鳥獣の生育,森林立地の侵食,河川や土壌の状態な
ど,われわれが学ばなければならない自然の法則と教訓は,まだ無数に残っていますの
で,その研究の場として,自然をそのままの姿で保存しておく必要があります。
                                        
〈自然保護のあり方〉
 △研究の場の保存
 前述のような,研究の場としての自然保護は,森林に限っていえば各種の原生林を保
存しておこうということになります。
 現在保存されています天然記念物等各種の保護地域は,その多くのものは保護面積が
小さすぎるのが欠点で,折角伐り残されても,小面積ですと周囲の影響で,保存した自
然群落の本来の姿は失われてしまうのです。草丈数十pの草原でも,裸地に取り残され
てその中央部が正常な姿を保つためには,50〜60m平方の面積が必要とされています。
樹高20〜30mの森林ですと数q平方,つまり数百〜数千haが必要でしょう。この場合に
はその中で生活する大形の動物のことも考えなければなりません。
 △自然の保存と産業の調和
 現在になっても,森林の最大の効用が木材生産であることには変わりありません。そ
して木材資源は,人間にとって実に有益な資源であることも変わりありません。学術目
的を除いて,自然を保護しながら,その自然から有益な資源を自分達に有効に利用して
いくことを考えることこそ,叡智のある人間の選ぶ道でしょう。
 合理的な林業経営は,決して森林の破壊を招くものではありません。国土保全,水源
かん養,あるいは保健休養などの目的を満足させるための自然保護の要求は,合理的な
森林施業によって達成できます。
 △観光開発と森林
 森林における観光開発は,その景観の素晴らしさを求めて高山帯,亜高山帯へと延び
ています。亜高山帯では,いったん破壊された森林の回復は,低山地帯より遅く,見か
け上,木を移植し,草を植えても,高木低木,草類,コケ類,さらに土中微生物などが
安定した物質循環系を回復するには百年単位の年月が必要です。
 一方,人々が直接自然と触れ合うために森林に入る場合にあっては,踏みつけや地表
露出に対して自然の力で回復する能力,いわゆるレクリエーション・キャパシティを超
えるときは,入林を禁止する必要があります。
 また利用者自らが,ゴミの持ち込み,植生の採取などを慎み,自然を大切にしようす
る公徳心を養うことも大切です。
 △自然保護は生態系の保護
 ある特定の生物の保護は,その生物がそのところで成立している生態系の一員ですの
で,共存する植物,動物,それらが依存している環境を含めて保護される必要がありま
す。プレザベーションであっても,コンサーベーションであっても,自然の仕組みを知
り,その仕組みに反しないよう考え,行動することです。生態系というものは,絶えず
物質循環という動的な平衡状態を持っていますので,この物質循環と,その循環を成し
遂げている生物と環境のチェーンを大切にすることこそ,自然保護の最も重要な態度で
す。
                     参考 「森の生態」共立出版  THE END

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