07c 森林機能保全:防災林造成
 
V 雪崩防止林
                                       
 雪崩ナダレによる災害を防止する目的で造成される森林を雪崩防止林という。全層雪崩
の発生地区に配置して,その発生を積極的に予防する。
                                       
1 雪崩防止工
                                       
 雪崩地に普通の方法で造林するのは不可能であるから,補助手段として雪崩防止工を
施工して,植栽しなければならない。雪崩防止工には杭工・柵工・擁壁工・階段工等が
あるが,雪崩防止林の造成に最も適している工種は階段工である。
                                       
(1)階段工
   階段工は形態により,切取り階段工,盛土階段工,及び混合階段工に分類される
  が,一般に雪崩防止林の造成には切取り階段工が最も広く採用され,施工地の傾斜
  角が40゜以下で,土質が軟弱でない限りこの工種で十分である。一般に,階段工の
  幅は,平均積雪深2.5m以下の多雪地帯で1.5m内外,平均積雪深2.5m以上の豪雪地帯
  で2.0m内外が適当である。
   階段間の垂直距離(高距)は階段幅の6倍以下にするのがよく,7倍を限度とす
  る。階段の法面の勾配は,硬岸分,軟岩4分,土砂5分程度にしている地域がある
  が,普通実行されているのは3分程度の勾配のものが多い。
(2)柵工
   柵工はあらゆる傾斜角,地形のところに使用できる工法であり,柵の高さは融雪
  初期の最大積雪深を標準として作成する。
(3)杭工
   杭工は,樹木が成林しているところでは雪崩が発生しないところから出発したも
  ので,古レール等を用いたものが多い。また,雪崩発生の比較的小面積のところか,
  柵工等の上部で急傾斜地に用いればよい。構造には,設置方法により固定式と吊下
  げ式(タコ式)がある。
   一般には主柱1本に支柱1本のものが最も多いが,斜面形が単純で均一な積雪で
  小面積の場合は,支柱のみで,頭を鉄線等で連結することもある。なお,積雪が不
  均一で側圧等の偏荷重がかかるような場合は,2本の支柱にすることもある。
                                       
2 雪崩防止林の造成
                                       
(1)雪崩防止林の利点と特徴
  @恒久的工事と同等の永続的な効果がある。
  A森林の積雪の分布を均一化する。
  B林内の積雪は急激な変態をしにくいため積雪の安定度が高い。
  C森林の保続による林産物の生産・土壌の保全・風致の効用など多方面に利益があ
   る。
(2)樹種
   雪崩防止林の樹種としては,積雪の沈降圧,移動圧に対する抵抗性が高く,生長
  が速く,樹幹が通直で,材質が強く樹根が強大で,樹冠が小さいものが適している。
  スギ,トウヒ,クリ,ミズナラ,ヤマハンノキ,カエデ,ブナ,ケヤキ等が適樹と
  されてきたが,結局は,その施工地付近で優勢に生育している郷土樹種を採用する
  のが失敗のない方法である。
(3)植栽と保育
   植栽位置は,階段先端部が最も生長がよい。ただし階段面の斜面では,階段法面
  の上端から少なくとも3m以内は生育不良になりやすいので,植栽は避けたほうがよ
  い。
   雪崩防止造成地が,雪庇落下区や吹き溜まり地等のような異常な積雪形態のとこ
  ろでは,土塁工・吹き払い柵・吹き抜け柵工等の雪庇防止工法を併用して,積雪の
  分散を図ることが必要である。
(4)更新
   奥地林開発の進行にともなって比較的高海抜の多雪地域での皆伐更新に起因する
  雪崩によって林地・林木の被害が現れ始めている。急傾斜地の雪崩危険地の林木の
  更新にあたって,斜面積雪を安定させるため普通よりも伐採高を高めて地上1.0〜
  1.5mで皆伐する高伐りや帯状に交互に伐採する前生樹保残帯法等が試みられている。
  広葉樹の伐根は,経過年数とともに腐朽が進み,転倒したり,折れたりするにつれ
  て雪崩防止機能は低下し,伐後8〜10年くらいしか雪崩防止効果は期待できない。
  その期間内において積雪深が2〜3mの急傾斜地では高木性の広葉樹の伐根密度が
  100本/ha以上では積雪移動量は安定するが,100本/ha以下になると全層雪崩常襲
  地へ移動するという調査例もある。また,豪雪地帯の急傾斜地の高木性の広葉樹を
  等高線に帯状に伐採し,保残林帯によって雪崩の発生を防ぎながら更新する場合,
  最大傾斜方向の更新区の幅は20〜40mの範囲に抑えることが重要である。

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