05a 森林機能保全:山腹工事
V 山腹工事の工種
1 山腹基礎工
(1)のり切工
のり切工は,山腹斜面における不安定な土層の傾斜を緩にして,安定した斜面を造成
することを目的とする。
切取り勾配は,安息角を標準とする。しかし,のり切り土量が多量になり盛土に雨裂
の発生を促すような場合は,山腹斜面の実態や立地条件等を検討して決める必要がある。
(2)土留工
土留工は,山腹斜面の安定及び工作物の基礎とすることを目的とする。
A コンクリート土留工
コンクリート土留工は,十分な安定や安全性を必要とする場合,又は土圧が大き
く,練積土留工や他の土留工では安定が期待されない場合に採用する。高さは原則
として4m以下とする。
B 練積土留工及び空積土留工
練積土留工及び空積土留工は,石材を使用する場合とコンクリートブロックを使
用する場合がある。いずれも良質な骨材が得やすく,背面土圧が比較的小さい箇所
で安全性,適合性など他の工種と比較して適当である場合に採用する。
@高さは,練積土留工にあっては3m,空積土留工にあっては2mを原則とする。
A法勾配は,原則として3分とする。
C 蛇籠土留工
蛇籠土留工は,丸蛇籠,ふとん籠,菱形ふとん籠,変形蛇籠などがある。コンク
リート土留工,練積土留工及び空積土留工等を築設した場合に,地盤の不等沈下や
滑動で破壊され易い個所,又は他の土留工と比較して十分その目的が達せられる場
合に採用する。高さは,原則として2m以下とする。
D 丸太積土留工
丸太積土留工は,間伐材など丸太を利用する簡易な土留工であるため,小規模な
崩壊地,又はのり切面の維持を図る個所などで,背面土圧が小さく構造物としての
耐久性を必要としない,一般に丸太が腐朽するまでに植生による土砂の安定化が可
能な場合に計画される。従って土壌条件等が比較的良好な崩壊地,あるいは他の資
材の搬入が困難な個所等に用いられる。丸太積土留工の高さは,原則として1m以下
とし,崩落によって被害の生じない程度にする。
E 枠土留工
枠土留工は,地盤が軟弱で支持力が小さい個所,あるいは土留工背面からの浸透
水が多い個所等で,他の土留工では不適当な場合に採用する。
枠土留工には自在性があり,不等沈下,移動などに対応して変形し,容易に破壊
されることなく土留工として効果を発揮する利点がある。
@枠土留工は,枠内に充填した石れきの重量により土圧に対抗するので,土圧の小
さい個所については高さを制限する必要はない。土圧が著しく大きい場合には,
これに対応した安定度が必要となる。
A枠度留工の高さは,原則として3m以下とする。高さが3m以上を必要とする場合
には,間隔をあけて2段に積むか,控えを長くして安定性を検討する。
(3)埋設工
埋設工は,のり切り等による土砂が斜面に厚く堆積して不安定となるおそれがある場
合,又は堆積土砂が基礎地盤に沿って滑動するおそれがある場合に,堆積土砂の中に埋
設して堆積層を安定させる。
埋設工は,のり切土砂の堆積深,土留工の配置等を考慮して種別を選定し,最も効果
的な位置や高さを決定する。埋設工の構造は,土留工や柵工の構造に準じてよいが,そ
の標準的な適用は次のとおりである。
@盛土厚が比較的浅い場合には,基礎地盤全面に階段を切り付け編柵,丸太柵などの
柵工を計画する。段切りの水平部分には,3〜5%の勾配をつけて排水をよくする。
A盛土厚が比較的深く,基礎地盤が軟弱で浸透水の多い場合には,蛇籠等の土留工を
適用し,暗渠工と兼用の効果をもたせる。また,杭基礎を併用し,スライドに対す
る防止を図る。
B盛土厚が深い場合,基礎地盤が堅固な場合には,コンクリート等の土留工を適用す
る。構造は土留工に準ずる。
(4)水路工
水路工は,降水又は湧水による斜面侵食の防止及び浸透による土の強度低下,間隔水
圧の増大を防止して,斜面の安定を図ることを目的とする。
林地に達した雨水は土層に浸透するが,降雨強度が林地の浸透能を超すようになると,
雨水は等高線に直角に地表流となって流下する。一般に地表流は,特定の水みちを流下
するが,豪雨時には全面で薄層の地表流が生じる。崩壊地においては,リル侵食,ガリ
ー侵食が起こらないよう水路配置について十分留意し,排水効果をあげ斜面侵食を防ぐ
ことが必要である。
@一般に山腹水路工は,次のような場合に計画する。
1)山腹施工区域に,湧水がある場合
2)山腹施工区域周縁部から地表水が集中して流下する場合
3)山腹面が凹地帯をなし,地表水が集中する場合
4)山腹の土質が地表水によって流出しやすい場合
5)暗渠工で排水された水を,地表水として安全に流下させる場合
A水路工の配置は,崩壊地内及び周辺の地表水,湧水を速やかに排水できるように系
統を十分検討して決定する。排水により下流に被害を与えるおそれがある場合には,
必要に応じて流末処理処理を計画する。
B水路工の通水断面は,集水される最大流量に十分な余裕をもって安全に排水できる
断面でなければならない。
A 練積水路工
常水がある個所,降雨時の流量が多い個所等で,石材やコンクリートブロックな
どが得やすい場合に用いられる。
一般に山腹水路工は,山腹が緑化され植物の根系の発達によって土壌が緊縛され
るような状態になれば不要になるもので,必ずしも永久施設である必要はない。し
たがって,これらの個所にほかには,山腹中部以下の幹線水路として用いられる。
B 空張水路工
常水がなく,勾配の比較的急な個所に計画される。常水のある個所では,張石の
裏への浸透水により水路床が破壊される恐れがある。常水のない比較的急傾斜地や
地盤が堅硬で集水量の少ない山腹上部などに計画される。形状は,原則として練積
水路工に準じて実施される。
C コンクリート水路工
常水のある個所,降雨時の流量の多い個所などに用いられる。コンクリート水路
工は,練積水路工と同程度の効果を期待して用いられる。
D 張芝水路工
張芝水路工は,小規模の崩壊地で流量の少なく,また土砂の流送のない個所,芝
の生育が可能な土質の個所に計画される。
E 編柵水路工
編柵水路工は,流量が少なく比較的勾配の緩やかな崩壊地に適用する。流量が多
く傾斜の大きい場合には,底部が侵食を受け両側編柵の杭が洗掘されて破壊されや
すい。したがって,一般には山腹下部の勾配の緩い堆積部に計画される。
F 蛇籠水路工
蛇籠水路工は,地盤の不安定な個所で他の水路工では不適当な場合に適用する。
地盤の不安定な個所とは,地盤が軟弱なところ,不規則な土砂の移動が生ずる恐れ
のある個所等であって,これらの個所に,蛇籠の柔軟性を活用する。
G 土嚢水路工
土嚢水路工は,常水がなく土砂の流送の少ない崩壊地等に用いられる。
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