32 身近な植物群落〈植物群落のいろいろ〉
                                         
〈植生帯をつくる植物群落〉
 
〈暖温帯常緑広葉樹林〉
 日本の常緑広葉樹林は,その中でも照葉樹林といわれるタイプのもので,ヒマヤラ山
麓から中国南部,台湾を経て日本中南部,韓国南端にわたって分布する一連のものの一
部です。ツクバネガシ,アラカシ,シラカシ,ウラジロガシ,アカガシなどのカシ類や
スダシイ,コジイなどを含む常緑のブナ科の樹木と,クスノキ,タブ,シロダモなどの
ようなクスノキ科の常緑樹が主要な構成種となっています。いずれもクチクラが発達し
た革質で光沢のある常緑の葉を持っていて,照葉樹という名称はこの特徴に由来してい
ます。この森林を構成する他の樹木の多くも同じ特徴を持っています。落葉樹は顕著に
は出現しません。
 九州より北の地域でよく出現する傾向をもつ植物は,スダシイ,タブノキ,モチノキ,
アラカシ,ウラジロガシ,アカガシ,シロダモ,サカキ,ヤブツバキ,ヒサカキ,ネズ
ミモチ,ヤブニッケイ,ヤツデ,アオキ,マンリョウ,キヅタ,イタビカズラ,ツルグ
ミ,テイカカズラ,ビナンカズラ,ヤブコウジ,ベニシダ,ジャノヒゲ,シュンラン,
ヤブラン,オオイタチシダなどです。
 同じ相観をもつということだけでなく,組成のこのような共通性に基礎をおく一方,
日本の常緑広葉樹林には大きくみて,@シイ林,Aタブ林,Bカシ林,Cウバメガシの
四つのタイプに区別することができます。
 群落分類でも植物社会学の立場では,日本の常緑広葉樹林はまとめてヤブツバキクラ
スに含まれます。
 @シイ林
 シイという呼び名は,スダシイとコジイの総称です。紀伊半島付近から南西の地域に
分布かるシイ林の階層構造の例では,次のようになります。
 ・高木層:上限の高さ10〜17m,植被率30〜90%,主な種はシイ,イスノキ,タブ,
アラカシ,ホルトノキ
 ・亜高木層:上限の高さ4〜10m,植被率10〜60%,主な種はシイ,ヤブツバキ,イ
スノキ,イヌビワ,タイミンタチバナ
 ・低木層:上限の高さ1.3〜2m,植被率20〜90%,主な種はヤブツバキ,シイ,ネズ
ミモチ,ヤブニッケイ,タイミンタチバナ
 ・草本層:上限の高さ30〜80p,植被率20〜95%,主な種はテカズラ,オオカグマ,
ジャノヒゲ,ツルコウジ,タイミンタチバナ
 Aタブ林
 タブ林を構成する種は,一般にシイ林にも共通して見出されますが,タブ林では,ナ
ギ,ヒメユズリハ,ホルトノキ,フウトウカズラ,ホソバカナワラビなどの優占度又は
常在度が高いとの指摘もあります。
 Bカシ林
 ウラジロガシ,アカガシ,ツクバネガシなどのカシ類は,シイと混じって生育します。
しかしシイよりも分布範囲は広く,シイの生育の限界付近やこれを越えたところで形成
されます。サカキ,タブ,ヤブニッケイ,テイカカズラ,ヤブコウジ,ベニシダ,アオ
キ,ヤブツバキ,ヒサカキなどは,シイ林と共通です。ミヤマシキミ,イヌガヤ,アセ
ビ,シキミ,ヒイラギ,モミ,カヤ,キッコウハグマなどは,カシ林独自のものです。
 Cウバメガシ林
 ウバメガシは常緑樹と落葉樹を含むナラ,カシ類(コナラ属)の中で,分類上の位置
としてナラ類に入る形態的特徴を持っていながら,カシ類のように常緑性です。しかも
葉はカシ類のような照葉でなく,硬葉といえる特徴を持っています。地中海地方で硬葉
樹林をつくるコルクガシなどはごく近縁のものです。
 ウバメガシ林は海岸の,母岩が露出しているような急斜面や風衝地に,高さは2〜3
mで群落し,トベラ,マサキ,マルバシャリンバイ,ハマヒサカキ,ツワブキなどはこ
の群落の特徴です。
 △北限の常緑広葉樹林
 日本の常緑広葉樹林は,岩手県中部と青森県南部を北限にしています。この種はタブ
林です。カシ林は仙台付近,シイ林は平付近です。
 △常緑広葉樹林の季節性
 落葉は4〜5月頃と,7月にも見られます。開花は5月をピークに3〜11月,結実は
10月をピークに5〜11月です。
 △常緑広葉樹林の種数
 シイ林のは多く複雑な種類構成をもっていて,普通40種前後で,90〜110種の調査例
もあります。
 △常緑広葉樹林の遷移
 愛知県木曽川下流などでの林の遷移系列の推定では,植林されたクロマツにタブが侵
入し,次いでクロマツが消滅する一方でスダシイが侵入し,ついにはタブも消えてスダ
シイ林が成立という経過をたどるとされています。その間タブ林が成立するまで300年,
スダシイが出現し始めるまで500年と推定できます。
 
〈中間温帯林〉
 △モミ・ツガ林と温帯針葉樹林
 モミは浅い土壌など限られた土地条件に成立し,ツガは急傾斜地や露岩地にも成立し
ます。これらの地域には土地条件の違いに応じてスギ,トガサワラ,コウヤマキ,ヒノ
キなどが混じり,暖温帯上部の土地的極相として成立し,林床にはホンシャクナゲ,コ
バノミツバツツジ,フジツツジ,アセビ,ネジキ,ウンゼンツツジ,オンツツジなどの
シャクナゲ科の低木が生育しています。
 △モミ・イヌブナ林及びコナラ林
 暖帯落葉樹林の典型に近い阿武隈山地のモミ・イヌブナ林の高木層の例では,モミだ
けのところ,イタヤカエデ・アサダ・クリ・ミズキ・ミズナラ・アカシデ・イヌシデの
ような落葉広葉樹が優勢なところ,両者が混生するところの三つのタイプが,モザイク
状に混じって存在しています。伐採したあとは二次林としてコナラ林が現れ,さらにコ
ナラ林は極相林へと成立していきます。
[次へ進んで下さい]