11a レッドデータブック〈日本の絶滅危惧植物1〉
 
〈わが国における野生植物の生育地の現状〉
 
 △現状の調査
 レッドデータブックは,「我が国における保護上重要な植物種および植物群落の研究
委員会植物種分科会」が1987〜1989年に調査した結果に基づいて編集されています。こ
の調査は,絶滅,絶滅危惧,危急,稀少,及び現状不明の5ランクの種を選定してリス
トが作成されました。最終リストには,シダ植物101種,裸子植物4種,単子葉類358種,
合弁花類188種,雌弁花類244種,合計895種が掲上されています。
 重点調査種7種として,オキナグサ,サギソウ,キスミレ,フジバカマ,オニバス,
サクラソウ,ミゾコウジュを抽出し,かつての生育場所等について詳しく調査しいてま
す。
 △絶滅,絶滅危惧,危急,現状不明種の現状と危険性の理由
 
     シダ植物 裸子植物 合弁花類 雌弁花類 単子葉類 単子葉類 合  計
                       (ラン科以外)(ラン科)
絶滅種     10         0         5        10         4         6        35
絶滅危惧種    11         0        41        41        13        40       146
危急種        74         4       138       190       179        93       678
現状不明種     6         0         4         3        19         4        36
合計         101         4       188       244       215       143       895
 
 これら895種は,日本産野生植物種(種子植物とシダ植物,合計5,300種)の17%に相
当します。
 危険性の理由としては,山草業者等山草家による園芸用の採集28%,開発行為による
自生地の破壊43%となっています。
 園芸用の採集による野生植物の減少は特にラン科で著しく,リストされた143種のう
ち70%が乱獲のために絶滅が心配される状態に至っています。
 △重点調査種7種の特徴
 @オキナグサ キンポウゲ科 危急 日本,朝鮮半島,中国大陸
 河川の氾濫原や山地などの日当たりのよい草原や岩場に生える多年草。根出葉は2回
羽状複葉,長さ6〜14p,長い柄がある。花は4〜5月に咲き,外面は長い白毛で密に
覆われ,内面は暗紫赤色,鐘形で下向きにつく。花茎は花期には高さ10pほどであるが,
花後に伸びて30pに達する。本州,四国,九州に分布するが,野草として風情があるた
め園芸用に採集され,個体数が激減している。
 Aサクラソウ サクラソウ科 危急 日本,朝鮮半島,中国大陸東北部,シベリア東
  部
 湿地に生育する多年草。全体に毛が多い。葉には5pほどの葉柄があり,株の根元か
ら4〜5枚出る。葉は楕円形で長さ4〜8p,縁に浅い切れ込みがある。4〜5月,約
20pの花茎の先に5〜10個ほどの花をつける。花は普通淡紅色,直径2〜3p。江戸時
代から花色や花形などに多数の変異が見いだされ,多くの園芸品種がある。北海道,本
州,九州に分布するが,大規模開発により多くの自生地が失われたうえ,山草愛好家に
よる採集もあり,保護地以外では絶滅寸前になっている。
 Bオニバス スイレン科 危急 日本,台湾,中国大陸,ウスリー,インド
 平地の湖沼,ため池,河川の止水域などに群生する浮葉性の1年草。全体に鋭いとげ
がある。浮葉は円形で直径1〜2pに達する。8〜9月頃,赤紫色の花を咲かせるが,
結実は主に水中の閉鎖花(開花せずに受粉する花)による。太平洋側は宮城県,日本海
側は新潟県を北限とし,本州,四国,九州に270ヶ所余りの産地が知られていたが,水
域の埋め立て,水質汚濁の進行などで次々と姿を消し,このまま放置すれば絶滅するお
それがある。
 Cサギソウ ラン科 危急 日本,朝鮮半島,台湾
 湿地に生育する多年草。茎は高さ20〜40p,茎部に細長い葉を3〜5枚つける。7〜
8月,白色の花を1〜3個つける。花の唇弁シンベンは大きく,フリル状に裂け,目立つ。
かつては岩手県から鹿児島県までの湿地に普通の種であったが,湿地の開発と山草業者
の乱獲により,各地で絶滅又は絶滅寸前の状態になっている。残された自生地を保護す
るとともに,採集を禁止する必要がある。
 Dフジバカマ キク科 絶滅危惧 日本,朝鮮半島,中国大陸
 本州,四国,九州の河川の湿った草地や林縁に生える多年草。横にはう地下茎で栄養
的に繁殖する。地上茎は群がって生え,高さ1〜1.5m。葉は対生し,披針形で表面につ
やがあり,しばしば3深裂する。花は8〜9月に咲き,白〜淡紅紫色で芳香がある。秋
の七草の一つ。河川敷の開発とともに減少し,現在ではごく少数の自生地が残っている
だけである。
 Eミゾコウジュ シソ科 危急 日本,東アジア,マレーシア,インド,オーストラ
  リア
 河川敷や水田の畦などの湿った草地に生育する越年草。茎は直立し,高さ30〜80pに
なる。茎の下部の葉には長い柄があり,葉身は楕円形,長楕円形又は卵形で長さ4〜6
p,茎の上部の葉ほど小さく,狭く,柄も短くなる。花期は5〜6月,花は茎の上部の
分枝した枝端に穂になって咲き,淡紫色で長さ4〜5o。花穂ははじめ短いが,果期に
は長く伸びて7〜12pになる。日本では関東から沖縄県まで分布している。もともとあ
まり自然度の高い場所に生育している植物ではないため,現在でもかなり多くみられる
場所がある一方で,開発などのためいつの間にかみられなくなってしまった産地も多い。
本種のようなあまり目立たない植物については,よほど注意していないと,消失したこ
とにさえ気付くことができない。
 Fキスミレ 危急 日本,朝鮮半島,中国大陸,ウスリー
 日当たりのよい原野や,落葉樹林の疎林下に生育する多年草。根茎は太く,多数の太
く白い根をつけ,先端から1〜数本の地上茎と少数の根出茎を出す。根出茎の葉身は心
形,長さ・幅ともに2〜6p。地上茎は高さ7〜15p,3〜4個の茎と1〜3個の花を
つける。花は黄色で,直径1.3〜1.8p。花は地域によって異なるが,3月下旬〜5月上
旬。満鮮要素とよばれる大陸系の植物で,日本では本州中部以西の主として太平洋側に
分布している。東海地方では低山帯に,九州では中央山地のやや標高の高いところに多
くみられる。九州ではまだ春の原野を黄色に染めるほど多いところもあるが,草地の開
発によって分布域は確実に減少している。本州・四国では園芸目的の採集などによって
激減し,ほとんどの産地で絶滅又はそれに近い状態になっている。
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