奄美の振興に想うこと




1 開放型経済の視点

 地域経済の「開放性」を考えるうえでおもしろい例がある。東北のある村が大雪で周囲との交通を閉ざされた。生活物資はすぐになくなった訳ではない。用心深い東北の人々のこと店々の品物の蓄積はあったらしい。ところが、まず最初になくなったのは「銀行のお金」だった。人々が物を買うためにお金をつかい、銀行から引き出したからである。そのときはヘリコプターで銀行へ現金を補充してその場をしのいだという。私が言いたいのは、奄美の振興を語るとき「自立型経済」に人々はよく言及するが、外部からの資金供給の継続がいかに大切かということである。外部に対して、物やサービスの移出を行い、外部から資金を導入するという開放型の発想はもっと強調されてよいと思う。

2 よその人をひきつける

 開放型経済の典型的な論点の一つに観光がある。奄美群島は自然が豊かであることから、何もしなくても観光が成り立つという安易さがあると察せられる。観光はむしろ人工系の風物のもつ意味も大きく、自然に恵まれた美しい景観は日本中いくらでもあり、それを見せるための工夫、そこへ行くための道路、宿泊サービスが良いものでなければ、人を魅きつけることはできない。「よそもの」の視点に立った案内の心構えが必要である。
 案内ばかりでは不充分で、道路案内に「OOビーチ」とあっても長くて細い道を期待に心躍らせながら行ってみると、ただ自然のままの海岸しかないというところも多い。駐車場がまともに整備されているところもまだまだ少ない。人を魅きつけるには、それなりの整備と工夫が必要であることは、国内の有名な観光地をみれば一目瞭然である。点在型の観光施設を「都市計画」や「土地利用計画」に位置づけつつ、面的広がりをもつ「集積型の施設整備」を実現し地域の魅力を創り出していくことも必要である。
 観光と並んで議論される「保全」とは何も手を加えないということではない。海岸などが知らぬ間に私有化され、小規模開発が乱れ立つことなく、むしろ積極的な「整備」によって多くの人が利用できるものにすることであると考える。海浜部はマリーナなどの整備とともに、アコウやアダン等この地方の海浜の原風景を生かした景観形成を行っていくことがもちろん必要である。山林部については、安全性・快適性を考慮しつつ「移出用植物育成圃場」を併設した本格的な「亜熱帯植物園」も望まれる。
 また、水産業の振興と併せた「観光併用型海洋牧場」を提案したい。養殖施設を中心にして、魚介類の生態等の観察施設のほか、養殖魚を使った練り製品・缶詰等の展示販売ショップ、魚介類を活用したレストラン、水産振興に係るイベントコーナーを一か所に集め、立地場所を工夫すれば、人の集まる場づくりができるのではないだろうか。
 国際化の促進を図る点からは、将来的に一つの焦点となると考えられるのは台湾である。台湾は経済的実力も大きく、経済的な交流基盤としての港湾や海運が極めて盛んとなっており、太平洋の物流の拠点として育ちつつある。奄美群島は、このような太平洋航路の物の流れのすぐ近くに位置している訳であり、これに着目した振興策も長期的な課題の一つである。このとき、美しい海岸をもつ奄美の特色を生かすべきことは当然であり、マカオやモナコのような天候に左右されない「プレイセンター」的なものやコンピュータソフト開発技術者の「サテライト(分散型)・オフィス」など様々な構想を描くことができる。

3 なかの人を育てる

 なかの人々も変わっていかなければならない。奄美の人々は地域の歴史にこだわり特異性を強調するあまり、過度の「自地域中心主義」や「閉鎖的発想」に閉じ込められている部分がある。離島の宿命という面もあろうが、より大きな視点から奄美の置かれている位置を冷静に見つめ直す必要がある。
 また、奄美地域の人々の行動をみると、活力に満ちた人々が多いと思われる。この一人一人の活力は地域づくりに有効に結びついておらず、狭いレベルでぶつかり合う例も見受けられる。このため、内部的な意思決定の効率を高めることができず、社会資本の配置であるとか、振興施策の型の選択といった問題が生じたときに、技術的・外部的意思決定に依存して「他人まかせの施策」となり、結果から得られる教訓を自らのものとしにくい。
 このことから、奄美の地域社会の内部的な意見や感覚が意思決定にまで持ち上げられていく「自己決定型振興施策」が求められる。このとき、大切なのはそのような内部的意思決定の形成に資するような、「プランナー(計画立案者)的資質をもった人材の発掘、育成」ということである。このためには「人材育成財団」のようなものや、Uターン・Iターン者が継続して能力開発できるような「奄美リモート(遠隔地)・キャンパス」や「有名な大学教授のゼミ合宿誘致」などが考えられる。このようなことによって、地域社会とその内部の意見を冷静に知ることができる人々の育成ができれば、内部的な活力が政策的決定に対して持つ影響が効果的なものとなるであろうし、奄美内外の若い人々がこの地域をみる目ももっと変化してくるのではなかろうか。


参考文献:「地域経済としてのかごしまの姿」(1997年9月)
 「奄美経済の見取図〜群島振興の課題」(1998年11月)
                 

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