★トキワ署ピカピカ日記★ |
〜第2章 ピカピカ疑惑〜
「まーったくもう、ひどい目にあったわ。」
警邏から戻ってきてシャワーを浴びるとようやくブルーは人心地ついた。
「仕方ないですよ。あんな顔じゃ、いつも見慣れているブルーさんだとは思わなかったんだと思います。」
誤解のないように言っておくが、ピィがいつもブルーに電撃をかましているわけではない。おやであるシゲルとブルーの関係が良好とはいえなくとも、ピィとブルーは仲の良い方なのである。
「ま、ね。そういえば今朝、ホームページがどうのって言ってたやつ、何?」
「ああ、それは・・」
イエローは今朝発見したホームページのことをかいつまんでブルーに話した。
「やだ、それってのぞきじゃない!変質者じゃないの!?」
「ボクは警察マニアかと思いましたけど・・」
「どっちにしろ、いい迷惑だわ。」
イエローとブルーが交通課のオフィスに戻ると、捜査課のトクノ・タケシ警部補が訪れていた。年齢不詳の顔つきのこの刑事、今は先日トキワシティバンクで起こった銀行強盗未遂事件の捜査を担当している。
「また人手が足りないんですか?タケシさん。」
タケシはどうしても人手が足りなくなると交通課から一時的に2、3人拝借しにやってきたりするので、交通課でもすっかり顔なじみになっている。
「いや、サトシとシゲルが油売ってやしないかと思ってな。例の銀行のオフィスを吹っ飛ばしたのはてっきり犯人かと思ってたんだが、どうもあいつらが原因らしくてなぁ・・」
苦虫を噛み潰したような表情でタケシは今回の事件の顛末を二人に語った。
犯行当日、非番だったサトシとシゲルは二人で預金を下ろしに銀行を訪れていた。そこに男女二人組と直立二足歩行で喋るニャースがマシンガンを手にし、アーボとドガースを引きつれて豪快にドアを破って侵入したという。
ここまでは犯人が出した被害だ。問題はここから先だった。
「何だ!?」
客の誰かが叫ぶ。それに応えて犯人グループはご丁寧にも口上を述べ立てたという。
「何だかんだと聞かれたら」
「答えてあげるが世の情け」
以下中略。黒いパンツスーツにサングラス、一見しただけではそれなりに凄味のある格好なのだが、この口上はいただけない。彼らが口上を述べ立てている間に行員も客も冷静さを取り戻していた。
「銀河をかけるロケット団の二人には」
「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ。」
「あ、ニャ―んてな。」
ばっちりポーズも決めて、二人と一匹はしばし自分たちに酔いしれていたが、事の成り行きを黙って見守っていたシゲルが呆れてため息をつき、モンスターボールを放る。そう、投げたのではなく放ったのである。これだけでもこの二人と一匹が取るに足らない小物と判断されたことは容易に想像がつくことだろう。
シゲルが出したポケモンはウィンディだった。
「ハニー、火炎放射。」
シゲルは自分のウィンディに「ハニー」と名前を付けている。シゲルの命令でハニーの火炎放射が炸裂する。ドガースに火炎放射となれば・・引火して大爆発を引き起こすのがオチである。
「ヤな感じ―――!!」
悲痛な叫びを残して犯人グループは空の彼方へと消えていった。
「というわけだ。」
「エリート自負してるくせにやってることがめちゃくちゃね。まぁ、ピィを出さなかっただけましだけど。」
「なんにせよ、ドガースの爆発を引き起こしたのが身内じゃこっちも面子が立たん。当然、銀行の方からは弁償しろと噛み付かれる始末だ。頭の痛い問題だよ。」
「こんなのが例のホームページに載せられたらお終いね。あいつ、クビになるんじゃない?」
その時、ブルーの背後から声がかかった。
「遅かったみたいです。」
エリカが例のホームページからプリントアウトした写真を持ってくる。
「事件当日の“今日のピカ”です。」
そこにはシゲルとハニーがドガースに火炎放射をしているショットがばっちりとらえられていた。
「・・やけに目線が低いですね。」
「変なところに感心してんじゃないわよ、イエロー。」
「いや、案外そうでもない。」
いつの間にかグリーンがイエローの隣にやってきていた。
「こんな低位置でカメラを構えているのは不自然だ。銀行の防犯カメラの映像を見ればこいつを撮った奴が一発で分かるだろう。そうすればあのホームページに振り回されるのも終わる。」
「そっか。少なくとも問題は1つ片付くわけね。」
「ピカとかホームページとか、何の話だ?」
今朝のホームページ騒ぎをタケシは知らない。イエローは再び今朝の騒ぎを説明しなければならなかった。
「そうはいかないかもしれませんわ。」
エリカがため息をつきながらプリントアウトしてきたほかの写真の束をブルーに渡した。
「何よこれ――――!!」
“トキワ署の花”と題してトキワ署の婦警たちの顔写真と彼女たちに対するコメントが記載されている。
「冗談じゃないわよ!しかも何!?このコメント!!何で、私が一癖ある毒の花なわけ!?」
「お前、色仕掛けで散々男どもを良いように使ってたからな。署内じゃもっぱらそう呼ばれているぞ。」
「私がいつ・・!」
「待ってください、ブルー!」
グリーンに掴みかかろうとするブルーの前にエリカが割って入る。
「署内でだけ、ですか?」
エリカが何を言いたいのか、ブルーもタケシもすぐに察しがついた。
「さぁな。だが少なくとも、この間までは街の連中はこいつの外見に惑わされてアイドル扱いしていたのは確かだ。」
「それって・・」
エリカが何を言おうとしていたのか、ようやくイエローにも分かった。不安を含んだイエローの視線がグルーンを見上げる。イエローに応えてグリーンは軽く肯いた。
「これも身内が絡んでいる可能性が高いということだ。」
「この写真も署内で撮られていますから。イエローはガレージでドドすけの整備をしている時のものですし、ブルーはデスクについているところ。カスミは柔道をしている時のもの、私も射撃訓練中のものですわ。」
婦警の写真の他にもエリカはサンプルとして男子警官の写真もプリントアウトしていた。その中にはシゲルとピィが屋上でお弁当を広げているものもあった。おそらくサトシとピカチュウも一緒だったものと思われる。
「それとこれを。」
エリカがもう一枚別の写真を差し出す。
「事件前日の“今日のピカ”です。タイトルがかぶっていて顔は隠れているのですけれど、この二人組とニャース、例の犯人グループじゃないでしょうか。」
トキワシティバンクの前で、白バイで警邏中のグリーンが路地から飛び出してきたコラッタをぶつかる寸前で何とかバイクの進行方向をずらし、足で空中にすくい上げて受け止めようとしている写真だった。この右隅にタイトルが入っており、その部分が右隅に映っている男女二人組の顔にかぶっている。彼らの足元には、後ろ足で立ち上がり、一歩踏み出しているニャースの姿があった。
「やっぱりプロバイダーから契約者を聞き出す必要があるな。」
「よし、じゃぁ早速・・」
意気込んで拳を握り締めるタケシの目の前にコードレスの受話器が差し出される。両手をきちんと揃えて受話器を差し出しているエリカがにっこりと微笑む。良家の令嬢でもあるエリカならではの優雅な几帳面さというところか。“高嶺の花“として署内のみならずカントー中の男子警官の憧れの視線を一身に集めるだけのことはある。
「ブルーさん、ボクたちはもう一度街に出ましょう!」
「そうね、犯人がホームページの制作者を探り出して狙う可能性もあるものね。」
イエローとブルーがオフィスを飛び出して行く。
「おい、まて!やみくもに・・」
走り始めた二人にはグリーンの声も届いてはいなかった。
「言っても仕方ないか。」
二人を追って出て行こうとするグリーンをエリカが呼び止めた。
「これ差し上げますわ。他の方に気付かれないうちにどうぞ。」
エリカが素早くグリーンの手に握らせたものは、イエローの写真だった。きちんとケースに収められ、イエローのにこやかな笑顔がグリーンに投げかけられている。
(全く、どいつもこいつも余計なことを・・)
しかし、そう思いつつもグリーンはエリカに渡された写真をしっかりとポケットへ収めていたのだった。
「何か変な音しない?」
ガレージに入れてあるドドすけを出してきたイエローにブルーが眉をしかめながら言った。
「あ、あれですよ。」
イエローがトキワ署の横を飛んでいるラジコンヘリを指差す。
「何あれ・・変ね、下についてるの何かしら。」
ブルーはポケットからオペラグラスを取り出すと(何故こんなものを持っているのかなどと突っ込みを入れないように)再びラジコンヘリに目を向けた。
「カメラみたいね・・なるほど、あれを使ってあちこちで撮影してたわけか。」
ブルーはドドすけのトランクから素早く発信機を出すと、エアライフルに取り付けてラジコンヘリへ向けて発射した。
「あのヘリ、追うわよ。」
「はい。」
ブルーが乗り込むのを待ってイエローがドドすけを発進させる。二人を乗せたドドすけはラジコンヘリを追ってトキワの街を走り出した。
果たしてあのホームページの制作者は誰なのか?「トキワ署ピカピカ日記」の謎はつづくったらつづく。
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